酒に狂った男 作:鶏肋
「“コラボ”をするよ」
時を遡ること2日。黒鬼の居城、その最上階にて駒沢乃依が言った。
スーツスキンを纏い眼鏡を付け、ホワイトボードを支持棒で叩く彼。その前にはソファに座す雷、そして何故か仲良く正座させられた帝アキラおよびRe:ALの姿があった。
彼らに再度、乃依は告げる。
「“コラボ”をするよ」
「だから気に入った──と言いたい所なんだけど、まず誰と誰が何のコラボするのか教えてくれませんか乃依P」
「後なんで俺らが正座なのかも教導してくれると嬉しいっす先生」
「だって2人を自由な状態で隣に居させると喧嘩し始めそうだし」
その指摘にぐぬ、と漏らす両者。いくら酒寄彩葉周りで連携しているとは言っても、彼らの間に隔たる嫌悪の壁は分厚く高い。というか彼ら、なんだか妙に相性が悪いのだ。生来の気性と言うか、波長というか、何と形容するべきか。
それを既に把握していた乃依の采配ならばと理解を示し、ぐうの音を漏らしつつも帝とRe:ALは引き下がる。一瞥の中で互いを睨みながら。
「で、本題だけど──肝心のコラボ内容はブラックオニキスvsかぐいろチャンネル!フィールドはKASSENね」
「「……え??」」
「ほう」
ここでカミングアウトに呆けた二人を他所に、感嘆の声を漏らしたのは雷だ。流石は兄弟と言うべきか、どうやらこの場の誰より早く弟の意図を察したらしかった。
「酒寄彩葉関連の援護、それとヤチヨカップにおける決着を
「待て待て待て。どういう理屈でそうなる」
「いやお前らが助けてくれるのは嬉しいけど……なんで?」
「落ち着け帝。妹の事で判断が鈍る気持ちは分かるが、俺達の状況と照らし合わせてみろ」
雷の言葉に、帝は数拍ほど首を捻った後……ポンと得心。いち早く理屈に納得してみせる。
一方で完全に置いてきぼりを喰らったRe:ALに、教鞭を奮ったのは乃依だった。
「なに呆けてるのさ。この作戦はね、君が帝に持ち掛けた八百長に着想を得たんだよ?」
「するってぇと……いやわざと負けるって訳でもあるまいに……うぅん?」
「察しが悪いなぁもー。つまりこういう事っ」
なおも要領を得ない彼に、乃依が手に取ったのはペン型のマーカー。まるで本当に教師であるかのように、ホワイトボードへと要素要素を記述し始める。
「今、ブラックオニキスが抱える最優先課題は同率で2つ。ヤチヨカップ優勝と……君もご存じ、帝の妹ちゃんの案件ね。前者においてトップを維持するためには3人全員による総力結集が不可欠、でも後者において帝がこれ以上手を拱くのも見てられない。いやぁ困った、それもこれも帝が妹ちゃんと正面から会うのにビビってる所為だね」
「おっそうだな」
「お前らなぁ……」
「……乃依。帝をあまりイジメてやるな」
「はいはーい」
意気投合を見せつつも、窘められて本題へ。恒例のじゃれ合いらしくシームレスに調子を戻した乃依は、説明を再開し始めた。
「そこで天才乃依Pは考えました。帝の兄としての面目躍如・妹ちゃんの成功体験、それらと
「何故そうなったし。愉快で最高な企画だけど」
「オイ一言多いぞ」
「一で足りると思うか?これでも我慢してんだ、褒めて欲しいぐらいだぜ」
「「ッッ……!!!!」」
隙あらば正座状態でガンを付け合い始める男衆二人に、雷は嘆くやら呆れるやら。その一方で、興が乗った乃依の解説は過熱していく。流石はブラックオニキスの実質中心、そのプロデュース力は並大抵ではない。
「KASSENでかぐいろと対決して、1セットもしくは2セット目のどこかで必ず二人が帝と対面する機会を作る!そのタッグで帝がこう……全力で戦った上で負ける!」
「……俺が全力でやったら勝ちかねないんだが?!」
「どうかな?動画見る限りかぐやちゃんは中々センス良いし、いろ──妹ちゃんも知る人ぞ知る名プレイヤーらしいじゃん。いけるいける、負けれる負けれる、というか無理に負けなくとも彼女達が2人で息を合わせて戦えたらそれだけで割ともう成功体験でしょ」
「まぁ……かぐガキと一緒に全力出せたら酒寄も楽しめるとは思うな、確かに」
ここまで来てRe:ALは話の半分、つまり成功体験による酒寄彩葉の精神活性化プランについては理解した。これならまぁ、変に手心を加えてバレたりしない限りは、少なくとも悪い結果にはならないだろう。試合を通じて兄妹の交流の場も設けれるし。
だがやはり“黒鬼の栄光”がそれにどう関わるかがRe:ALには分からない。何故かぐいろチャンネルとのコラボがそれと直結するのか──と、ここで唐突に理解した。
「あ……そうか、かぐやの奴ファン増加数2位だったわ」
「そうだよ、それだよRe:ALっ」
──かぐやのライバーとしての活躍は目覚ましい。
3人がかりの援助による生活の余裕、それに後押しされた発想力の開花。
早期のコラボ開始による視聴者数のブースト。
10万人規模の支持者を誇るインフルエンサーによる指南。
それらの要素が複合的に絡み合った結果、かぐやを姫と崇める人々は本来よりも遥かに増加した。今やテレリリ・ティートテートを抑え優勝圏内に浮上、とっくの昔に黒鬼とのタイマン状態となっていたのである。
なお、Re:ALは地味に11位。かぐやとの絡みでなんかめっちゃ増え、更にその異常な身体能力が世にバレた事で地味に凄い順位を獲得していた。本人は自分の事なぞどーでもいいと思ってるので全く気にしてなかったが。
ともかく、そんな調子で1位の座を脅かされていた黒鬼。だがこのコラボで、その新規ファンを掻っ攫うように自分達の沼へ流入させる事が出来れば……?
「俺達が、優勝ってワケ」
「……考えたなぁ。けどそれ、
「分かってる。こっちのファンも相当数、向こうに持ってかれちゃうだろうね~」
互いに差し合う諸刃の剣だ。ヤチヨカップ開催期間も大詰め、このタイミングで1位と2位が激突するなど、それはもう壮絶な事になるだろう。
だが乃依は、雷は、そして帝は。全員が、笑ってみせた。
「上等。夢魅せて勝つ、それがブラックオニキスだ」
本気の試合に勝って真剣の勝負にも勝つ。
例え推し相手でも、妹相手でも手加減は無しだと。その上で彼女達の救いになってみせると、そう浪漫と闘志をギラつかせて。
──Re:ALは。
「……こりゃ凄まじいや。詳細は明日詰めるとして、ROKA達には明後日辺りにでも伝えとくぜ異論が発生したら連絡する」
「無ければ決行だな。把握した」
その迫力に観念したように、了解の意を示したのだった。
「あ、ちなみにかぐやチームの3人目は君だからね」
「「は?」」
しかし終わらない。
ある意味で、乃依の真骨頂はここからである。
「……はぁ?!待て待て待て待ってくれ、何故そこで俺!?もっとこう……あるだろ!!」
「ふーん。そんなこと言っちゃうんだぁ。君も帝の妹ちゃんと仲直りできるかもしれない機会なのに」
「言うわ!口縫い合わされても言うわ!!3人目のメンバーってんならROKAが出ればそれで充分だろッ」
「まみまみは?」
「アンタらの前には死んでも出さねぇ。アイツが望まん限り」
「うぉっ殺意……」
急に回ってきたお鉢に、Re:ALは半分パニック。彩葉の環境を乱したくない事なかれ主義でもって抵抗を見せるもののしかし、それを圧殺する一手が乃依の手にある事を彼は忘れている。
挙手。華奢な掌を天井に向けて、作画良好美少年は告げた。
「
いつぞやの。初邂逅の、
言質に取られ、Re:AL撃沈。
駒沢雷、ザマァの一句。
「……もう好きにしてくれ」
「うん。全力で戦おーね♡」
「マニュアルモードでなぁ……」
「なんだろ。煽りたいのにそれ以上の同情が湧いてくんだけど」
五体投地したRe:ALと、それを煽ろうにも煽れない帝。そんな彼らを傍目に、乃依は実に満足げなホクホク顔を浮かべている。彼にとっては一挙両得、ネギ背負った鴨、一石二鳥、兎にも角にも入れ食い状態の大漁と言う釣果であった。
「ふふっ。帝には恩を、Re:ALには貸しを。これで1年は擦れるかな?」
「手柔らかにな」
「気が向いたらね~♪」
ストッパーになり得る兄もこの始末。しかしこう見えて駒沢兄弟もまた人格者、帝とその家族の幸せを願う気持ちに偽りなどありはしない。
それはそれとして弄るだけで、彼と彼女らが報われる未来へ本気で取り組む所存であった。それはそれとして弄るだけで。
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「────連絡なし。これはOKって事で良いかな?」
「大丈夫だろ。んで確認だけど、この文面と内容で本当に良いんだよな?送るぞ??」
「バッチリ!この程々のキモさを演出すれば、向こうから“倒すべき壁”として認識してもらえること間違いなしだよ。で、かぐいろチームの3人目指定に関しては……」
「無し。向こうでRe:ALが自薦する、という手筈だったな」
「そうそう。というワケで、帝送っちゃって♡」
「うへぇ……文調をRe:ALに笑われるんだろうなぁコレ」
翌日夜も恙なく。Re:ALからの連絡をギリギリまで待ち、それが無かったのを見計らってからのメール送信。
ここまで順調に進み、障害など無いかに思えた。
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「え゛。Re:ALと妹ちゃんの間に亀裂!?このタイミングで?!?」
故にこそのさらに翌日。計画発案からは数えて明々後日。
コラボの件を問いに来たROKAからRe:AL暴発の件を聞いた時の、彼らの衝撃たるや如何ほどか。
中途半端かつ短くなりましたが、これ以上長くするとなんか地の文が言い訳がましくなるのでここまで
黒鬼描くのへたっぴ過ぎて泣けるぜ