酒に狂った男   作:鶏肋

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朝日「彩葉どころか酒寄家の誰も出てないじゃん。タイトル詐欺だろこれ」


綾紬芦花、困る

食べるのが好きだった。

美味しい物が好きだった。

幼い頃からずっとそう。パパもママもそんな私が可愛いあまり、欲しい物を欲しがるだけくれた。

 

最早語るまでも無い。

太った。

 

「デブだ!デブがいる!!」

 

今思えば“ぽっちゃり”の範疇だったとは思う。自己弁護をさっ引いても恐らくは。でも小学生デビューで“家”以外のコミュニティに初めて参加する子供達の目に、私の身体はよほど奇異に映ったんだろう。

囃し立ててくる男子達の無邪気な笑い声に、私は言い返す事も出来ず曖昧に笑って受け止めてたっけ。

 

「ちょっと男子ぃー、マミちゃんいじめんなー!」

 

同性の子達がそれに対抗してくれたのも覚えてる。あの時は嬉しかったし申し訳なかったし、何より庇ってくれる友達の存在が嬉しかった。

でもそのグループにとっても、私は()()()()()存在でしかなかったみたい。

 

「でもね、マミちゃんも痩せた方が良いよ。私みたいにね!」

「だねー」

 

リーダーの子が持ってたダイエット思考、その(てい)の良い()()。それがグループで与えられた私の役割。見習ってはいけない反面教師、悪例の代表者だ。

更に輪を掛けて不運だったのが、その子の推してる手法が「断食」とか「絶食」とかその類の物だった事。それが広まって、真綿で首を絞めるように私を追い詰めていく。圧力に抗えない。

 

「諌山メタだ~」

「メタボのメタ山~」

 

「それちょーだい」

「ダーメ。マミみたいになっちゃうよ」

「それはやだっ」

 

「あー、また給食全部食べてる!」

「我慢できないの?」

「痩せられないよ!」

 

「あは、は……」

 

3年間、目の前でそんな事を言われ続ければ心も削れる。悪気ないように見えてしまっては怒る事も叶わない。皆にとっては私だけがおかしいんだから。

 

そうして、“コケにしても問題ない子”のロールに甘んじていた。それが続くと思ってた。

 

耐えれば良いんだって、そう思ってた。

 

 

「転校生の石実現くんだ。仲良くしろよ──ほら、あいさつ」

「……」

「………いや、あいさつをだな」

「チッ」

((((舌打ち!??!))))

 

あの子が。

石実現が現れた。

 

「50mを7秒9……!?」

「はっえー!どうなってんだ!!」

「うそ……かっこいい……」

 

石実現が全部越えた。

 

「テスト100点!先生もかなり意地悪したんだけどな、凄いぞ石実」

「先生。ここ間違ってたよ」

「え……あホントだ……ごめん……」

 

石実現が全部変えてしまった。

足が速くて、頭が良くて、顔も良い。第一印象が最悪でも、これだけ要素が揃ってしまえば小学生なんてチョロいもの。男子は彼を人気者として担ぎ上げ、女子は彼の関心を買おうと必死になってたと思う。

 

一方私は、遠くから見てただけ。

 

「いいなー……」

 

だって、明らかに住む世界が違ったもん。持ち上げられる彼と見下される私、交わる訳が無い。子供心にそれを悟ったから、諦めて、隅で時が過ぎるのを待ってた。このまま皆、あの子に釘付けになって、私に矛先を向けませんようにって。

息を潜めて、嵐が過ぎ去るのを願うような日々。いや逆か、いっそずっと吹き荒れてくれたらって、そう祈って。

 

 

……叶ってしまった。

 

 

ある日、何だか体調が悪くて機嫌が悪かった折……それでも登校した私の目に映ったのは、同級生の男子グループが私の机に豚の置物を置いて笑う光景だった。

 

いつもなら口を噤んで言葉を飲み込む。けれどその日は特に沸点が低かった所為で「何でそんなことするの」「もうやめてよ」って叫んだ記憶がある。

 

けど男子達はヘラヘラ笑ってばかりで、女子グループも冗談混じりに嗜めるだけ──しかもタチの悪い事に、男子のリーダーと女子のリーダーは裏で示し合わせてたらしい──そんな包囲網に、孤立に、涙が滲んだその時だった。

 

 

「ンだよ、これ」

 

石実現が来て、全てを越えた。

 

「これは何って、聞いてんだよ」

 

石実現が来て、全てを変えた。

 

「ああ。もういいや」

 

越え切って、変え終えた石実現は、次に。

 

 

「しねカス」

 

 

全部、()()()()()んだ。

 

破砕音。引っ掴んだ陶器の置物を振り向きざまにフルスイング、男子のリーダー格の鼻っ面に叩き込まれる。反応出来なかったその子は机を巻き込んで転倒した。

空気が、終わる。男子達はついていけずに呆け、女子達は理解できないなりに青ざめた。

 

その中で、彼だけが笑う。口角をニィと吊り上げて、ここは俺の縄張りだと示して。

ここで狼藉を、俺の気分を害す物を許さないって、声無き叫びで確と示していた。

 

 

 

私?私は最初のフルスイングの時点で先生を呼びましたね。怖過ぎたので。

 

 


 

 

「その元リーダー格の男の子は、ゲンちゃんが来るまでは私以外の子もイジメてた!!“ゲンちゃんがイジメた”っていうのは、勢力図(カースト)が逆転した時に元イジメられっ子達がゲンちゃんの威光を傘に着て勝手にイジメ返したのが真相なんだよっ」

「まぁ俺もいい気味だって思いながら黙認してたから余裕で同罪だけどな」

「本人は黙ってて!!!」

「はい???」

 

真実の弁論に頭が痛くなる。これじゃ石実を擁護してるのか追撃してるのか分かったものじゃない、彼女自身はその事をちゃんと把握できてるんだろうか?

 

「……えーっと、諌山真実弁護人。貴方の論に則れば、寧ろ“石実現は悪い子である”という説の根拠にしかならないのですが。ああ、真実を助けてくれたのはホントありがとね」

「殴りたいから殴っただけだっての、気にすんな」

「いーや違うね!芦花もゲンちゃんも全っ然、分かってない!」

 

まだ何かあるのか、と顰めた顔もなんのその。真実は私たちに構わず言葉を繋ぎ続けた。

 

()()()悪い子じゃない!ゲンちゃんはね、“めっちゃ悪い子”なの!!!」

「やっぱ弁護する気無いよね!?」

「帰って良い?????」

 

 


 

 

「カッコいいって思ったの、あの時の現君」

 

男子の元リーダーが失墜した置物殴打事件の後、女子リーダーはあっさりと鞍替えした。新たな筆頭格である石実君をあからさまに狙い出したのだ。

 

ダイエットはこの日のために、みたいなノリで金魚のフンみたいに石実君を追いかけて、それに反感を抱いた同性もそこそこ出てくるほど露骨。けれど私を人柱にして築いたトップの座は中々に盤石らしく、多くの女子は彼女に従い応援する始末。

でも実際、クラスで一番美人なのは彼女だった。スラッとしなやかな手足はとても見栄えしてるし、ダイエットをクラスメートに押し付けまくるだけはある。彼女が石実君と並んでも、少なくとも見栄えの面で批判が上がる事は無いだろう。

 

「ねぇ、今度デートしない?」

「え?だる」

 

尤も、反応はけんとほろろも良いとこだけれど。それに業を煮やした結果、ストレスの矛先はやはり最下層の私に向けられた。

ある時は白昼堂々の善意に見せかけた悪口だったり、聞こえる位置での陰口だったり、はたまたパシリだったり。

 

……でも。

 

前の、殴打事件で。私はただ怖がるだけで、先生に頼るしかなくて。

そこで終わるのが嫌だったから、反論した。パパとママが私を信じて預けてくれたお金を、こんなことに使いたくないって。

 

女子リーダーは何も言わなかった。ただ、近いうちに酷い目に合わせてくるんだろうなって、そんな冷たい目をしてた気がする。家に帰った私はそれを思い出して、どんな事をされるか怯える夜を過ごした。

 

 

そしたら翌日、また石実君が()()()

 

「お前、悪くない体してるよな」

 

中学生以上だったら確実にアウトなセリフ。いつも通り言い寄られた折、いつもの冷たさを反転させたような朗らかさで彼はそう返したのだ。

女子リーダーの顔がぱあっと輝く。努力が遂に実ったのだと確信し、ここぞとばかりに自分の魅力をアピールしようとして、

 

「周りに()()ダイエット教えた甲斐があったな!」

 

空気が終わる。再び。

 

「飯断たせてんだろ?周りを骨で囲んでりゃ、雑草だって映えらぁな」

 

リーダーの取り巻き──スリム、というには些か細くなった、細く“された”子達の目付きが鋭くなる。標的は当然、先程まで付き従ってた女主人だ。

カーストが壊れる。石実君に、壊される。

私達の日常が、全部。

 

怯えを孕んだ私の視線が、一瞬だけ彼のそれと交わったように思えたのは、気の所為?

 

 


 

 

「それで孤立したリーダーは陰で報復まみれになって、思わず転校したの!ゲンちゃんは直接手を出さずにそれを成功させた、ホラめっちゃ悪い子でしょ!!」

「あーうん悪い悪い」

「ボクワルイニンゲンダヨー」

 

困る。本当に困る。対面に座るこの男を今すぐに110に突き出そうか迷ってて困る。真実を信じて彼女の家にコイツを上げてしまった過去の自分の判断にも困ってる。なんなら本人も困ってる。

でもまぁ真実の言いたい事は分かった。要するに、この石実現という男児は。

 

「理由の無い事はしない。そういうヤツな訳だ」

「さっすが芦花、話が分かるぅ!」

「いや理由の無い事する奴の方が怖ぇわ。獣か?」

「初手で鈍器殴打を選ぶ君よか人間でしょ」

「武器は人間の特権だろ」

「そういうとこだよゲンちゃん」

 

これだけの悪性を秘めながら、それを奮う相手をちゃんと選べる。その一点に救われた経験から、真実は石実を庇っているようだった。

私から言わせて貰えば「ストックホルム症候群……?」と疑いたくなる所だけど、傍から見る分には真実と石実の関係は対等に思える。そこに依存は無さそうで。

 

「そして最後の学級崩壊だけど、これ先生の自業自得なんだよね。序列が無くなって不安定になったクラスの責任を、その時の担任が全部ゲンちゃんに押し付けて悪者にしようとしたんだ」

「実際そうだろ。俺がやりました」

「胸張るなし──でも、それは先生が酷いね。元はと言えば幅利かせてたリーダー達を野放しにしてた先生が悪いのに」

「そ、だから被害に遭ってた子達が先生の言う事、4年生が終わるまでぜーんぶ無視し始めちゃった。いやー凄い体験したよマジで」

 

しかしまぁ、よくここまで開き直れるものだと感心する。どこまでが意図的だったのやら、飄々とした態度を一向に崩さない石実君の事が余計分からなくなってしまった。

 

「所詮は運任せの気まぐれさね」

 

ここで口を開いたのは当人。石実現その人で。

 

「運が良かった。生まれが良かった。だから横暴を働けた……でも努力してこなかった。だから努力できる酒寄(天才)に阻まれて、俺はこうなってる」

 

中学の頃の石実の事なら私も知ってる。大暴れの小学校時代から持ってきた威光をさらに磨き上げたのだろう覇権を握り、校舎を我が物としてた。けどそれも今は昔、彩葉の存在によって過去のものだ。

それを彼自身がよく分かっているのは、このしおらしい表情が演技でさえないのなら明らかだろう。

 

「悪い子だろうがめっちゃ悪い子だろうが、行動の理由の有無だとか、そんなのは関係ない。大事なのはそれらを全肯定できる勝者か否か……今の俺は敗者だろ?」

「そんなn──ムグッ?!」

 

それでも反論しようとした真実の口を肉塊が制する。石実が配達してきたフライドチキンだった。

 

「お前はな、そういう莫迦らしい蹴落とし合いから離れた所で呑気に飯貪ってりゃ良いんだ。オラッ冷める前に食えッ」

「んぐむぐ……ゲンちゃんっていっつもそう!食べ物あげたら何でも言う事聞くって思ってるよね?!もぐもぐ」

「実際頬張りながらじゃ説得力無いよ……」

 

押し付けられる香ばしい物体を爆速で食べ終えて反論を再開する真実。そうはさせまいと次々に押し付けていく石実。そこに遠慮は無く、忌避も無く、憂いも無い。

そんな様子を見てると、数時間前まで抱いてた懸念が急速に薄まっていってしまって……ああ、これが彼女と彼の在り方なんだって、すんなり納得がいってしまった。

 

「……降参。もう良いよ」

「えっ」

「へ?」

「真実が石実の件で変な事に巻き込まれるんじゃないかって、心配だった。でも石実自身はそうならないよう配慮してるし、真実は覚悟して深入りしてる。なら私が口出しする事は無いかなって、そう結論付けたの」

 

もはや私に立ち入る余地は無い、いや最初から無かったんだ。そんな寂しさと安堵を胸に私もフライドチキンをつまむ。うん、美味しい。

そして私のそんな発言に、両者はそれぞれ違う反応を見せた。片や満面の喜色、片や心底食傷といった表情。

 

「ありがとう芦花~!分かってくれるって信じてたよぉ~~!!!」

「マジかぁ……お前は反対派でいてくれよ」

 

敗色濃厚を悟った石実が選んだのは撤退。止める間もなく帰り支度を始め、すっくと立ち上がった。

でも真実は止めない。真実が止めないなら私も止めない。もうこの面談を続けようが続けまいが、彼女と彼のスタンスは変わらないだろうから。

 

「ゲンちゃん。私、呼び方戻すね」

「勝手にしろ。俺は諌山呼びから変えねぇぞ」

「上等っ」

「ったく……」

 

真実は縁を繋ぎ続ける宣言。一方で石実は縁を断つ宣告。相容れない二人はしかし、それぞれ笑顔を浮かべ合っていたのだった。

 

 

……それはそれとして、石実はどうにもやられっぱなしが気に食わなかったらしい。

 

「ほれ、ラスト」

「んぁむ。ありがと」

 

おもむろに押し付けられる最後の一切れと、それを受け入れる真実。美味しそうに頬張る姿は此方の食欲も誘う魅惑のそれ。

そんな真実の顔を見て一言、石実は告げた。ド級の捨て台詞を。

 

 

「──ッ、は。やっぱ飯食ってるお前、可愛いわ

 

 

「へ」

「Huh?」

「じゃあの」

「へ?」

 

 

そのまま風が如く去り行く背中。通りがかった諌山夫人との挨拶も忘れずに、階下でドアが開いて閉じる音。

そこから間を置くこと数拍の後……真実がブッ倒れた。私は助けなかった。

 

「……」

「…………」

「………………」

「……ねぇ」

「……………………」

()()()()()よね?」

 

これは疑問の体を為した確認だ。いくらウイスキーボンボンに度数の高い酒が入ってても、1箱程度でそんな急速に酔っぱらう訳が無い。

一度席を立ってから今の今まで、真実はほぼ素面で石実を庇っていたのだ。

 

「……酔ってるよぉ」

「石実に、でしょ」

「…………そんなんじゃ、ないもん」

彼氏がいるのも嘘だよね

「ギク」

 

もはや尋問対象は遷移した。被告人は、ここにいない石実ではなく真実である。

 

「い、いるよ?嘘じゃないよ、ホントダヨ」

「じゃあ聞くね。彼氏を思い浮かべて下さい。髪色は黒?」

「うん」

「吊り目気味?」

「うん」

「口調は粗目?」

「うん」

「もしかして:石実」

「うわーっ嵌められた!!」

「自分から自白しといて何を言い出すか」

 

見栄を張ったのかそれとも彼女なりの考えがあったのかは分からない。けれど推測の成否はこの反応が教えてくれていた。よもやこれ程までにお熱だったとは思わなかったけど。

 

「覚悟の上だろうけど、めっちゃ苦労すると思うよ。分かってる?」

「どうだろうね。でもしょうがないじゃん」

 

ああ、ダメじゃん。その表情はズルいって。

色気より食い気、って感じだった真実が。

 

「好きになっちゃったんだもん」

 

こんな綺麗に、恋に笑うだなんて。

 

 

 

 

「じゃ、頑張らなくちゃね。気は乗らないけど応援するよ、幸か不幸か脈ありみたいだし」

「はい?無い無い、少なくともゲンちゃんは私の事なんて何とも思っちゃいないから」

 

……?

何を言ってるんだこのバカは。

 

 

「ゲンちゃんは彩葉一直線でしょ。やっと出会えた自分を超える存在にメロメロじゃん、後は自覚するまで時間の問題だよ」

「何を言ってるんだこのバカは」

「口に出てるよ芦花」

 

正気か?ここまでの話の流れを全部聞き流したのかこの食いしん坊は。あのミソジニスト石実がめっちゃ気を遣ってるじゃん。何ならさっき紹介されたイジメ2例だって、アイツ露骨に真実の為に動いてんじゃん。大事にされまくってんじゃん。

そんな特別扱いされといて、“何とも思われちゃいない”?はぁあ?

 

「なに寝ぼけた事言ってんの!?彩葉とくっつく事は無いにしても、そんなんじゃ他の誰かに掠め取られちゃうよ!」

「あーあー聞こえなーい!私は今彩葉を意識してるゲンちゃんの意志を大事にしたいんですー!」

 

このっ、あー言えばこー言う魔人め!肩引っ掴んで揺すったところで動かないなら正論パンチだ、このっ!

 

「想像しなよ!高校出て丸くなった石実が、フワフワ髪の女の子を侍らせて街歩いてる光景を!」

「がはっ!」

「もちろんそれは真実じゃない!けどソイツの肩を石実は愛おしげに抱いて、二人足並み揃えて夜の街に消えていく!それを見送る事しか出来ない……そんな未来になっちゃっても良いの?!!」

「ギャーッ!寝取られじゃん!!」

「寝てから言えー!!!」

 

NTRの三文字が浮かんだなら上々だ。彼を取られたくない自分の本音をもっと自覚しろっての、おらっ。

……ん?なんか真実の目が妙に据わって……?

 

「……芦花だってそうじゃん」

「え」

「芦花だって、彩葉と寝てないじゃん!」

 

えっ。

どこまで、知って。

 

「言っとくけど私ヨユーで応援派だよ?芦花がその気なら二人の結婚式で友人代表スピーチする気満々だよ!?でも芦花だって、熱い視線を送るだけでイエス彩葉ノータッチじゃん!私と何が違うんだよ~~!!!」

「待って、応援ありがとう、でも待って!他に誰が知ってる?それだけ教えて」

「私だけー!彩葉は全然知らなーい!!」

「そっかぁありがとねぇ!!!でも私を引き合いに出すなー!!!」

 

何だよもー!!墓場まで持ってくつもりだったのに、親友の片方にはモロバレしてたなんてそんなのアリかよ!あと同性同士の私達と異性関係なそっちを一緒にすんなー!!

 

「口出ししてきたのそっちだもーん!では想像してみて下さい、夜の街に彩葉がめっちゃイケイケな男に抱かれて消えていく後姿を」

「……彩葉が幸せならッ……それで……ッ!!!」

「唇から血が滲むほど嚙みながら言うなー!しっかりいたせーっ!!」

 

 

 

 


 

 

 

 

────それは、置物殴打事件からちょっと後。そして嘘ダイエット発覚事件から少し後の頃。

 

「……あれ。悪くない」

 

ふと気付いたのだ。石実君が現れて以降、滅茶苦茶にされてしまった私の生活環境だけど。

その実、私にとっては壊される前より()()になってた事に。

 

「だれも見張り合ってない……見られてない……?」

 

もしかして、今なら。

 

()()()()()?)

 

ずっと我慢してた。駅前のパフェ、同級生からの圧力で行けなかった場所。学校帰りの寄り道になるけど、今なら。

そう思った時には、もう足は向かっていた。最初はバレないよう隠れながらビクビクと、でも近付くほどスキップさえ挟んで軽やかに。

 

「やった……いただきます!!」

 

そうして辿り着いた場所で、ランドセルを置いていよいよ口にした甘味。中々どうして、圧力から解放された快感の中で味わうクリームのなんと心地よき事か。

それに脳細胞の全てが没頭した結果、背後から近づく足音にも気付けない。この時の私には酷な話だとしても。

 

「おいしい……おいしいよぉ……」

「……」

「何なのよ。おいしいじゃないのよ。体がよろこびであふれてくじゃないの……」

「そんなにか」

「そんなになのよ……」

 

……ん?んん??

今私が話したの、誰だ?と思った時にはもう遅い。

 

「食べるのが好き?良いじゃん」

「────ゎゃ」

 

石実君がいた。どうして、いつから。

いや違う、バレた。今のクラスで一番強くて一番ヤバい子に、隠さなきゃいけない事がバレた。また同じ目に遭う。せっかく息できるようになったのに、また。

あれ?なんで隠さなきゃいけないんだっけ?だって酷い目に遭う。なんで?おかしくない?

 

考えが脳内で拘束堂々巡り。きっと当時の私の目は、漫画表現みたいにグルグルしていただろう。

そんな私に呆れたような笑みを浮かべてから、石実君は対面の席に座って────

 

「すみませーん。俺にもこのパフェ1つー」

「……え?」

 

あなたも、食べるの?

 

「んだよ、悪いか?」

「う、うぅん。意外だっただけ」

 

イメージと全然違った。私の知る石実君はザ・悪ガキ男子Lv.100って感じで、こんなお洒落なスイーツを楽しむようには到底思えなかった。

そんな私の偏見をあざ笑うように、彼は私と同じパフェを受け取って、同じように口に運ぶ。そして、意外そうに「面白い味だなコレ」と更に一口。一方で私は、脳内に浮かんだクエスチョンマークが止まらない。

 

「……友達は?他にパフェが好きな男子とかいるの?」

「は?なんで」

「なんでって……一緒に食べてるのかなって」

「だから、なんで?一人で食っちゃいけないの?お前も一人じゃん」

「ぐう」

 

だって、そうじゃないと仲間に入れて貰えないから。皆が食べる事を悪い事だっていうなら、私はそれに従わなきゃいけない。そう、思っていたから。

 

「太りたくない奴はやせれば良いし、眠たい奴は寝れば良い。なんで皆いっしょにしなきゃいかんのか逆に分からん」

 

そんな思い込みを容赦なく全否定する石実君。真正面から受ける私からすれば、まさしく青天の霹靂で。

 

(いっしょにしなくても、良い?)

 

気付けなかった当然の事。私は私で、他の子は他の子なんだ。違って当たり前なんだ、同じになる必要は無いんだ。

 

「良いんだ……」

「良いさ。誰も責めないよ。つーか、俺がさせねぇ」

 

解けた欲望を彼は肯定してくれた。自分の世界の中で、それは許されるべき事だって保証して、担保して、後ろ盾になってくれたんだ。

それが当時10歳だった私にとって、どれだけ大きい事だったか。

 

「お前のやりたい事は、俺が守ってやる」

 

分かんないんだろうな。

どうせ、考えなんて無いんだろうな。

貴方はただ思った事を言うだけの、ちょっとおバカで素直過ぎる男の子。

 

だから、知る事は無い。

 

知る必要もない。

 

「うんっ……!!」

 

私を救ってくれた貴方を。

 

私がどれほど想ってるか、なんて。

 

 

 

 

「ねぇ、石実君」

「どした諌山、今更改まって」

「ゲン……ちゃんって、下の名前で呼んで良い?」

 

それはそれとして。

小学校の卒業式で、ちょっとでも距離を縮めたくて、勇気を出した乙女心くらいは許して欲しいかな。

 

「……良いぜ。俺も真実って呼ぶけど、文句言うなよ?」

「!!~~~っ、もちろん!」




ちなみに真実と芦花が正論パンチで殴り合ってるのと同時刻の現は

「そういや真美のヤツ、いつの間に彼氏を……あれっ眩暈が。なんで」

って五体投地してます
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