酒に狂った男 作:鶏肋
< RMIKG(5) _Re:AL ◢すまなかった。無意味に興奮した 許さないでくれ
_いろ ◢私に許さない理由は無いよ こっちこそ、ごめん。迷惑かけた
_かぐや! ◢ハイ二人とも謝った! 終わり!閉廷!以上、グループ解散!!
──かぐや!が退出しました。──
かぐやちゃん!?!_◣
──ROKAがかぐや!を招待しました。──
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ゲンちゃんの傷は、私が思っていた以上に深かった。
部屋に入れて貰えないなんて初めての事だった。誰にも会わず、バイトも休んで籠ってしまうゲンちゃんなんて初めて見た。想像すらしていなかった。あの日から2日経った今でも出てこない。
結局のところ、私はゲンちゃんの心の柔い所を、何にも分かっちゃいなかったんだろう。認めたくない、とても悔しい事だけれど。
それでも私が訪ねればドアを開けて、話だけはしてくれる。私のお願いを聞いて、RINNEで彩葉達と繋がりを持ってくれる。それがどれ程、彼にとって勇気の要る事だったんだろうか?
(……ゲンちゃんの勇気になるって、言ったのに)
私は何をしてるんだろう。そのRINNEでだって、終わりの無い謝罪合戦になりそうなところを、かぐやちゃん渾身のギャグムーブに相乗りしてなんとか誤魔化した程度だ。それ以外はなーんにもゲンちゃんの力になれてない。
あれだけ屈強で静観だった彼が、こんなにもやつれた姿を見せるのは──2度目。
私の無思慮がゲンちゃんを傷付けたのも、2度目。
あの時、私はただ名前を呼んで探すだけだった。なら今回は?繰り返してしまった過ちに、また同じように彼自身の気力に頼るだけ?彼にばっかり荷物を背負わせるの?
違う。
「コラボKASSEN、私が出るよ」
「……は?」
今度は、私が。
決意と共に言い放ったのは、暴発から3日後の朝。何度目かの訪問におけるドア越しでの事だった。
「芦花から聞いたんだ。本当はゲンちゃんが出る予定だった、って」
「いや……え……?」
「でもゲンちゃんが無理する必要なんて無い。私だって身を張れる──ううん、これは正しくないかな」
共に出てきた彼の、窪みの中に驚きの色を浮かべた瞳。それと向き合って、私は言った。
「今度は私に、
ずっと前にいたあなたの、その更に前へ。
「……だっせ」
いやホント……何やってんだろ、俺。
何が気に入らないのか自分でも分からず。
その八つ当たりで歩み寄って来てくれた酒寄を跳ね除けて。
挙句、引き籠って。
好いた
「だっっっっっせぇなぁ……ッ」
何が一番ダサいって。真実が、守るって、そう言ってくれた事を──
暗い部屋でロッカーを漁りながら、その焦燥感と心地よさに揺れる。ただでさえ酒寄に色々バレて覚束なくなっていた生き方が、いよいよ破局を迎えている予感がヒシヒシと存在証明してくる。
なら、どうする?
このぬるま湯に身を委ねるか?
それとも半端に意地張り続けるか?
俺が取るべき道は、何だ?
「……あった……」
そうしている内に見つけたのは、空の水槽。昔の俺、まだ両親がいた幼い頃の宝物だった。何か悩みを抱えた時、まだ水が入ってたこれに語り掛けてた記憶がある。
中身は何だったのか、当時何を飼ってたのかなんて思い出せない。そんな曖昧な思い出にさえ縋り付くほどに、この時の俺は追い詰められていたと言える。
「そうだったよな。誓い立てたのも、コレだった」
男は女より強く在るべきだ。
男は女より上であるべきだ。
男は女より先を歩き、前を行き、そして────
──だなんて、今じゃ笑い話にもなりゃしない約束。それを交わして決めたのも、この水槽の前。
なぁ、どうしようか。この生き方は、この際捨てちまうべきなのか?
それだけじゃない。結局俺は酒寄に何を思ってるんだ?アイツをどうしたいんだ、アイツに何をして欲しいんだ?
分からない、何も!
「クソ……!」
再びストレスか何かで心臓が唸り、目の奥に血が集まる感覚。つい先日、酒寄の目の前で強制ログアウトになった時と同じ。でも、そんなの気にしてられるかよ。
教えてくれ。お前なら分かるんじゃないのか。いつだって俺の事、俺以上に理解して、教えて、導いてくれただろ。
別に何でもかんでもとは言わねぇ、けどヒントくらいくれよ。バカだなって笑って、唆してくれよ……!
「ふsh\ポコンッ/……?」
霞が飼った思い出その向こうに何かが見えたその時、通知音が。
誰かと思い手に取れば──後見人の彼。もしくは彼女。
< yachi8000
◢お悩みかね?
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端的な一文。果たしてそこまで見透かしているのやら、だがその洞察力に……敢えて甘えた。
人生に迷った__◣
というか“自分”に迷った__◣ 何をすべきなのか分からん__
◢重要なのは“何をすべきか” じゃなくて“何をしたいか”だよ
それが分かりゃ苦労しねんだわ__◣
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さしもの彼/彼女といえど流石に分からんか、と苦笑する。そりゃそうだ、俺の内面の話なんだから俺自身だけで完結させるのが本来の筋。頼ってる現状自体がそもそも情けない事この上無い。
でも流石は大人というべきか、それとも俺が所詮ガキとでも言うべきか。yachi8000の切り口は、その程度で止まりはしなかった。
◢なるほどなるへそ?では言い当ててしんぜよう ズバリ!好きな子が出来たな!?
違うが__◣
◢照れちゃって~、お見通しだぞよ
◢という冗談はさておき 気にしてる相手に、自分が何を 欲してるのか それを知りたいんだね、ゲンは
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……大当たりだ。何処から情報を仕入れているのか、それとも俺のこの数文だけで読み切ったのか、此方からは分かりようも無い。
そんな俺を他所に、yachi8000はこう告げてきた。
◢そういう時はねぇ、やっぱり“初心”に戻る事だよ
うぶ?__◣
◢“しょしん”の方。最初に立ち返るの 自分が相手とどう関わってきたか どんな風に接して、心を交わしてきたか そこをもう一度見返して、その後は……
◢ぶつけてみるの
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……繰り返せ、と?
あの身の毛もよだつような過ちを?
ダメだ _◣ これ以上傷付けたくねぇ__
◢案外、相手は傷付けて欲しいと思ってたり?
被虐主義者の馴れ合いじゃねぇんだ _◣ 誰が好き好んで痛い目に遭いに来んだよ__
◢そうだね。誰だって痛いのも、苦しいのも嫌 けど、自分以外の誰かの為ならば?
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……!
◢ゲンだって見た筈だよ その勇気を、ついさっきね
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真実の事だ。
俺を守る為に、慣れねぇ事に身を張ったアイツの事を言ってんだ。
ああそうだ、アレは間違いなく勇気だった。いつだってアイツの胸の内で燻って、爆発する度に俺を魅せてきた光。
それを目にして、俺が安堵なんか覚えたのは……なんだ、至極単純な話だったじゃねぇかよ。
「勇気付けられたんだ、俺は……!」
────もう、迷いは無かった。
アイツが勇気出してるのに、俺が臆してる余地なんて物も。
スマホを放り出し、ドアを蹴破り、その勢いのまま欄干を跳び超えて中空へ。下を見れば……ビンゴ。ちょうど彼女が出て来た所だ!
その目の前に着地。轟音と衝撃で足の骨が軋むけれど、そんな些事なんてまるで気にならない。
「……ゑ!?ゲンちゃん?!いやどっから来たの今!?」
「世話掛けさせたな真実!お陰で元気出た!!」
「それは何よりだけど質問に答えて?!!」
困惑させた事と土煙を少々浴びせてしまった事に申し訳なく思いつつ、その肩を掴む。真正面から、まずお前から。
「勇気出す。酒寄が許すなら、コラボには、俺が出る!」
「……え」
「改めて謝った上でな。尤も、今も俺自身が何に引っかかってんのか分かってねぇから無意味な謝罪にはなっちまうが……」
「待って……待ってってば!」」
そんな俺の行動を制するように真実が叫んだ。怒りの中に、俺への思いやりを確かに滲ませながら。
「言ったじゃん、“守らせて”って!無理する必要ないって!私は、ゲンちゃんに、傷付いて欲しくないんだよ!?」
「ああ。分かってる」
「じゃあ私にやらせてよっ!私の想いを無碍にしないでよっ!そんなに私って、頼りないの!?」
「は?ンなワケあるか」
まぁ当然だわな。あんな一世一代の決心を、発露から数分で否定されるとか。俺だったらキレ散らかして警察沙汰とか起こしてもおかしくねぇわ。
でも、違ぇんだよ真実。逆なんだ。
俺はな、頼れるお前に
「一緒に居てくれ」
「へ?」
「俺がなっさけなく逃げようとしたら、この背中を蹴っ飛ばしてくれ!」
酒寄に謝る時も。コラボKASSENで、アイツの隣で黒鬼と対峙する時も。
隣に真実がいてくれたら、どんなに嬉しくて頼もしいか!
両の手を握ってそう叫べば……一念が通じたのか。真実は幾ばくかの逡巡を経てから、何故か顔を深紅に染めて頷いてくれたのだった。
帝アキラこと俺から見たRe:ALとは、石実現とは、即ち“天敵”だ。
ただでさえ生意気。年上に対する敬意0。DQN地味た態度と行動に、誤解だったとはいえ彩葉への加害の匂わせまで。
俺もまたかなり大人げない対応をしていたという側面は自覚しているが……それでも、少しは扱いが厳しめかつ雑になるのは許して欲しい。あと乃依がどういう訳かアイツを気に入ってるのも妬まsゲフンゲフン認めがたいし。
──けど。それだけじゃないのは、もう隠しておく事でもないだろう。
ちなみにコレが現実の俺ね、と見せてきた写真。そこに映った目付きは……ああそうだ、母さんと同じだった。他のパーツは全然違うのに、その部分だけで血縁が無いとは思えない程に。
だから気にならずには居られないんだろうか。
だから、どうしても、
コイツは家族なんかじゃないのに。彩葉と元同級生なだけなのに、彩葉を助けてくれてる恩があるだけの他人でしかないのに、その筈なのに。
俺はRe:ALと、関わらずには居られない。
母さんと同じ鋭さと
『注目のイベントが始まります!王者ブラックオニキスが以来の速度での仕上がった超新星かぐや・いろPに宣戦!そしてまさかの求婚!運命を懸けたKASSENが今まさに──』
「照の奴、張り切っちゃってまぁ」
旧友の音頭をBGMに爆走する洞窟。その道中に立ちはだかるNPC共を蹴散らしながら虎バイクを
「良かったな、帝」
「何が?」
「Re:ALが持ち直して、だ」
……まぁ……バレてるよなぁ。
「え、なに?帝もやっぱりRe:AL気にしてたの?ツンデレだね」
「言うなよ俺らのお姫様。それに、そこまでアイツを重視してる訳でもない」
「素直じゃないなぁ」
飽くまで最も大事なのは彩葉。
ただまぁ……妹とその友達が健やかなら何より。それだけの事だろう。
「作戦確認だ。彩葉の性格からして手堅く定石通りの
「戦闘力と付き合いの長さから鑑みるに、かぐや・いろのコンビとRe:AL単独の二手。だから俺達はRe:ALに帝を当てて足止めしつつ、残り2人のトライデントで速攻する……これが1セット目の理想だな」
「それで2セット目は相手の作戦に併せて柔軟性を保ちつつ臨機応変に対処、帝vsいろかぐをお膳立てだね。実質ノープランだけど、Re:ALも調整してくれるだろうし上手くいくよね」
じきにライブカメラが俺達を捉える、その前に最終確認を。改めてみると丸っきり妹主役の
……けど生憎、演出したとはいえ俺達は本気も本気。勝負自体も真剣、手なんて抜く筈も無い。過程に何があっても、その結果は本物だ。
だからどうか、素直に受け取ってくれよ。
お前を置いて行った俺の、せめてもの
『黒鬼!ご来臨────!』
演出のNPCを派手に粉砕しつつ、飛び降りた舞台。その先に果たして、いた。
こっちを見上げて指差すかぐやちゃんの隣、狐のぬいぐるみ型スキン。それに身を隠していても、所作だけでもう分かる。
そして、彼女達の後ろに控える鴉天狗もまた。
「……待たせたな、子ウサギども!」
まだだ。兄としての顔を出すな、今じゃない。そもそも今更兄面する権利も本来なら無い。
でも、“嬉しい”と。仮想世界だとしても、面と向かって会えて、そう思う心は否定できなかった。母さんに言わせれば、俺もまだまだ甘ちゃんって事なんだろう。歓声を浴びながらふと、そう考える。
「くぉら帝―!」
って思ってたら彩葉より先に推しが来た。うおっ可愛っ?!画面で見て手慣れたと思ってたけど想像以上だ、特に垂れ目っぷりが
「み~か~ど~?」
「っと、悪い悪い。機嫌直してくれ、乃依────で。どーも、対戦受けてくれてありがとね」
「あったり前でぃ!このかぐや、吹っ掛けられた喧嘩は拒まないんでね。つまりそっちが
実に解釈一致な勝気の姿勢に笑みが漏れる。Re:ALの言う通り、彼女こそが彩葉を掬う鍵だという確信を得られたから。
だってホラ、後ろ。
「全く。調子乗るとすぐこれだよ」
「良いんじゃねぇの?見てる分にはやっぱ面白ぇもんアイツ」
「全肯定しないの。あのまま図に乗って、足下救われたら困るのはかぐやでしょーが」
ナチュラルにかぐやちゃんを身内扱いして、その行く末を憂う妹の姿。なんだ、やっぱり出来てたじゃん。本当に、良かったじゃん。
(譲れない物、得られたんだな)
……なればこそ。
ここらで一つ、意地悪がてらに祝福してあげようか。
「──ねぇ、かぐやちゃん。俺が勝ったら結婚してくr「するわけねーだろが!!」早ぇよ!?」
気障に顎クイしようとしたその刹那、飛んでくる一閃は想像以上の切れ味だ。ハハッこりゃ良い!乃依の言う通り、
なぁRe:AL、そう思うだろ?
(──さぁ?俺はマニュアルモードで死力を尽くすだけだ、ぬかんじゃねぇぞ)
(当然。今度こそプロゲーマーの本領を見せてやんよ)
(そりゃ何よりだ。楽しみにしてるぜ)
「ぃよぉーし!彩葉とかぐやとリアルで300コンボキメて、ぼっこぼこにしてやんよ~!」
「ッこら!本名出すなって」
「いよいよ……祭りも
個人チャットで軽口を叩き合ってから、両陣営は対峙。高まる緊張感、昂るボルテージ、沸き立つ観客たち。
いよいよ開戦……かに思われた、その時だった。
「……ァあ?」
最初に気付いたのはRe:AL。アイツの視線が上へと跳ね、遅れて1秒後に
『前代未聞、世紀の竹取
『あの玉手箱は……!?』
「「「「「え?????」」」」」
こんなイベント、ライバー歴の長い俺達でも見た事──ある。あるがごくごく稀、かつ両チームが全員揃ってる状態でお目にかかるのは流石に初だ。何故なら
バグ?いや、それもあり得ないだろう。何故ならたった今、目前に落下してきたこの箱より出づるのは……
「────ヤオヨロ~!皆の月見ヤチヨだよー♪」
「ヤ、やゃや、ヤチヨォ!?」
「いやぁ、お邪魔しちゃってメンダコメンゴ☆どのタイミングで入るか迷っちゃったんだよねぇ」
ツクヨミが誇る超人気AIライバー。
なおかつ逆、ツクヨミ
分身とはいえそれが直々に出てきたんだ。つまりこの挙動は……純正の物、だと?
「久しいな。けどヤチヨちゃん、SENGOKUモードは3on3形式……既に満員だ。君の出番は無さそうに思うけど?」
“お助けヤチヨ”はツクヨミ関連の対戦ゲームにおける共通仕様だ。両チームにおいて著しい力量差、それも公平性を欠くレベルの逸脱が見られた場合にのみ、不利な側に現れる。当然俺たちも戦った事があるし、お世話になった事だってあった。
でも今この場においてはその条件は満たされない。なら何故?
「いえいえ、あるのですよ帝様。この場には歴然たる差が存在し、だから観戦を決め込もうとしていたヤッチョは哀れ、システムによって引き摺り出されてしまったのです。ヨヨヨ」
「おうおう何おう、かぐや達がそんなに弱いって言いたいのかー!?」
探りも兼ねた俺の牽制を受け流し、わざとらしく振り子状の涙に頬を濡らすヤチヨ。その様子に「舐められた」と判断したのだろうかぐやちゃんがプリプリと愛らしく怒るのも何のその、我らがツクヨミの女王は不意にその瞳を細めて告げる。
「……ヤッチョが助けに来たのが、
起こるはどよめき。当然だろう、幾らかぐやちゃんのバトルセンスが良いとしても、
だがツクヨミにおける月見ヤチヨの言葉もまた絶対だ。ならば真偽は?真意は?この矛盾を生んだ原因は何処に?
……まぁ。アイツ、だよなぁ。
「貴方だよ────Re:AL」
「……ですよねー」
向けられた視線、その先で。
鴉は1羽、所在無げに肩を竦めていた。