酒に狂った男   作:鶏肋

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その瞬間、飲み込まれる、ダークサイドの〜♪


FUSHI、唆す

「オッケー」

「早っ!?」

 

……なんで。

 

「え……へ?石実out?ヤチヨin?───

───っェ、ええええええええ!?!??」

 

俺は。

 

「ちょっとー!?リアルはかぐや仲間だよ、盗っちゃダメー!!」

 

今。

 

「……えーと。陣容変更で、俺達黒鬼チームvsかぐやチームwithヤチヨvsボス化Re:AL。という認識で良いのかな?」

 

こんなに、あっさりと。

離脱を選択できた?

 

「その解釈で合ってますよ、帝様♪あとはこのOYADAMAのルールを貴方がたが承諾してくれるなら有難いのですが」

「ああ、ルールに異論は無いし面白そうだ。受けるぜ」

「待って待って!それは良いんだけどヤチヨとチーム!嘘ぉ!?」

「絶対勝とうね!」

「ミ°ッ」

 

自分自身に惑っている俺をよそに、ヤチヨ中心で話は進む。それに甘えて自己を見直す。

別にかぐやチームに思い入れが無いとか見切りつけたとかそんな事は全く無い。そもそもアイツらが主役として活躍する為の措置だから何の齟齬も無い筈だ。かぐやと酒寄が目立って優勝する為、うん間違い無い。

 

……けど、ならなんで。

 

(俺はこんなにも、()()()んだ?)

 

今も喜びに融ける酒寄を見た。アイツと違う陣営となった現状が、何故かとてもしっくりきた。酒寄と隣に並ぶより、正面から対峙できるこの状況の方が。

この期に及んで、まさか俺はまだ────

 

「ねぇ〜なんでっ!離れないでよリアルぅ、必殺技を間近で見てもらうって今言ったじゃんかー!!」

 

ここでしがみついて来たかぐやに思考を中断される。離れろかぐガキ、兎アバターなのにコアラかお前は。コアラってユーカリ目線だと害獣を超えた害獣なんだぞ。

 

「悪い悪い。まぁなんだ、ヤチヨと仲良くやってくれや」

「嫌!ヤチヨだって凄いって知ってるけど、かぐやはリアルと戦いたいのっ」

「戦うのは隣同士じゃなくてもできるだろ」

 

駄々を捏ねるかぐやに対し、自分でもびっくりするぐらい流暢に言い訳が飛び出した。何でこんなに口が回るのか、普段の自分じゃ考えられない程に。

 

「必殺技なら間近で見てやるさ。ああ、()()()で」

「!」

「全力でぶつけて来いよ?じゃなきゃ手加減なしで叩き潰しちまうぞ」

 

まぁ勿論、本気のエールでもある。そんな虎の子の奥義があるってんなら話題性も抜群、しっかり決めてくれりゃ俺達の目論見も成功するってモンだからな。楽しみにしてるぜ、かぐや。

 

「……分かった!169分割してやっから楽しみにしてろ〜!」

「何だその具体的な数字は。ああそれと、コレ真実からの餞別だ。預けとくぜ」

「え、悪いよ。リアルが持ってなって」

「アイツが願ったのはお前らの必勝だ。俺が持ってたら意味無ぇだろ」

 

そう伝えて押し付ければ、得心がいったように彼女は自分の掌を叩く。そしてそのまま「お望み通りしっかり勝ってやんよ〜!」と叫び、酒寄とヤチヨの下へ駆けて行ってしまったのだった。

 

(……ま、ヤチヨとかぐやなら上手くやれるだろ)

 

彼女は2人の折り合いに関しては全く心配していない。いつぞや、海でヤチヨの曲をかぐやに歌って貰った時から、彼女達の相性が良い事は確信できていたから。きっとすぐに打ち解けて信頼し合える、と無責任に思う。

あとは酒寄だが、アイツほど公私分けれる奴もいないし心配無用か。だから心置きなく──ああもう、気を抜いたらすぐコレだ、落ち着け俺。

 

「あ、Re:AL!これっ」

「あん?……うぉっ」

 

その時、振り向いたヤチヨが何かを投げた。それは虚を突かれた俺の肩へなんなく着地し、そのフワフワの身体を主張してくる。

 

「FUSHI?」

「そうだボクだ。ナビゲーターとしてお前をサポートさせて貰うぞ」

「Re:AL1人だと、初めてのOYADAMAで満足に動けないかもだからね。分からない事があったら頼ってあげて、その子は君の力になりたいみたいだからっ」

「変な事言うなバカタレ!」

「うぇーん、FUSHIが反抗期なのだよいろ。慰めて〜」

「あっ!このヤチヨ、近い!!アババババッ、ボハァ!?」

「私のー!私の彩葉ー!!離れろ〜!!」

 

憎まれ口を叩きながら首元に蠢くウミウシは、けれど不思議と不快感は無く。その馴染みように思わず口元を綻ばせて、俺はその肌を撫ぜた。

 

「……よろしくな、相棒」

「!────こちらこそだ、Re:AL」

 

『さぁさぁさぁ!両陣営、いや三陣営すべて準備を終えたところで、いよいよカウントダウンだぁ!!』

『ヤチヨカップの実質決勝戦、なおかつOYADAMAの初お披露目!目が離せませんよぉッ』

 

その折、ポチ姉達の声が轟く。見上げれば減っていくカウント、どうやら漸く時ってヤツが来たらしい。

改めて見回す。プンスカするかぐや、その怒りを飄々と受け流すヤチヨ、やっと人の形を取り戻しつつある酒寄。こちらを一瞬だけ一瞥してから酒寄を見つめる帝と、我関せずを装う雷と、観客へアピールするべくカメラへウインクする乃依──一通り目にしてから、再度酒寄を見た。

目が合った。

 

「「……」」

 

互いに無言。何か言いたい事が浮かんで、形になる前に消える。その間にもうスリーカウント。

俺は諦めた。何か口にしてしまえば、それで固まってしまう気がしたから。

酒寄は、口を開いた。言おうとして、しかし阻まれた。

 

『さぁ!!世紀の竹取合戦、今度こそ開幕だー!!!』

 

転送エフェクトが、場の終わりと始まりを告げた。

 

 

「んで、俺どうすりゃ良いの?この赤い矢印が俺の配下って事でおk?」

「そういう事だ。赤ミニオンを好きな所に配置して、青・黄(相手チーム)の侵攻を阻害するって感じだな。あとオートマモードにしとけよ」

「あいさいさ」

 

という訳でマップ中央の城における最奥部、仰々しい玉座にて俺は色々と弄り始める。ほうほうなるへそ、NPC自体は無限湧きでもその配置数は制限があるのな。こりゃ無計画に置きまくってると後が辛くなるパターンだ、気を付けとこ。

 

「とはいえ、どこまでガチでやったモンかなコレ」

 

幾らか操作し終えたところで、天井を見上げて息を吐く。俺はそもそもかぐや達を助ける為に参加したのであって、敵に回る想定なんかしちゃいない。ここからは完全なノープランなんだ。

けど露骨にかぐやチームを贔屓しようものなら大ブーイング待った無し、勝負に勝ててもヤチヨカップの優勝は黒鬼に持ってかれる。なんなら手を抜かれた事を察知した酒寄が曇って成功体験どころじゃ無くなるだろう。

じゃあ全力で潰すかと言われると……うーん。

 

「やれば良いだろ。本気の全力で」

「いやダメだろ……」

 

気軽に言ってくれるぜ。雷が公表したあの動画見ただろ、俺がその気になればこの城を飛び出しての急降下爆撃で6人纏めて乙らせる事だって不可能じゃねぇんだぞ?これはまぁ相手全員が乱戦状態って前提でしか成り立たん仮定とはいえ、それが罷り通ったら勝負どころじゃない。観客冷え冷えの没収試合だ。

 

「だからヤチヨが言った“ボスムーブ”……まずはそれに徹しよう。序盤はチマチマと駒だけ動かして、勝った方の相手をする他あるまい」

「……分かった。やれるだけやると良い、我慢出来なくなるその時まで」

「知った風な口を利いてくれるじゃん?」

 

そんな風に及び腰になる俺を、FUSHIはどこか皮肉る様子で刺してきた。何だ何だ、日頃俺が年上に対して取ってる態度ってこう見えてたりする感じ?自覚してたつもりだったけど思ったより腹立つな、ちょっと帝以外に対してはマジで気を付けよ。

 

 

なんて、今考えるべきはそっちじゃないか。

 

 

「いや、実際()()()()んだよな。FUSHIは、俺を」

──何の事だ」

(うち)の水槽。入ってたのお前だろ

 

返答。無し。

動揺、有り。ビンゴだ。

 

「ちょっと前に物置から引っ張り出して眺めた時、無自覚にお前の名前を口(ずさ)もうとしたんだ。何の前触れもなく唐突にだぜ?」

「……たまたま同じ名前の魚でも飼ってただけだろう。“ふし”、ペットの長寿を願うなら名付けてもおかしくない」

「連れねぇ事言うなよ。ミニライブの後、あんな思わせぶりな事を言ってくれたってのに」

「!!!……思い出したのか」

「部分的にはな」

 

水槽を引っ張り出してお前の名前を取り戻した時、記憶の欠落を認識した。それを自力で何とか復元して、漸く脳の奥底から拾い上げたのがお前の言葉だ。目元に覆い被さって来た感触もなんとか思い出せてる。

 

だから聞くぞ。お前は俺の何だ。ヤチヨとは何者だ。お前達にとっての俺は何だ。というか、yachi8000ってもしかしなくともお前らだよな?バーガンディのオジキとも知り合いだったりすんの??

 

「……今は、全部は答えられない。ごめん」

「あ゛ー良いよ、いつか聞けるって言質が取れただけ充分だ。気長に待つさね」

「相も変わらず本当に抜け目ない。本当、変わんないよ、(お前)は」

「オイオイ、いつから変わってねぇって話だそりゃ?俺の記憶が正しけりゃ、お前が水槽にいた未就学児の頃とかそういう話か」

「聞いて驚け、受精卵の頃からだ。楓のお腹にお前がいたのを見つけた時、僕もヤチヨも驚きのあまりひっくり返ったんだからな」

「ウッソだろお前ビックラポンなのはこっちだよ」

 

母さんとも知り合いかよ!?いや家で飼われてる以上当たり前ではあるんだがらここに来て俺の家族まで謎めいて来やがった。こわ。

そう慄く俺を、FUSHIはじっと見つめる。コレまでずっと見守って来てくれたのと同じように。

 

「だから……分かるんだよ。現、お前は我慢し過ぎた。もう堪えられないって」

「…………」

 

否定したかった。でもFUSHIが言うなら、きっとその通りで。

 

酒寄と会う度、その姿を目にする度、湧き上がる激情を必死に抑えて来た。死に物狂いで沈め、静め、鎮めてきた────けど、もう無理だ。

酒寄と対峙してしまった。並び立つ事で誤魔化して来た欲求が、それを皮切りに騙せなくなった。

 

俺は。

 

俺は、酒寄を、酒寄彩葉と……っ。

 

「……ふぅーー〜〜〜っ」

「まだ耐えるのか?この期に及んで」

「言うな。ここまで来たんだ。台無しに出来るか」

「碌な事にならないぞ。その飢えをずっと抱えて生きていけると、本気で思ってるのか?」

「言うな」

「自分を騙すなっ。それを彼女たちに隠して接し続けるのもまた不義理になっちゃうぞ!」

「言うなッ!!!」

 

やはり俺に我慢は向いてないらしい。FUSHIの言説をそのまま裏付けするように、この手は肩のフワフワを鷲掴みにしていた。

 

「分かってんだよンな事は!じゃあ他にどうしろと?アイツを、酒寄を傷付けずに俺の衝動を軟着陸させる手法があるってんなら聞いてやるよ!ええ!?」

「ぐっ……!」

「結局お前ら何がしてぇんだ?!今更首突っ込まれたって軌道修正できるか!とっくの昔に手遅れなんだよ俺ァ……!!」

「ぼくは……僕達、はっ」

 

全部所詮は自己満足だ、酒寄への支援も償いも何もかも!

俺自身がやりたいが為に、それを酒寄の為だと自分に言い聞かせて、周りも騙して!お前の言う通りだよ、いつか破綻するに決まってる!それが多分“今日”だって事も!

けど、俺は、それでも……!!

 

「お前達に、()()()()()()()()()んだッ!!!」

 

刹那、FUSHIの身体が伸びた。ウミウシの頭突きが、俺の額を叩いて叫んだ。

 

「ヤチヨの1番は酒寄彩葉!けどお前の幸せだって願ってる……皆でハッピーエンドだって、信じてる!ヤチヨも、僕もっ!!」

「っ……はぁ?」

「その為に、お前だけが我慢するなんて死んでも嫌だ!いい加減自分を解き放てよ、石実現っ!!!」

 

……糞。

俺だって、そうしてぇよ。山々なんだよ。でも他ならないお前との約束じゃねぇか、女を守るってのはよ。

破るぞ。破っちまって良いのかよ。俺はもう、俺を。

 

「破れ。僕が許す」

「……ハッ。上から目線、どーも」

 

もう笑うしか無ぇ。そう思った刹那、事態は動いた。

 

『ブラックオニキス、トライデントのまま全砦を占拠です!鮮やかっ!』

『城への道が開かれました、後は待ち受けるRe:ALのみ──!!』

 

ンだよ。この流れでそっちかよ。

酒寄は酒寄でも、彩葉の方じゃねぇのかよ。

オイ、帝。帝アキラ。酒寄朝日。

 

…………ふざけやがって。

 

「FUSHI、ごめんな。痛かったろ」

「あいにく痛覚とは無縁でな。僕の方こそ、抉るような事を言ってすまない」

「じゃお互い様だ」

 

門が突破され、ミニオン共が次々と打倒される音がする。その方向へ、スカーフを巻き直しつつ歩き出した。ある一つの決意と共に。

 

「やってみるぜ、FUSHI」

「……ああ。責任は取ろう」

「要らねぇ、俺の選択だ」

 

お前らが俺の幸せを願ってくれてるってんなら。

それが酒寄の幸せに繋がるってんなら、そう誘ってくれるんなら、信じてやる。やってやる。全力全開の俺を、精々世に知らしめてやる。

 

その為、まずは手始めに……

 

「殺してやるぞ、帝アキラ!」

「え、俺!?」

 

瞬間、踏み込み。急加速で突き破る壁。

その裏で雑兵と戦っていた憎っくき阿呆面に、俺は渾身の膂力を奮って襲い掛かった。




危険な欲望
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