酒に狂った男   作:鶏肋

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遅刻しましたぁー!!!サーセン
筆自体は乗ってたんだけど単純に時間不足ッ……それに間に合わせられない実力不足ッッ……!


Re:AL、吹っ切れる

「真実」

 

観客席から見てても大変な状況だった。ヤチヨの介入にゲンちゃんの力の暴露、そこからの新モードOYADAMAの公表、3陣営に分かれての開戦。更に帝様が彩葉のお兄さんだった事の判明まで。隣の芦花とも「これどーなんの???」と顔を見合わせた程だけど、蚊帳の外な私達に見守る以外の手段は無く。

固唾を飲んで試合の推移を追っていた私。帝様達が彩葉達を翻弄していく1セット目の最中、けどその意識を現実から刺激された。ゲンちゃんの声と、握りしめた掌の温もりだった。

 

「なぁに」

 

努めて平静に。けど真剣に。このゲンちゃんは、心のどこかに追い詰められてる部分がある声音だから。どっしり構えて受け止めてあげなきゃって、私もまた掌を握り返して応じる。

それが通じたのか、彼はやわらかく息を吐いて。

 

()()()()()事にした──本当に、好き勝手にだ」

「!」

「色々と大事(おおごと)になるかも知れん。俺らも元の関係にはきっと……戻れない」

「……かなりおっきい事をするつもりみたいだね」

「嫌だったら言え。やめる」

 

その吐息に何処か諦念を、その想いを抑え切れなかった自分自身への呆れを醸してゲンちゃんは告げた。

 

ハッキリ言おう。嫌だ。今のこの関係が壊れるなんて。どうなるか分からないなんて、怖い。

 

けど。じゃあ今の2人は、屈託なく笑い合う事なんて出来ない今の2人の在り方は正しいのかって話にもなって、そんな訳が無くて。

それを良くも悪くも変えるなら……きっと、これだけが。

 

「ゲンちゃんがそう言うって事は、必要な事なんでしょ?」

 

それだけが道なんだと、私は信じた。私が信じたゲンちゃんを、心から信じた。

 

「やりなよ。私に出来る事があるなら教えて」

「……ハッ。お前にして欲しい事ねぇ」

 

後押しすればもう憂いは無い。私に背を押されたゲンちゃんは、気恥ずかしげに笑いながら宣う。

 

「……後で、叱ってくれるか」

「当然っ!」

 

今更躊躇うものか。

あなたと共に在るなんて、そんな簡単な事を。

 

 


 

 

『おぉーっと!接敵1Fで帝が犬神家だぁー!!!』

『えっちょっ、アキラー!!?』

\\\帝様ぁぁぁ!?!!///

 

実況するオタ公の声、解説を投げ出して元相棒の惨状に頭を抱える乙事照、黒鬼ファンであろう観客達が上げる黄色い悲鳴。私達は、敗者を閉じ込める結晶檻の中から、それらの音が向けられたモニターを見上げていた。

壁を打ち破って強襲したRe:ALが、その勢いのまま帝アキラ──酒寄朝日(お兄ちゃん)を殴り倒し、その上半身を地面に埋め立ててしまった絵面が嫌でも目に入る。さっき私達を圧倒して、格の差を見せつけてきた家族が、Re:ALの──石実の手で。

 

「いけー!やれやれリアル、フレーッ!フレーッ!!」

「……かぐや」

「あ、ごめん彩葉。お兄ちゃんだったっけ」

「いやそれはそうなんだけど」

 

私は何を咎めようとしたんだろう。現状は敵の敵とはいえ、私達が勝ててたら戦う予定だったRe:ALを応援しようとしたから?それとも今かぐやが懸念した通り、兄の惨状を応援したから?

多分どっちも違う。でもどっちも完全な間違いじゃない。私は果たして、何に対して悪感情を抱いたのだろうか。

 

「いや〜流石というかなんと言うべきか。Re:AL君は圧倒的ですねぇ」

「……ねぇ、ヤチヨ」

「何かな、彩葉?」

「Re:ALは、どうしてあんなに強いのかな」

 

画面の中の彼は、戦闘不能で花弁と散った帝から、駆け付けた駒沢兄弟へと既にその標的を移している。踏み砕いたポリゴン片の煙に塗れ、笑う彼は強く、雄々しく。

私は、そうは在れないから。その力の源流が知りたかった。

そんな私の問いに、ヤチヨは数秒ほど頭を悩ませて言う。

 

「知ってどうするの?」

「え……」

「彩葉の得意と、Re:AL君の得意は違う。物理学者が物理力学を理解してるからってオリンピックで金メダルを取れる訳じゃないし、アスリートが酸素を大量に保持して脳に回せるからって学力テストで良い成績残せる訳でもない。貴女達2人は、本来住む世界が違う……互いの生き方を知ったところで、それを自分の生き方に反映までさせたらとてもじゃないけど()たない。って、ヤッチョはそう思うなぁ」

「何?何の話?彩葉は頭スゲーって話とリアルは体スゲーって話?」

「まさにそういう話だよ」

 

……ヤチヨの言い分は尤もな事だった。ただでさえ女の私と男の彼、生きる世界はいずれどうせ分かたれる。ただでさえ適性が違うって分かってるのに、そこから更に分岐するなら想像も付くだろう。

私は私。石実は石実。そう割り切って、違う世界で生きれば良いだけだ。1年前に石実が転校という手段でそうしたように。何も知らない私が、恥も知らずにそれを喜んだように。

 

そんなの……なんか、嫌だ。

 

「ごめん。理解は出来たけど、納得は出来ないや」

「──うんうん。自分の中で何か引っ掛かる事、あるよね。人間関係だものね」

 

子供みたいに突っぱねた私を、ヤチヨは優しく受け止めてくれる。ああ、こういうところが大好きなんだ。こんな風に柔らかく愛してくれながら、それでいて。

 

「でも、だったら目を背けてる暇は無いよ?ちゃんと見つめて、見届けてあげなきゃね」

「!……うん。頑張るっ」

 

為すべき事を示してくれる。(いざな)って、甘やかさずに託してくれる。そんなヤチヨに救われたから、私は自分でその一歩を踏み出せた。

 

意を決して再度見上げるスクリーン。その中でRe:ALは一方的に駒沢兄弟を押し、瞬く間にそのアバターを八つ裂きにしてしまった──と思った、次の瞬間。

 

『!?これはどういう事だ、HP残存した筈の帝がここで逆奇襲!?死んだふりか!DB●BDの死んだふりバニッシュか!!』

『いやこれは……不死の妙薬!使い切りの無敵時間付きUR蘇生アイテムだ、いやここで使うか?!』

 

究極技(ウルト)の超加速で突っ込んできたお兄ちゃんの刺突が、Re:ALの左肩口を抉り取った。心窩のような急所でなかったのは、Re:ALが凄まじい反応速度で身を捻ったから。

次の瞬間、駒沢雷の遺した地雷が炸裂。床が抜けて、爆炎に晒された2人を階下の閉所へ落とす。

 

「あ、そうか。だからお兄ちゃん達、城に入ったら散開したんだ」

「どゆこと?」

「マッピング優先して、Re:ALの機動力を削げる場所を探したんだよ。3人の内の誰かが囮になって、残り2人が場を整える。それが終わったタイミングで、接近戦主体の帝がタイマンに持ち込むって寸法」

「でもそれ帝が真っ先に落とされたら詰むんじゃ……あ、その為のお薬ね」

「まぁ上振れたらなら、他二人も援護に回れたんだろうけど……」

 

やはりプロゲーマー、年季が違う。私達だったら場当たり的な戦局ばかりに注力し過ぎて。最初の接敵で壊滅していたかも知れない。

 

けど、それでもRe:ALの強さは半端じゃなかった。

 

『ぅおww隻腕なのに強過ぎンゴwww──いや強過ぎない?』

『これは無敵時間が尽きた瞬間に乙ですね。3、2、1……あれ?かなり粘ります、頑張ってますよ帝』

『意地見せてくれよぉ……?』

 

瓦礫だらけの悪所で、持ち前の機動力を封じられての超接近戦。帝アキラの間合い──にも拘らず、激しい剣劇に身を晒し合う両者は、そのHPを微動だにさせる事は無かった。

いや、その言い方は正しくない。無敵補正のついたお兄ちゃんが捨て身の攻撃に出ても跳ね返されてる。ゲーマーとして理想化された攻勢を、それを上回る天与のセンスが封殺してしまっていた。

 

やがて制限時間が尽き、防戦一方に。1F後の敗北を持ち前の技巧で拒否し続ける妙技に観客も私も魅せられて、でも限界は近付いてくる。

 

何なの、これ。こんなのって無いよ。

 

「……そこだよ、お兄ちゃん」

 

隙はあるんだ。Re:ALの動きは洗練されてる訳じゃない、特に大太刀の方の攻撃は後隙が大きいじゃん。その空白を埋めるように短刀が振り回されて踏み込めないのは分かるけど、逆に言えばそれさえ交わせば一撃は叩き込めるんだよ。

 

「ダメだよ、今のは無理にでも強攻撃を……!」

「い、彩葉?」

 

小技で牽制して姿勢を立て直すのが定石なのは分かるけど、常識が通用する相手じゃないでしょ。石実は凄いヤツなんだよ。私、知ってるもの。目の当たりにしてきたんだもの。

違う、そこで石実は一瞬だけ引くんだってば“溜め”の為に!お兄ちゃんも引いちゃったら思う壺だって、ホラ向こうの強攻撃がっ────

 

「彩葉」

「なに?!」

()()()()()?」

「へ?」

『あーっと、決まってしまったー!!』

 

かぐやに気を取られた瞬間、白熱する拳に帝の顔が吹き飛ばされた。輝くDRAWの4文字が、余波で吹き飛んだ城の石垣に浮かび上がる。

その中に怪しく揺らめくRe:ALの眼光が──私を捉えた。そんな気がした。

 

 

ちなみにRe:ALが勝ったのに何故DRAW(引き分け)扱いなのかというと、この試合限定の仕様による物だったりする。元よりかぐやと帝の勝敗を決めるこの竹取合戦、なのに万が一Re:ALが2セット連取して独り勝ちしてしまおうものなら企画倒れになってしまう──という事で、Re:ALによる敵チーム打倒をDRAW扱いとした上で、彼の勝利条件を“3セット全てにおけるDRAW”とヤチヨが限定した。

要は野球における「ファウルボールを36回打つとアウト」みたいな感じ……ん?これ非公式?マジか、初めて知ったわ。

 

ともかくゲームはまだ始まったばかり。続く2セット目、私達はあのRe:ALに喰らい付いた帝達・あの帝達を鎧袖一触したRe:ALを続けざまに倒さないといけないのだ。

その為にまず目指すは、フィールドに設けられた3つの砦の占拠。これの過半数を手中に収めなければ、ボスへの挑戦権が相手に優先されてしまう。さっきは全部取られたから、優先どころか権利そのものを得られず留守番させられてしまった。

 

「じゃあこれ使うね」

「何それ……って真実のアクセサリーパンじゃん、何で持ってんの」

「真実が私達の必勝祈願に預けてたのをRe:ALが譲ってくれたんだ。これ使って“必”ず“勝”つ!」

「……許して真実……」

「臨機応変、柔軟に対応して利用。こういう若人の強かさには憧れますなぁ」

「いやいや、ヤチヨは最強ですし」

 

ここでかぐやの奇策が炸裂。上空を舞う巨大リュウグウノツカイを手懐けての奇襲が、黒鬼の虚を突く。

 

『かぐや&いろP&ヤチヨチーム、怒涛の逆襲!なんと砦を2つ攻め落としたー!!』

『アキラぁ!流石に良いとこ無しは不味いって、踏ん張れぇ!!』

「外野は好き勝手言えて良いなぁ琴ォ!」

 

まずかぐやが急降下攻撃で、ミドルレーンの砦を雷ごと落とした。それに動揺を見せた乃依をヤチヨが単独撃破し二つ目。この時点で優先権は確定、後は帝の足止めに回った私がどうなるかだ。

 

「慢心もよそ見も厳禁っ!」

「これは余裕って言うんだぜ、妹よ!!」

「さっきまでボコボコにされてた人が余裕とか騙っちゃうの?」

「無茶言うなって、アイツとの1on1でタコ殴りにされない人類(ホモさピ)どこだよッ」

「そうだね!身に染みて分かってる!」

 

論戦では互角でも、戦闘では劣勢そのものだ。先ほどのザマはどこへやら、今度は華麗に攻勢を積み重ねる帝に、私は防御に徹するしか無い。やがて凌ぎきれずに致命の一撃を喰らうだろう。

 

「ぐっ……!」

「……悪いけど、俺もアイツにはやられっぱなしなんでね。やり返す為にも前哨戦を落とす訳にはいかねんだわ」

 

吹き飛ばされた私に、いかにも悪ぶって不敵に笑い掛けるお兄ちゃん。でも実力差という事実は否定しようが無く、歯噛みする他無い。

やっぱ、勝てんわ。ずっとゲーム(これ)やってきた“本物”には。私だけじゃ絶対に。

 

────でも、私は一人じゃない。

 

「いーろーはーっ♪」

「「!!」」

 

飛んできた傘コプターが、帝の立っていた場所を吹き飛ばす。来てくれたんだ、ヤチヨ!

……あれ?かぐやは?本来の予定じゃそっちが来る筈だったのに。

 

「あれま。彩葉なら()()()のではなくて?」

「……なんだ、そういうことか」

 

でもその一言だけですべて把握できた。全身に漲る力も、その納得から。

立ち上がり、大地を踏み締める。目指すは目の前の敵、帝アキラ(お兄ちゃん)……じゃ、ない!

 

「んなっ!?」

 

フェイント。飛び越して向かうは、最終作戦目標の砦!

お兄ちゃんの事だ、私の事はよく分かってる筈。でもそれはまだ小学生の頃、お母さんにただただ憧れていた幼い酒寄彩葉に過ぎないんだ!

 

「誰にも縋らない無頼だとでも思ってたの!?」

「違うのかよ!」

「残念!体がもう()()()()()()の味を覚えちゃったんだっ」

 

──頼ってよ。私に、貴女を支えさせてよ。

──これは彩葉の為だけじゃない、私がそうしたい事なんだ。

──ガキを育てんのは社会の仕事だっつー事……利用しろよ。

 

一言一句覚えてる。カフェに集ったお節介焼き共の口説き文句、それに屈したあの日の事を。あの日から、それ以前からは信じられないぐらい支援(甘やか)され、頼る(甘える)事を覚えさせられた日々の事を。

最高の友人達だと、今になって深く深く思う。私は人運にあまりにも恵まれ過ぎた。

 

そしてここに来て、かぐやだ。作戦を無視してヤチヨと役割を交代、アマチュアの身でたった一人、プロゲーマーの駒沢兄妹を止めに向かった。何故?

 

……決まってる。私とヤチヨを組ませるためだ。

その方が私が嬉しいだろうって、安心できるだろうって!まだ自分の事だって満足に出来やしないのに、一丁前にっ!

 

「ここまでお膳立てされて……何も思わない私じゃあ、ないッ!」

 

「────彩葉、お前……ッと!」

「よそ見厳禁。先ほど妹君に言われた事をもうお忘れで?」

「いやいや、忘れてないよヤチヨちゃん!」

 

だから私は、ヤチヨに頼って、帝の相手を任せて、先へ!究極技で風を置き去れば、残る障害は()()()()()()()()NPC(ミニオン)のみ……!

 

「行って、彩葉!貴女の望みを掴み取って!!」

「……なんだ。やりゃ出来んじゃん」

 

ヤチヨからの祝福と、お兄ちゃんからの称賛。風切り音の中にそれを確かに拾って、背中を押され、駆けのぼった砦の頂上に──見えた。叩き折るべき八咫烏の旗が。

 

キーボードブレードを振り被れば、前哨戦の勝利はもう目前。断ち切って、お兄ちゃんを超えて、私はまた……

 

 

また、彼と戦うの?

 

 

『いろP、ここで兄超えなるか!総ての声援を力に変えて今──』

『待って!空が!!』

 

その躊躇は幸か不幸か。踏みとどまった己を自認さえ出来てなかった当時の私には、知る由も無い。

分かるのはその瞬間、旗と私の間に何かが落下した事。

その速度および衝突による風圧は、究極技の加速と慣性さえも押し除けて私を吹き飛ばした事。

強かに打ち付けた体と、平衡感覚を揺るがされた視界。それに耐えて見上げた砂塵の向こうに……その眼光を、見つけてしまった事。

 

「……なんで」

何故(なぜ)何故(なにゆえ)もねぇだろうよ」

 

違う。そんな事が言いたいんじゃない。

感謝してるんだ。あなたのお陰で私は変われた。あなたの善意に守られたお陰で無事で居られて、あなたの厚意で私は成長できた。

 

なのになんで、どうして。

 

「俺達ゃ敵同士なんだから。なァ?」

 

その歩みの先に、あなたが立ちはだかるの?

 

 

『リ……Re:AL!痺れを切らしたか飛び出してきた、我親玉(ラスボス)也と言わんばかりの降臨だぁぁぁっ!!』




FUSHI「やめろーっ!OYADAMAのコンセプトがー!コンセプトそのものがーっ!!」
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