酒に狂った男   作:鶏肋

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長くなり過ぎたので分割
時間を変えて投稿してるのは実験みたいなモンです。ご迷惑をおかけします


いろ、怯える

OYADAMAモードの仕様として、「親玉(ボス)のステータスは城の中にいると増強(バフ)される」という物がある。これは逆説的に城の外に出るデメリットとなり、親玉が迂闊に外を出歩き盤面を荒らす事への抑止になる筈だった。

 

具体的に言えば、ボスとしてのステータス50%減。

NPC統率能力の剝奪。

敵チームの位置情報の遮断。

 

だが。

 

「俺達ゃ敵同士なんだから、なァ?」

 

それらを以てしても、Re:ALを抑えるには足りなかったと言えるだろう。

元より自身のオートマモードによる挙動ゆえ、機動力に支障は全くない。とはいえ攻撃力などの全能力に大きなデバフを背負ってこそいるが……それでも彼はここへ来た。

 

「どした。立てよ」

 

Re:ALが1歩、踏み出す。

彩葉が1歩、後ずさる。

 

「構えろよ」

 

Re:ALの左手が短刀の柄を握る。

彩葉の、ブレードを握る両手が震える。

 

「澄ました顔ではねつけてみろよ、なァ」

「っ!!!」

 

Re:ALの口角が歪に上がり、彩葉の唇が戦慄く。

そして、前者の右手が伸ばされ────

 

去年(あの頃)みてぇに、さァ!」

「ひっ……!」

 

────後者は、その手を拒んだ。

強張った指がブレードを取り落とし、顔を覆っての防御姿勢を選ぶ。仮想世界だという事を忘れて、相手を視界から追い出す。それに何の意味もないと分かっている筈なのに。

 

否、意味はあった。その所作を目にしたRe:ALが瞠目した、その刹那。

 

「ッ」

 

銃撃。躱せば、追撃の泡弾による包囲。

それさえも難なく掻い潜ったRe:ALが見たのは、階段を仲良く登ってきた本来敵同士の2名だ。

 

「人様の妹に迫ろうたぁ、大きく出たな青二才」

「まぁまぁ帝様。オイタを叱るのはこのヤッチョにお任せあれ」

「ヤチヨ……お兄ちゃん……」

 

彩葉を追い掛けてきたのだろう帝と、帝を追い掛けてきたのだろうヤチヨ。互いを邪魔し合う筈だった彼・彼女はしかし、共通の作戦目標であるRe:ALを前に並び立っていた。

特に帝は怒り心頭だ。敵チームとはいえ大切な妹、それを脅かされた事に対する激情を瞳に湛え、だが同時に帝アキラとしてのロールプレイを決してやめはしない。それでいてしっかりと、冷静に相手を詰めにかかる。

 

「何のつもりだ?返答には気を付けろよ」

「俺は好きにした。アンタらも好きにしろ」

「気を付けろって言ったよな?……さっきの第1セットでの動きといい、お前なんかおかしいぞ」

「発狂したと思えば良い。ハッキリ言って理解されようとは全く思ってねぇ」

 

個人チャットに切り替えての詰問に、しかしRe:ALが動じる様子は無い。周囲からは無言の応酬に見えるそれは、2人の間で確かに続いていった。

 

「……じゃあ、妹を傷付けた害獣って扱いで良い訳だな?」

「ああ。申し訳ねぇが逆戻りだ、アンタは悪くねぇ」

「善悪の分別が付いてんならやめろよ」

「いーや無理だな。突き通させてもらうぜ、()()までな」

「っ……!お前、」

「ハイお2人とも。“死に間”はライバー御法度でしてよ?」

 

それを終わらせるヤチヨの声。両社が秘匿回線に興じている間に姫抱きした彩葉を避難させていた彼女は、戻るやいなや彼らの間に割って入る。その問答はここまでだ、とばかりに。

 

「いやはやしかし、だいぶ博打だねぇRe:AL。討伐されちゃうリスクは考えなかったのかな?」

「ああ、めっちゃ叱られたよ。アンタが寄こした()()()()()は実に(やかま)しかったさ」

「……で、そのお目付け役は何処(いずこ)に?」

「ここだー!」

 

ここで声がしたのはRe:ALの髪の中。頭襟(ときん)の下でモゾモゾ蠢き呻き、ようやく海牛が顔を出す。どうやら抵抗の末に髪の毛で縛り付けられていたらしい。

 

「くそぅ、この業突く張りめ!一度決めたらテコでも動きやしないっ」

「テメェが好きにやれっつったんだろが。全く困るぜダブスタはよ」

「それはっ……そうだが、いや程度ってモノが……」

「いーの。()()()()()()()()、FUSHI」

 

その言葉に次に反応したのは帝だ。ヤチヨに向けた懐疑の視線、それを受けてなお彼女は動じもない。

代わりに、一言。

 

「言い訳はしない。けど彩葉(いろ)の為……仲間としての私の想いに、嘘も偽りも無くてよ」

「……あーもう。誰も彼も一言ぐらい相談してからにしてくれって、マジで!」

「会議はもう終わりで良いよな?じゃなきゃとっとと始めちまうぞッ!!」

「おまっ!?せめて髪から解放しアブブブブッ」

 

苛立たしげに頭を掻き、金棒を構える帝。狼狽える彩葉を遠目に一瞥しつつ、静謐に傘を取り回すヤチヨ。それを迎え撃つべく気炎を放つRe:ALと、その頭襟に再び封じられるFUSHI。

 

三者三様の悲喜混交を交わし、彼らはとうとう──激突した。

 

「シィッ!」

「「!!」」

 

皮切りはやはりというか、Re:ALの短刀投擲。それを左右に分かれて避けた二者の内、彼が標的として選んだのはヤチヨの方で。

 

「なんとも熱烈な事でっ」

「そっちが望んだ事だろ?!存分に味わってくれよ、なァyachi8s「それは言わないお約束!」っ!!」

 

流石は管理者、ルールを守る側ではなく作る側というべきか、猛攻を凌ぎ切って反撃まで熟すヤチヨ。それに仰け反った怨敵を、背後から強襲するのは鬼の首魁だ。

 

「俺を忘れちゃ困るぜ、なぁオイ!」

「うざってぇな畜生!!」

 

出し惜しみ無しの究極技の連打、その一つ一つを的確にRe:ALは捌く。だが“あちら立たればこちらが立たぬ”と言うべきか、その死角を縫って奮われるはヤチヨの傘。

ツクヨミが誇る純正プレイヤーのトップ2、その苛烈な挟撃を前に、さしものRe:ALも攻勢を挫かれた。とうとう防御に転じた様子に、熱を上げるのは観客と実況だ。

 

「ぐっ……!!」

『夢の共闘です!帝アキラと月見ヤチヨ、双璧の構えで果敢にRe:ALを追い立てる!』

\いっけーヤチヨー!!/

\帝様、どうかリベンジを……!/

 

白熱していく戦況に呼応して上がるボルテージ。まるでここがクライマックス──一方で、剣戟の中にある当人達の内心に流れるのは冷や汗だった。

       みかど

((嘘だろ(でしょ)!?最強と一緒なんだぞ(ですよ)……!))

       ヤチヨ

 

純ステータス最強のヤチヨをして圧倒できない。

プレイスキル最強の帝をして隙を突けない。

HPを削れていない訳ではなく、確かにダメージを積み重ねてはいた。だが誰も致命には程遠く……どれだけ陽動や小技で流れを作っても、肝心の本腰入れた一撃は目聡く嗅ぎつけられて相殺されてしまうのだ。

 

(ヤッチョ()とはまさしく真逆。現実の肉体(依代)を持つが故の超反応という訳だねっ!)

 

電子の力に反応速度のみで対抗してくる姿、それは偏に“仮想へ侵食してきた現実”そのもの。紙に記された数式を紙ごと引きちぎるような無粋さ・強引さで、Re:ALは今の苦境を跳ね除けている。

 

(不っ味いな、俺とヤチヨちゃんのコンビは所詮即興だ!限界は近いぞ……)

 

薄氷のコンビネーションが崩壊したその瞬間、均衡は消えてなくなる。Re:ALの反撃で全てが瓦解する。力量の序列からして、真っ先に落とされるのは自分だろう。

そう帝は考えた。その時は恐らく数秒後だとも。

 

実際には、考えたその瞬間だった。

そして誤っていた。帝は健在だった。

その切っ掛けとは──

 

「当た……った?」

 

──紫煙を燻らせる、彩葉の銃口。

激闘を繰り広げる憧れの存在に、親しんだ兄に、少しでも加勢しようと。貢献したいと願った、その顕れとしての銃撃だった。それがなんと、ヤチヨと帝でさえ捉えるのに苦労したRe:ALの、その土手っ腹に突き刺さったのだ。

体勢が崩れる。その隙へ、漸く帝の渾身の一撃が入る。殴打。クリティカル。Re:ALのHPバーの2割が吹っ飛び。

 

「みっけ」

 

彼の目が彩葉を捉えた。

 

「ぁ……!」

「彩葉──!!」

 

後隙で硬直状態の帝を蹴り飛ばし、その反動で一直線に接近するRe:AL。対し、彩葉はその瞳に立ち竦んで動けない。

帝の叫びも虚しく、大太刀の切先が彼女の首を捉える……寸前で。

 

 

「良くないなぁ、そういうのは」

 

甲高い金属音。それは彩葉を包んだ薄膜が、らしくも無い硬さで大太刀を阻んだ事による物。

その方向へ傘を向けた下手人(ヤチヨ)は嘯く。

 

「いやいや、存じてはいるのですよ?ヤッチョにそんな事を宣う権利など無いと、そも私が仕組んだ物語(ちゃばんげき)だろうと」

「ヤチヨ……?」

「全部私。悪いのはリアルじゃなくて私だけ、うん、分かってる。でもね」

 

前半までは、自分に言い聞かせる意味合いもあったのだろう。いくらか落ち着いた声音で始まったその言の葉はしかし、後半へ差し掛かるにつれて徐々に熱を帯びる。

それは怒り。50℃を超えたたんぱく質が変性するような、不可逆なる激情の色。

 

「怯える彩葉(おんなのこ)を目の前で狙われたとなっちゃ、ねぇ?」

「「「!!!???」」」

 

刹那、蒼が世界を照らした。ヤチヨが指を鳴らしたその時、彼女を取り巻いた無数のシステムメッセージの瞬きである。

目まぐるしく映ろう文字列はC言語を交え、素人目にはまるで解読不能。だが幸か不幸か、大衆に専門家が紛れていた。

 

『え、チート?ヤチヨがチート?!!』

『いえコレは……デバッグモードです!!文字通りヤチヨの全力全開だぁ、二度と拝めるか分からないぞッ!!!』

 

一層沸き立つ観客達、だがその何割が事態を把握しているのやら。そしてそんなの知らないとばかりに、ヤチヨは一瞬でRe:ALとの距離を詰める。

 

閃。

 

爆。

 

「ガッ……!?」

 

Re:ALでも反応が間に合わない速度。Re:ALでも相殺し切れない威力。

それにて彼を遠く離れた岩盤へ叩きつけたヤチヨは、尻餅を突いた彩葉へ「ごめんね」とだけ告げて再度駆け出した。その格好良さに惚れ直すやら、恐怖の余韻でそれどころではないやらで、彩葉は立ち上がるのも儘ならない。

そんな彼女の手を取り、掻っ攫う影。虎バイクに跨った帝だ。

 

「お兄ちゃん!?何やってんの、ヤチヨを援護しないとっ」

「デバッグヤチヨの強さ知らねぇだろ!離れんのが一番の助けなんだよ、ホラ行くぞ!!」

 

理屈は分かっても感情はそうはいかない。抱きかかえられながら手を伸ばした地平線に、そこに立ち昇る黒煙に、彩葉は手を伸ばし続ける。

ヤチヨを置き去る事への忌避感と、Re:ALの相手になれなかった悔しさを、その胸に秘めて。

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