酒に狂った男   作:鶏肋

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酒寄彩葉、

速報。

目が爆発した。

 

「どわーっ!!」

「ゲンちゃーん?!?」

 

2セット目終了直後、やけにスマコン(あち)ーなと思ってたらこの始末。

うん、つまり厳密には目じゃなくてスマコンの爆発って事な。俺じゃなかったら失明してたぞyachi8000。

とりま予備予備。なんか妙に定期的に新型送ってくるなぁとは思ってたが、こういう事態を予測してたのか?してたんだろうなぁ。

 

「と、とりあえず明日にでも眼科行こうね。念の為ね」

「心配性だな全く」

「いやだって、目だよ!?」

 

本当なら今すぐ病院だよ!とプンスカする真実の合いらしさに癒されるやら救われるやら。酒寄への仕打ちで見捨てられるかビクビクしてたんだぜ俺は。

 

……辛い役目やらせて、本当にごめん。

 

「ううん。大丈夫」

「改めて嫌になったらすぐ言えよ」

「だーかーら、大丈夫だってば」

「俺なんか切り捨てて、すぐ酒寄達と「殴るよ?」えっ」

 

えっ。

一転して真顔。その緩急とドスの効いた声音に心臓が跳ねた。

真実は手を掲げている。グーではなくパー、ビンタの構えで。

 

「私を巻き込むって決めたんでしょ?予め2人で約束したでしょ?それを今になって覆すなんて情けないこと、次言い出したら本当に嫌いになるから」

「──真実」

「だから絶対やめて。私を、ゲンちゃんを見捨てた薄情者なんかにしないで」

 

……俺は殴られたところで痛くはない。痛いのは真実の手の方だ。恐らくは心も。

それを信じ切れなった。ああクソ、俺ってば本当に……情けねぇ。

 

「……ああ。二度と言わねぇ」

「なら良し。今度は一緒に堕ちたげるから覚悟してね」

 

実の事を言えば、ここまで言われても尚、いざ地獄に堕ちるその瞬間まで俺は真実を逃がそうとするだろう。それは逆も言えて、真実もまた俺と道を共にしようとするんだろう。

問題は俺がそれを信じられるかどうかだ。もうコイツの善意と誠意を疑うなんて択なんて俺には許されないし、あったとしてもう選ばない。今そう決めた。

 

「…………」

(それはそれとして、辛いのも間違いないんだろうが)

 

強がりやがって。怖がる酒寄(いろ)を見る度、観客席で綾紬から問われる度、俺の手を握る指先が強張ってたの知ってんだぞ。何が“大丈夫”、だ。

 

だから今度は、俺の方がその言葉を言ってやらなきゃいけない。友情との板挟みに苦しむ真実へ、その道へ引き摺り込んだ俺こそが。

 

「大丈夫」

「へ……?」

「酒寄は大丈夫だ」

 

追い詰めてる俺がどの口で、って話だが。けどこの程度で終わるヤツじゃないのを、誰より知ってるのもまた俺だから。

 

「アイツが俺に何連勝してると思ってる」

 

その壁の厚さも、高さも、強さも。

一番ぶつかっては砕け散って来た、俺だからこそ。

 

 


 

 

 

『で。ここからどうするか、だが』

 

待機時間。通信を繋いできたお兄ちゃんが、宙に浮かんだスクリーンの中で口を開く。なんでも「流石にアレ相手これ以上の無策はねーわ」との事で、私達と色々情報共有したいらしい。

このままでは3戦連続DRAWでRe:ALの一人勝ち。それを避ける為にも、互いの動きをある程度示し合おうと。

 

でも、お兄ちゃんにとってあまりにも大きな誤算が、この時点で既に生じていた。

 

『……ヤチヨちゃん、どこ?』

「BAN」

『はぃ?』

「デバッグモードの不適切使用でシステムに一時BANされちゃったんだって」

 

ヤチヨはもう、いない。私の救世主はもう。

かぐやから告げられたその事実に、お兄ちゃんと雷は口をアングリと開けて呆気。唯一乃依だけが大笑いだ。

 

『運営がBANとか竹生えるwww』

『いや笑い事じゃないぞ!彼女無しでどう勝つんだ、というかヤチヨのデバッグがアウトなのにそれを退けたRe:ALのバグ挙動はOKって基準おかしいだろうっ!?』

『うぅ〜〜〜ん……どうしたモンかなコレ……』

 

どうしたもこうしたも無い。私達に為す術なんてある筈も無く、私達は蹂躙されるだけだろう。

だって、勝てる訳が無い。石実ほどの男が全力で潰しに来るなんて。それも戦闘という得意分野でだ。

 

(私が勝てたのは、私の得意分野で彼が挑んできたからに過ぎない)

 

元より筋トレも碌にしてない常人と、素でビルとビルの間を飛び回る超人。仮想空間といえど、そのパワー差が現実準拠なら実力差も同じだろう。どこに勝てる道理があるというのか。

 

「……ごめんね、お兄ちゃん」

「え?」

「ごめんなさい、駒沢雷さん、駒沢乃依さん」

「いろちゃん?何を……」

「ごめん。かぐや」

「……リアルの事?」

 

こうなってしまったのは私の責任だ。彼の復讐に皆を巻き込んでしまった。その矛先は私だけであるべきだったのに。

あんなに一方的にやられてしまったんだ、せっかく築き上げた黒鬼の名声が落ちるかも知れない。あんな形相の石実と対面し続ければ、かぐやの心に良くない爪痕が刻まれてしまうかも知れない。そのデメリットもリスクも懸念も全部、私の所為でしかないから。

 

そう言って頭を下げようとした、その時。

 

『彩葉は悪くないよ〜♪』

 

ヤチヨの、声。

 

「……ヤチヨ!?」

「戻って来れたの?」

『いや〜、コメぬか喜びさせて悪いけど声だけだね。この試合の参加はもう無理かなぁ』

「なーんだ、でも元気そうで良かったっ」

『──うん、まぁ元気。多分そう部分的にそう』

『アキネーターはもう10年前だよヤチヨちゃん』

『ガビーン!ヤッチョ、ショック!!』

 

変わらないその声音に心が安らいだ。現状は何一つ変わらずとも、その声があるだけでも全然違う。

息を吐く私に微笑みかけてから、ヤチヨは再び口を開いた。ドン詰まったこの盤面に、一筋の光明を齎すべく。

 

『ハッキリ言いましょう。戦力差歴然・敗色濃厚。だいぶキビシイを超えた厳しい状況ですが……勝ち筋はあります』

『……!ぜひ聞かせてもらおうか、最強AIライバーの分析を』

「でもそのヤチヨの最強フォームも負けちゃったじゃん。映像見たけどあのすんごい自爆?を連発されたら戦うどころじゃないよ」

『ぐぬぬ。痛い所を突いて来ますが、順を追って説明しましょうか。まずあの波動攻撃ですが、Re:AL本人にとっても想定外の“誤爆”に近い物でした。明らかに彼自身にとっても慮外の力であり、次のセットで使用してくる可能性は限りなく低いでしょう』

『その根拠は?──と聞きたいところだけど、ヤチヨがそう言うならそうなんだろうね』

『……まぁ、使用されても対応出来なくもない方が、居るには居るのですが』

 

そこで私に一瞬だけ視線。その意図に気付くより早く、議題は次へ移行していった。

 

『というワケで、Re:ALの実力は0.5ヤチヨって具合かなぁ。城の外で全員で囲めばなんとかなるよ、ガンバ!』

『いやいやいやいや、ヤチヨ50%が2倍バフ掛かってるのを城から引き摺りだす労力がだな』

 

雷の懸念は尤も。城の外で50%なら城内では100%、つまりデバッグヤチヨとそのまま敵対するに等しい。そんな存在、ただ棒立ちしてるのを押し出すだけでも二人分くらいのHPが費やしたっておかしくなかった。

 

でもそうはならない。

怖いけど……その為の私、なんでしょ?

 

「私が囮になるよ」

彩葉(いろ)が?』

 

Re:ALの目的は私。それを利用すれば良い。私が城の外でまごついてれば彼は自然と出てくる、なんなら開幕から飛び出して来たって何もおかしくない。

全員で待ち受けて、私がやられてる内に囲んで叩く。卑怯だ何だと謗られようと、それ以外に方法などあるだろうか。

 

(それに……私が身を差し出せば、溜飲も下がるかな。なんて)

 

石実(おれ)(おまえ)を制する”と彼は言った。この因縁を終わらせる手段として。覚悟も無く奪った私への報復として。

 

なら、大人しく受け入れれば。組み伏せられて、貪られれば。

私は彼に、許してもらえるのだろうか。

 

『お前……』

 

意図を察したのだろうお兄ちゃんから、異論を孕んだ呼びかけ。それに対して反論するべく、私もまた口を開こうとした。

 

『囮なんて生温い』

 

けどそれより早く、(ヤチヨ)の一声。

続く言葉は、私にとって驚愕に値する物だった。

 

『彩葉。貴女はRe:ALに勝てるんだよ?』

「……へ?」

『ね、帝様』

 

困惑の坩堝に突き落とされた私本人を差し置いて、次に話を振られたお兄ちゃんも……数拍置いてから、まさかの首肯。いやいやいや、何言ってんの2人とも!?

 

『ああ。この中で彩葉が一番可能性持ってるのは間違いないな』

「待って!なんでそこで私!?」

『アイツはいつも真っ先にお前を狙ってたからだ』

 

思わず呼び止めるけれど、返された鋭い視線と指摘に唾を吞む。いやでも……それは私が石実に恨まれてるからであって……!

 

「最初の強襲もお前の居た所だった。俺とヤチヨに翻弄されてる時だってそうだ。アイツはお前を捉え次第、自分のダメージを無視してまでお前を狙った」

「だからそれは……!」

『お前を警戒してるからだよ』

 

……石実が。私を、警戒?

 

『一番怖い奴を優先的に落とす。ゲームじゃ定石だ』

「あー。好きな物は最後まで取っとく、の逆ver.みたいな?」

『そういうことだぜ、かぐやちゃん。アイツにとって彩葉は、真っ先に落として安心しておきたい程の障害なんだよ──なぁ気付いてたか?』

「何が?」

『さっきのセットでやられた、あの広範囲無差別即死斬撃。()()()()()()()()()()()()()んだぞ』

「!!!」

 

嘘だ。そりゃ私はかぐやの分まで引き受けたんだから多少は多くなったかもしれないけど、でも私は生き残れたんだよ?

もしそうだったら、私より先に脱落した黒鬼は何だったのってなっちゃう。お兄ちゃん達が私より下手な筈が無いのに。

 

『そんだけお前は凄いって事だ。俺達も、お前自身も気付かなかったくらいにな』

『俺とか開始1秒で落ちたしね~。波動はともかくアレは素でしょ?また飛んでくるって考えたら、そりゃもう彩葉(いろ)ちゃんに全賭けするしか無いや』

 

乃依まで賛同し、雷も頷きで意思表示。もう多数決では完全に負け、退路は失われてしまった。

私に出来ると?あの石実に、Re:ALに、ゲームとはいえ戦闘で勝てると?お兄ちゃんは、ヤチヨは本当にそう思ってるの?

怖いよ。何が“警戒されてる”よ、怖がってるのは私の方なのよ。分かんないよ、私の何がアイツに刺さるのかなんて……!!

 

「……彩葉」

「かぐやだって知ってるでしょ!?なんか言ってよッ」

「彩葉っ」

 

この場で、私以外で石実をよく知ってるのはかぐやだけだ。その力強さも頼もしさも、それを相手にした時の恐怖だって想像つく筈。

そうして縋り付いた掌に、彼女は自分の手を優しく重ねてくれて──でも、掛けられた言葉は欲しい物ではなかった。

 

「思い出して。リアルはなんて言ってたか」

「……私が制されれば、終わる、って」

「それだけじゃないでしょ?」

 

そこで息を吸い、かぐやは告げた。

 

「“お前が俺を屈服させるか”だ、って!!」

「──ぁ……」

 

言われてやっと思い出した。それまで記憶から、無意識に追い出してしまっていた択。

出来ないって、選べないって、最初から諦めていた。そんな別ルート。

 

「リアルが彩葉を怖がってるのかどうかなんて、かぐやはぜーんぜん知らないっ。でもね、彩葉の強さをリアルが信じてるのは間違いないかな」

「アイツが、私を?」

「だってそうじゃん!ずっとぶつかり合って来たんだもんっ」

 

それにね、と彼女はさらに畳みかける。彼女から見た私と石実(Re:AL)の繋がりを。

 

「攻撃を終えて話しかけて来た時のRe:AL、めっちゃ楽しそうだったんだよ?彩葉と戦えるの、本当に嬉しかったみたいにさ」

「……」

「2人がギクシャクしてたのは知ってる。お互いに腫物を触るみたいだったのも覚えてる。でも──

 

──リアルと触れ合った思い出って、彩葉にとっても辛いだけだったの?」

 

Re:ALにとって。石実にとって、私と競った日々が苦でなかったというのなら……じゃあわたしはどうなのかと、かぐやは問う。

 

私は。

 

酒寄彩葉は。

 

私と、アイツは。

 

“いろ”と“Re:AL”は 

 

酒寄彩葉と、石実現は────?

 

 

1分は経っただろうか、少なくとも数秒程度ではない、それだけ周りの人を待たせて。

私はようやく、重い口を開いた。

 

 

「……()()時間を、ちょうだい」

『『『「!!!!」』』』

「アイツの動きをもっと観察しなきゃ。何をしてるのか、どう動いてるのかをもっと知って……それで漸く、スタートラインだから」

 

これが私の最善。アイツと対峙する上での最低条件。それを達成する負担を背負うだけでも不利なのに、でもお兄ちゃんは快哉と共に引き受けてくれる。

 

『ああ、それでこそ我が妹だ!やるぞオラァ!!』

『今度こそ宴もたけなわ。気合いを入れるとしよう……!』

『あーあー貧乏くじだ。これは後でRe:ALから取り立てないとねぇ』

「ダイジョーブ☆だって彩葉がやれるって言ったんならやれるもん、エイエイオ~!!」

 

更にかぐやまで加わっての勝鬨まで上げ出した。今からそんなんでどうするのか、私は気の重さでノリ切れない。

そんな私へ、画面内のヤチヨからエール。

 

「心配しないで。彩葉ならきっとできるもの」

「……どうかな。私は今もヤチヨに助けて欲しいくらいだよ」

「ヤッチョなんて不要不要!だって彩葉の周りには、彩葉を信じてくれる人が沢山いるじゃない♪」

 

そう言って指差すのはもちろんかぐやとお兄ちゃん達、だけではない。虚空──けれど私には分かった。

観客席にいる芦花と真実。そして、城で私を待っている────

 

「自分を信じて、彩葉。貴女が信じる貴女を……貴方の愛する皆が信じた、酒寄彩葉をさっ!」

「────!!!」

 

推しにここまで言わせておいて、臆していては全てが廃る。私の名も、矜持も、血も。

そう奮い立って、皆へ駆け寄っていく私の背中を、ヤチヨは満面の笑みで送り出してくれたのだった。

 

 


 

 

『泣いても笑っても泣く子も黙る最終セット!開始ですっ!』

 

事態はこれ以上なくスムーズに推移した。

 

『ヤチヨを欠いたかぐや・いろPチームはONLY(二人一組)。黒鬼チームは2WAYでそれぞれ砦を目指すっ』

『このままだとトップレーンを駒沢兄弟が、ボトムレーンをかぐや・いろPが占拠しますね。ミドルレーンの帝は置いておくとして……Re:ALの動きは』

『ありませんっ。いつ城を飛び出してもおかしくありませんが、果たして……』

 

実況通り、それぞれの砦を各チームが占拠。親玉が静観している間に、残る一つの旗を帝が──折らない。

 

『……アキラ?』

『!!』

 

気付いたのはオタ公。上下のレーンから中央に向け、両チームが一直線に向かっていたのだ。

先に到着したのは──高速ライドを要するかぐや・いろPチーム。ロケットハンマーに跨ったかぐやが先んじ、旗へとまっしぐら。

それを見上げてからようやく、旗の前で待機していた帝が棍棒を掲げる。タイミングを計るように足踏みして……()()に、一閃。

 

旗が折れ、代わりに風に揺らめいたのは両チームの旗だった。

優先権無し。お互いに、同時に親玉へ挑むサドンデスという事。

 

『こ、これは!いや予想はしていた!だがそれでも、いざ目にすれば“まさか”という他無い展開!』

『分かっていても熱いですよこれはぁ……!』

『かぐいろ・黒鬼!5人全員がチームアップで、親玉Re:ALへ挑戦だァーッ!!!』

 

予想通りながらも、想定を超えた共同戦線。それに沸き立つ歓声を背に、彼ら彼女らが見上げるは桐の向こうに姿を現した天守閣。

その頂上に立つ彼は、待ち人の到来に笑う。

 

「──そうこなくっちゃ、な」

 

言って飛び降りれば、彼を後押すバフはその殆どが失われる。だが今更厭う彼でもなく。

そんなRe:ALへ向けて、真っ先に剣を向けたのは帝だった。

 

「ここが天下分け目の天王山だ──勝つぞ!!」

「……っ、うん!」

「よっしゃーやるぞー!!!」

 

これが最終決戦。

兄の背と相棒の元気に背を押され、酒寄彩葉は仇敵へと駆ける。

投稿時間を行ったり来たりしましたが、どの時間が読み易かったですか

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