酒に狂った男 作:鶏肋
ところでですけど、
濛々と立ち込める煙。
視野を阻むそれは、接敵と同時に雷が張った物だ。機動力があっても行く先を見据えられなければ意味は無い、っつー判断なんだろうな。実際その所為でどこへ位置取るか、どの相手を先に片付けるかを決めかねていたのが今の俺だった。
ま、こういう場合は仕掛けてきた奴から順々に、だ。そぅれ言ってる間に飛んできた鰻ロケラン。かぐガキが。
(雑把だぜ狙いが)
上体を逸らして躱す。4発全弾、典型的な考え無しのブッパ。本当にお前らしいよ。
「──
「狙撃は無理かぁ!」
「気付かれちゃった!ごめーん!!」
弾頭の陰に隠れる矢も含めてお見通しなんだよこっちは。考え無しは素、それはそれとしてそんな自分の気性を囮に出来る計算高さも素!その即興に併せられる乃依とのコンビは、まぁ俺じゃなかったら今ので死んでたろうな!俺じゃなかったらな!!
「お兄ちゃん、カバー!雷さんっ!」
「「応!!」」
矢を弾いて距離を詰めた瞬間、響くは酒寄の号令。それに従い、帝が横合いから殴りつけてくる。
邪魔しに来るのは分かり切ってたし、即座にターゲット変更。迫り来る奴の進行方向に大太刀の切っ先を置いてカウンター……しようとした瞬間、強烈な危機感が脊髄を刺した。
「ッ!!!」
飛び退いた瞬間に爆裂する地面。地雷かよ、煙幕に隠れて敷いて……おいマジか!?
「喰らっとけェ!」
「チッ」
爆風に載って追撃を仕掛けてきやがった!んな強引な手段で俺の速度に追い付いてくるかよ、流石はプロゲーマー。引き出しの多さは見上げたモンだな!!
「で、
「!!」
結局のところ、爆風を足場にしたところで移動速度は盛れても攻撃速度は上がらねぇ。振るわれた金棒を歯で受け止めてやれば、帝の片手は封じれる。一方で俺の両手はフリー。
つーワケで短刀の方は帝の胴体に……もう片方はお前だ、殴り掛かってきたかぐガキ!
「ヴぇ!?見えてたの!??」
大太刀にハンマーを受け止められて狼狽する声。残念だったなぁ、左から攻めりゃまだ目はあっただろうに。大太刀を持った右手ならともかく、左手の短刀じゃハンマーみたいな高火力殴打は防ぎきれないから──まぁその時はその時で躱すだけだが。
で。後はお前だ、酒寄。
ワイヤー飛ばしてんだろ?それもしっかり見えてんだよ。
予め地面に刺しておいたブレードと、手に持ってるブレード。その間に張りつめたワイヤーは、既に俺の右足首に絡みついてる。地雷から飛び退いた時に。
見えてんだよ。狙いなんかとっくの昔に。
見えてた上で──避け切れなかったんだよ、糞!
「合わせて!」
「任せろォ!!」
ワイヤーが巻き取られ、聴力が急激に上昇。宙に浮いてた俺は抗う事も出来ず──いや
そこへ、心臓部に突き立てられた短刀を引き抜いた帝が畳みかけてくる。溜めに溜めたゲージをふんだんに注ぎ込んだ
揺れる視界、吹き飛ぶポリゴン片。なんとか首を捻って最小限の被ダメに留めたものの……もう分かってる。さっきの
「はいお座り!」
「乃依、雷ッ」
「みなまで言うな!!」
地面を撥ねる体へ的確な鈍足狙撃を喰らえば、どれだけ現実離れした挙動を出来ようが意味は無ぇ。乱暴に扱われた人形みたいにもんどりうって着地した刹那、その先の地面が更に光る。
拘束罠。四肢を縛り付けられた時にはもう遅く、迫る帝の金棒と刀は尚も必殺に輝いていた。
打。斬。その嵐が始まる。
攻めて全身をこわばらせ、辛うじての防御姿勢。出来る限り欠損は避けたい……というこちらの意図を向こうも読んでいるんだろう、的確に脆い端部や急所を狙われた。
『帝アキラ乱舞!奇跡の共闘でRe:ALを追い詰める、仕留め切れるか!?』
好き勝手やってる所為で外野にも味方は皆無。いたところで何だという話だが。というか外に意識向けてる時点で現実逃避してんな俺。今見るべきは目の前の相手だろ。
「────!!!」
声無き咆哮を上げて連撃を打ち込んでくる帝の目は俺を捕捉して離さない。激情はあっても、それを御する冷静さで的確に嫌な所を突いてくる。
ああ、糞。良いな。この世にはキレると冷静になる人間と冷静を失う人間の2種類が存在する。俺は後者でアンタは前者か。
カッケェな。羨ましいな。認めたかないけど、大人の男ってヤツはさ。
……拘束切れた。今。
「お兄ちゃんっ!!」
「チィ!」
反撃の拳は空振り。飛び退いた帝を無理には追わず、自由を取り戻した足で近場の壁を駆け上る。それを取り囲んだ御一行と、十数秒ぶりの膠着状態と相なった。
(削られたな)
ボロボロにされた手足を見下ろし、また欠けて一時的に視野の歪んだ眼球に触れて思う。
(……っつーか、
逐一先読みされてた感じがする。回避方向、攻撃タイミング、意識を向けてる方向……ゲーマーの勘とかじゃない。
お前か。酒寄。
「……!」
「私が守るっ」
視線を向ければ、その反応からもう分かった。まぁ戦闘中の掛け声聞いてればアホでも分かるか。
いつの間に俺の行動パターンを分析してたのやら。俺がアイツの前で本気を見せた機会なんて数える程し
か無い……どころかこの試合が初めてだ。まさか第1セットの映像と第2セットでの目視だけで?
だとしたら……ああ、笑うしか無ぇ。何ビビる
「悉く、俺のやる事なす事ぜんぶ陳腐にしやがんなぁ」
「ねーぇ~、Re:ALー!」
「あ?」
感慨に耽る俺を呼び止める声は、乃依からの物だった。
「なんで本気出さないの~?舐めプしてる~?」
「小手調べでそっちの出方を見ただけだ。至極真剣だぞ」
「じゃあ全部の砦を落とされるまで動かなかったのは~?」
「んー、それなぁ」
この問答が時間稼ぎなのは丸わかり。こうして話してる間にも、唯一俺の背面に陣取った駒沢雷が、仕込み役として面目躍如してるんだろう。だが俺としても欠損部位の再構成に時間を要していたので相乗りさせてもらう。
んで、あのタイミングで第2セットの時みたいに乱入しなかった理由ねぇ。強いて言えば“無い”というか……説明し難いっつーか、なんというか。
ええい、どうせ理解なんざされやしねぇんだ。ここはしっかり“役”を突き通せ。
「だって、
「……うん。もう良いよ、何も言わなくて」
俺のヒールムーヴに乗っかったのかそれとも素か、急に表情を消した乃依。その変化に少々ギョッとしたその刹那ん、事態は動いた。
帝の姿が消えた。
「ワープか!!!」
「遅ぇよ!」
「自覚してて何より!!」
これも雷の罠というかサポートスキルか何かだろう、横合いから殴り掛かってくる鬼の首領。その金棒を受け止めて鍔迫り合い。
勝てないのは重々承知なんだろう、俺が本腰入れる前にすぐさま……
「跳んでッ!」
退きやがる。妹の言う事は全てに優先されるらしい、徹底してて何よりだ。
ああ、糞。この一連の流れで糞って言ったの何回目かな。
(やるなぁ酒寄)
アイツの指示が飛ぶ度、俺の一挙一動がスカされるんだ。それが傍から見ててどれほど滑稽か、俺自身は想像するより他はない。
つまりこの状況を良い様に解釈すれば、酒寄の頭脳vs俺の思考ってワケだな。ああそうだよ、それが楽しくて仕方ねぇ。それに満足を覚え始めてる俺自身が糞だって言いてぇんだ。
「今!!」
そんな天敵の指示がまたも飛ぶ。爆発。俺達が足場としてる建物の土台部分、雷の仕込みか。
だが不発かそれとも威力不足か、爆発は建物をやや傾かせるだけに終わる。ンだよ拍子抜けだな、このままじゃフリーになるぞ俺。もっと死に物狂いで……いや待て。
(この安堵こそが狙いだとすれば?)
今俺が意識を割いてない物、もしくは取り払った物。ソイツが仕掛ける為の陽動だとすれば。
(帝はたった今俺に蹴り飛ばされた。雷がカバーに来てるから要注意。乃依の矢は見てから対処可能。酒寄の銃撃が目下一番面倒だが構えてる様子は無い、かぐやは明後日の方向に走ってるから無視するとして──ん?明後日?)
この状況で無意味な事をするリソースは相手には無い。なら必然、その挙動には必ず意味がある。
かぐやが槌を振りかぶった、その先には──あぁしまった、最初から最後まで足場狙いって読みで良かったのかよ!?
「かぐやっ、ほーい!!!」
大振りの一撃が、今度こそ建物の土台を砕く。崩落仕掛けの壁は衝撃を容易く通し、屋根の上の俺を巻き込んで爆砕した。
瓦礫が強かに肌を打つ。帝と雷は……しっかり事前に避けてやがるな、野郎!!
「「「ここだッッッ!!!」」」
落下する俺に回避手段など無い。そう踏んで再び攻勢を仕掛けようとする黒鬼メンツの影の向こうに……俺はそれでも、酒寄を見つめていた。どれだけ徒党を組まれても、それで追い詰められても、やっぱりアイツ以外を真に意に介せそうも無くて。
(なぁ、酒寄)
……嬉しかったんだぜ。お前に憧れられてた、なんて知った時は。
それがどれ程俺にとって大きい事か、お前自身には分からな……いや分かるか、真逆方向に。お前は俺に憧れられるの、辛かったんだもんな。
俺は結局、お前に何一つ寄与しなかった。お前にとっての“害”でしか在れないって、そう気付くのが本当に遅くなった。
お前を普通の女の子にするだなんて息巻いて、一方的に思い込んで。お前は、お前が、勝手にお前のやり方で幸せになれるだろうに。俺なんか最初から要らなかっただろうに。
でも、出会っちまったんだ。俺達は互いに焦がれちまったんだ、
つーか何だ?お前、俺が誰の助けも借りずに1人で生きてるって、それ本気で言ってんの?そう見えてたとかマジ?
(ンな訳あるか。俺ほど甘え倒した甘ったれなんかそうはいねぇぞ)
孤高を気取るのは、他者と繋がり合うのが怖ぇからだ。
失礼な態度を取るのは、依存を自覚してる裏返しだ。
そんな大人になれない情緒小坊男児からお前が学び取る事なんて何一つ無い。結局のところ、俺の存在はお前のデメリットにこそなれどメリットにはなり得なかったんだよ。
(そんな事、言わないでよ)
まぁ最後まで聞けって。そんな俺らでも、こうして出会っちまった。例えそれがお前にとって不幸でも、俺にとっては幸運な、そんな縁が既に繋がれちまった訳だ。マジでそっちが被害者でしか無くて同情するね。
そして俺は、お前という高みを知った以上、もう止まれない。
そこへ至る道を、超える為の道を、砕け散るまで進むしか無ぇんだわ。悪いな。
(……じゃあ、それも同じだ。あなたって壁を知った今、私も止まれない)
(莫迦いってんじゃねぇぞ上位互換)
それでも強情張るってんなら、もう仕方ねぇ。交わらない隣り合う道を、片方が折れるまで貫くしか無い。
けどどうせ折れるまでやるんなら……楽しまなきゃ損、だよな?
(何をする気?!)
何をも何も。こんな間接的なぶつかり合いで、満たされる訳もあるまいに。
ああいや、楽しいぞ?こういう鬩ぎ合いも存分に良いが──
(ヤチヨを突破した時の、底抜けの浮遊感は今も俺の内にある)
誰に対するものかも分からない独白を終えて、見つめるは己の中。あの時から持続してる
そうして、自分の“形”を認識しろ。次は己に触れるものの輪郭を捉えろ。
捉えさえすればどうとでもなる。そんな直感を頼りに、俺は己を識り、そして──
──肌を撫でるツクヨミの風を認めた。
(へぇ?)
初めて知ったよ。現実でもそうなのか?それとも仮想空間限定か?
(“面”って、空気にもあるんだな)
「「彩葉ー!!!!」」
──石実の心が読める。
いや、テレパシーとかそんなんじゃない。多分。ただ表情や所作の機微から、無意識にその情動を脳内で再現してるだけだろう。きっと。
それを利用して、作戦通りに観察しつつ要所要所で警戒喚起した。その甲斐あって、かぐやもお兄ちゃん達も今まで大きな損耗を負わずに済んでいる。
このままならいけるって、そう思ってしまった。途中から彼の想いを受け取ってしまえたからこそ猶更、その先に光明はあるのだと。
今コレが私の全力だと。それを叩きつける事がベストで、彼もまたそれを望んでるんだ、って。
「ぅ……ッ!!」
迫る大太刀。我武者羅に振るったブレードを何とか合わせ、けど伝わってきた衝撃に五体を跳ね飛ばされる。何度も地面を跳ね、天守の石垣にぶつかる事でようやく止まった。
(何、今の!?)
分からない。分からない事は怖い。だから理解しなければいけない。
ただでさえ半端な私は足りない物ばかりだ。それを補う為に、私の持ち得ない何かをずっと求め続けてきた。
けど。
この力を。
「そぅらどうしたァッ!!?」
「さっせっるっもんかぁぁああ!!」
石実を突き動かす、その
臆病さに竦んだ私への追撃。追い付いてきたかぐやが止めに来る。その槌をRe:ALは、またも空中で急にその軌道を直角に曲げて回避した。
何だそれは。今までのRe:ALの空中機動は高速ライドの羽を使ってのもの、けど今彼は翼なんて1ミリも動かしてない。寧ろ邪魔そうに限界まで折り畳んでる。
分からない。
「何今の!教えて!?」
「体で覚える他無ぇよ。やってみっか」
「それは御免だよ!──彩葉、立てる?」
「っ……うん」
そうしてまた、かぐやに守られてる。私がかぐやを守るぐらいのつもりでいなきゃいけないのに、何をやってるんだ私は。
立つのにまごついてる間にも、お兄ちゃん達も追い付いて戦況が動いていった。
「虎バイクを出せ!じゃないと追い付けない!!」
「小回りを捨てるの!?」
「他に手が無いだろう……!」
軽やかに2段、3段とジャンプを繰り出して翻弄してくるRe:ALに、お兄ちゃん達は必死に喰らい付く。けど今度こそ限界は近く、いずれ拒絶できない敗北を突き付けられるのは火を見るより明らかだ。
それが分かっているから、かぐやも助勢の為にスタートダッシュの態勢を整えている。その寸前、彼女が私に一言掛けようとしたタイミングで、私もまた口を開いた。
「私も行く」
「え?」
「じゃなきゃもう無理だよ」
私の限界はもう見えた。Re:ALを観察するだけして、1人だけ休んでる訳にはいかないでしょ?
「でも……二段ジャンプとかは見たばっかりでしょ?」
「それももう分かったよ。あんなの分かんないって事だけは」
「分かってないじゃん!」
そんなこと言われても、既に猶予なんて無いじゃん。ここで動かなかったら、私はただの木偶の坊だよ。
もう分かんないんだよ、アイツの事なんて何も。私に何が出来るっていうの……!
「出来るよ。彩葉なら」
「何を──!」
「だってその事を、彩葉自身が満足してないもん!!」
吐き出した苛立ちの言葉。けれどそれを押し返すかぐやの言葉に、私は思わず目を見開いていた。
「出来ないのにイライラするの、すっごい分かる。でもそれって、
「……私が、私に、出来ると思ってるって、事?」
「うん」
そんな事を言われても……と返すだけなら容易だった。でも言えない。
腑に落ちるこの感触が、彼女の言葉を肯定してしまっていたから。
「大丈夫。彩葉がそう思えるまで、かぐや達は絶対持ち堪えるよ」
「かぐや、」
「だからまぁ……早めにお願いねッ!!」
「かぐや!」
言って突貫。私の伸ばした手を敢えて振り払い、彼女は征く。いってしまう。
気安く言わないでよ。私はまだお母さんじゃない。お母さんみたいにはなれてない。石実の強さを理解し切れないのだってきっとそれが原因だ。そんな私が、私を出来る奴だと思ってるなんて、とんだ自意識過剰じゃんか。
そう考えながらも、瞳は再びRe:ALの動きを追う。その一挙手一投足を、かぐやの突撃をいなしてお兄ちゃん達の攻撃を跳ね返す八面六臂の在り様をこれでもかと。その凄まじさに、底を突いた自信の跡地を更に削られながら、動きを私に当て嵌めて。
ダメ。空中に逃がさないで。足場を兎に角安定させないで、アイツから踏み込みの余地を奪わなきゃ。
お兄ちゃん。雷さん。乃依さん。かぐや。頑張って。
私、諦めたいけど。
石実。
私、あなたを、諦められないから。
「邪魔だァッ!!!」
そしてとうとう来てしまった。ずっと追い掛けてきた敗色に、追い付かれるその時が。
Re:ALの身が引き絞られる。アレは……第2セットの時と同じ!
「かぐや!お兄ちゃん!来るッ!!」
「っ、ああ!!!」
「うぇっ、マジ?!」
対策なんて無い。出されれば終わり。唯一あるとすれば……今度こそ私が前に出て、皆を守る事ぐらいだ。
位置的に庇えるのはお兄ちゃんとかぐやだけ。足の震えを無視して駆け出し、2人とRe:ALの間に割って入った。相対した彼の口角が、私を目にしたその瞬間、歯を剥き出しにして三日月を
来る。メインな狙いはやっぱり私。私を攻撃するのがそんなに楽しいのか。私と対峙できるのがそんなに嬉しいのか。
じゃあ、私だけを狙ってくれるかな。そうすれば雷さんと乃依さんに向かう分も減って生き残れるかな。私1人との交換なら、それも良いか、と。
「────え」
自己犠牲に酔う事で恐怖を誤魔化していた、その時。
襟首。捕まれ、引っ張られる。
「お兄ちゃん!」
「忘れんな、兄は俺だ!」
俺にこそ庇わせろ、と。私を投げ飛ばした手を光り輝かせて、お兄ちゃんは気丈に笑う。
瞬間、再び解き放たれた暴虐は、私の目の前で家族の姿を塵に帰した。
「あっ、これは……」
「────ぐっ!」
最初よりも鋭く、速く、重ささえも増した乱舞。全てにおいてより苛烈さを増した撃の中に、乃依さんも雷さんもすぐさま掻き消される。例外は無い。
そう。かぐやだって。
「かぐや!」
「彩葉────」
ギリギリ範囲外の私と、範囲内の彼女で、目が合った。
そして消えた。衝撃波と共に。
(かぐや)
私の。
(私の、かぐやが)
ゲーム?たかがゲーム?
あぁそうだ。所詮ゲームだ。現実じゃかぐやは隣にいて、どこにも行かない。あの子はここにいる。
けどこのフィールドからは今、彼女は確かに失われて。
アイツが、奪った。
確かに私を蝕む、仮想じゃない、目の前にいる
「……し……み…………」
「ンだよ。今更恨み言かァ?」
なんでそう、アンタは私を狙うの。
私の邪魔をするの。その為に皆を巻き込むの。
違う、そうじゃない。理由なんて分かってるじゃないか、私の方が先に奪ったからだって。その事について何度も謝ったじゃないか。
……分かっていても……!
「許さへん」
「……!!」
口を突いて出た言葉は、数え切れない借りがあるような恩人に対するものではなく。けれど出てきたその
そうだ。許せない。
いつだって視界に入って来て。
いつだって追い縋って来て。
いつだって付き纏って、そんなコイツが。
石実現が、許せない!
「 ブ ッ 潰 し た る わ 」
「──誰が?誰を?」
アイツは
「良いじゃん。やれよ。その為の勝負だろ」
本当に嬉しそうに。その様子でさえ私を逆撫でするように。
「俺だってそうだ」
実際、挑発やった。私に、大事な人達を守れなかった屈辱を与えておいて、更に傷付けにくる。そんなアンタが本当に大嫌いや。
「
──やからこそ感謝もしたる。その一言を言ってくれて。
私に、ヤチヨの言葉を思い出させてくれて、ありがとうな。
「自分を信じて、彩葉」
なんや。そんな簡単な事やったんか、
要は“信じる”事。つまり、自分の動きを明確にイメージする事なんだ。それを投影するからこそのオートマモードだって、ちょっと考えれば分かる事やん。
つまり、私やって。
私も、自分の動きさえイメージ出来れば。
今まで見て来た石実の動きを、投影できれば。
(信じろ)
自分を信じろ。
石実より高く、跳んで跳ねる自分を。
「貴女が信じる貴女を」
石実より強く、切り拓いて駆け抜ける自分を
「貴方の愛する皆が信じた、酒寄彩葉をさっ!」
石実現を。
超えがたい現実を、超えていく自分を!
変化は無かった。少なくとも第三者視点では。
Re:ALはすぐに分かった。夢にまで見た仇敵が、意識を
ある意味で、待ちに待った瞬間。だって彼は信じていたのだから。
「────ッぁ、」
酒寄彩葉が。
「ぁが……!」
自分を打ち倒し得る存在だと。
「がぁぁああああッ!?!」
誰よりも。
それは蹴り。だが自身と対等の身体能力を持った存在を見た事の無い
決して警戒していなかった訳ではない、寧ろ相手は自らが最も高く買う才覚の持ち主だ。最大限の注視を怠らず……その上で防御出来なかったという事実。
その威力たるや凄絶、飛ばされた彼の身体が建造物を何度も貫通してなお地を跳ねる程に。それを幾度か繰り返して、ようやく地面を掴んだ彼の手は、数十mの轍を刻んで漸く制動に成功した。
やっと面を上げた彼の眼前に、切先。
死。
「
「
精一杯仰け反ったその瞬間、引き摺り回す様な一線。投げられたキーボードブレードが、ワイヤー越しの強引な張力で以てRe:AL肌裂く。予想以上の余波が彼の頬肉を消し飛ばし、口腔を外気に曝け出した。
判断を悔いている暇は無い。飛び退いた刹那、彼が元いた場所に
「──ハハハハハッ!!」
その推参に、血肉を模した赤いポリゴンを滴らせてRe:ALは笑った。己が内に芽生えた戦慄と恐れ、それを即座に封印しての高揚。彼はひたすらに嬉しかったのだ。
「
「やかましいねんボケが」
彼の哄笑を、土煙ごと文字通り切って捨てて姿を現す彩葉。その目は静かな怒りに爛々と燃えて、鋭さを掲げて相手へと向かう。
「んなに黙らせて欲しいんやったら口閉じぃ。その阿呆面ごと縫い合わせたるからな」
覚悟せぇよ、と。
世紀の竹取合戦、クライマックス。
“伝説の16秒”と謳われる終幕へ向かう最後の決戦が、今ここにその戦端を開いた。
彩葉なら出来るやろ(適当(信頼))