酒に狂った男   作:鶏肋

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ようやっと原作主人公回


酒寄彩葉、休まない

何にも無い。

 

誰にも頼れない。

 

でも自分の力で生きるんだって思えた。それが力になった。

 

そう、思ってたのに。

 

 

 


 

 

 

「あっ」

「げっ」

 

最悪だ。天敵と出くわした。

容姿端麗・才色兼備の完璧女子高生こと酒寄彩葉。よりによって同じ夏期講習に応募してたとは。

 

「えーっと……よろしく、石実」

「あーうん……よろしく、酒寄」

 

内心ではめっちゃ文句言いたい。ただでさえ差を付けられてるのに、おんなじ講習受けてちゃ縮まるモンも縮まらねぇだろうがとか、夏休みなんだからもっと休みやがれとか。でも後者はともかく、前者はどっちかというと同じカリキュラムを選んだ俺の有責案件なので我慢。

ここはポジティブに捉えよう。同等の教育環境で酒寄を上回れたなら、それこそ完全な勝利だと。

 

「負けねぇからな」

「ッ!……うん」

 

勝ってんだから多少はマウント取るなり慢心するなりしてくれりゃ、もっと付け入る隙もあっただろうに。俺の挑発にも真正面から受けて立ってくるのがホント厄介だわコイツ。

くそ、ガチでやってやるからな。目にもの見せてやる。

 

その一念を胸に俺は、酒寄と並んで塾舎へと踏み込んだ。

 

 

 

 

あっヤバい。

 

酒寄彩葉マジでヤバイ。

っょぃ。

勝てなぃ。

 

「小テスト返却だ。石実、酒寄、満点!励んでくれ」

「「!!」」

 

結果だけ見りゃ互角。だが分かってんだぞ、20分の制限時間で俺が5分残しなのに対し、お前は10分残しで見直しまで終えてたの!その見直しだって、俺が凡ミスに気付いて1問直したのにお前は直す素振りゼロだったし。

カンニング?する訳あるか、ペンの音で察しつけてんだッ!!

 

「なぁ……死ぬほど恥を忍んで聞くけど、その速さマジでどうなってんだお前。頭に“京”積んでらっしゃる?」

「いや速さが重視される分野じゃないでしょコレ。同点なのに敗者面されても困るって」

 

そうは言われても、こちとら劣等感が山積みで自尊心爆砕してんだが。取り敢えずここらでちょっと精算させてくれ、缶ジュース1本の奢りでどうだ?

 

「え、悪いよそんなの」

「どっちかっつーと助けて欲しいのは俺の方なんだわ。人助けだと思って奢られてくれ」

「意味不明過ぎるけど……そういう事なら、まぁ」

 

なんとか漕ぎ着け、二人で教室の外へ。自販機にて酒寄が選んだのは一番安い水ボトルだった。俺は自分への罰として好きでもないコーヒー缶。敗北の味は苦い。

その一服の折、口を開いたのは酒寄の方だった。

 

「……石実はさ。私に負けるの、そんな嫌なの?」

「え?うん」

 

迷うまでもなく即答……いやちょっとしくったな、これじゃ酒寄を嫌ってるみたいな言い草だ。早急に注釈しとこ。

 

「勘違いしないで欲しいんだけど、お前との勝敗自体が問題なんじゃなくて……俺の納得の方が主題に近い」

「納得?」

「ああ。俺は1番(トップ)の俺が大好きだ。逆説的に、それ以外の負犬(おれ)が大っ嫌いだ」

「つまり……私に勉強で負け続けてる石実を、石実自身は肯定できないんだ」

「そういうこったぁ」

 

まぁ同性に負けてたならまだ納得できただろうけど、酒寄は女。これは俺のアイデンティティに直撃・貫通・粉砕して余りある現実過ぎて本当に困る。マジで何連敗してんだよ、しっかりしろよ石実現。このままじゃ親父ルートだっつってんだろ。

その親父に言われたじゃねぇか。強い男になれって。なのに、俺は…………

 

「石実は、強いね」

 

……は?どこが?

お前が間違った事言うなんてびっくりだぞ、酒寄。

 

「いやいやいや、何処がだよ」

「そういうとこだよ。自分に甘えを許さないところ、尊敬する。凄いと思う」

「鏡見て言え女のクセに」

「褒めてるの?貶してるの?」

 

何だ何だ急に、お前ともあろう奴が的外れな事言いだして。俺を憐れんで、わざと突く隙を晒してる感じ?よしてくれよ一番効くんだわそういうの。

 

「そっちこそ自省・自制の鬼だろうが。俺はいざって時に自分を甘やかせる分の金だけは持ってるけど、一人で身を立ててここまでのパフォーマンス保つなんてとてもじゃないが出来んわ。卑屈になんなって居心地悪ィ」

「全然そんなんじゃないってば。私が自制できるのは、そうしろって言われたからだもん。じゃなきゃもっと自堕落になって……全然()()()()()()()()

 

分からん。意味不明。お前が誰に追い付くって?酒寄が自分を甘やかしてる姿なんて全く想像つかないんだが??

っつーか不味いな、本人のこのストイックさ。いよいよ以て、俺が食らいつける余地が無い。

 

「お前ホント可愛げ無いわー。あのさぁ、お前はトップな上に女なんだから、ちょっとぐらい隙持っといた方が絶対好感度上がって助けて貰いやすくなるぞ?それを世の中じゃ愛嬌って呼ぶんだから、もっと甘えろってホント。女なんだしさぁ」

「うわっ、善意だとしても言ってる事マジで最悪なんですけど。残念でした、そうやって隙晒して石実に背中刺されるのは御免でーす」

「俺が刺すなら正面突破だ。見縊ってくれるぜ全く」

 

ここで予鈴。次の講義まで残り5分、そろそろ戻るか。珍しく酒寄と話せたし、実に有意義だった。

 

っ、と?

 

「例えばの話だけどさ」

 

去り際、酒寄から。その声音から切実な話である事は想像がつく。

 

「石実に、男の……とても大事な人。例えば友達がいたとしてさ。その友達はとても優しくて、人の痛みを受け止めて、守ってくれる友達で。石実もその友達を信じてたとしてさ」

 

嫌に具体的な人物像。酒寄に近しい実在する誰かである事は明らかだ。

 

「でもその友達が、知らず知らずのうちに限界を超えてて……そんな時、石実だったら、助けられる?」

「──」

 

……難しい質問だ。途轍もなく。

いや、答えは決まり切っている。即答さえ出来た。けどそうしない、してはいけない理由があったからだ。

 

断言しよう。俺の答えは、確実に酒寄を傷付ける。

だから言わない。言えない。

 

 

…………でも、それは“逃げ”だと思うから。

 

「見捨てる」

 

酒寄の視線が俺を捉えた。

信じられないものを見る目だった。

 

「男なんだろ、ソイツは」

「……そう、だよ。でも、限界だったんだよ」

「だったら他人の痛みを引き受けてる場合じゃなかったな。手前の事も手前で救えないなら、他にリソース割いてちゃいけなかったんだ」

 

それはソイツの判断ミスだ。自己責任だ。自分の事で手一杯なら、手元の物を潔く手放して、自分だけで沈む覚悟を決めなきゃならない。

それが、守るべきものを最期まで守るって事。自分の破滅に巻き込まないという最終守護の形。

 

だから俺は見捨てる。

その末路を選んだ、その友達自身の尊厳の為にも。

 

だから俺は手放す。

俺という泥船から、真実を。

 

「──っ…………」

 

酒寄は座り込んだ。そのまま、動かなくなってしまった。けど俺に出来る事は無い、して良い事は何も無い。

せいぜい酒寄を刺激しないよう、その場から立ち去って。

少なくとも今日は此処で顔を合わせる事の無いよう、講義から早退して。

 

『綾紬へ。酒寄を傷付けた。味方になってやってくれ』

 

先日得た伝手(RINNE)を用いるくらい。

その程度の事しか出来やしない。今の俺には。

 

「あーあ。台無しだ」

 

何の慰めにも償いにもならない無力感を抱えて見上げた空。そこには万物を見守るように浮かぶ月が、俺だけを嘲笑うように輝いていた。

 

 

 

 

 

笑えよ()ジータ。

 

「石実!この前はほんっとごめん!!」

 

謝りたいのはこっちなんだけど。なんでお前が頭下げてんの?

いや真実、違うんだって。200%俺有責案件なんだって、マジで。

信じてくれ綾紬。お前は何も疑わずに酒寄の味方になってくれ。俺の敵であってくれ。

 

「変な事言って気を遣わせちゃったよね!私は大丈夫だから、また塾で一緒に勉強しよ!」

「「「?????????」」」

 

違うんだって。そんな「誤解があっただけ、分かり合えば解決!」みたいなノリでなんとかなる話じゃないんだって!少なくとも酒寄(お前)にとっては!!

 

「えーと。まず何があったか教えて貰っていい?私何も知らずにBAMBOOcafeに呼ばれたんだけど」

「私もよく教えてもらえてないんだ。彩葉、ホント昨日なにがあったの?」

「許して芦花、詳しくは言えない。私に落ち度があったって事で、人助けだと思って奢られてくれると嬉しいかな」

「逆ゥ!!!」

 

思わず叫ぶ。衆目を集めようが構やしない。今日この場は本来、俺の吊し上げ会場になるべき場所だったから。

 

「なんでこの局面で俺を庇うんだよ!!未練がましく追い縋ってくる敗残兵をここぞとばかりに追い出す大チャンスだぞ!?お前が被害者ポジ確立してクラス中に吹聴すればもれなく石実リンチ祭りだっただろうが!!!」

「リンチとかする訳無いじゃん?!!私の方が勝手やって迷惑かけたんだから怒ってよっ」

「あの状態の(おまえ)相手に怒鳴れって正気かァッ!?!」

「芦花サイバンチョ、これどう解釈するべきかな」

「真実弁護人、これはちょっと現代の法制度では対応しかねるというか……」

 

ええい、この際俺の方から何があったか明け透けに言い放っちまおうか。状況説明にはそれが一番手っ取り早い……けれど!

 

「……石実……」

(あーもう!!!!!)

 

そんな目で見るな、首を横に振んな!分かったよ言わねぇよ、それを俺の償いって事にしてやる!それで良いな!?

だが!その代わりに!!!

 

「今日の奢りはお前じゃなくて俺だからな!オイ店主、一番高くて美味いモン3人前を特盛りで出せやァァァ!!」

「えっちょっ石実ィ!?」

「それは流石に悪過ぎるって!」

「わはー。出たよ見栄っ張り」

 

 

 

──もう分かった。酒寄は()()()()()()()()

 

あんな酷い暴言ですら真正面から受け止めて、一理あるって咀嚼して、俺との関わりを保とうとしたのがその証左だ。自分にとって嫌なものは遠ざけて良い筈なのに、アイツの親は何を教えてんだよ?

 

でも、そんな酒寄だからこそ俺は……いや、今は俺がどう思ったかなんて後回しだ。

 

(待ってろよ……)

 

こんな事があったからこそ尚更、お前に負けたままじゃいられない。

お前に勝って、その超人のヴェールを剥ぎ取ってやる。ただの一介の女子に貶めてやるから覚悟しろ。

 

じゃないとお前は、そのヴェールに巻かれて終わっちまうだろうから。




酒寄朝久に何があったか、小説版しか持ってない筆者には分かりません。
けれど妻を、息子を、娘を、家族を想うなら。
例え何があっても、生存が不可能な事態に陥っていたとしても。
それでも夫として、父として、死んではならなかったのだと。そう彼の無念を想うのです。
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