酒に狂った男 作:鶏肋
でもその分、今まで高評価して下さった方々への感謝で感極まりますわ。皆様、本当にありがとうございます
「色々と隠し事をしてた事に関しては、まず心から謝る。本当にスマン」
「ただここからは言い訳なので切って捨ててくれて構わないんだが、俺としてもそれなりの考えや配慮があった事は理解して欲しい」
「まず帝の苗字が酒寄だった事に関しては……お前にとって大きすぎる事案だったから伝えられなかった。綾紬との相談したうえでの判断だ。お前と彩葉の関係が急激に変化しかねなかったし」
それは良い。分かってる。
私はBlack ony-Xの筋金入りのファン、特に最推しの帝様と対面なんてしたらとてもじゃないが身が
帝様が彩葉のお兄さんだった事も然り。それはそれとして立つ腹も無い訳じゃないし、芦花共々埋め合わせして貰うつもりではあるけど。
それより問題は。本題は。
「んで……今日の俺の暴走についてだが、順を追って説明していく。まず酒寄には成功体験が必要っつー事で、帝相手に真っ向から戦って貰う事でその経験を積んでもらおうとした。それが竹取合戦の真相だ」
「俺は数合わせのオマケ、というか何故か駒沢乃依に気に入られたっぽくて指名された運び。黒鬼連中と示し合わせて動いて、酒寄&かぐやvs帝の対面を演出しようとした……ああ、八百長じゃねぇぞ?やる分には全力で勝つつもりだったからな、最初から」
「……計算が狂ったのは、ヤチヨ乱入からだ」
ゲンちゃんの暴走。今迄の態度からは一転しての、まるで中学時代以前に戻ったみたいな横暴っぷりを曝け出して、彩葉達に襲い掛かるなんて。
「OYADAMAを導入された時点で最初の作戦は崩壊。それでも黒鬼と個人チャットで修正する事は出来たんだが……FUSHIに叱られちまってな」
「本当だぞ、FUSHIだ。自分を解き放てって言われたんだよ」
「別に責任逃れのつもりじゃねぇ。飽くまでアイツの発破はキッカケに過ぎん、その後の行動は誰にも促されない俺個人の意向だ」
「ああ、そうだよ。全部本音からの、本心からの“意図した暴走”だったんだよ」
帝様達を一方的にボコボコにしたのも。
彩葉を怖がらせたのも。
怯える彼女に詰め寄って、執拗に追い詰めたのも。
紛れも無い彼の意志。ゲンちゃんがやりたかった事、らしくて。
「酒寄を普通の奴にしてやりたい、って思ってたのは嘘じゃねぇ。でもいつの間にかそれだけじゃなくなってたようでな」
「もう1回、アイツと全力で戦いたかった」
「アイツに、1度で良いから本気でキレて欲しかった。だから意図して地雷を踏み荒らした」
「キレたアイツと、心置きなく戦って……ああ、今気付いたわ」
「
「どんだけ本気出しても、酒寄の本気は俺を超えてくれるって。届かないんだ、って」
求めたのは決着。
1年前、お互い押し付け合ってしまった不本意な勝敗と追放。それを雪ぐ為の物だったんだと、言外に伝わる。私には分かる。
「やっと諦めがつくなら……アイツに心から屈服して
「……出来たの?」
「分からん。でも今現在、信じられねぇぐらいスッキリしてるのは確かだ」
問うてみれば、返ってきた答えには溌剌とした感情が乗る。私からすれば2年ぶりの……ううん、今まで聞いたことが無いゲンちゃんの声音で。
だってゲンちゃんは、ずっと戦って来たんだ。
幼くて引っ込み思案だった私を守る為に、見栄張って強がって。
一度始めたその立ち振る舞いを突き通して、孤独を耐え続けて。
彩葉と出会ってからは、彼女に突き放されて追い落とされて。
1年前のXデーを経てからは、今度は自分の欲求に抗い続けて。
それから解放されたんだ。
今のゲンちゃんこそが、“素”なんだ。私はそれをなーんにも知らなかったんだ。
「……まぁ、つまり、なんだ。その欲求に任せた無計画なアドリブだったってワケだな。上手くいったのは奇跡的な結果論でしかねぇ」
「改めて悪かった。全部台無しにしかけて、ごめん」
でもそれこそが罪だったとゲンちゃん自身が言ってしまう。折角の自由を得たのに、自ら責任を負おうとする。
だから……私は。
「行くよ」
「……どこに?」
「決まってるでしょ」
全部を精算できる、約束の場所へ。
「ヤチヨカップ、最終結果の発表だよ」
前を
「お、おい」
「ふんっ」
「せめて手は離してくれ。流石にその、な?」
「すんっ」
「
深夜、ツクヨミの広場は既に人でごった返していた。前代未聞の大イベントが一体どんな結末を迎えたのか、一目拝もうとユーザー1億人全員が集まった……と言っても過言じゃないくらいの大盛況だ。
そんな中で中央へ進められる俺の姿は何とも悪目立ち。理由はただ一つ、先の竹取合戦で立てた悪名こそが原因だろう。
(めっちゃ露悪的に好き勝手したからなぁ……)
自分で言うのもなんだが、ありゃOYADAMAモードの私物化みてぇなモンだった。ルール無視マナー無視、道理無視の大盤振る舞いだ。
しかもその矛先が「ツクヨミのカリスマ・黒鬼の看板への泥塗り」と「人気急上昇中ライバー・いろへの粘着」として出力されてんだからヘイトを買うってレベルじゃない。今向けられてる視線の中にも幾らか悪意が混ざってるのが分かる。
「ねぇアレって……」
「うっわ。いろPにストーキングしてた黒鬼アンチじゃん」
「動画見たけど人間じゃないよ」
「もう存在そのものが犯罪じゃん。死刑じゃん」
「えっちなのはダメ」
「でも普通にイケメンじゃない?」
「幾らでも弄れるだろアバターなんて。センスが良いのは認めるけど」
「っていうか、一緒にいるのまみまみじゃね?」
「かわい〜……え、手ぇ繋いでる!どんな関係!?」
「脳破壊されました。禪院チャンネルのファンやめます」
「冗談抜きで普通に鬱」
「脅されてるんだ!間違いない!!」
「の割にはまみまみの方が引っ張ってるような……」
そしてその内の幾らかが、真実にも向かっていくのだって。
だから嫌なんだ。悪評が感染する前に可及的速やかに離れて欲しい……んだが、
(一緒にいてくれる、って。お前はどこまでも)
本当に儘ならない。真意は分からずともその善意を信じると決めてしまった以上、俺に反意を表す権利などありはしなかった。ただ徒然なるままに引き摺り回されるのみだ。
そうして引き摺られるように歩く事1分弱。前に見えた一層分厚い人だかりは。
「ちょっと失礼しまーす……」
「「「………………!!!」」」
「ああ、悪いな子兎ども。ちょっと
黒鬼の集い。その海を割って、向こうの方から近づいて来た。
真実の手が強張る。それを掌から感じ取った俺は……俺がするべき事は。
(……大丈夫)
(!)
その手を握り返す事。俺は側にいるって、言葉にせずとも伝える事に限る。
たとえ俺自身が原因だとしても、それに対して彼女が何をしようとしてるのか分からなくとも、今この場で出来る事は間違い無くそれだったから、それしか無いなら、そうしたかったから。
果たして真実の内心に、その行動が如何ほどの効果を齎したのか。先刻フラつきかけた足でしっかり立ち直った様を見るに、必要な事だった……と、思いたい。
「はじめまして、Black ony-Xの皆様方。まみまみと申します。ご存知でしょうが、此方はRe:ALです」
「──ああ、君が。話は彼から聞いてるぜ、いつも応援ありがとうな」
「ヒゥッ……っ、こちらこそ貴方がたから日々生きる糧を頂いております」
「それは何よりだ。で、まみはどんな御用件で、Re:ALを連れ立ってここまで来てくれたのかな?」
俺を差し置いて進む会話。居場所は無いし居たたまれる余地も無いが、かといっている意味が無いなんて口が裂けても言えないだろう。会話に加われずとも、この対面の主題は俺だと既に相場が決まっている。
さて、ここから真実がする行いっつったら……俺の狼藉に対する謝罪、かなぁ。
(気が乗らねぇ……)
俺だけが頭を下げるなら良い。帝相手ってのが結構胸糞悪いがそこはどうだって良い。一番キツイのは真実も一緒に頭を下げた場合の事だ。
そうでもしなきゃ反省できない俺に一番の問題があるとはいえ、やっぱりいざ真実を巻き込むとなると心苦しいなんてレベルじゃない。それも含めての罰なり因果応報でもあるから、受け入れる選択肢以外あり得ない無いんだが。
周囲の気配を探れば、全員が全員、俺と真実の次動に注目している。界隈の脅威として力を奮った俺について、真実が同伴者としてどう釈明するつもりなのかを。
いっそ先んじて土下座するか?いや、それこそここまで表立って出てきた真実の顔に泥塗る厚意じゃないのか?そんなに悩むぐらいなら暴れなきゃよかった、なんてとてもじゃないが言えない。俺は俺自身の選択をもう後悔出来ない。
俺は……真実を、俺は……。
「
その時、俺の煩悶を置いて行くように真実が放った言葉は。
「お陰様で万事恙なく事が運びそうです。帝様には感謝してもし切れません」
謝罪ではなく、謝
周囲の目が変わる。怪訝から困惑へ、それは俺も含めての話。そんな中、真っ先に反応してみせたのは帝で。
「……!ああ、それは何よりだぜ。でも助かったってのは俺達の台詞でもある、一方的な恩義は受け取れねぇなぁ?」
「いえいえ、Re:ALってば
「うおっ?!」
「よしてくれってば。子兎に頭下げさせてたら逆に黒鬼の名折れだよ、なぁ皆?」
結局頭は下げさせられるものの、そこに元より予想していた悲壮感は一切無い。どういうマジックを使ったのかも分からないまま、帝と真実の間で話は進み。
「ああ、良き祭りだった。なに、落ちた名声は己が手で取り戻すのみだ」
「要約すると、リベンジするからその時はよろしくって事。また
雷と乃依が続く事で場は決する。意を呈せる者などこの場にいる筈も無く。
そうだ、たった今、俺達の間で合意が形成された。正確には、形成
「あー……よろしく頼む」
「そうこなくっちゃ。じゃあ皆、そういう事だから~」
「なぁんだ、黒鬼側も把握した上での行動だったのね」
「ぐぬぬぬ……でも帝様達をボコボコにしたの、許せない……!」
「いやもう良いだろ。後は本人たちの問題だって」
「蹂躙される乃依キュン可愛かったしなグヘヘヘヘ」
「異教徒発見!」
「確保!」
「処刑!」
「執行!」
「グエーシンダンゴ」
なあなあになった空気の中で、視線が霧散していく。突き刺さってきていた敵意が消えていく。それに唖然としている間に、雷を真実に充ててつつなれなれしく俺の肩を組んできたのは帝だった。
「凄まじく良い女を捕まえたじゃん、Re:AL」
「ああ。そうだな」
「あの二言だけで、お前のやった事を全部
「……ああ。本当に、な」
人の輪の外にしか自分の在り方を見出せず、和を乱す事でしか強がれなかった俺じゃ、絶対に得られない強かさ。
それを俺の為だけに奮ってくれる女なんて。この先どれだけ生き長らえたって、きっと出逢えやしない。
「絶対に不幸になんかしねぇ」
「……違えんなよ」
「ああ、分かってる」
だから誓う。憎っくき帝相手だとしても、真実を魅せる男へ、真実に魅せられた男として。
身勝手は終わりだ。幸いにも、それを後押ししてきた妄執は既に晴れた。なら残る物は、全て彼女に。
彼女が俺にしてくれたように、俺も全てを彼女に捧ぐ。
彼女に待ち受ける万難を、俺が排す。
それを出来る男に、なってみせる。
「おわわわぁぁぁあ待ってくださいそれはダメですッ!雷様、目の前で直筆サインだめ!やめてください死んでしまいますってば、心臓がー!乃依様のウインク&投げキッスで心臓そのものがー!!ゲンちゃん助けてコレ死ぬぅ!!!」
「うーむ。精一杯の誠意を示したかったんだが」
「むぅ、勿体無いなぁ折角可愛いのに。ねーぇーRe:ALぅ、まみまみちゃん返してよ〜」
と覚悟を決めたその瞬間からSOS。思いついたが吉日というかなんというか。
早速率先して背に庇ってやれば、何やら推しからの直接供給にとうとう限界が来たらしかった。まぁ……雷さんと乃依なら、もう良いか。
「……雷さん、乃依、勘弁してやってください。俺はともかくコイツは善良な一般市民なんですよ」
「ちぇっ。子兎ちゃんに負担は掛けられないかぁ」
「ならまたの機会に。よろしく、まみまみ」
「すみませぇ〜ん……ありがとうございますぅ〜……!」
「オイRe:AL。雷に敬語使ったんなら俺は?」
「…………」
「おーい!」
ヤチヨカップ最終発表まで書きたかったけど、長くなり過ぎたのでここまで
次回、中章最終回(多分)