酒に狂った男 作:鶏肋
ご了承ください
昼は大盛況。そらもう全員楽して飯食いたいしな、注文依頼も殺到するって寸法よ。
マスド*1にうどん、そばにラーメンエトセトラ。迂闊に爆走して中身がグチャグチャになったら事だし、そこんとこ注意して運ばねぇとな……って、何だありゃ。
「おう、儲かりまっか。何つって」
「「「ひぃっ!!??」」」
宙を駆けていた折、目に付いたコンビニ前で屯していたのは不良共。しかも一部は俺の高校の奴らで俺の手駒じゃん、何やってんだよ。
他の見覚えのないゴロツキは他の校区の連中、って解釈で良いんだろうな。
「あのさー、潰し合いも傷の舐め合いも勝手にすりゃ良いけど他所様に迷惑かけんなっつったよな?周り見ろ、お前らの所為で客入り途絶えてんじゃねぇか」
「すみません兄貴!この場は俺が抑えるんでどうか!!」
「誰が兄貴か」
勢いよく頭を下げるこの男は、小学生時代に真実をイジメてた男子の成れの果て。つまり去年俺を金属バットで襲撃してきた奴ご本人でもある。
なんとマジで奇遇にも俺の転校先がコイツの高校で、しかもその校の元締めやってたコイツをお礼参りとばかりにブチのめしたらなんか俺がボスになってたってパターン。今はNo.2として適当に不良共の管理を押し付けつつ、有事に備えて適当に使い倒してたけど……?
「お゛?お前が例の“天狗”か、コラ」
「……で、コイツら何」
「他校の不良っす。なんでも暴力団ごっこに勤しんでるらしく、俺達の校区を自分たちのシマに組み込むんだとか」
「はぁ?平成どころか昭和漫画のノリだろそれ」
「いやホントに。なんとかお帰り願いたいんすけど……」
「無視しとんちゃうぞ!お前が天狗かって聞いとんじゃワレェ!!」
そんな諍いがこの地に迫っていたらしい。で、舎弟共は水際で食い止めようとしてたと。ご苦労なこった、褒めて遣わしてやらんでもない。
言葉にこそせずとも、そう思いながら手勢を下がらせて俺が一歩前へ。
「で。天狗ってのも俺の事で良いのかな」
「ここの高校のアタマがお前ならそういう事だ。オラ、痛い目見たくないなら腹見せて服従しろや」
「ボス……気のせいじゃなければコイツ、さっき空から飛んで来ませんでした?ちょっとスペック違い過ぎる気が……」
「るっせぇ怖気付くな!舐められたら終いだろうがッ」
う〜ん……実の事を言や、別に頭下げるのにそこまで忌避感は無いんだよな。そっち方面のプライド
ただなぁ。今となっては、俺が立場悪くすると巻き込まれる奴がいるというか……巻き込みたい奴がいるっつーか、なぁ?
「オイもう一回言うぞ!痛い目見たくないなら従え、さもなきゃテメェの家族もダチも女も全員ブン」
「ハイ屑確定」
「なgカバァッギャ!?!!」
「「「ボスー!?!?!?」」」
「「ダメだこりゃ」」
案の定、真実達を巻き込む宣言しやがった。じゃあ俺が手加減する意味もな無い。
オイ後悔すんなよ、実力行使を俺に選ばせたのはテメェらだぞ。
「ブッ殺しまーす」
「キャピ……コ、ハ……?!」
と、そんな具合に一瞬で喉仏を捻じ掴み押し倒す事で制圧した敵首領。それを目の当たりにした敵の取り巻きの悲鳴、「こうなるから嫌だったんだ」と肩を竦める俺の手勢ども。何呆れてんだコラ、お前らも後でおんなじ事すっからな。
まぁそんな事より目の前のゴミだ。喉笛抑えてる訳だから、このまま押し込むにせよ引き出すにせよ生殺与奪の権は俺の手中にある。マトモに帰してやる気は無く、一方で土に還してやる気だけは満タンといった状況だ。その気になれば空いてる左手で一方的に“変形させる”事だった不可能じゃないんだから……
……だけど、なぁ。
(真実達は絶対に喜ばねぇんだよなぁ)
そんな事をしでかして、アイツがどんな表情で俺を迎えるかなんて想像するまでも無く分かる。そして同時に、どんな想いを抱こうとも、アイツは俺の犯した事に付き合って一緒に堕ちる道を選ぶだろう事も。
それは……ダメだろ。
(となれば、“アレ”か)
そんな事はさせられない。真実だけじゃない、酒寄や芦花やかぐやだって悲しむだろう。参ったなぁ、俺の身体が俺だけの物じゃなくなっちまったみてぇだ。
けどそれを大事に想えるなら……残された手段は一つしか無いだろう。
深呼吸。想像するのは、俺がコイツの息の根を断つあらゆるイメージ。想像の中でこの勘違い雄を、考えつく限りの凄惨な所業で八つ裂きの刑に処す。
額の古傷が熱を帯びていく。頭の中で火花が散って、その度に空想が象られる。鍛造された敵意と害意と殺意の塊。
形を得たそれを一度、脳から血流に乗せて心臓へ。左右の心房と心室、4つの部屋をぐるぐると循環させて、鼓動の度に凝縮。
やがて最高潮に達した刹那。最後の一層強い拍動にその息吹を乗せて、コイツを掴んだ指先に。
集中……!!!
「ヤベ、レ……!」
「ッ────!!!」
──指先にピリッと来た感覚。それで終わり。
手を離す。瞬間、相手は倒れたまま一つ痙攣した。
「オイ。立川市、二度と来んなよ」
「…………」
「よく覚えとけ。俺の目。赤色な」
「……カ、ヒ……ッ」
これで大丈夫だ。その確信と共に離れてやれば、喉を引き攣らせながらソイツは飛び起きる。そして俺を出来る限り視界に入れないように手前の顔面を掻き抱きながら、
「ヒィーーーーッ!!!」
「ボスー!?」
「てめ、何しやがった!」
「知らねーよ。ご本人に聞いたらどうだァ?」
「……チッ。お前ら、ボスを追うぞ!」
「ヤチヨー!新しい検体来たぞー!!」
「おkまる!しっかし極大出力の思念を持ってると、物理接触さえクリアすればこんな事が出来るんだねぇ。いやぁ怖い怖い」
逃げてった。ハッ、もんどり打って転んでやーんの、ザマァ。次来たら五体満足で帰れると思うなよ〜?
「……兄貴。それどういうカラクリなんです?」
「あ?いや理屈は分からんけど、1年前からなんか出来るようになってたんだよね」
手順は簡単。
①相手にとって出来る限りショックになり得るような凄惨な状況を想像。
②そのイメージにめっちゃ集中した上で、相手の頸椎か頭か……ともかく神経系に近い場所に接触する。俺の場合は大体喉笛を狙って制圧するかな。
③自分の中のリズム的な何かに乗せて、①のイメージを腕を伝って相手に流し込む……ような感じ。実際伝わってるのかは知らんけど。
④なんか相手がトラウマになってて草。追加でキーワードか何かを強迫すればそれをトリガーにして相手の行動を誘導できるよ、凄いね。
⑤リリース!〆!!完了!!!
「あー、俺にやったのそれっすか。ちなみ俺の場合のキーワードって何……あ、良いです聞かないです怖いです」
「お利口でよろしい」
最初の頃は感覚でやってて「なんか邪魔な奴の喉笛掴んだらやたら素直に言うこと聞いてくれるな〜」って程度だった。自覚してからは酒寄周りの危険人物とかへの牽制に有効活用したし、隣の壁ドン脅迫野郎に対して“酒”をキーワードにして引越しさせたのも記憶に新しい。
というか酒寄、普通に綺麗過ぎてなぁ……何体かストーカー湧いてきた時にゃどうなるかと思ったわ。使えて良かったー。
(っていうか多分、今の酒寄も使えるんじゃねぇかコレ?)
ツクヨミで俺の動きをイメージで完全再現できるって事はつまりそういう事。俺に出来る事を酒寄彩葉に出来ない理屈は無い……という訳でもないらしいのは最近になって薄々勘付き始めたけど、フィジカルに依存しない事なら……?
「って、時間不味いわ」
「バイトっすか?」
「いんにゃ。お前が嫉妬しそうな事」
「あー……」
「じゃーの」
「オタッシャデー」
バイトよりも優先されるべき予定がこの後1時に迫っていた。それを前にすれば、不良とかもうどうでも良い。最悪の場合、さっきの奴ら全員をこの身体で轢いて終わらせるのさえ視野に入れる程に。
そんな10分後の未来へ胸を膨らませながら、それと相反するように凹みを主張する胃の腑の機嫌を取りながら、俺は唖然とする舎弟をその場に置いて駆け出したのだった。
この時間帯になると、どうしてもソワソワしてしまう。お昼を食べ終えた後、本来なら陽気の中に微睡んでいる時分。
けど、今の私にとっては最も緊張と高揚を味わう時間の一つだ。
「姉貴、暑くね?」
「全っ然余裕!寒気してきた!!」
「それ熱中症って言うんだよ。アホかな」
ただ渡し物をするだけ、なのに浮足立つこの心は何なのか。その様子を弟に呆れられつつ(アホ呼ばわりについては後でお仕置きするとして)彼の到着を待っていた。
手にはお弁当。私の知る彼の好物を詰め込んで、入念に熱を取った物。この熱さを乗り切れるよう、それでいて食中毒なんかにならないように……もちろんスポーツドリンクと、ついでに保冷剤も添えて。
そして、来た。
「真実!」
「ゲンちゃん!」
「悪ィ遅れた、暑かったろ」
「ううん。今出た所」
盛大に土煙を巻き上げながら、私の家の前で急停止する影。その正体であるゲンちゃんは汗だくも汗だく、やっぱりこの炎天下の中を東奔西走していたらしい。
どうにも見てられずに差し伸べたタオルが頬に触れれば、布越しでも伝わってくる命の温度。すると彼は何を思ったのか、平時のギラつきとは対を為すように穏やかに目を瞑って……その頬を押し当ててくる。
(かっっっッッッッわ……!?)
意識が飛びかけた。格好良くて可愛いとか何だこの生物は?
「……毎日ありがとな。お陰でやっていけてるよ」
「な、なんのなんの。私の方がゲンちゃんに散々守られて来たんだもの、面目躍如ってヤツでーす」
「だとしたら過払いにも限度があんぜ──弁当箱含め、利子付けて返すからな」
「美味しく平らげてくれたらそれが一番の返済だよ」
談笑を交えつつ、弁当の受け渡し完了。そう、これがこの夏──ゲンちゃんが彩葉達の生活費を肩代わりするようになってから始めた日課だった。
身を粉にして尽くしてくれる彼に、どんな恩返しができるか。どうすれば支えられるか。無い頭を必死こいて考えた結果がコレ──私欲が盛大に混じってる?良いもん、ゲンちゃんが嬉しいならそれが一番だもん!
「じゃあ行ってくる!亜実と
「うん、気を付けて!!あとちゃんと毎日洗濯してね、また家行くから!」
「言われなくとも──!」
けれど逢瀬の時間はすぐ過ぎ去ってしまう物で、次の配達へと駆けていく背中。
それでも後ろ目にこっちを捉え続けてくれた瞳に、少しでも長く映っていられるように、私は短い手を大きく振り続けていた。
「そのまま抑えておけ我が伴侶……でなければ俺は、現君を殺してしまうっ」
「いや勝てるワケないでしょアナタ。折角娘が愛妻弁当にまで手を出す純情を見せてるんです、迂闊に邪魔立てしでもした日には
「……ハヒ」
「三実、ごめん。ホントごめん。暫くサンドバッグになって、お願い」
「え~。いや姉ちゃんの気持ちは分かるけどさぁ……」
真実の飯が不味い訳も無く、120%元気で熟した1日の業務。なんだかんだガッポリ稼いだなぁ、と見上げた空には既に夜の帳が下りていた。
コレが俺の1日。あと一件が過ぎ去れば後は適当なパルクール動画撮って、帰って風呂入って洗濯して、寝るだけだ。
で、時間帯的に次で終わりの頃合い。さてラストの配送はっと……
……んぇ?
(
何を隠そう、酒寄が勤めてる店。だが不可解なのは、それが“注文先”ではなく“配達先”となってる事だった。
飯屋が飯を貰う。はて、何があったのやら。
(まぁ考えても仕方ねぇ。行けば分かるだろ)
現地で酒寄本人に聞こう、と思い立って注文先のフライドチキン屋へ。その後の受け取りも滞りなく進み、いざ降り立ったカフェの裏口は。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!すぐキャンセルしま、うわ〜んもう店の前にいるぅ〜〜!?」
聞こえてきた悲鳴が、全てを物語っていた。あーそういうパターンね。通りで多いと思った、パーティでもおっぱじめんのかって量だったもん。
「邪魔しますぜ〜」
「ヒェー!!ごめんなさい間違いなんですー!!!」
「みおちゃん……こうなったらもう受け取るしか無いよ……」
「……あれ、現?」
「おう、俺だぜ彩葉」
しかしその実、パーティするのは確かだったらしい。ドアの向こうに見えたテーブルにはしっかり料理が並べられ、だが明らかに多量のフライドチキンと噛み合いの良い種類ではない。
その前では1人の女子がさめざめと泣き喚き、それを介助する成人男性と酒寄でてんてこ舞いとなっていた。はぇ〜地獄絵図。
「で、状況は?」
「店長が結婚記念日で賄いをご馳走パーティしてくれるって話だった。けどパーティの4文字で早合点したそこの
「なるほど」
「折角運んでくれたのにごめんなさいー!責任持って私が全部いただきましゅ……!」
「いやこの量は無理だよ流石に!店の冷蔵庫に保管……場所が無い……」
酒寄の端的な説明により完全把握したものの、事態は彼ら彼女らだけでどうにか出来る範疇はとうに越えちまってるらしい。それでも酒寄が居るならまぁ……という妄信も、俺の中から既に剥がれつつある。
その酒寄当人はと言えば、俺と俺の担ぐチキンの山を交互に見比べた後──妙案を思い付いたとばかりに手を打って言った。
「そうだ、現。全部買い取るから食べてかない?」
「え、良いの?」
飛び出てきた破格の条件に、目を丸くしたのは俺の方だ。確かに昼以降食ってなくて腑が悲鳴を上げ始めてた頃合いだったし、この程度の量ならペロリといけるが……そんな思いを胸に見回した他2人の視線は、歓喜と期待に輝いている。どうやら買取に関しては全く問題ないらしい。
ならまぁ……いっか。
「オッケー任せろ。全部片してやらァ」
「ありがとうございます!本当に!!ありがとう!!!ございますっ!!!!」
「助かるよ!いつぞやの……えぇと……酒寄ちゃんの友達だよね?メニュー全般を大人買いしてくれた!」
その一言だけで一気に明るくなる空気。なんとか危機を脱せたと喜び合う2人を前に、俺と酒寄は再度視線を交わし……無言のまま、グータッチしたのだった。
起承転結なんて無い。ネタもオチもありはせず、それでも日々は過ぎていく。俺も例外ではなく、今日はただこんな一日だったというだけの話だ。それ以上でも、それ未満でもなく、な。
だからこれ以降も、ただ何の変哲も他愛も無い、そんな日常の一幕に過ぎない。
「本当にありがとうございました、
「「は??」」
「?」
チキンと店長の料理を頬張りながら、ふと投げかけられた感謝。それが始まりだった。
「無い無い。私と現はただの友達だよ」
「だなぁ。友達以上……かはともかくとして仲間でライバルなのは間違いないが、“そういう関係”じゃねぇ事だけは確かだぜ
「へぇ〜?あの彩葉ちゃんがノータイムで異性を頼るなんて激レアだし、カプ厨おじさんとしては勘繰っちゃったよ」
「やめて下さいって店長、コンプラ違反ですよ〜?」
「ぐおっ、炎上は勘弁勘弁」
何も知らねぇ第三者からはそう見えるのかぁ、と上の空で思う。でも生憎俺は真実が好きだし、真実以外を好きになる予定も無ぇ。というか性癖が真実だからどうしようも無ぇんだなコレが。我ながらキッショ。
「それに、現はとっくの昔に彼女いるんですから。ね、現」
と、ここで波及。俺の交際関係に纏わる話。
最初に食い付いたのは澪ちゃんとやらだ。
「えぇー!先輩にその気が無いなら、私いけるかなーって思ってたのに〜!!」
「残念でしたっ。ちなみにお相手も私の親友だから味方もしてあげられないよ」
「なるほど、気安さに納得がいった!この前に来てくれた2人組のどちらかかな?」
「店長、コ・ン・プ・ラ」
「サーセンシタ」
若い話題に飢えてるらしい店長も混ざっての和気藹々。俺もそれに是非混ざりたい……ところ、なんだが。
「なぁ彩葉」
「どしたの?いよいよ満を辞して惚気ちゃう?」
先に、この疑問は解消しとかねぇと。
「俺が、誰と付き合ってるんだ?」
「……?」
「?」
「──??」
「???」
いやそんな「今更何言ってんだコイツ」みたいな顔されても。こっちはずっと、なんなら半年くらい前からずっと抱えてた疑問だったんだぞ。答えてくれよ。
「いや……え?ホント何言ってんの?記憶飛んだ??」
「悪いが半生17年間、特に最新1年に関しちゃ秒単位で覚えてるぜ。誇張表現だけど」
「うん、私でも無理だからそれは知ってる。いやけど、え……??」
唖然としながら真実が取り出したスマホ、そこに映ったのは愛しくて仕方がない可愛さの権化。まぁ、ここまで来たら言いたい事は分かるけどよ。
その上で敢えて、もう一度聞かせてもらうぞ。
「俺と真実って、いつから付き合ってる事になってんの?」
空気が死んだ。
あれれー、おかしーなー。他愛の無い日常会話だった筈なんだけどなー。
「……もしもし芦花。うん、大至急。全員バンブーカフェに集合──真実は絶対召集。出来れば諌山家の皆さんも。かぐやも呼ぶ」
「ゑ゛」
「審問会だよ────現を、処す」
どうしてこうなった。
何故のこの推移と帰結なのか、これが未だに分からない。
先に行っておきますが、こんなオカルトじみた能力がそんな都合よく生えてくる訳ありません。必ず揺り戻しがあります
それが10年後か20年後かは分かりませんがね。現はどうなるんでしょうね