酒に狂った男   作:鶏肋

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もっと軽いノリで進む筈だったんです、コメディだったんです。信じてくれ……

あとコレは前話の前書きに書くべき事だったんですけど、誕生日おめでとう鬼いちゃん


おもいおもい

小学生の頃の私はぽっちゃり体型だった。太りにくい体質だったからまだそれで済んでた、もしそうじゃなかったら言い逃れの余地のない肥満児だっただろう。

 

ゲンちゃんに守られて、好きな(食べる)事を厭う必要が無くなった私は、いよいよその道に嵌り込むところだった。

 

「あ?やせたい?」

 

でも“欲”が出た。良い意味で。

 

ゲンちゃんの前では、綺麗な私で在りたいって。

 

「まぁたお前にイチャモン付けてくるバカでも出たのか。待ってろ、みんな土下座さs……は?ちがう?じゃあなんでンな急に」

 

言える訳が無い。好きな男の子へ、面と向かって「あなたに可愛く見られたいから」だなんて。いや転校していった元女子リーダーはやってたけど、いじめられっ子だった私にそんな大胆な根性なんてある筈も無い。

だからゲンちゃんからすれば寝耳に水だった筈だ。何も明かさず強硬な態度を示してくるただの同級生を、彼は疑ったって良かった。何か隠し事をしてるんだって、怪訝な目で見てもバチなんて当たらない。

 

「……しょうがねぇなぁ。()()とかあんのか?」

 

のに。

彼は、そんな私の不義理さえも受け入れてくれたんだ。

 

「何のって、ダイエットだよ。あの元リーダー()が言ってたみてぇな絶食以外の方法知ってんのかよ。つーかあの女自身だってやせ過ぎだったからなフツーに」

「でも私、いっぱい食べちゃうし」

「食べた分使えば良いだろ。もしもしフシ、良いダイエットおしえて。俺もいっしょに出来る奴」

「あぁっ学校内でスマホは……へ?()()()()()?」

「うん、いっしょに」

 

それに留まらない。ゲンちゃんはいつだって、私が求める以上の事をしてくれた。

 

「ヒィ~~~……っ!!」

「残り5分──オイ無理すんなよ?!返事もしなくて良いから!」

「だい、じょ、ぶ……っ」

 

選ばれたのはジョギング。でも当時の私からすればそれも運動としては重くて、一人じゃ早々に音を上げてただろう。

でもゲンちゃんが併走してくれたからやる気を出せた。

ゲンちゃんが声をかけ続けてくれたから走れた。。

ゲンちゃんがずっと一緒に居てくれて、だから頑張れた。

 

「ノルマ達成!今日もよくやったな、ホントに」

「ん……ウヒャアッ?!ちょっとやめてよっ」

「ハッ、わりぃわりぃ。ガラ空きだったもんでよ」

 

火照った体で土手に身を寄せ合っていれば、もう胸の高鳴りが疲労による物なのかそれ以外の原因による物なのかなんて分かりやしない。

そんな私の首筋へと冷えた水ボトルを当てがって、彼は笑う。その笑顔を真正面から叩きつけられれば、文句の出所を失ってしまうのだっていつもの事で。

 

「ねぇ、ゲンちゃん」

「あ?」

「……ありがとね」

「好きでやってんだ。気にすんな」

 

そんな恩義を、なんて事は無いと嘯く彼に。

夕陽に照らされて輝く、私以外には絶対に見せない穏やかな微笑みに。

 

私はどれだけ救われただろう。報われただろう。幸せを貰ったんだろう。

 

彼に私は、何を返していたんだろう?

 

 

 

 

(とんだ恩知らずだ、私)

 

答えは(あだ)

 

ずっと甘え続けた結果がコレだ。ゲンちゃんからの善意に依存し続けたツケ……ううん、ツケですらない。だって私はまだ取り立てられてすらないんだもの。

負わされたのはゲンちゃんだ。ずっと。ずーっと、彼ばっかり。

 

中学生までの6年間、ぬくぬくと守られてばかり。何一つして来なかった。支える事の一つや二つあっただろうに。

高校初頭、握っているべき手を離した──なんて、生易しい言い方で済まされる罪じゃない。

 

そこに今回だ。8ヶ月だ。その期間ずっと、私はゲンちゃんを足蹴にし続けてたと、気付かされた。今更。

 

……今更、どのツラ下げて。

 

「お姉ちゃん。出てきて。話をしようよ」

「っていうか飯食おうぜ姉貴。もうだいぶキツイだろ」

 

ドア越しに家族の声が聞こえるけど、それが何だ。空腹が何だというんだ。ゲンちゃんが甘受してきた物に比べれば塵にも満たないそれが。

 

「一人にして……」

 

合わせる顔が無いんだ。ゲンちゃんだけじゃない、それこそ家族にさえも。

こうやって塞ぎこんでたって、事態が前進する筈も無いのは分かってる。けど……私は、もう。

 

「お邪魔するね」

「Σ(0w0;)ウェ!?ROKA様にかぐやさん!」

「真実が引き籠りになってるって聞いてね~。ちょいと失礼っ☆」

「……え……?」

 

そう膝を抱えた瞬間、解錠。開かれた扉の隙間から月光が差した。

 

「かぐやちゃん」

「やっほー。真実を退屈から救いに来たよ」

「諌山さんからマスターキーを借りてね」

「芦花まで……」

 

溌剌の化身と静謐な親友。二人の到来に、いつもだったらヘラリとしただらしない笑みの1つや2つ漏れていたかも知れない。けど、今の私にはその余裕すら無く。

 

「出ようよ真実~。彩葉もリアルも心配してたよ?」

「……そ、っかぁ。やっぱりそうだよね……」

 

告げられた事実も、救いどころか重荷だ。2人の気を煩わせる価値なんて私には無いというのに。

じゃあ、こうなる前に動けば良かった?うん、その通りだ。ぐうの音も出ない。

 

「そりゃ真実に悪い所が無かったとは言わないけどさ、誰も気にしてないよ?というかリアルが気にするタチに見える?────それ以前にむしろ喜んでたかも。放置プレイかな」

「ゲンちゃんは私に底抜けに()()から。それだけだよ」

「それが二人の全部って事だね。じゃあ一言謝れば全部解決じゃん!」

「……そうなんだろうね」

 

謝れば良い。待たせてごめん、私も好きだよって。そう言うだけで全部まるっと解決、何一つとして憂いは残らない。皆が幸せだ、私自身も含めて。

 

──そんなの、()()()()

 

「私、ゲンちゃんに相応しくないよ」

「……?????????」

 

ワケ分かんないだろうね。というか分かんない方が健全だ。私が抱いているこの怒りは、決して正しい物じゃないから。説明した所で理解されるに足る物じゃない。

 

「真実、説明して」

「……」

 

でもそんな私を容易く逃がす程、中学からの親友は甘くなかなんだ

 

「このままじゃ誰も、何一つ終われない。“次”に進めない」

「……芦花」

「だから言って。答えて。じゃなきゃもう、捨て置くしかなくなっちゃうもん」

 

捨て置く、か。これは中々厳しい言葉が飛び出た。堪えない訳が無い。

でも……()()()()なんだよ。

 

「捨て置いてよ」

「「は?」」

「私ね。ゲンちゃんを見捨ててたんだ」

 

ここから始まるのは一方的な懺悔だ。誰に届くでもない、許しを請う訳でもない、無意味な罪の自白。

その罪を自覚すら出来なかったこれまでに対する、告解。

 

「告白に応えなかったのはただのきっかけ。半年以上もゲンちゃんを放置してた自分を悔やんでたらね、いろいろ思い出しちゃって」

「……何を?」

「高校入学の時、転落したゲンちゃんを捨てた。芦花も覚えてるでしょ。ゲンちゃんとの関係を“腐れ縁だー”とかほざいてた、あの頃の諌山真実をさ」

「そーなの?」

「……うん。事実だよ、しっかり覚えてる。でもそれがどうしたのさ」

「それが全部だよ」

 

本当にゲンちゃんを好きだったなら。ハナから手を離してなんていなかった筈だ。

本当に大事に思ってたなら、落ち目の時こそ支えた筈だ。

でもそうしなかった。そんな簡単な事をせず、恩人から逃げた売女が私なんだ……!

 

「だから気付いたんだ。私、ゲンちゃんの事、私自身が思ってるほど好きじゃなかったんだって──ううん、ちょっと違うか。その程度の事で見放すような感情を、私は“好き”だなんて思いたくない」

「いや……待ってよ!それは他ならない石実から“俺に構うな”って言い含められてたからでしょ?」

 

なんだ聞いてたんだ。ゲンちゃん本人からの証言かな?でもね芦花、そんな事はもう些事っていうか、ね?

 

「言われた程度で引き下がるなら、その程度の想いだったって事だよ」

 

どんな拒絶を受けても食らい付くべき場面だったんだ。本当に愛していたなら尚更の事だ。

なのに私は新しい友人(彩葉)に惹かれて、文字通り()()()()()()って話。笑える。

 

……笑えないや。あの時に私がゲンちゃん側に付いてれば、彩葉と拗れる事だって無かったかもしれないのに。ゲンちゃんへの誠実さを話に含めなくとも、コレじゃとんだ戦犯だ。

 

「この体たらくで、1年前、芦花の前で洗いざらい打ち明けただけで全部やり直せると思ってたんだよ?酷くない?」

「……」

「だから、今回の件でそれを思い出して、気付いたんだ。()()()()()()()()()()()()()()()ってさ」

 

これが全て。今私が抱えている思いの丈。

こんな女の事で……ゲンちゃんにこれ以上、患って欲しくなかった。

 

「だから、見捨ててよ。嫌いになってよ。たかが告白忘れ一つにさえ謝れない、狭量な女だって見下してよ」

 

それでゲンちゃんが離れてくれたら、私は凄く傷付くと思う。それでやっと私は私を許せるだろう。芦花や彩葉に対してだって同じだ。

だから……捨て置いて。

 

 

 

────きっと私は。

この期に及んで、舐めていたんだろう。

 

 

「ッ────!!」

「…………っ」

 

“嫌われる”、という事の重みを。

 

ふと見上げた視界の中心で、芦花が私を見下ろしていた。凄まじい程に冷え切った瞳で。

憤怒。軽蔑。それを湛えた失望の色に、私は失言を悟った。先刻語った破滅願望が嘘だったのかと思う程に、即座に謝罪しそうになった。

 

でも、出来ない。しないのではなく不可能。彼女の目が、言外に私から弁解の権利を取り上げていたから。

 

(あ、あぁ、あっ……!)

 

脂汗が浮く。歯の根が合わない。ただの視線に、心臓が止まる。

 

殺される。

 

そう思った、刹那。

 

 

「だァ~~~~~メンドいっ!!!!!」

 

 

息を潜めていた月光が、炸裂した。

 

「ちょっとなに二人とも、この空気感ダルいしまじ無理なんだけど!っていうか芦花!最初の目的忘れてない?!真実をツクヨミに引っ張ってくって話でしょーがっ!!」

「……そうだったね」

「っつーワケで真実!その身柄、かぐや達が頂くから」

「へ?あっ、いや、ええ?!」

 

あれよあれよという間に、爆発したかぐやちゃんに担ぎ上げられて椅子に座らされる。そのまま芦花がいつの間に探し当てたのやら、思わず見開いていた両目に私のスマコンを捻じ込むように入れられてしまった。

え、何?ツクヨミ??なんで???

 

「1936.2.26!」

「“問答無用”を言いたいのなら1938.5.25ね」

「そーなの?彩葉の教科書をチラ見しただけだったからなー」

「いや待って、本人を置いてかないで?!」

「まず本人(リアル)の意向を度外視したのは真実じゃんっ」

「!」

 

そう言われてしまえばその通りで。謝るチャンスを蔑ろにした結果、相手の()()()()もまた無下にしていた事に今になって気付かされる。

それにまたも唖然としていた私の前に、かぐやちゃんは身を屈めて視座を合わせてきた。

 

「真実はリアルが好きだよ。そんなの、地球滞在歴1ヶ月のかぐやでも分かる」

「っ……だから、そんなのただの願望で、」

「じゃあなんで、今の真実は真実の事が嫌いなの?」

 

“私は、わたしの事が好き。”を歌った少女の問いに思わず窮した。見つめてくる純真な瞳は私の心理を心から不可思議に思っていたから。

でも、答えなんか決まってる。分からないなら教えてあげなきゃいけない。

 

「ゲンちゃんをおざなりにしたからだよッ!」

 

斯くして、渾身の想いと共に放った自分への呪詛は。

 

 

「いやリアルの事めっちゃ好きじゃん!!!」

 

 

特大の呪い返し(カウンター)として、反転させられた。

 

「え、何?!リアルのこと好きじゃなかった~、とか大嘘過ぎない!??球磨川禊もびっくりの大噓憑きとか、まみまみ道深すぎんか?!!?」

「──!ち、違……」

「違わない!好きな人が雑な扱いされたらキレる、かぐやだって彩葉を他人に二の次扱いされたらそーするもんっ」

 

そうじゃない。だって私は、私自身がそうしちゃったのを悔やむ事すら出来なかったんだって。そう言いたかった。

けど口は二の句を紡いでくれない。ここに来て、かぐやちゃんの言葉に触発されたのか、沈んでいた心の臓の脈動が蘇る。その鼓動に押されて溢れてきた想いが、諦念に塗れた理性と鬩ぎ合いだした。

 

「私、は……」

「やめなって、自分を騙すのさ。そーゆーのウザい!」

「でも……!」

「じゃあ教えて!真実はさ、どうしたいの?したい事を出来ない理由って、何?」

 

やめてよ。したい事なんて決まってる。決まってるけど、私はもう。もう、それには……!

 

「……一緒に、なりたい」

 

一つ、穴が開いた。ならもう止まらない。

 

「ゲンちゃんと、一緒になりたいよっ……!!」

「言えたじゃねーの」

 

一つになりたい。あのカッコいい男の子と1つになりたい、それだけだ。他にあるもんか!

 

「でも、自信が無いんだよ!反省なんか幾らしてもし足りないのに、後悔しか無いのに、ホントに繰り返さないのかなって!私、ちゃんとゲンちゃんを大事に出来るのかなぁ!?」

 

けどそれが気がかり過ぎて。1度のみならず2度も繰り返したその過ちを、糺せる自分なのか確証が無くて。じゃあもう、そんな事故物件を大好きな彼に押し付けるなんて、そんなの絶対イヤで!

 

()()なんかに、なりたくないよぉ……!」

 

……子供の癇癪より酷い。改めて見返せば、そう評する以外無いだろう。不安を盾に、不義理へ不義理を重ねて嫌われようだなんて。自暴自棄に慕って他人を巻き込み過ぎだ、あまりにも身勝手過ぎて最早テロだ。

 

でも分かんないんだ。この不安を抱えたまま、ゲンちゃんと繋がり合うの?何食わぬ顔でそれを出来る程、私の肝は据わってない。そんなの無理だ。

 

だから教えてよかぐやちゃん、芦花。私はどうすれば良かったの?どうすれば良いの?

 

こんな私が、ゲンちゃんに何をしてあげられるっていうの?

 

 

「──ふむ。ではこのかぐや姫が、其方の往くべき道を示してしんぜよう」

「かぐやちゃん、今ふざけてる場合じゃ……」

「ポチっとな」

 

返答は単純明快だった。

かぐやちゃんが押したのは私のコントローラー、即ちスマコンの遠隔起動ボタン。刹那、視界が部屋を離れて電子の海へと吸い込まれていく。

 

「直に聞く!石実現(リアル)の“答え”をさっ☆」

 

ゲンちゃんの答え。何に対する物なのか。

それを問う暇もないまま、私の思念(いしき)はツクヨミへと誘われていった。

 

 


 

 

「……正気かお前」

「本気だ」

 

帝の慄き。正気だ、と宣うつもりは無い。

 

「狂気だな」

「かもっすね」

 

雷さんの分析。曖昧に肯定した。

 

「盲目なのは確かだね~」

「だな」

 

恋は、と言ったのは誰が最初だろうか。分からないなりに、乃依には賛同で応じた。

 

書き上げたソロパート、それに合わせてヤチヨとかぐやが書いてくれていた元の歌詞部分にも手を加える暴挙。きっと蛇足なそれは、画竜点睛にはなり得ないだろう。

けれど、手に取った歌詞カードへ目を通して、彩葉からは。

 

 

「────アンタの正解120%を引き出せるのは、アンタ自身だけってオチな訳ね」

「つまり?」

「最高。全霊をぶつけて()いやッ!」

 

満を持しての太鼓判。ならもう、何を躊躇う事があろうか。

 

ツクヨミにとっては前夜祭。どうひっくり返っても本番じゃない、所詮2の次3の次の木っ端イベントだ。

けど俺にとっては人生を賭けた最大の分岐点と言っても良い。その開幕が刻一刻と近付いている。気がブチ上がって止まらねぇ。

真実は見てくれてるだろうか。じゃなきゃ意味が無ぇが、果たして。

 

「応よ。当たって砕け散ってやらァ……!」

「ったく、どうなっても知らねぇぞ!」

 

泣いても笑ってもいざ本番。憎っくき帝達と共に、好敵手(いろは)に勢いよく背中を押され、俺は舞台へと躍り出る。




重い想い
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