酒に狂った男 作:鶏肋
「ツクヨミ?入った事無ぇなぁ」
「「マジで言ってる?!!?!?」」
アレから数日。よく分からん流れのまま作られてしまったRINNEグループで打ち明けたらドン引きされた。解せぬ。
「そりゃそーでしょ。今時ツクヨミ未プレイとか非国民だよ」
「戦前もビックリの価値観やめーや。こちとら毎回君が代絶唱してる生粋の愛国者だぞ」
『アレに熱意込めるのはむしろ敬意欠いてるんじゃ……?』
『厳かに歌え厳かに』
まぁ奇特である自覚は常日頃からあるものの、ツクヨミ未プレイってだけでそこまで言われるのは流石に心外だ。と俺の部屋でダラける真実、そしてビデオ通話で繋がってる酒寄・綾紬に抗議した。
というかなんで入り浸ってんだゴロゴロしてんだオイ。呼び方戻してからマジで遠慮捨てたなお前。こんな何も無い殺風景な
「遠慮?私とゲンちゃんの間にそんなの要らないでしょ」
そう言って起き上がるやいなや、椅子の背もたれ越しに抱きついてくる真実。俺以外の奴だと勘違いするから絶対にやめて欲しい、と切に願う。ふわふわの髪がくすぐったいんだよコレ。
『うわヤバ。真実すんごい積極的』
「んふふ〜。ゲンちゃんと彩葉が今後どうなろうと、このポジは譲れませんな」
『?』
「いや何の話だ。ったく一度甘えるって決めたらとことんなんだからコイツ……で、なんでツクヨミをそんな推してんのお前ら」
『そりゃあもう、お手軽・便利・楽しいの三拍子揃った生活ツールだからだよ石実。ツクヨミの実態とは、超広大仮想空間における表現の祭典なのです』
真実曰く、参加者全員がクリエイター。
酒寄曰く、もう一つの現実。
綾紬曰く、まだ見ぬ世界の創造。
作り出された新たな価値観は現実にも波及し、人と社会に大きな影響を与える。それがツクヨミなのだと彼女らは言う。
「特にふじゅ〜は画期的だよ。現実でも使える仮想通貨なんだけど、使えない所が本当に無い」
「あー思い出した。そのふじゅ〜が気に食わなくて食指が伸びなかったんだった」
「え゛、なんで?!」
「だって仮想は仮想だろ。なんだか泡銭のイメージが取れなくて」
生まれてこの方、実利主義に生きてきたモンだからその感覚が邪魔をする。実体を伴わない通貨を信じ切れない。お金は金属か札束に限る。バイトの給料も全部現金で欲しいけど、流石にそうも言ってられない世の中なのでこれは我慢。
と言ってはみるものの、この理由は二の次でしかなかった。俺がツクヨミを使うにあたって、もっと大きな障害があるからだ。
「それ以前に、実は俺
「「「!?」」」
──ごく稀に発見される、神経信号が常人と比べて遥かに微細な人間。そういう人は勿論網膜に流れる電流も少なく、コンタクト型コネクターであるスマコンは基準を下回った電気信号を拾えない。
俺も例に漏れずその一人で、市販のスマコンではマトモに機能してくれなかった。
「だからツクヨミには入れん。以上」
「非国民以前に入国拒否されてたパターンだったとは……」
まぁ真実が知らんのも無理無ぇよ、だって発覚したのはお前と距離置き始めたその時期だもん。6年かけて築き上げた牙城が見るも無惨に崩壊して、流石の俺も心にキてゲームへの現実逃避を試みたからなぁ……まぁ失敗して現実を直視できたからこそ今の俺がある、とも言えるか。
「んぐぬぬぬ……ゲンちゃんとツクヨミで遊びたかったぁ。帝様のライブ一緒に見たかったー!」
「残念だったな^_^」
『いやなんでそんな嬉しそうなのよ』
「お前ら俺の行動指針忘れた?この能天気食いしん坊を自分からパージすんのが当面の目標だぞ」
「離れませーん!ガムのように癒着するもーん」
「ぐえー」
『おお、脅威の粘り強さ』
思いっきりしがみついて来る真美の柔らかい圧力。羨ましいと思うか?こっちは頸動脈締まって割と厳しいんだなコレが。
────すると。ポケットのスマホが震えた。
「あ、タンマ。なんか連絡きた」
「ゲンちゃんに私達以外の連絡先?妙だな……」
「お前なぁ……まぁ概ね事実だからしょうがないけど」
モゾモゾしながら何とか取り出したスマホには「yachi8000」の通知。俺の後見人が使ってる名義だ。
その下のメッセージ欄には「必要だよね?」と一言。はて、と思えば立て続けにインターフォン。
「お届けに参りましたぁ、ご注文の最新式障がい者用スマコンですー」
「……」
「こわ」
『すご』
『石実の保護者 is 何者』
知らん……何これ……怖ぁ……。
「太陽が沈んで、夜がやってきます」
「仮想空間ツクヨミへようこそ!」
「フン、よく来たな!元気そうで何よりだぞっ」
「出掛ける前に、その格好じゃあつまらない!」
「まぁ良いだろ。お前、名前は凝るクセに外見には頓着しないタイプだしな」
「ちょっとFU〜SHI〜?」
「よし、準備できたね!それじゃあ……いってらっしゃ〜〜い!!!」
「楽しんでこいっ!」
「──ヤチヨ。ありがとな」
「ううん。これは私にとっても、大事なケジメだったから」
「おお」
おおじゃないが。じゃないが、流石に感嘆が先んじる。
一面煌びやかな、言わば「未来の平安京」と呼べる輝きの世界。そうか、これがツクヨミか。
「おっ、来た」
「ようこそツクヨミへ〜」
そして初ログイン地点なのだろう鳥居の向こう、そこにまた3人の影を目視。はぇー、お前らこっちではそんな姿なのな。鹿角に狐耳とはまたニッチというか。はたまた龍と玉藻前ってところか?
「ちょっとゲンちゃん〜、私の感想は?」
「
「ゑゑゑゑ!?めっちゃ気合い入れてキャラメイクしたのにぃ」
「そういう石m……じゃなかった、
「あ゛ぁ゛!?天狗だったのが追い落とされてザマァって言いてぇのか!ぐうの音も出ねぇわ!!」
「急にキレんな」
酒寄あらため、いろ。
綾紬こと、ROKA。
真実であるマミマミ。
そんな彼女らに連れられて、俺のツクヨミライフは幕を開けたのだった。
「そう言えばこのスカーフ、センス良いね。Re:ALが自分で付けたの?」
「いや、ほぼ初期スキンのまま行こうとしたらFUSHIとやらが勝手に」
「「…………FUSHIが??」」
どした?変な事言ったか俺。
「いや、チュートリアルでFUSHIがそんな動きするなんて聞いた事無かったから……ROKAはどうだったっけ?」
「私も全然普通だよ。キャラメイクしてから“いってらっしゃーい”の流れ。いろの場合は?」
「右に同じ。せいぜい
「え?」
「?」
「あっ」
「この話終わり!!閉廷!!!!」
・
・
・
「最高だったー!Black oni-Xマジ見る栄養剤過ぎる……彩葉もそう思うでしょ?」
『いやーキツイでしょ』
「えー!?!」
気付けば夕方。時間が……溶けた!?
って具合に濃厚な時を過ごせた。食わず嫌いってダメだねホント、とログアウトしながら一息。
「げ、ゲンちゃん!ゲンちゃんも良かったよね、オニキスライブ!!」
「アンチになったが」
「え゛ーっ!?!?」
だって隣のお前めっちゃうるさいんだもん。黄色い声あげる度になんかめっちゃ腑が煮えてくるし、その発端としてファンサ振り撒く自称帝とやらを好きになれる訳無かったわ。何だこの感情?
「うわーん芦花〜!!ゲンちゃんも彩葉も厳しぃ〜〜!!!」
「あはは……私は悪くなかったと思ってるよ、オニキス」
「やったー!もう彩葉もゲンちゃんも知ーらないっ」
まぁ俺の妙に女々しい感覚は置いといて、拗ねまくる真実に苦笑。同じく笑う酒寄と共に肩を竦めた。
とはいえもう時間が時間だ。真実には日が暮れる前に帰って貰わないと、家まで送らなきゃいけなくなる。
「じゃあ泊めて♡」
『!?』
「ダメ」
「えー。せめて送ってよー」
「バイトが控えてるんでな。ダメなモンはダメ」
暗くなった夜道を真実に一人で歩かせるとか正気の沙汰じゃない。ので、そうなる前に。
その一念が通ったのか、観念してくれた真実は「今度!ショッピング付き合ってもらうから!!」という交換条件と共になんとか帰路に就いてくれた。バレなくて良かったー。
『じゃあ私もそろそろ。芦花、石実、またね』
続いて酒寄も通信切断。ライバルの存在に無意識に気を張ってたのか、途端に全身の筋肉が弛む。
いやはや、中々に姦しい交わりだったわ。関係良好なようで何よりだよ酒寄派閥。
「また派閥って……言っとくけど私、
「こっちとしてもそのスタンスで頼むわ。じゃーな」
最後に綾紬。律儀に釘を刺してくれた彼女の警戒心に感謝しつつ、通信を切ろうとして、
「『…………』」
……わはー。見ーられちゃったー。
あヨイショ。あヨイショ。踊る阿呆に見る阿呆、ならこの光景を目撃してポカンとしている綾紬も阿呆かと言われると、絶対違う気がするので撤回。っつーか一番アホなのは間違いなく俺。
『……石実。ちょっと』
「言うな。察してくれ」
綾紬から見えてるのは俺の背後。パンパンに膨らみ、そして限界を超えたクローゼット。
そして、その中から扉を突き破って溢れ出した
いや違うんだ。ツクヨミに加入してなくとも、ライバーとしての真実の、マミマミとしての活動は野良動画サイトで見れる訳で。
それが配信される度に「相変わらず美味そうに飯食うなー」って自分の食費を投げちゃうのも当然だし、限定グッズとか出たらまぁ買っちゃうし、気に入った絵面をスクショして数枚壁紙にしたりもしてたんだ。その出費を手痛いと思えた事が無いんだ。それを今日、まさかの本人が電撃訪問してきやがったから死に物狂いで壊れないよう詰め込んで隠したんだ。
いや何も違わないわコレ。キモ。
『ガチで聞きたいんだけど、真実の事をどうしたいの???』
「どうしたいんだろうね俺は」
白目。誰か俺を心理学的に解剖してくれ。
さもなくば殺してくれ……!
石実現の正体見たりっ
異 常 真 実 愛 者