酒に狂った男 作:鶏肋
ところで今日は七夕。天の川に願いを懸けましょうかね
……か……金……!(彩葉並感(切実))
ハッキングか。
ウイルスか。
少なくとも外部、何者かからの“攻撃”である事は間違いない。問題は、そう判断するのが数拍遅れた事。
「──ぁ……っ!」
「かぐや!」
触るな!という念を込めての一閃が灯篭人間の腕を裂いた。本来なら花弁エフェクトが飛び散る筈なのに、断面から噴き出したのは現実の血液にも似た紫の液体。この時点でツクヨミ純正の存在じゃないのは明らかで。
でもそんな事より、かぐやの様子がおかしい。コイツらに触れられてから意識も虚ろなのか、力なく座り込んでしまっている。私の判断が遅れて、接近を許した所為だ……!
『『『⬛︎⬛︎⬛︎────』』』
「っ、く……!」
介抱している内に、奴らは包囲網を完成させてしまう。更に増える数、まるで無尽蔵そのものであるかの如くそれだけで私は圧倒されてしまいかけた。
でも、私の後ろのはかぐやがいる。守らなきゃいけない。守り切るまで、臆してる場合じゃない!
(手っ取り早いのはログアウト。だけど、かぐや本人がこの状態じゃ操作なんて無理。かぐやが意識を取り戻すまで逃げ回るしかない。彼女を抱えて、この数から……)
そんなの可能だろうか?灯篭人間達の個体数は既に50を優に超えた、そこから毎秒ペースで今も増えている。加えてここはライブの特設会場のド真ん中。遮蔽物も少なく、宙を受けるコイツら相手に逃走劇を演じるには不向き過ぎるだろう。
出来るだろうか?
(出来る……!)
手段はある。
「ごめんかぐや、ちょっと揺れるよ……!」
「……」
今だ反応しない私の宝物を抱き、再び顔を上げた。コイツらが何者だろうと、どんな苦難がこようとも、屈するものかって。
見上げた先に、絶望が屹立していた。
『……■■■』
灯篭人間じゃない。体躯は少なく見積もっても3mはあるか。そんな巨人が、いつの間にか目の前に立って、私達を見下ろしていた。
単純な大きさに気圧されたのは勿論ある。仮想世界と言えど現実の感覚を流用している以上、人間の範疇を超えたスケールを目の当たりにすればビックリするのも当然だ。
(……ない……)
でもそれだけじゃなかった。それだけだったなら、どれほど良かったか。
目にするだけで分かる存在感、威圧感。私の中の大人になり切れない部分、子供として庇護を求める甘ったれた心を強制的に引き摺りだされるような。
肌に奔るビリビリとした感覚が。それを受けて現実で立つ鳥肌が、私にこの存在を教えてくれる。
(
隔絶した存在であると。
私達を逃がしてはくれないのだと。
遥か天井から、私達を制する上位者なのだと。
(むり、だ)
その事実を前に、抗う前から心が折れた。知らずキーボードブレードが手から滑り落ち、膝が折れる。その場に座り込みそうになる。
2カ月前の自分ならそうなっていただろう。
「──ぁぅ──?」
「!」
でも、やっぱり、愛する人が後ろにいた。
私が奮い立つには、それだけで充分だった。
(かぐや……!)
俯いたままの彼女へ覆い被さるように抱き締める。抵抗は無意味、そうと分かっていても、コイツらの視線から出来る限りかぐやを隠すように。
その上で、なけなしの勇気を振り絞って、巨人を
でもそこが限界だ。一定以上の無謀を冒せば、その揺り戻しが来るのも当然の帰結で。
『■■■』
「……っ!!」
巨人の腕が伸びてくる。ぶり返した恐怖に顔が引き攣る。
やめて。来ないで。
かぐやを連れて行かないで。
私から、この子を、奪わないで。
(誰か……!)
ヤチヨ!
お兄ちゃん!
お母さん、ナオさん!
芦花!真実──
(現……!!)
助けて。
目を瞑り、暗闇に閉じた世界。視角を捨てた結果、いやでも鋭くなる聴覚。
だからだろう。包囲網の外、ステージの床に、誰かが降り立ったその音を聞き取れたのは。
「ザケんッ、」
『!?』
次いで、声。
今しがた求めた助け。それに応えてくれた怒号を耳にして、目を見開けば。
「なァァァアアアア!!!」
彼は、来てくれた。
雷速の一撃で、私の絶望を蹴り飛ばしてくれた。
手持ちの障がい者用スマコンは全滅。どれも機能不全、碌に接続しやしない。
けど幸運にも、隣に真実がいて助かった。彼女が持ってた予備のスマコンを借りる事でやっとツクヨミへの復帰に成功する──本来、俺の体質じゃ通常スマコンは使えなかったが、そこは
兎にも角にも舞い戻ってきた特設会場にて、俺は再度空を蹴る。跳び上がった先、辿り着いたステージ上で──かぐやは既に動いていなかった。
出遅れた。しくじった。かぐやがやられた?誰に?
彩葉が絶望している。アイツが恐怖に怯えている。俺がかつてそうさせてしまったのと同じ瞳で、誰を見上げている?
巨人。
灯篭共。
テメェか。
テメェらが、やったのか!
「ザケんなァァァアアアア!!!」
本能が叫ぶ。コイツらを許すなと。男として、大事な
そんな魂の絶叫を乗せた跳び蹴りはクリーンヒット。灯篭共の包囲網を貫通して巨人の脇腹に突き刺さり、触れた奴ら全員を一緒くたに吹っ飛ばしてみせた。追撃はしない、そんな余裕が出来る程まだ事態は好転しちゃいないから。
「いし、みっ」
「テメェもテメェだッ」
反動に任せて着地、振り向きざまに彩葉へと短刀を投擲。彼女の背後に迫り来ていた灯篭人間2体の頭蓋を貫通し、他諸共なぎ倒す。
「ボーっとしてんじゃねぇよ、お前はかぐやの盾だろが!」
「……!矛は、お願い!!」
「上等ォ!!」
アイツが立ち上がれば話は早い。かぐやへと伸びてくる手を彼女が切り払い、そして手を伸ばそうとする奴らを俺が討つ。一人一人は帝どころかモブミニオンに並ぶ雑魚で、俺と彩葉が1F1殺で無双し続ける事で拮抗状態まで持ち込めた。
……そう、
(最初は観客のアカウント乗っ取りだったのが、途中から細胞分裂みてぇにネズミ算式で増加してきやがる!増えた分を削るので精一杯だな……!)
そしてその拮抗も長くは続かないだろう。彩葉の限界がタイムリミット、後は数に押されてかぐやが連れてかれて終い。そうなる前に状況を打破しなければならない。
「ここは抑える!かぐや連れてログアウトッ」
「ダメ、かぐやが起きない!」
「ンなもん現実でスマコン外しゃ済む話だろうが、状況考えやがれ!!コイツら
「……!!!」
そこは1を聞いて100を掌握する酒寄彩葉、今の一言で全てを理解してくれたらしい。
次に出てきた言葉を聞けば、そう讃えるのも理解してもらえるだろう。
「じゃあ──猶更ダメだよ!現実じゃなくて
「!……っ、ツクヨミで留まってる内が吉って事かッ」
下手に逃避して、戦線が拡大すれば収拾がつかなくなり、被害も拡大する。ただでさえ相手が未知極まるのに、他の手段まで手を出されたらこっちの対応が追い付かない。
なら、まだ勝手の分かるツクヨミで・ツクヨミのルール内で殴り合い続ける方がマシだという判断か。撤退ばっか考えてた俺の雑頭じゃ思いつかなかったよ、サンキュー超人!
「なら今この局面をこそ打開する、それだけが勝ち筋ってワケだな?!」
「そうだけど……うっわ、来た……!」
彼女の呻きに目を遣れば、その巨体に見合わない身軽さを漂わせてステージへと復帰してきた巨人の姿。その体躯は僅かに電撃のエフェクトを纏っていて、俺の狼藉にちょっと“おこ”な具合を見せていた。
「問題は、今この局面を打開できる
「いや、
「へ?」
良いじゃん電気。俺もいっぱしの
そう思いながらイメージするのは心臓の拍動。と、脳内に流れる思考パルス。この二つを同期させて、スマコン越しにこのアバター体へ反映させる。
人体の意識を構成する電気信号を、その出力をこの仮初の肉体へ。形を持たないそれを練り上げては装填し、蓄積し、また仮想の心臓へと溜め込む作業。
「……何その体内電気。鬼太郎??」
「ヤチヨを吹っ飛ばした技だ。これで月の奴らを一掃するッ」
「待って待ってそれ確か範囲攻撃じゃなかった!?私達も巻き込まれるヤツじゃん!!」
「心配すんなァ
帯電し始めた俺を見て心配になったんだろうが、俺とて無策じゃねぇよ。お前らを巻き込まない算段は付いてっから。
何故かというと、そもそもこれを始めて発動した時。トリガーになったのは、飽くまで“排他”の感情だったから。広げた自分の領域、その中に他者を許さないという強い思念が具現化したもの、それにこそ暴発したあの攻撃の真髄はある。
なら。受け入れれば良い。
もう大事なのは真実だけじゃない、彩葉とかぐやだってそうだ。なら最早、2人を自身の裡へと受け入れる事に何の苦難も無かった。
「3」
心臓に溜まり切る。迫る限界に意識が
それを隙と見たか、巨人が灯篭共に指示を飛ばして進軍。
「2」
でも倒れない。ここで斃れたら
「1」
だからテメェら。
全員、ここで死ね。
「──────ッ!!!」
最初の時にやったような雄叫びは要らなかった。無駄な力を省いて、それさえも威力に変えた波動が解き放たれる。ヤチヨの時には無かった、明確な殺意と共に。
目論見通りに彩葉達を何事も無く透過したそれは、しかし灯篭共が触れた瞬間にその総身を焼け爛れさせた。敵視した奴にのみ作用する熱波は、当たった面のポリゴンを消し炭にも似た黒の粒子へと変換。消し飛ばした断面から噴き出る
物理的な威力も多少ともなっていたのか、巻き上がる粉塵に閉ざされる視界。その中で俺は、確かな手応えと共に、酩酊に抗っていた。
(……やった、か……?)
「り……Re:AL!大丈夫なの!?」
霞掛かった思考で見回せば、灯篭人間は全員地に這いつくばってのたうち回っている。んで彩葉は……良かった、無事だ。かぐガキはまだ
「ログアウ……算段……つk……」
「そりゃアンタもでしょうが!!真実、聞こえる?現を今すぐ──」
いけねぇや、例の底の抜けた浮遊感が手強過ぎて立ってられやしねぇ。彩葉に凭れ掛かっちまって、あーあー帝にキレられるわこれ。真実にも謝らなきゃ。綾紬は……分からん、どんな顔すんだろ。きっとかぐガキは文句言うだろ、多分。
ともかく、早く治して、自分で立って、かぐやも起こして。それで次の月の攻撃に備えるべく、準備を……
……やば。
「ッ、離れろ!」
「え?」
急激にハッキリした意識は、異常分泌された脳内麻薬による物。それだけの危険信号が脳を、スマコンを駆け巡ったから。
それによって彩葉とかぐやを突飛ばした、その瞬間。
……揺れた。
「カは……ぁ゙……!?」
何をされたのかてんで分からない、ただ気が付いたら
でも立ち上がれない。ダメージの所為だけじゃねぇ。俺を叩いた拳が、今もこの総身を上から押さえつけていやがるから。
(コイツ、なんで……?!)
『■■■……!』
巨人。波動攻撃をその一番広い体表でモロに喰らった筈。なのにどうして動ける。
や、よく見ればダメージは0って訳じゃなかった。いつぞやのヤチヨがそうなったように、迸った稲妻に前進を罅割らされて……でも表面だけだ。赤と紫の血を今も垂れ流してるけど、致命には程遠い。
単純なHP総量とかそういう問題じゃねぇなコレ。コイツ、何らかの手段でこの波動攻撃を予め知って、
『■!■■!!』
(またっ、この……!?)
もう片方の手で、今度はスレッジハンマーの要領で打ち下ろされた拳に再び揺れる。何だこの攻撃は。俺は何処を、
物理的な物じゃ当然ない。このツクヨミで、スマコン越しに脳髄を揺らされている。正確には、意識そのもの……意識を、直接?
まるで殻の厚い卵だ。叩かれれば中から揺らぐ。外殻に走る衝撃が内に伝わって、それに中身が耐えられない。
今度こそ意識が明滅する。次はきっと耐えられない。コイツを倒さなきゃいけないのに。
「──リアル!」
かぐやの声が聞こえた。ああそうだ。お前を守んなきゃいけないんだ。お前の為に、お前を想う彩葉と真実の為に、お前らを大事に思う俺自身の為に。
だから。
だから、テメェを、ここd