酒に狂った男   作:鶏肋

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お待たせしました。かぐやの真・誕生日に間に合わせる筈が、何故か遅れに遅れて作者の誕生日になってしまった鶏肋です

という隙自語は置いといて、本編どうぞ。そしてかぐや、誕生日4日目おめでとう!(ヤケクソ)


真実、憂う

最高のライブの後に起きた、最大の事件。ツクヨミの鉄壁を貫通してきた闖入者との邂逅、或いは遭遇。そして対峙。

あの灯篭型の存在は何だったのか。風神雷神の片割れみたいな巨人は何者だったのか。

 

答えはただ1つ────月。

 

かぐやちゃんを迎えに来た彼ら。

その中でもあの雷神みたいな巨人は、怖くて。彩葉が一時は抵抗を諦めるくらい、そしてゲンちゃんの攻撃を歯牙にも掛けないくらい、強くて。

 

平安時代、姫を守ろうとした朝廷の武士達も同じ気持ちだったんだろうか。アレほどの威容を前にして、心が折れたから、掴んだ弓矢を引く力を失ってしまったんだろうか。

 

そんな彼らの力を、モロに喰らった、ゲンちゃんは?

 

「ゲンちゃんっ、大丈夫?」

「まーな」

 

叩き潰されてた恋人を心配すれば、なんて事なかったかのように彼は笑って応えてくれた。いつもなら頼もしさと格好良さに惚れ惚れしていた所だけれど……けど今回ばかりは、それでも心配が上回る。

 

「じゃあ、まずは病院行こ。あの変なビリビリ攻撃でどんな後遺症あるか分かんないし……あっそうだ、かぐやちゃんも。月の人に触られてから動けてなかったよね?まず彩葉に無事か聞かなきゃ、それと芦花にもえっとえっと」

「慌てなさんな。かぐガキなら……そら、まごついてる間に来たぞ」

 

そんな私を揶揄うように、ゲンちゃんが見せてきたのはスマホの画面。私と同様に不安に駆られたのだろう芦花の問いかけに始まり、対するかぐやちゃんの「ダイジョブ!」というあっけらかんとした返信が写っている。とはいえあの有様を見ておいて、素直に信じられるかというと……ではあるけれど。

 

「何よりだけど、でも診て貰うのはまず第一だよ。何があるか分かんないし」

「バーロ。かぐやを受診なんてさせて万一にも正体バレてみろ、世間が吃驚仰天して対策どころじゃなくなっちまうわ」

「あ……!っ、でも」

「それより先に、取り敢えずだ」

 

ここでハッとさせられる指摘。確かにかぐやちゃんは厳密には人ではなく、今このタイミングで公的機関に頼ってしまえば事態が更に拗れること請け合いだろう。自分達で収拾できる範疇に収まらなくなってしまう──けどそれはそれ、これはこれだ。2人が今本当に無事なのか、これからも無事なのか、まずはそれを確かめたい。

けどそんな私の想いを敢えて無視するかのように、ゲンちゃんは明後日の方向を向く。その先にあるのは綺麗な水を湛えた、けど何一つとして生命のない気配を漂わせる水槽だった。

 

「どっこいしょ」

「何をするの」

「あーそうか、言ってなかったな」

 

はて、どこからどこまで説明するか。その事に迷う素振りを見せてから、数拍置いて彼は「シー」のポーズ。

 

「スマコン起動しろ。あとコレ、彩葉には内緒で」

「……?」

「FUSHI、出て来い」

 

ふし?私の知る“ふし”と言えば勿論ツクヨミのFUSHIだけど、多分今この状況とは関係ない。じゃあ何だろ、不死?富士?無事?武士?いやどれも水槽から出て来るワケ無いし、ひとまずやっぱり彼氏の脳に後遺症が残ってる可能性を疑u「いるさ。最初から」えっ。

 

「……え、ホントにFUSHI??」

「モノホンのFUSHIだよ。つーか他にいねぇだろFUSHIは」

「彼女が聞きたいのはそういう事じゃないと思うが……」

 

フワリ、というよりホンワリ?そんな擬音を立てるように柔らかく水槽のフタへ降り立ったその姿に、思考が一瞬止まった。ホントにFUSHIだ。えっなんで???

 

「なぁFUSHI」

「言わんぞっ」

「まだ何も質問してねぇよ」

 

一時停止を食らった私を差し置いて気易く話し出す両者。その光景のファンシーさと、1分前までの事態の緊急性からの落差に、脳内の混迷は更に加速していって……

 

「……え~と。ごめん、まず二人の関係について聞いて良い?」

「「友達」」

「うん、その息の合いようを見るに間違いなさそうだね」

 

ならもうそういう事でいっか。

という思考停止を以て、ひとまずの落ち着きを迎えたのだった。

 

 

「FUSHIは俺のお目付け役だ。後援者であるyachi8000──あっこれ正体ヤチヨな──が俺のサポート役として使わしてくれた。ザッと20年弱の付き合いになるかな」

「コイツがオムツ替えてる現場にも立ち会ったぞっ」

「待って、早速情報量が多い」

 

という訳にもいかないらしく、叩き込まれる前提に再び頭がクラクラ。え、なに?ゲンちゃんが前に“ヤチヨは俺の母親だった”とか嘯いてたのはガチで、FUSHIが幼馴染……ってコト?!8000年分の記憶と同等量の負荷で頭どうにかなっちゃいそうだよぉ!

しかも言ってる事が本当なら、FUSHIって私よりゲンちゃんとの付き合い長いじゃん!私じゃなくてFUSHIの方が幼馴染じゃんっ!!ジェラシー、妬ましい、羨まし!恨めしい!!!

 

「お詫びに“石実現@3歳_寝顔”の写真をアカウントに送っておくぞ」

「何でもお申し付けくださいFUSHI様」

「お前らなぁ……」

「……うん、もう大丈夫。話を逸らしちゃってごめんね」

 

ここで流石に、ちゃんと理性的に落ち着けた。抑えておくべきポイントは分かったから。

 

1つ。ゲンちゃんとFUSHI、そしてヤチヨの間には深いつながりがある事。

2つ。ヤチヨ達は今回の闖入者である月人達について、何か知ってるって事。

 

この2点。そうでしょ、2人とも?

 

「ゲンちゃんは無意味な事は決してしない。そしてFUSHIだって、呼び出しを無視せずに出てきたのはゲンちゃんに何か申し開きが必要だと考えているから。違う?」

「……ご名答。良い女を捕まえたな、現」

「俺がまんまと捕まったんだよ。全く敵いやしねぇぜ」

 

褒めそやしに内心照れながら、けれどFUSHIから目は逸らさない。笑みを浮かべつつも鋭い視線を揺らがせないゲンちゃんと同様に。

だって、かぐやちゃんを守れるかどうかは目の前の存在に懸かってるんだから。

 

「んじゃ改めて聞くぞ。お前、知ってる事あるか?あったら全部吐け」

「……言えない」

「お願い、FUSHI。教えて」

「ごめん。それも言えない」

「ハッ、取り付く島も無ぇな」

「…………」

 

けれど反応は芳しくない。それをFUSHI自身も心苦しく思ってくれているようではあるけれど、私達からすれば死活問題。ハイそうですかと引き下がるには重大過ぎる。

それを汲んでくれたように、FUSHIは重い口を開いた。

 

「ボクがここに来たのは、せめてもの“誠意”と“約束”の為だ」

「約束?」

「明かせることは多くない。というか殆ど無い。けれど──()()()()()()()って事。お前達にとって、悪い結果にはならないと、そう誓う」

 

ベスト?私達が何も知らないでいる事が、私達にとって?

私だってもう17歳、知らない方が幸せな事だってある事は分かってる。でも納得できるかは別の話だ。

 

「でも知りたいんだよ。それさえもダメなの?」

「っ……ああ。実の事を言えば、ボクもヤチヨも知っている事は少ないんだ。そしてお前達はいわば“変数”。下手に関われば、ボク達の“既知”は“未知”になりかねない」

「そんな……」

 

けれど食い下がりに応えられない理由を連ねられ、そしてそれを説き伏せられるだけの論理を私は持ち得ない。一寸先は闇という言葉通り、本当に星明かり一つ無い夜道に取り残されたような気分にさえなる。

見えない。道が、未来が。進むべき導が。

 

「聞き方を変えるか」

 

その中を手探るのは自分の役。そう言わんばかりに、次はゲンちゃんが切り込んだ。

 

「FUSHI。俺らの仲だ、こっちの性格は分かってるよな?」

「……それがどうした?」

「やらかすぞ」

「?!?!」

 

これには隣の私も面食らう。だって今ゲンちゃんが言い放ったのは、質問の息を通り越した“脅迫”だったからだ。

()()()()()()()()だなどという悪意。それをぶつけられたFUSHIは勿論、私にだって看過出来る物じゃない。

 

「ゲンちゃん、ちょっと……!」

「まぁ聞けって。故意性を匂わせたのは悪かった──けど考えてもみろよ、俺達ゃとっくの昔に()()()()()()んだぞ?月からの使者、かぐやに迫る脅威、ヤチヨの暗躍……ヤチヨに頼らずとも、各々で取れる対策もあるだろうさ。それこそがお前の言う“変数”になり得ない可能性がどこに在る?」

「!……手段を選ばせたければ、情報を開示しろってか。吹っ掛けるようになったな」

「お前らの教育の賜物だよ、喜んでくれや」

 

ゲンちゃんは制して言い直したけど、内容はやっぱり脅しに他ならない。でも賛同できる部分はあって、心苦しいけれどそれに便乗してみる事にした。

 

「うん……うん。私達だって、作戦を練るなら出来る限り効果的な物にしたい。そしてFUSHI達は不確定要素を排除したい。なら情報共有は絶対必要だよ」

「真実、無理に乗っかんな」

「ううん。私にも首を突っ込ませて」

 

妥協点を探せ。足がかりを見つけて手を伸ばせ。

FUSHI。ここまで話して、あなたが単なるプログラムじゃない事は分かってる。きっとヤチヨも同じで、あなた達は(れっき)とした存在であり生命なんだろう。

だからこそ、私達に歩み寄らせてよ。私達に歩み寄ってよ。お願い……!

 

「……まみまみ、それは……」

「一応聞くがFUSHI。この局面でも、お前に取れる手があるよな?」

「!」

「へ?」

 

私の願いを、それでもFUSHIは拒もうとする。けどその直前に、割り込むような彼に一言。

 

「とぼけんなよ。前のミニライブで俺にやった、アレ(記憶消去)だよ」

「……ああ。けど、それがどうした」

「俺にやるのは別に良い。簡単にやられるつもりは無ぇけど、結果的にそうなった(記憶が飛んだ)って文句無しだ。そん時ゃ俺が雑魚だったってだけの話だしな」

「待って、何の話?アレって何?そうなった、って??」

「お前にゃ関係無ぇよ。だが────

 

真実にやった瞬間、俺はお前らの“敵”になるからな」

 

やっぱり私関係あるじゃん。

 

そう呟こうとした口は、しかし止まる。FUSHIが只ならない形相を見せたから。

 

「ッッ……お前が、明確に、敵に……!」

「FUSHI?」

 

その震えは恐怖か、怒りか、はたまた演技(ブラフ)なのか。素人の私には見抜きようも無くて、だからこそその鬼気迫る様子に圧倒されてしまう。それをゲンちゃんは、真正面からじっと見つめるのみ。

顰めた表情の裏でどれ程の逡巡を経たのか。時間にして約60秒後、FUSHIは顔を上げた。その瞳には、凄絶な覚悟の色が滲んでいた。

 

「分かった。金輪際、まみまみに記憶消去はしない。それがお前の尊厳だというのなら」

「そうかい。サンキューな」

「けど交換条件だ────当日、お前のアカウントはロックさせてもらう」

「え……!?」

 

突然の追放宣言。いやツクヨミの管理者に脅迫なんてしたんだから当然ではあるのだけれど、でも当日とはいったい……いや、そんなの決まってる。月サイドが仕掛けてくる日の事だ。

そんな瀬戸際の一線から、ゲンちゃんを弾き出すなんて!

 

「だろうな」

 

でも物申そうとした私とは裏腹に。

ゲンちゃん当人が浮かべていたのは、微笑みで。

 

「ありがとう」

 

そう、頭を下げたんだ。

 

「……何に対する感謝だ?」

「色々諸々。強いて挙げりゃ、まず脅した事への謝罪だろ?その上で便宜測って貰った事への謝礼だろ。他にもまぁあるけど、全部含めてだ」

「雑だな。相変わらず」

「でも本気の感謝なんだぜ?……ここまで譲歩してくれて、ホントありがとな」

「……フンッ」

 

それを受けて、FUSHIは強がるように鼻を鳴らす。体を透けさせながら。

 

「最後に言っとく。お前らは何もするな。他ならないお前らの為に」

「聞けねぇよ。それを判断するのは俺達だ」

「だろうな。じゃあせめて、」

 

後悔するなよ。

 

それだけ言い残して、彼は去ってしまった。私達に取っ掛かりの一つさえ残してくれずに。

 

 

……どうしよう。ゲンちゃんは内緒って言ったけど、やっぱり彩葉達にも伝えるべきなんじゃ。

でも、伝えてどうする?FUSHIが、ヤチヨが敵かも知れないだなんて、ただでさえ択の少ないこの状況で明かしたところで何になる?ただ焦りに視野を狭めるだけなんじゃ……。

 

(結局、私に出来る事なんて)

 

なに、ひとつ。

 

 

「コラ」

「ぁわぷっ」

 

貧すれば鈍する、を体現していた私ん思考回路を軽い衝撃が叩き飛ばす。その根本を担ったゲンちゃんの手刀が、私の頭頂に置かれていた。

 

「独りで煮詰まってんじゃねぇ。状況自体は何一つ変わり無いんだ、こっからだろ」

「……でも、ゲンちゃんだって当日のログインを封じられちゃったじゃん」

「ンなもんあそこで約束されずとも決まってた事だろーが。むしろ進展だぜ、今論議だけでどんだけ貴重な情報が手に入ったか」

「情報?」

「まぁそれは後々擦り合わせるとして、な」

 

ここで再び頭に感触。今度は衝撃ではなく、ただただ優しく柔らかい掌。

 

「心配すんなよ、真実」

「……!」

「俺がいる」

 

 

……嗚呼。

 

心配しか無いのに。

不安要素は山盛りで、前途なんて見えやしないのに。絶望しかなかった筈なのに。

 

「俺が全部────月から来た奴等なんか、それこそ月までブッ飛ばしてやるさ」

 

この手の温かさがある限り。

大丈夫だって、そう思えてしまったんだ。

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