酒に狂った男 作:鶏肋
得た情報その1!多分このままでもそう悪い事にはならない!
これは莫迦正直にFUSHI、延いてはヤチヨ陣営の言い分を信じた上での判断。根拠は端的に言って信頼、言ってしまえばそれだけ……とはいえ、10年強育ててくれた実績と恩から得た核心だ。主観的には覆しようが無ぇな。
月人の干渉・侵攻は限定的な物で禍根は残らない。ただかぐやを連れて行かれるだけ。俺達の生活に支障は出ない。FUSHIの言を信じるならそういう事。
ああ、信ずるに足るな。アイツが言うなら間違い無ぇわ。にしたって全面黙秘は困るし腹立つけど。
得た情報その2!それを一番台無しにし得るのは俺の存在!
FUSHIは最初、俺達全員をひっくるめて“変数”つってたけど実情は違う感じだったからな。
俺が「やらかす」と仄めかした時・「敵になる」と宣言した時、明らかに動揺の具合が違い過ぎた。アレが演技だってんなら舌を巻く他無いけど、それこそ10年来の付き合いだしそこは見抜ける。多分アレはガチ。
だからまぁ……俺が動けば、状況はきっと変わる。俺が鍵。自惚れに近い自己認識な上に、その変化が上等かそれとも悪手かも分からんから、そこは慎重に動かんとダメとはいえ。
あと俺がキーマンだってんなら必然的に……コレは今考えなくても良っか。
まぁだから先んじて当日ツクヨミ出禁って形で先手打たれちまったんだけどな。いや~どーしようかねホント。何も分からんまま9月12日を迎えて「あっ君の席無いから」と弾き出されるよかマシ、と考えるべきなんだろうけども。
得た情報その3!特に無し!
うん。真実の手前、見栄張ったけど実はこんだけ。他はからっきしってな、ワハハ。いやぁ参った参った。
(──って、笑い事にも冗談にもならねぇよ)
FUSHIから得られたたった2枚の手札、コレを元手に今後の暴れ方を決めなきゃいけない。そしてそれを成功させなきゃいけない。
なんで?悪い事にならないなら足掻く必要は?成功条件は?目的は?
決まってる。かぐやの在留、それ以外あるか。
(約束しちまったからな。バーガンディの叔父貴と)
“温もりと思い出に埋もれさせてやる”、と。その為に、やれることを“やるだけやる”のだと。
それは断じてあの灯籠共にかぐやをくれてやる為じゃねぇ。例えその行いがどんな蝶の羽搏きを齎し、ヤチヨ達が描いた素晴らしい未来をどんな形で阻む事になろうとも、ただ与えられた運命を享受するために大事なモン差し出すだけの存在に成り下がれば……そこには、尊厳の一つだって残りはしないから。
俺達は人間だ。
見えてる
だから、示すんだよ。上の次元でふんぞり返って、人様が築き上げたネットの海を我が物顔で踏み荒らした月の奴等に。黙ってやられるだけの存在な訳が無いだろと、俺達が持ち得る総てを以てして。
あのガキがガキらしく生きていけるように、この命さえも燃やして…………!!
(まぁ今ギラついたところで何も変わんねぇんだけどな)
月側が慢心してるフリして奇襲でも仕掛けてこない限り、タイムリミットはえーと……今日が8/31だから、ジャスト12日。ガチで勝機を掴みに行くなら今日から1週間以内には情報収集・方針決定・作戦立案までは終わらせときたいとこだなぁ。今はその第1段階、情報収集のターンだから興奮したって無意味無意味。
という訳で現在、立川の空を跳んでるのが現状だった。行き先は彩葉とかぐやの家。目的はかぐやへの事情聴取。
昨日は2人のライブ疲れも鑑みて話を聞く事は出来なかったが、先延ばしにしてる余裕も無ぇもんでな。彩葉は夏期講習だから居ないものの、俺個人が訪ねて直に話を聞くなら何の支障も無ぇだろう。
「つーワケで邪魔すんぞ~」
……20秒待っても応答無し。
「かぐや?」
ドアの向こうに気配はある。居るのは確定……いや待て。
(
かぐやだけじゃねぇ、他にも誰かいる。来客?彩葉がいない時に招き入れるか?
「──あ。ごめんリアル!すぐ開けるっ」
と思っていたら中からやっと返事。その焦りを浮かべた声音に猜疑と安堵を抱きつつ、かぐやが招き入れた馬の骨のツラを拝んでやろうとその時を待った。
「いやぁ悪いね、ちょっとボーっとしちゃってて。今お茶淹れr」
「うっわ月の奴らじゃん」
ビックリした。
「はぇ?」
「いやお前の後ろ」
『!』
なーんだ。誰かと思えば灯篭人間じゃん安心して損したわ。9/12は嘘予告で、彩葉がいねぇ内にかぐガキを回収しに来たってワケね。上位存在様ともあろう方々が何とも余裕の無い騙し討ちをしたモンで、はれ~参考になりますなぁ。
って、なに寛いでんの?ふざけてんじゃねぇぞコラ。
「殺す!」
「わー!待って待って待って落ち着いてぇ!!」
『!?!!?』
彩葉が塾に行った直後から見えていた月の皆。各々が各々、景色を眺めるなりソファの感触を確かめるなりして、けど私に直接干渉してくる様子は無く。
恐らくは私への監視かな?まぁここまで来てまた逃げられでもしたら大事だもんね、それはこっちも分かってる。逃げないよ。
とはいえこちらとしても驚いちゃって暫し放心。そしたらインターフォンが来客を告げて、反応が遅れて、急いで見たらリアルで。
ここで変に誤魔化したら話が拗れそうだから、いっそ部屋に入れちゃう事にした。まぁ大丈夫でしょ。スマコン越しじゃなきゃ見えない見えない、うん大丈b「うっわ月の奴らじゃん」えっ。
「殺す!」
「わー!待って待って待って落ち着いてぇ!!」
『!?!!?』
見えてたみたい。裸眼なのに!
そのまま止める間もなく跳躍したリアルは、ライブで見せたみたいな鮮やかな跳び蹴りで月の皆を強襲した。慌てふためいた皆は碌に回避姿勢を取ることも出来ず、或る子はひっくり返り、或る子はソファに飛び込み、或る子は呆然と立ち尽くし……けれどリアルの蹴りが手応えなく
「ンだぁ?!実体無ぇのかコイツらッ」
「ストップだよリアル!戦っちゃダメ!!」
「あ゙!?了解!!!」
勢いに反して、部屋の内装に配慮してくれたのか何一つ傷付ける事無く軟着陸……いや着壁?してくれたリアルに呼びかければ快く返答。何かリアルにしては物分かり良過ぎる気もするけど、無為な争いを止められてとりあえず良かった……と思ったのも束の間、今度は私の総身を浮遊感が襲う。
「久方ぶりのパルクールだ。楽しんどけっ!!」
「えええええええ?!?」
『~~~~~!』
急接近からの御姫様抱っこ。これは良い、真実に怒られるかもだけど。
でも……そのまま窓から飛び出したぁ!??
「落ちるぅ~~~!!!……あれ。落ちない」
「ったりめぇだろ俺空気蹴れるんだから。でも人抱えてやるのは初めてだしすぐ降りるぞ」
でもそこは流石のリアル。いつぞや見せてくれた空中疾走で、地上からの視線を切りつつ徐々に高度を下げて行く。はぇ~すっごい、いよいよ人間離れしてきたねぇ。いや割と最初からか。
「……じゃなくて!何してんの降ろしてっ」
「下ろす訳あるか、戦えないなら逃げ一択だろ!」
「だから逃げる必要無いんだってばー!」
「必要しか無ェわ!かぐガキ改めバカガキって呼ばれてぇか!?」
「誰がバカか誰がっ~!!!」
ノーダメージな事を承知で、懐でポカポカ暴れる事数秒。必死の抵抗の末に「このままじゃ危ない」と判断させることにやっと成功し、私は地に両足を着ける事が出来たのだった。
「で。結局どういう事なんだよ諸々」
で、今。真正面からのタイマンでかぐやは問い詰められているってワケ。
場所は思い出のパンケーキカフェの個室席。でもなんでだろうね、今食べても味する気がしないや。
「ん~とねぇ。何処から話そうかなって、かぐやも悩んでるところというかぁ」
──そして何より困るのは、本当にどこから話せばいいか分かんない事。月の事、月の皆の事、月から来た私の事、そもそも便宜上“月”って呼んでるだけで実際には月というより月の向こうにかぐや達の世界が……ああもう、思考がこんがらがる。こんなの初めてだよ。
(言わなきゃいけないって分かってるのに)
誠実でありたい。私をずっと見守ってきてくれた目の前のリアルに。だからこそ言葉を選んで、今最も求められている事を……
「あ゙゙ー。
「へ?ま、待って!すぐ言うから、えっとねえっとねまず厳密には月じゃなくて満月の波長を次元ゲートに見立てたその256m/fの揺らぎの彼方に特異点があってそれでねそれでね」
「
そう慌てふためく私を、他ならないリアルが制した。
「何も根掘り葉掘り聞きたいワケじゃねぇんだ。つーワケでYes/No/黙秘で頼む──まず1つ目。アイツらはお前と同じ月の民、って認識で合ってるんだな?」
「……うん」
「2つ目。部屋にいた月の民はお前と彩葉に害を与え得るか?」
「ううん。それは無いよ」
「なら3つ目。帰るのか?」
「──っ」
「オーケー。だいたい分かった」
そのまま矢継ぎ早に端的な質問。黙秘を択に入れてくれたのは私への配慮に他ならないって、かぐや自身分かっている。
ねぇ、なんで?どうして?
「……もっと聞きたい事、あるんでしょ?」
「無いっつったらそりゃ嘘だ。が、言えねぇんだろ?」
「言えない訳じゃ、無いけど」
「でも窮した。そこに無理に踏み入る気は無ぇよ」
なんて事無い、みたいに彼は笑う。心配するなって、そう言外に伝えるように。
「そもそもの話、お前の秘密を最初に知るべきなのは、きっと俺じゃない」
「!」
「もっと素直な言葉で、言いたい事をスルッと口滑らせるみたいに明かせる相手がいる筈だ。ソイツに任せるさね」
だから、と彼は言った。届けられたパンケーキを豪快に呑み込みながら、私へ釘を刺した。
「お前の誠意は、
事情聴取、失敗!
いやぁ想定外のてんこもりでそれどころじゃなかったわ。月の連中が何食わぬ顔で居座ってるのマジで心臓に悪過ぎるっての、物理攻撃無効なのも厄介過ぎるし。まぁそもそもスマコン付けてない裸眼で見えた所から既におかしいが。
(まぁ、かぐや曰く只の監視らしいし、家の外から見守ってもらうよう頼むらしいから彩葉達のプライベート問題は解決って事で良いだろう。連中が反故にしねぇ限りは、だが)
けれど油断は出来ない、出来る余地が全く無い。奴らが何かを仕掛けてきたとして、今の俺達に反抗手段が無いからだ。あの
何一つとして抵抗手段が無いという事。それはつまり、奴らの匙加減次第で俺達はどうとでもなっちまうことを意味している。そんな立場の奴に選択肢も尊厳もある筈が無い。
じゃ、どうするか?
(……手は……)
……
「っとと、その前に真実に連絡だ連絡」
でもまずやるべきはそれじゃねぇ、先にかぐやが彩葉へ諸々を明かしやすくする場をセッティングしてやらなきゃな。ああ忙しい忙しい。
それはズバリ、俺が今歩いている土手で開催される花火大会。“コラボライブお疲れ様”という名目──いや実際労いこそが本来の目的だったんだが──でアイツらがが2人きりになる場を設けてやるって寸法だな。綾紬の情報網に感謝だぜ全く。
「さァて……足掻くかぁ」
餅は餅屋に、女子の事は女子に。後の事は託して、俺は俺に出来る事を。
死力を尽くせ。総力を費やして、愛する者の世界を守れ。それを輝かせる火種となれ。
そうなれなかった・在れなかった雑魚の惨めさを、
「アンタみたいにゃならねぇよ、雑魚親父」
だから安心して、地獄から