酒に狂った男 作:鶏肋
まぁちいかわを3連視聴しに行く程度の余裕はあるし大丈夫やろ(適当)
────かぐや、引退。
僅か1ヶ月で世間を風靡した弩級の超新星ライバーの突如とした発表に、日本は少なからず揺れた。かぐやを知る人ならば猶更の事。
「……本当に、帰っちゃうの……?」
綾紬芦花も。
「待て待て待て!何があったんだよ、かぐやちゃん?!」
酒寄朝日も。
『ゲンちゃん!』
「ああ。見てんよ」
諌山真実も。
そして、石実現も。
「……それが本当の望みか?」
画面の向こうで笑う彼女の顔に影は見えず。だがその裏に隠した感情を確かに感じ取りながら、彼は一つ吐き捨てた。
「かぐガキ風情が。大人ぶりやがって」
一丁前に覚悟するには、お前はまだ幼いだろうと。
「真実、ちょっと通話切る。また明日話そう……いや、酒寄の方からアプローチがあるだろ。多分」
『うん……じゃあ、おやすみ。ゲンちゃん』
「ああおやすみ」
恋人との連絡を終え、彼はアプリのお気に入り欄をスワイプ。そう遠くない位置に座していた目的の連絡先を躊躇なくタップする。些かの
そうして幾度かのコールを待ち……回線は、開通した。
『Hey,boy. You certainly kept me waiting a long time, didn't you?』
「We have our own preparations to make, you know. I apologize for being late, but in terms of the time left, I just barely made it, right? That is, assuming my assessment is correct.」
『I really talked a big game there... Ah, just barely made it. Are you ready?』
「That's such a stupid question, it makes me yawn.」
──もう、おうちに帰らなきゃ。
────帰れなくなっちゃう。
なんと返せば良かったのだろう。
無様を晒してでも、無意味を承知してでも。イヤだイヤだと駄々を捏ねれば、何か変わっただろうか。かぐやは変わってくれただろうか。
違う。
「以上がかぐやの出自。信じられないかも知れないけど、信じて」
私達で、変えるんだ。
そうと決まれば善は急げ。かぐやを除いた
反応は人それぞれ。芦花達は
「改めて現実味の無い話だね~」
「でも石
「……えっコレなんか反応しなきゃいけない系のネタ?」
と肩を竦め合い、お兄ちゃん達は
「かあ~~~!かぐやちゃんが本当に月のプリンセスとは……分かるっ!」
「発作起こしてて草。キモイよ帝」
「しかしよもや地球外生命体とは……人並外れた魅惑っぷりだとは思っていたが、成程」
と惑いながらも納得してくれた様子。そしてヤチヨは……
「……ふぅむ?これはこれは、いと難儀な事情を抱えていたようだねぇ」
……どこかすっとぼけるような態度で、そう言う。推しにこんな猜疑を向けるなんて、今の私は本当に冷静じゃないらしい。例えコラボライブで隠し事を疑ったって、こんなの。
でも最早、まごついてる猶予は無いんだ。だってもう9月2日。あと10日で何とか打開策を考えなきゃいけない。
「ヤチヨ、かぐやを守る事って出来ないかな」
だから頼った。例え隠し事があったとしても、今まで彼女が私達に見せ来てくれた誠意が本物であると、そう信じて。
しかして返答は──首を振る事だった。横に。
「調べてみたけど、何処からアクセスしてるかも分からなかったんだよねぇ。ごめん」
「アンタが言うならそういう事なんだろ。仕方ねぇよ、なぁヤチヨ?」
「ッ……うん。力になれなくて申し訳ソーリーだよ~」
「…………」
でも深掘りはしないし出来ない。それこそ現の言う通り、ヤチヨが選んだ道がそれならつまり“そういう事”なんだろうと。それが彼女にとってのベストなら、私達に口出しする権利は無いから。
ただ引っ掛かるのは真実。ヤチヨはともかく、今のやり取りでどうして彼女まで気不味げに目を逸らしたのだろうか?
「じゃあライブも中止して、一生ここにログインしないっていうのは?」
「それも考えたんだけど、かぐやは生きてる仕組みがそもそも私達とは違う気がするんだ。下手に遠ざけたら、
「言っちゃ悪いが、そもそもかぐやが仕事ほっぽり出して来たからこの騒ぎになってんだろ?一旦帰って仕事終わらせて、そんで今度は穏便に地球に来るってのは無しなのか」
「月の仕事は“同じことの繰り返し”なんだって。だから終わりは無い。一度帰っちゃえば、きっともう二度とは……」
「おk把握。案の定、逃げ道や妥協線は無ぇって具合だな」
ここで芦花と現も代替案を出してくれるけど、やはり効果は見込めない。人知を超えた種族が相手なんだから、そんじょそこらの搦め手や逃避は通じないと考えた方が良いだろう。
なら、残された手段はただ一つ。
「簡単な話だろ。奴らが
お兄ちゃんが言った通りの、抗戦だ。
「うん。だからお願い、私と一緒に戦って」
……酷い話だ。相手は上位存在、下手に対峙すればどうなるか。そんな相手との決戦に、家族と友人を巻き込むなんて。
でも他人を頼れない酒寄彩葉はもうやめたんだ。他ならない、目の前のかけがえのない人達のお陰で辞められたんだ。だったらその在り方を示す事こそが、彼ら彼女らへの敬意だとも思うから。
「水臭いこと言わないでよ、彩葉」
「来年も、皆で海!あと温泉!!絶対行こうねっ」
差し出した手を、芦花と真実が取る。
「妹の頼みだ。兄の面目躍如、ってな」
「やれやれ。だが同じ長子として、リーダーを見捨てる訳にもいかん」
「ええ、面倒臭い~……けどまっ、偶にはこういうのもいっか」
次いでお兄ちゃんが、雷さんが、乃依君も。
「──彩葉」
最後に、現。
「かぐやはどうするって?」
「……これがハッピーエンドだ、ってさ」
「お前にとっては?」
「
即答。それを受けて、彼の口角が吊り上がる。いつかこの上なく恐れた、そして今はこれ以上なく頼もしく思える好戦の笑み。
「上等だよ。そうでなくっちゃなぁ、超人!」
最後に重なる掌は、温かいを通り越して熱い。その熱が伝播し、皆にも着火したかのような炎となった。それが心に灯された。
けどヤチヨは、最後までその円に入ってきてはくれなかった。
・
・
・
「で。力の使い方を学びたい、だったか?」
「うん」
その数分後。私と現は二人きりで、ツクヨミの閉鎖空間に立っていた。
ここはKASSEN、
「そっちは否定するだろうけど、ツクヨミで一番強いのは
「アホぬかせ。そんな俺に勝ったのがお前だろうが」
「かぐやとのコンビで辛うじて、ね。でもその通り、私はアンタに
それこそが要点。並の人間じゃ現に教えを乞うたところで何一つとしてモノには出来ない、だって前提となる肉体スペックと神経反応に差があり過ぎるから。お兄ちゃんでさえほとんど無理と聞いた時には驚いたもの。
けど、脳内でアンタの動きを再現して、その通りに動ける私なら?
「……けど所詮は数分の力。それ以降は従来のマニュアルモードに戻さなきゃいけないし、その動きですら平時よりも精彩を欠いちゃう」
「じゃ、どっちを伸ばす?オートマモード特化か、マニュアルモードでの継戦か」
「前者に決まってるでしょ。仮想敵が誰だと思ってんの」
「ぐむ」
Re:ALの顔が歪む。互いの思い浮かべた面構えが一致した手応え。
そう、あの雷神型の月人だ。Re:ALの渾身の蹴りと波動を立て続けに喰らっても即座に復帰し、反撃でアンタを一瞬とはいえ昏倒させたアイツだよ。アレが敵方にいるって言うなら、私も対処できなきゃお話にならないじゃない。
「だから私は、
言いながらブレードを構えれば、相手も同様に。異論無く同じ結論を抱いてくれた事に感謝を抱きつつ……
「お前はお前だろうが。自分を捨てるってか?」
「かぐやの、為ならっ!」
地を蹴った。
一閃、火花。剣と剣の交錯に仮想の空間が軋む。その中で、早速“必殺技”同士の激突と相成った。
「聞くが彩葉!その超集中状態、現実でやってみたりしたか?!」
「やってみたけど一瞬で肉離れ!アンタどうやって制御してんのよコレ、かぐやにめっちゃ心配させちゃったし!!」
「悪いが自己責任だ!!けどそうか、現実じゃそうなんのか……」
コレは既に慣れた動きだから、剣戟の中でもこうやって会話をするぐらいは出来る。それでも現の方は幾らか余裕がありそうなのが、癪に障るやら心強いやら。
っと、放った袈裟切りに軽い手応え。順当な打ち合いなら143コンボ終了まで完全な相殺で終わる筈、という事は……!
「うっわ危ないっ?!」
「良い反応、さっすがだなァ!」
相変わらず意地が悪い!今のはお互い様子見で私の熟練度を見定める為の打ち合いだったじゃん、急にコンボ中断して奇襲とかやめてって!!アンタ絶対好きな子に悪戯をして気を惹こうとするタイプの男子だったでしょ!?
「真実を囲い込もうとした事はあるが邪魔した事は無ぇよ!そぅらコレはどうだ!?」
「囲う時点でギルティなんだけどそれは!??えいゃッ」
まぁ真実も真実でその事を嬉しく思ってそうだからお似合いで結構なんだけど、それはそれでコレはコレ。投擲された短剣と鎖の軌道を読んでいなし続ければ、集中力の摩耗もそれに合わせて加速していく。
きっとそれこそが狙い。私の限界を引き寄せて、その上で超えさせようとしてくれてるんだ。
(……ホント、頭上がんないね!)
付き合ってくれる事に内心で礼を述べながら、私もまたワイヤーを繰り出して応戦。空中で互いの獲物が絡まったのを見越して、相手の反応より先んじて引き寄せる。
Re:ALの膂力値がどれ程かは知らないけれど、虚を突かれて踏ん張れなくなれば後はこっちのものだ。一挙に引き寄せ、その面に渾身のパンチを叩き込んでやった。
手応え──どころか、減ったのはこっちのHP。
「
「ちょっとぉ!?流石に獣を相手にしてるつもりは無かったんだけど?!!」
「ペッ!仮想敵は月の異人だぞ、対人想定だけしてりゃ良いって話でも無かろうに」
「それはそうだけど……あと吐き捨てるなし」
「じゃあ咀嚼して飲み込めばよかったか?」
「……ごめん、吐いてくれた方がマシだわ」
「よろしい」
なんとあの刹那で、手首から先を食いちぎられていた。いやどういう戦い方なのってツッコみたかったし実際ツッコんだけど、でもRe:ALの言う通りでもある。相手が人型とは限らない以上、此方も想定の幅は広げるべきだ。
「オイ。腕は治さねぇのかよ、舐めてんのか?」
「片手が無い程度で諦める訳にはいかないでしょうが!継戦想定だよッ」
「ハッ、男顔負けの男らしさで惚れ惚れすんねぇ!」
高速で脳内を切り替えていきながら、更に思考を錬磨。動きとして叩き上げ、Re:ALという砥石にぶつけて鋭く畝る。形の無い神経パルスの連鎖を、2人で歴とした戦法として磨き上げていく様は、昔テレビで見た刀鍛冶にも似ていて。
どうしよう。
(楽しい……!)
そんなこと思ってる場合じゃないのに。
かつては怖かった貴方との激突が、こんなにも。
もっと熱く。
もっと火照らせて。
もっと赫く、輝かせて────
「30分。お前ホントすげぇな」
「はっ……かは、ぁ……!」
────終わった。自己ベスト大幅更新という形で、健在のRe:ALに組み伏せられるという結末で。
脳が茹っている。頭、あんまり回んない。けどこの充足感は、確かに己の限界を打ち破った時のそれで。
「でも……足りない、や」
かぐやを守るには。
月がどれ程の大軍で攻め込んでくるか分からない。最悪の場合、1日以上戦いが伸びる可能性だってある。10分じゃ全然足りないんだ。
「もっと、欲しい」
だから求める。目と鼻の先の距離で見つめてくる男の物を、その力を。
「現……!」
「……彩葉。
1回休憩しろ」
「アッハイ」
劇場版ちいかわは「ウルトラマンvsゴジラ」でした
異論は認めません(鋼の意思)