酒に狂った男 作:鶏肋
【前回のあらすじ】
1つ!かぐや引退宣言!
2つ!!親友と兄に情報開示!!
3つ!!!来たる決戦に向けて、ライバルと特訓!!!
「っていうか、アンタ前より強くなってない?」
「そりゃ戦い方の問題だよお前」
息を整え頭を落ち着け、ふと冷静になった脳で考えたらそう思った。だって前は拮抗の中で“読み負けた”って感じだったのに、今回は真正面からやられたし。
そんな私の疑問に対する答えは。
「前は短期決戦のつもりでやったけど、今回はそっちの息切れ狙いで意図的にチンタラしてたからな。耐えに徹すりゃなんとかなっちまう、ってのが今のお前の弱点だ」
「ぐぬ……」
以上。要するに、ネックはやっぱり制限時間って事に尽きるって事。このままじゃ、幾らRe:ALと組んで戦ってたって途中退場して終いだ。
「でも要領は掴めてきた。次は1時間を目指すっ」
「……ま、よくやってるよお前はさ。こんな感覚の問題を手探りで解明していってるんだから」
けれど得られた確かな手応えに気合いを入れ直せば、労わるような声音でRe:ALが告げる。でもその善意に甘える訳にはいかない。
この先に待つのは、限りなく勝ち目の薄い戦いなんだ。それでも勝たなきゃ、かぐやと過ごす未来は失われるんだ。
なら、勝たなきゃ。勝って未来を掴み取らなきゃ。その為にも、自分を甘やかしてなんて居られるか。
……それはそれとして。
「
「あ?そうだろ」
Re:ALが言ってるのは紛れも無く彼自身の超反応、および私の超集中状態についてだろう。今こうやって実践的に
でも……その、なんだ。
「
「……えっ?」
簡単、とは流石に言わないけれど。
これぐらいの事なら、説明してくれても良かったんじゃない?
「要はこれ、反射と思考の融合よね。アンタの判断の速さが本能の速度に追い付いている事を前提として、極めて効率的に不随意運動を制御してる」
「……うん」
「不随意を随意制御、って時点でなんかおかしいけど“車と操縦席”って言い換えれば良いのかな。車の多くの部品は自動で稼働するけど、それぞれの機能をON・OFFしたり出力を上げ下げしたり方向を決めたりするのは操縦席からの指示次第。操縦席を脳、車体を肉体もしくはアバター、ハンドルおよびアクセル・ブレーキが神経って所か。いや、神経は油圧?」
「…………うん」
「その神経速度にしたって妙に速い感じがするけど、多分
「………………うn」
「要するに、その理屈を分かった上で実行さえ可能なら、アンタの挙動は充分再現可能な科学って事」
これしきの事……とは言わないけど、これぐらい明確にできるんだからフィーリングでゴリ押さずにちゃんと説明して欲しかった。そりゃ私の方から頼み込んだ修行だし、アンタとしのぎを削り合うのはめっちゃ楽しかったけどさぁ……まず説明さえしてくれたら、効率も相応に上がると思わない?
「Re:AL的には、まず体験と体感を積んだ方が理解が早いと思ったんだろうけどさ」
その意見も一理ある。実際この知見は、さっきの1戦でこそ得られたものだから──でも、
「見縊らないで。かぐやの明日が懸かってるんだよ、勿体ないけど楽しんでる場合じゃないの」
賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ。この場合、“
でも私は賢者だ。少なくともそう在ろうとしてる存在だ。実際、アンタより多少は賢い!
「もっと教えてよ。耳で聞いて、口で言葉にして、体で実践する!その全てで私はアンタを超えてみせる!」
休み終えた体に意気を充実させて立ち上がった。さぁ次だ、と。
果たしてRe:ALの返答は──。
「マジでごめん。俺も全然わかってなかった」
「……えっ」
「俺にとっては本当に“感覚の問題”だった。お前に懇切丁寧に説明されて初めて理解した。“俺そうやって動いてたんだ!”ってアハ体験してる」
「うそぉ」
「マジ」
まさかの無自覚。いやいやいや、他ならないアンタの脳と神経と筋肉だよ!?分かってなかったの!??
「俺にとっちゃ随意も不随意も全部“感覚”でやりくりしてたんだからしょうがねーだろ。普段から“さぁ肺を膨らまそう。よし次はへこまそう”といちいち考えて呼吸するか?俺にとっては全部それだったんだ」
言いながら天を仰ぐRe:ALは、けれど次の瞬間には一転して大笑い。そこに含まれる感情は、呆れとそれ以上の感嘆で。
「やっぱお前、とことんまで俺の
「褒めてる?貶してる?」
「めっちゃ誉めてる。あーもう、これじゃどっちが教えを乞うてるか分からんな」
商売あがったりとでも言わんばかりに肩を竦めながら、Re:ALもまた起立。そのまま流れるような所作を以て剣を構え、私と対峙した。さぁもう一度、今一度。
「算段変更だ。俺もお前から教わる事にするよ、先生」
「へえ?何をだね、生徒君」
「まず俺がお前の身体に動き方を叩き込む。次にお前が得た知見を言語化して俺に共有する。その無限ループだ、時間の許す限りな」
「名案だね。精々引き出しを尽かさないでよ」
「そりゃ
そうして始まる剣戟。前よりも鋭く、疾く、確実に。
もう負けない為に。誰にも、月の奴等にも、何者にも。
個の目の前の、かけがえのない好敵手の力を借りで、何処までも!
──ビビった。
何にって、そりゃ俺も分かってない俺の力の事をアイツがペラペラ捲し立て始めた事に決まってんだろ。麻酔無しで解剖されてる気分だったわ。
(彩葉のヤツ、このままいったら俺の量産ロボットでも作り出しそうだ)
陳腐化、というのはつまりそういう事。俺の暴力が俺だけの物ではなくなり、全ての特別性を失う未来をアイツは齎せる。
俺の存在が無価値になる世界を、酒寄彩葉は
あゝ怖い。いと怖い。酒寄彩葉がめっちゃ怖い。
だから……そんな明日が来る前に、俺にしか出来ない事を。
「Níítáká Dził Yázhí Yíká Áníkááh」
彩葉と別れた直後、夜風に吹かれて歩く街並み。ふと通り過がった人の呟きに、俺はもちろんこう答える。
「1208」
……その瞬間だ。やっぱりな、あの
人ごみに紛れていた、それでいて一瞬で気配を変えて取り囲んできた人間の壁。それに退路を断たれながらそう思う。そのまま促されて前へ、暗い暗い社会の闇へ。
悪いな真実。暫しの間、
ナバホ語