トイレが爆発、就職先は古代中国 !   作:キューブケーキ

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のび太とお子様

1.ちょっと先のお話

 

 狂乱と秩序の混在する戦場。戦いの主導権を持つ軍勢は「袁」の旗でした。その中に「犬」の旗印を掲げて戦列を組む隊が居ます。のび太の中隊です。

「参ったな」

 ぶつぶつ呟くのび太に視線を向ける兵士達は弓矢を装備しています。

 のび太の部隊は弓兵で構成されていますが、のび太の技術は天性の物で人に伝えられる物ではありません。

 前では孫策が喚声をあげて兵を率い敵に斬り込んでいました。あれも天が与えた生まれながらの才能と言うのでしょうか。精肉工場か首刈り農場大収穫祭と言った感じです。

 剣戟の戦場騒音に雑ざって血の臭いが漂ってきます。

 敵味方が入り乱れてしまえば弓兵の出番はしばらくありませんが、のび太は血に酔って吐きそうです。

「どうしてこうなった……」

 のび太が呟く声は戦場の騒音に書き消されました。

 

 

2.釈放

 

 馬泥棒扱いを受けた翌朝、のび太は詰所の牢屋で目を覚ましました。

 持ち物はすべて取り上げられて冷たい石畳の上。体の節々が傷みました。

 白湯だけの朝食を終えると昨日、出会った女性の一人が現れました。

「お前の疑いは解けた」

「あ、はい」

 腕組みをしながら声をかけてきたのは甘寧と名乗る女性で、のび太の首を刺した相手です。

 形ばかりの謝罪を受けた後、釈放されて詰所を後にしました。

「まったく、酷い目に合った」

 首筋の傷痕を撫でていると泣き声が聞こえました。

 泣きじゃくる子供がいましたが、周りの大人はかかわり合いに成りたくないと言う感じで声をかける者は居ません。

「うわああん、七乃~!」

 身なりの良い服装。おそらくどこかの貴族の子供と判断できました。

(可愛そうに。女の子が泣いてるじゃないか!)

 大人達の態度に眉を寄せたのび太は、義憤にかられながらも少女に声をかけました。

「ねえ君、どうしたの。ぼくに何か手伝える?」

 のび太を確認すると少女は抱き付いて来ました。ドキッとするのび太。身長差がほとんど無いため、少女の金髪がのび太の頬をくすぐります。ふんわりと蜂蜜の香りを嗅いだ気がしました。

「うわあああん!」

 涙と鼻水で肩口をびしょびしょにされたのび太は、取り合えず少女を落ち着けようと目に映った茶屋に誘いました。

「いらっしゃいませ」

 元気な店員さんに案内されて席に付きました。取り合えずお薦め、と注文して出てきたのは串団子。

「串団子だって?」

 食文化に詳しくは無いですが、時代的に疑問を感じるのび太でした。

 少女はそんなのび太を気に留める事もなく串団子を頬張っていました。

「美味い、美味いぞ」

 庶民の食べ物など口にした事も無いのか、けろりと泣き止んで団子を楽しんでいます。

 のび太は自分より年下に見える少女の無邪気さに顔が綻び、自然と少女の頭を撫でました。

「ん?」

 不思議そうな顔で見詰められのび太は、妹が居たらこんな感じなのかと笑みを浮かべます。

「お嬢様、探しましたよ!」

「お~七乃か」

 駆け寄ってきた大人の女性が声をかけてきました。お嬢様と呼ばれる所から、やっぱり良い所の子なんだなとのび太が考えている間に、少女から事情を聞いた女性がお礼を言ってきました。

「本日は我が主、袁術を助けていただきありがとうございます。私は袁公路様の側仕えをしております張勲と申します」

 少女の正体は、南陽郡周辺に影響力を持ち数百万を統治する大貴族でした。くいくいっ、とのび太の服の裾を引っ張りおかわりを催促する姿からは想像も出来ません。

「助けただなんて、そんな。ただこの子、袁術様が泣いてたので声をかけただけですよ」

 のび太に張勲はお礼がしたいと言い、袁術もうちに来いと誘いました。二人に握られた両手を振りほどいて断るなんて事は、のび太には出来ませんでした。

 袁術の屋敷に招かれたのび太は歓待を受け、真名を預けられました。現代人の、しかも小学生なのび太には知己を得た意味も理解できていません。

「のび太さんはその年で一人旅とはご立派ですね。お嬢様も年上なんですから見習ってくださいね」

「ぼくより年上?」

 幼い容姿とは異なり美羽が自分より年上な事にのび太は驚きました。

「妾はやればできる子なんじゃ。今に本気を見せてやる!」

「さすがお嬢様。根拠の無い自信に無い胸を張ってご立派ですわ」

 けなされているのに何故か喜ぶ美羽。のび太を置いて二人は平常運転です。

「わはは。もっと誉めてたも」

 悪乗りすると七乃は囃し立て、一段落するとのび太に話題を振って来ました。

「のび太さんはどなたかにお仕えしていらしゃるのですか」

「曹孟徳様のお世話になっています」

 内輪だけなら真名も通じますが、公の場では真名を呼ばないのが一応の礼儀です。

「曹操さんですか……」

 どこか考えこむ七乃の様子に、美羽の相手に戻るのび太でした。

 あやとりを教えていると孫策が現れました。

「雪蓮お姉様」と抱き付く美羽。孫策は優しく受けとめ目を細めました。

 孫策の母、孫堅は幼い美羽を我が子同様に可愛がり、美羽もまた母恋しさから孫堅になついていました。

 一族の実権を握った従姉の袁紹より、家族同様に過ごした孫家の方に親しみを持っていたのも仕方ありません。

「あら、貴方は」

 視界に居たのび太に記憶を刺激されて雪蓮は声をかけました。

 のび太の方でも昨日のお姉さんと思い出しました。ぶるっと恐怖を思い出して体を震わせるのび太でした。

「妾の盟友、のび太じゃ」

 きゅっ、とのび太の上着を掴み紹介しました。

 美羽の説明に時おり頷きながら状況を理解しましたが、昨日の今日で出来すぎな様に思えました。

「なるほど。美羽ちゃんがお世話に成ったわけね。君、良い子ね。うちに来ない?」

 雪蓮は部下からのび太が曹操の部下、弓の名手と知らされていました。これは仕組まれた出会いと考えました。潜在的脅威は取り除く積もりで、先ずは懐に誘い込みました。

「さすがは雪蓮お姉様じゃ! そうすれば毎日遊びに行けるぞ。のう、のび太?」

「お嬢様は無垢で単純ですねぇ」

 喜ぶな美羽を微笑ましく見つめる七乃でした。雪蓮も笑顔を浮かべていましたが目は笑っていません。

(七乃は後でお仕置きね。で少年。曹操の手駒である君はどう答えるのかな?)

 美羽を害するなら排除する。固い決意で、姉として妹分を守ろうとしていました。

 のび太は申し訳なさそうに口を開きました。

「今は曹孟徳様のお世話になっていますので……」

 ふっと雪蓮の纏う空気が緩みました。敵の間者であれば乗ってくると思いましたが、考えすぎだったと思いました。

 普通は主君をころころと変えません。主君への忠義は尊い物で、孫家では皆が家族です。

 だからこそのび太の返事は、間者には無い気高く思えました。

「振られちゃいましたね、孫策さん」

「そうね」

 七乃は雪蓮の耳元に口を近付けてささやきました。

(大丈夫ですよ、のび太さんは暗殺者や間者じゃありません)

 お嬢様第一主義の七乃が言うのですから説得力もあります。

「それにお嬢様があんなに笑顔じゃないですか」

 孫堅が亡くなって以来、笑顔の少なくなった美羽。信頼した表情でのび太に甘えていました。

「どこがそんなに良かったのかしら?」

 特に顔が良い訳でも無く平均的な少年。言動だけ見ればお人好しで、道に迷って馬泥棒に間違えられた件といい頼り無さを感じました。

 

 

3.その間のドラちゃん

 

「時空に断層がある」

 タンマウォッチで時間を止めたまま作業をしていたドラえもんは、事故現場で空間の裂け目を発見しました。

「のび太君はこの中に……」

 最初は手っ取り早く、過去にタイムマシーンで向かってのび太を止めるつもりでした。

 しかしそれで未来は変わっても、のび太が消えた歴史は枝分かれして存在し続けます。

 あっちはあっち、こっちはこっち。それは違います。

(のび太君は僕の助けを信じて待っている!)

 ドラえもんはロボットです。ですが、のび太を思う気持ちとのび太との友情に嘘はありません。

(君は未来で静香ちゃんと結婚するんだろ)

 ドラえもんがやって来た未来があるなら、このままのび太が戻って来ない未来はあり得ません。

 諦めずドラえもんは作業を続けます。

 

 

4.南陽郡にて

 

 美羽の遊び相手として逗留、と言うか監禁されていたのび太。衣食住に不足はありません。

 馬泥棒扱いで散々と痛めつけた詫びの分もあったのです。

(こんな事してて良いのかな?)

 幾らのび太が呑気とは言え遊んでばかりだと不安に成って来ます。それでも朝起きると弓の訓練を欠かさずやっていました。

「のび太の腕は大した物ね」

 のび太の腕前を見た雪蓮は親しい者にその事を話しました。

「ふむ。それなら一度、手合わせしてみたい物じゃな」

 孫策の家臣に黄蓋と言う弓の名手が居ます。孫堅の時代から仕える宿将で、逗留するのび太の噂を聞いてやって来ました。

「お主が夏侯淵の弟子か。わしは黄蓋。お主に勝負を挑みに来た」

「ええっ!?」

 なし崩し的に始まった弓対決。のび太の驚異的な命中精度に黄蓋も下を巻きました。

「中々やるな小僧」

 拮抗する技能ですが、持久力で劣るのび太。

「もう駄目だ……」

 体力が切れてのび太の負けとなりました。ですが黄蓋はのび太に才能を感じました。

 若者を導くのも年寄りの務めです。

「お主も男だ。負けて悔しかろう」

「はい……」

 のび太と黄蓋では年期も違います。それでものび太は悔しさを感じました。

「わしが一から鍛えてやる」

「ちょっと祭、何を勝手な事言ってるのよ」

 雪蓮が止めに入ってくれましたが、強引に連れて行かれました。

「のび太、生きて帰ってくるのよ……」

 同情して無事を祈る雪蓮。のび太にしてみれば「同情するなら止めて」と言う事です。

「ひぃ~」

 雪蓮が危惧した通り、黄蓋はスパルタ式に鍛えました。体力を作るには走るのが一番と虎に挑まされたりもしました。桃太郎印の吉備団子も無い。あるのは弓矢だけ。

(やらなければ、やられる!)

 それでも躊躇がありました。のび太は戦う事より、逃げ足を鍛える方を選びました。

「ほれほれ、本気で走らんと容赦はせんぞ」

 降り注ぐ矢玉で体は傷だらけになりました。

 樹海に隠る事、一ヶ月。のび太は相変わらずひょろりとした体型ですが、余計な脂肪が削ぎ落とされ体力も向上して来ました。世間では黄色い頭巾を被った賊が噂に上がり始めた頃です。

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