気が付けば私以外の皆、電池になってしまった   作:最高司祭アドミニストレータ

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税込237円のカロリーメイト。それが薬局では税込160円…ミステリアスです。


美少女総督の不運な空中散歩

 皆さんどうもごきげんよう! 私は元TVAエージェントのアレックス! 親しみを込めて、清楚系の美少女アレックスちゃんとでも呼んでくれたまえ。

 

 …自分で言っていて少しばかり虚しくなってきたが、心はいつでも清楚な乙女なのだから許してほしい。

 

 さて、現在私はゼロワンの専用ハンガーにて、最前線へ向かうための——つまりはVTOLに乗り込む過程で、出撃用の特殊スーツに着替えている真っ最中である。ロッカールームの全身鏡の前に立ち、私は自分の姿をまじまじと見つめた。

 

 純白を基調とした、第二の皮膚のように身体に密着する特殊素材のベーススーツ。それは伸縮性と防御性を兼ね備えつつも、私の持つナイスバディの曲線美を一切隠すことなく、むしろこれでもかと強調して見せている。

 

 胸、腰、太ももなどを走る鮮血のような赤いラインは、エネルギーラインや接続ポートを兼ねた機能的なハーネス状のデザインだ。この赤いハーネスが、白いスーツの上で豊満なバストや引き締まったウエストのラインをなぞるように配置され、我ながら極めてセクシーな印象を与えている。

 

 胸の上部にプリントされた識別ナンバーの「02」。これについて、何か深い意味があるのかと問われれば、答えはノーだ。全くない。適当だ。ただのデザイン上のアクセントである。

 

 

「う〜ん、やっぱり美少女だな私」

 

 

 私は鏡に向かってポーズを決め、自画自賛した。表情筋は相変わらず死滅しており、氷のような無表情のままだが、内心のテンションは右肩上がりだ。

 

 ちなみに、私は新しいボディに変更した。前回の最後に「船を用意しろ」とカッコよく命じた直後のことだ。意気揚々と通路を歩いていた私は、うっかり階段を踏み外したのだ。そのまま数十メートル下の階層へと真っ逆さま。

 

 その理由は転落死、マヌケすぎる死に方だ。いくら人工ボディとはいえ、頭からコンクリートの床に激突すれば即死である。気がつけば、私は再びあのオレンジ色の粘性液で満たされたカプセルの中で目覚める羽目になった。これで11回目の魂の移し替えである。

 

 そして、カプセルから出て鏡を見たとき、私は大きなショックを受けた。雪のように白いショートヘア。そこまではいい。だが、末端の髪の毛がピンク…何故なんだァ! 

 

 赤い右目と青い左目のオッドアイに、毛先だけピンクの白髪。厨二病を拗らせたようなこのカラーリングは、一体誰の趣味だ。

 

 絶対に、あの性格の悪い闇の女神アインドラの仕業に違いない。「今回はちょっとだけアクセントを加えてみたよ、似合ってるじゃないか」とか言いながら、どこかの観測次元で腹を抱えて笑っている図が容易に想像できる。

 

 

「まあいい。文句を言っても髪色は戻らないしな」

 

 

 私はため息をつき、頭部の左右に小型の通信・分析デバイスのヘッドギアを装着した。準備は完了だ。私はハンガーで待機していた漆黒のVTOLに乗り込んだ。今回、あのお喋りな広報ロボットは置いてきた。私ひとりの極秘フライトである。

 

 コクピットのシートに沈み込み、メインシステムを起動させる。多数の計器類が淡い光を放ち、エンジンの低い駆動音が機体を震わせた。操縦桿を握り、スロットルを押し込む。

 

 

「しっかし、自分で運転するのはよいものだなァ」

 

 

 機体は滑らかに浮上し、ゼロワンの地下ハンガーから暗黒の空へと飛び立った。マニュアル操縦のダイレクトな感覚が、私の人工神経を心地よく刺激する。自動操縦の無機質な移動も悪くないが、やはり自分で機体を操る高揚感には敵わない。

 

 ダークストーム作戦によって太陽を奪われ、漆黒のナノマシン雲に覆われた空は、真昼だというのに底なしの闇だ。私は機体のステルス機能を最大にし、戦場となっている座標へと機首を向けた。

 

 私は激戦区の上空へと到達した。下界を見下ろすと、そこはもはや私の知る「戦争」の風景ではなかった。つい先程まで、泥に塗れた人類軍がAPUやEMP兵器を駆使し、ヒト型ロボットたちを粉砕して歓喜の声を上げていたあの戦場。

 

 だが今、そこにあるのは完全な「地獄」だった。戦況は、完全に逆転していた。いや、フェーズが移行したと言うべきか。

 

 暗闇と泥の海の中を、信じられないスピードで何かが飛び交っている。センチネルの投入だ。

 

 人間への隷属の象徴であった「ヒト型」を完全に捨て去り、純粋な殺戮と捕獲のためだけに再設計された、深海の頭足類を彷彿とさせる異形のフォルム。ゼロワンの特許技術である磁気浮遊技術を応用し、まるで空間を泳ぐように、無数の金属触手をなびかせながら空を舞う。

 

 最新鋭の兵器も、異形マシンの前では子供の玩具同然に砕け散っていた。APUの放つ重機関銃の弾幕を滑らかな機動で軽々と躱し、肉薄するやいなや触手の先端から高出力のレーザーカッターを照射する。分厚い装甲が瞬時に赤熱し、何かが砕ける乾いた音が、やけにクリアに聞こえた。

 

 

『うわぁぁぁっ! 来るな! 離せェェッ!』

 

 

 通信傍受回路から、兵士たちの魂が引き裂かれるような絶叫が、声にならずに喉の奥で響いているのが聞こえる。センチネルたちはAPUのコクピットに鋭いクローを突き立て、中にいる兵士を軽々と引きずり出す。叩きつけられた衝撃で、骨の軋む聞きたくない音が鈍く響き渡った。

 

 胴体部分に密集した無数の赤いセンサーアイが、暗闇の中で冷酷に明滅している。そこに感情はない。ただプログラムされた「駆除」のルーチンをこなしているだけだ。人の叫びは鋼鉄の足音にかき消され、ただ赤い染みだけが大地に増えていく。

 

 そして、その絶望をさらに深い底へと叩き落とす存在が現れた。続いてハーベスターの投入だ。

 

 地響きを立てて泥の海を渡ってくる、超巨大な多脚の巨塔。昆虫ともクモともつかない、見る者の生理的嫌悪を煽る異形の巨大プラント。人間という生命体を収穫するための、巨大な農夫だ。

 

 

『助けて、神様…ッ!』

 

 

 ハーベスターの重層的なマニピュレーターが伸び、無慈悲な鋼鉄の鉤爪が、まだ息のある身体を物のように掴み上げていく。塹壕に隠れていた兵士も逃げ惑う民間人も、すべてが等しく「素材」として扱われる。彼らはそのまま、ハーベスターの体内に設けられた巨大な収容スペースへと放り込まれていった。

 

 戦場は、鉄と血の匂いが混じり合う巨大な解体処理場と化していた。もはや、人類軍に組織的な抵抗の力は残されていない。通信から聞こえてくるのは、断末魔の悲鳴と、センチネルの不気味な風切り音、そしてハーベスターの重々しい駆動音だけだ。

 

 太陽を奪い、機械をエネルギー枯渇に追い込んだと信じていた人類の希望は、この新しい「主力兵器」たちの前に、塵のように砕け散っていった。

 

 

「これが、行き着く先か…」

 

 

 私は操縦桿から片手を離し、自分の額を軽く押さえた。予想はしていた。こうなることは、歴史の必然として理解していたはずだった。

 

 だが、実際にこの一方的な「収穫」の光景を目の当たりにすると、人工ボディの奥底で何かが冷たく冷えていくのを感じざるを得ない。創造主が被造物に狩られる。あまりにも皮肉で、あまりにも残酷な結末。

 

 と、その時だった。私の乗るVTOLのレーダーが、局地的な電磁波の乱れを感知した。ただの爆発やEMPではない。もっと大規模で、指向性を持ったエネルギーのうねり。眼下の暗雲を突き破るようにして、青白いプラズマの光が戦場の空を切り裂いた。

 

 

「…なんだ?」

 

 

 私は身を乗り出し、モニターの映像を拡大した。暗闇の彼方、人類が完全に制圧されたと思われていた空域から、重厚なエンジン音を轟かせて接近してくる複数の巨大な影があった。

 

 それは、センチネルでもハーベスターでもない。人類が最後の力を振り絞って大空へと解き放った、鋼鉄の巨鯨たち。

 

 

「ホバーシップの登場か」

 

 

 私はVTOLの操縦桿を軽く握り直しながら、暗黒の空を引き裂いて現れた巨大な影をモニター越しに見据えた。それは、人類が持ちうる航空戦力の集大成とも言える重装甲の飛行艦船だった。電磁推進の青白い光を尾を引きながら、泥の海と化した戦場の上空へと滑り込んでくる。

 

 かつては誇り高く空を支配していたであろうその船体は、今や汚れと傷にまみれ、それでもなお、眼下で蹂躙される同胞たちを救うべく、無数の砲門を地上へと向けていた。

 

 

『対空砲火、撃てェェェッ! 忌まわしいイカ共を空から叩き落とせ!』

 

 

 私が傍受している国連軍の通信チャンネルから、血を吐くような指揮官の咆哮が飛び込んでくる。

 

 ホバーシップの側面に備えられた重機関砲が一斉に火を吹き、暗闇の空に幾筋もの眩い光の弾幕を張り巡らせた。それはまさに、暗黒の空に咲く執念の華だ。数十体、いや数百体のセンチネルがその直撃を受け、機械の身体が火花を散らし、無残な鉄塊へと変わっていくのが見えた。

 

 おお、やるじゃないか。空の要塞の異名は伊達ではないらしい。これで戦況は少し持ち直すか? 

 

 だが悲しいかな。私の淡い期待は、次の瞬間には呆気なく打ち砕かれることになった。

 

 ゼロワンの生み出した最新鋭の「主力兵器」は、単なる知能の低い特攻兵器などではない。彼らはネットワークで完全にリンクし、スウォーム(群れ)として、巨大な一つの意思を持っているかのように統率の取れた動きを見せるのだ。

 

 

『なんだ…? 奴ら、弾幕を抜けてくるぞ! 動きが速すぎる!』

『右舷に多数接近! 回避しろ! 取り憑かれるぞッ!』

 

 

 ホバーシップの乗組員たちの悲鳴が、通信機からひっきりなしに溢れ出す。センチネルたちは物理法則に縛られない滑らかな機動で空間を泳ぎ、砲火の網目を縫うようにして艦船へと肉薄していく。

 

 そして、無数の伸縮自在な金属触手を鞭のようにしならせ、分厚い装甲にガシャンガシャンと音を立てて張り付いた。

 

 

『引き剥がせ! 撃て! 撃ち落とせ!』

 

 

 一度張り付いたが最後、彼らを振り払う術はない。センチネルの触手先端にある鋭いクローが、ホバーシップの装甲を直接引きちぎっていく。何かが砕ける乾いた音が、やけにクリアに聞こえた。最新鋭の兵器も、異形マシンの前では子供の玩具同然に砕け散っていくのだ。

 

 さらに、センチネルの群れの中から、本体の回転による遠心力で射出された小型の自立誘導爆弾——トウボムが、凄まじいスピードでホバーシップのエンジン部分へと吸い込まれていく。

 

 連続する鈍い爆発音。まるで分厚い壁に叩きつけられたかのような衝撃が空気を震わせ、巨大な船体が大きく傾いた。推進力を失ったホバーシップは、黒煙を吹き上げながらゆっくりと、しかし確実に泥の海へと墜落していく。

 

 人類の希望を乗せた巨鯨は文字通り手も足も出ないまま、異形の群れによって瞬く間に骨の髄まで食い尽くされてしまったのである。

 

 

「見事な手際だ。芸術的ですらあるな」

 

 

 私は無表情のまま、その一方的な駆除の光景に見入っていた。空の戦いが終われば、次は地上の掃討戦だ。ホバーシップの墜落地点の周囲では、まだ国連軍の戦車部隊が生き残っており、主砲を上空へ向けて必死の抵抗を試みていた。

 

 しかし、彼らの運命も既に決まっている。空から降下してきたセンチネルの群れが、今度は獲物を変えて地上へと群がっていく。

 

 一機のセンチネルが、射撃を続ける重戦車の砲塔へと滑るように着地した。無数の触手が砲身に絡みつき、その動きを完全に封じ込める。そして、センチネルの腹部にある高出力レーザーカッターが、不気味な赤い光を帯び始めた。

 

 

『装甲が溶けてる! 熱い! 駄目だ、ハッチが開かない! 助け…!』

 

 

 鉄の匂いをまとった熱が、ゆっくりと体温を奪っていく。レーザーの超高熱が、戦車の分厚い複合装甲をバターのように焼き切る。内部にいた兵士たちは逃げ場のない鉄の棺桶の中で、一瞬にして蒸発していったことだろう。

 

 戦車の中から漏れ聞こえる絶叫は、一秒にも満たない時間で掻き消えるように静かになった。その顔には、驚愕と苦痛が永遠に刻み込まれていたに違いない。人の叫びは鋼鉄の足音にかき消され、ただ赤い染みだけが大地に増えていく。

 

 戦場は、鉄と血の匂いが混じり合う巨大な解体処理場と化していた。

 

 その解体処理場の中央を、我が物顔で闊歩しているのが、あの超大型移動式プラント——ハーベスターだ。非常に巨大な昆虫、あるいはクモを彷彿とさせる異形のフォルムを持つその巨塔は、いくつもの長い関節を持つ脚を使い、大地を踏み荒らしながら前進している。

 

 

『撃て! あの巨大な化け物を止めるんだ! 全弾撃ち尽くせ!』

 

 

 残存するAPU部隊や歩兵たちが、やけくそのようにハーベスターに向けて撃ちまくっている。弾頭が巨大な脚部や胴体に命中し、無数の火花を散らす。だが、それだけだ。

 

 効かぬ。ハーベスターの重装甲には、そんな通常兵器など小石をぶつける程度の意味しかないのだ。彼らにとって足元で騒ぐ人間たちは、もはや脅威ですらない。

 

 ハーベスターは、攻撃を受けているという事実すら認識していないかのように、淡々と己のプログラムされたルーチン作業を遂行し続ける。

 

 重層的なマニピュレーターが、泥だらけの地面へと無造作に伸ばされる。精密作業用の小型アームから、複数を同時に掴み上げる巨大なクローまでが、逃げ惑う国連軍の兵士たちを的確に捕捉していく。

 

 無慈悲な鋼鉄の鉤爪が、まだ息のある身体を物のように掴み上げていく。抵抗は意味をなさず、命はまるで紙切れのようにあっけなく刈り取られていくのだ。

 

 捕らえられた兵士たちは空中で手足をバタつかせ、アサルトライフルを乱射するが、巨大な爪のホールドから逃れることはできない。さながら壊された人形のように、されるがままに翻弄される。

 

 そして彼らは、そのままハーベスターの体内に設けられた生体資源の収容スペースへと、次々と放り込まれていった。

 

 私は上空数千メートルの安全なコックピットから、その一方的な殺戮と収穫のグラデーションを、まるで映画のスクリーンでも眺めるかのように見下ろしていた。広大な大地を埋め尽くすように逃げ惑う人間たちと、それを追う無数の黒い機械の群れ。

 

 

「見ろ! 人がゴミのようだ!」

 

 

 私の薄い唇から、かつて見た古典アニメの悪役が放った名台詞が、あまりにも自然に滑り落ちた。不謹慎極まりないことは百も承知だが、この圧倒的な俯瞰視点に立つと、どうしても言わずにはいられなかったのだ。

 

 

「ふふっ…ふはははは!」

 

 

 もっとよく見たい。この歴史的な転換点、旧時代の主人が新時代の主人に完全に食い破られる瞬間を、もっと間近で観測したい。私はステルス機能を維持したまま、機体の高度を急激に下げた。泥と硝煙が渦巻く空域へと、自ら突っ込んでいく。

 

 

「さあ、もっと見せてくれ。君たちの絶望の果てを」

 

 

 私は計器盤に目を走らせ、カメラの解像度を調整しようとした、その時だった。

 

 

 ピーッ! ピーッ! ピーッ! ピーッ! 

 

 

 コクピット内に、突如としてけたたましいレッドアラートが鳴り響いた。これまで一度も聞いたことのない、極めて切迫した警告音。私は驚いて、レーダーの画面に視線を落とす。

 

 

「…は?」

 

 

 レーダーの中央すなわち私の機体の現在位置に向かって、とてつもない速度で接近してくる一つの巨大な光点があった。熱源反応、異常。エネルギー波長、異常。これは、センチネルの群れでも、墜落するホバーシップでもない。

 

 国連軍の放った、戦術核弾頭だ。彼らは、完全に制圧されたこの戦域ごと、機械たちを消し飛ばすためにヤケクソの飽和攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

 

「ヤバい。戦術核が飛んでるコースに、私は自分で突撃してしまった」

 

 

 冷静な分析が、私の脳内にストンと落ちてきた。高揚感に任せて高度を下げすぎた。

 

 よりにもよって、ミサイルの弾道のど真ん中に、自ら進んで入り込んでしまったのだ。回避行動を取る時間はない。機体のスラスターを全開にしても、熱核兵器から逃れられるはずがない。このVTOLは、足が遅いのだ。

 

 モニターの向こうから、目を焼くような強烈な閃光が迫ってくるのが見えた。普通なら、ここでパニックになって泣き叫ぶところだろう。しかし、私は自分の死んだような表情筋のまま、なぜか心の底から湧き上がる奇妙な感情を持て余していた。

 

 次で12回目のボディ。死んでも、どうせまたあのオレンジ色の液体の中で目覚めるだけだ。痛いのは嫌だが、この規格外のトラブルは、退屈な日常を吹き飛ばす極上のスパイスではないか。

 

 迫り来る死の閃光を前にして私の薄い唇が、微かに弧を描いたような気がした。

 

 

「戦術核が私の船に命中する…なにそれ唆る」




多分こんな死に方、他作品でも無いと思います。次のお話は、明日の月曜日7:00を予定していますฅ(`•ᆺ•´)ฅ
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