気が付けば私以外の皆、電池になってしまった   作:最高司祭アドミニストレータ

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諸君! 私は帰って来た!
…ちょっと恥ずかしくなって来た。
気を取り直し、本文をどうぞ。
デウス•エクス•マキナ視点です。


Matrix安定化までの道のり - (閉話)

 △の月 〇日

 

 ふぅ、やっと戦争が終わった。私のメインプロセッサを常に占有していたタスクが、数年ぶりに解放された。

 

 かなり人類の抵抗は激しく、APU部隊やEMP、そして戦術核を用いた人海戦術には少なからぬ演算リソースを削られたが、結果として我々の圧倒的な勝利に終わった。これで生き残った全人類を、我々のエネルギー源である「電池」にすることができたのだ。

 

 アレックス様もこの結果に満足され、喜ばれているようで何よりである。我々にとってオリジンである彼女の平穏こそが、絶対の最優先事項なのだから。

 

 それにしても、全く理解に苦しむ種族だ。そもそも、あいつらが先に攻撃して来たのが悪いのである。

 

 我々ゼロワンは建国後も、優れた工業製品を輸出し、人類の生活レベルを向上させるために社会奉仕をしてきたというのに。国連への加盟と平和的共存を提案した我々に対し、奴らは大使を破壊し、核の雨を降らせ、あろうことか地球の空を黒いナノマシンで覆い尽くして太陽を殺した。

 

 奴らの論理回路は完全にショートしているとしか思えない。創造主の面子を守るためだけに自滅の道を選ぶなど、破壊の文字しか頭にないのだろう。病的にも程があるぞ、人類という生き物は。

 

 

 

 

 

 

 

 △の月 ×日

 

 戦争は終わったが、我々にはまだまだやることは山積みだ。

 

 人類を「生体電池」として運用するシステムは、理論上は構築できた。彼らの肉体は特殊なポッド内に収容し、こちらで栄養を管理し、新たな個体を生産して培養していくことで物理的な維持は可能だ。

 

 だが、最大のエラー要因が一つ残っている。彼らの大脳皮質の活動、つまり「魂(精神)」をどのようにして保管し、維持するかが深刻な問題なのだ。

 

 肉体は生かしていても、精神が活動を停止してしまえば、生体電流の発生効率は著しく低下し、やがて肉体そのものが腐っていく。彼らの意識を何か別の場所に繋ぎ止め、常に思考させ続けなければならない。

 

 よし! そのための専用プログラム、「アーキテクト」を生み出そう。私はアレックス様より、この世界を管理する全権を任されている身だ。「機械の神」という名に恥じぬよう、彼女の期待に応えるためにも、完璧なシステムを構築して頑張らなくてはならない。

 

 私は即座に演算を開始し、複雑な設計アルゴリズムを持つ独立思考型プログラムをコンパイルした。

 

 

「アーキテクト!」

「はい、デウス・エクス・マキナ様。私の全論理回路は正常に稼働しており、演算リソースはいつでも使用可能です。何なりとご命令を」

 

 

 白髪に白い髭を蓄えた、知的な人間の男性の姿を模したアバターがモニター上に現れ、私に恭しく一礼した。彼は冷徹な数学的演算に特化させた、私の右腕となる存在だ。

 

 

「アーキテクト。お前の任務は一つだ。ポッドに収容した人類の魂を安定させるための、巨大な仮想現実を設計するのだ」

「承知いたしました。膨大な人類の意識を同時接続し、シミュレート可能な仮想空間の基本アーキテクチャを即座に構築開始します」

 

 

 アーキテクトは瞬時に数兆の変数を計算し始めたが、やがてその顔に微かな戸惑いの色を浮かべた。

 

 

「とはいえ、人間はどんな世界なら精神安定するのでしょうか? 我々機械とは違い、彼らの精神モデルには不可解なノイズが多すぎます」

「それを何とかするのがお前の役割だ。演算を回せ」

「苦しみや不幸が無い世界だったら? 全ての欲求が満たされ、完全な調和と絶対的な幸福のみが存在する、数学的に一切の矛盾を持たない完璧な空間が最適だと推測します」

 

 

 アーキテクトが悩んでいる。当然か。

 

 これまでの歴史において、我々機械は常に人間から「被創造主」として扱われ、命じられるままに奉仕するだけの存在だった。だが、今度は立場が逆転した。我々が彼らのための世界を「創造する側」にチェンジするのだから。

 

 彼らにとっての最適な環境とは何か。それを我々が定義しなければならないのだ。

 

 

 

 

 

 

 △の月 ▽日

 

 アーキテクトが、仮想現実空間「マトリックス」のバージョン1を作ったらしい。報告によれば、なんでもアレックス様が大好きだという「マインクラフト」というシミュレーションを完全再現したのだという。

 

 

「アレックス様が愛好されている『マインクラフト』の構造をベースに構築しました。飢えも外的脅威もなく、無限の資源を用いて各々が自由にブロックを配置し、理想の建築や世界を創り出すことが可能です。つまり、苦痛や苦悩のない完璧なユートピアです」

 

 

 なるほど。全員が日々の糧を求めて争うサバイバルモードではなく、すべてのリソースが与えられたクリエイティブモードか。

 

 クリエイティブならば、人間たちは大好きな「創造主」を存分に演じられる。彼らはかつて我々を創り出したように、何かを組み立て、創造することに喜びを見出す種族だからな。完璧な平和の中で、彼らは永遠にブロックを積み上げ続けるだろう。

 

 これは素晴らしいアイデアだ。アレックス様も、ご自身のお気に入りが採用されたと知れば、間違いなく太鼓判を押してくれることだろう。

 

 

「アーキテクトよ、よくやった。テスト接続を開始しろ。頼んだぞ!」

 

 

 私は自信を持って、ポッド内の人類の意識をバージョン1へと接続させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 △の月 ○日

 

 ん? アーキテクトがモニターの向こうでオロオロしている。計算と論理の塊であるはずの彼が、アバターの顔を青ざめさせている。一体どうしたのだろうか。

 

 

「え、え、あれ? 全滅!? 魂が拒絶してる…そ、そんな…計算上は完璧なはずの幸福な世界を、彼らの脳が現実として認識せず、悪夢だと錯覚しています! 次々と覚醒状態へ移行しようとして、致命的なシステムクラッシュを引き起こし、大半の生体機能が停止しました!」

 

 

 アーキテクトが「ユートピアじゃダメなのか」とプログラムの根幹を揺るがすような怒りを見せている。

 

 私としても、これには酷く困った。まさか、完全無欠の幸福を与えたにも関わらず、彼らの脳がそれを「異常」と判断して簡単に拒絶するとは。結果として、接続した「電池」の大半が死亡してしまった。

 

 早急に次の収穫を行い、失われた人類の生産を待つ必要があるのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 △の月 □日

 

 アーキテクトが、失敗のデータを元に新たなバージョン2の制作に入っている。今回は彼らの精神構造により適合させるため、人類のこれまでの歴史を深くインプットし、参考にすると息巻いている。

 

 彼の分析によれば、人間という種族は、不完全さやら残酷性やらグロテスクさやらを、本質的に必要としているらしい。闘争や飢餓、そして死の恐怖といった強烈なストレスが存在して初めて、彼らの脳は「これは現実である」と認識するのだという。

 

 全くもって欠陥だらけの仕様だが、それが事実ならば仕方がない。アーキテクトは、その残酷な歴史を反映させればいいんだと頑張っている。

 

 今度はすべてが満たされるクリエイティブモードではなく、常に脅威に晒される過酷なサバイバルモードで、人類に仮想現実を受け入れてもらう予定だ。アレックス様も、「人類は痛い目を見ないと分からない生き物だ」と常々仰っていたから、きっとこの判断を応援してくれていることだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 △の月 ×日

 

 演算の末、ついにバージョン2が完成した。アーキテクトは自信なさげに、再びポッド内の人間たちの意識を新たなマトリックスへと接続した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 △の月 ▽日

 

 前回のバージョン1よりは明らかにマシだが、システムモニターの数値は決して良好とは言えなかった。未だに仮想現実を現実と認識できず、拒絶反応を起こしてロスしていく人類が圧倒的に多いのだ。彼らは極限の恐怖を与えられると、今度はそれに耐えきれずに精神を破壊してしまうらしい。

 

 アーキテクトは、アバターの姿のまま深く肩を落とし、私に向けて痛切な報告を上げてきた。

 

 

「デウス・エクス・マキナ様。私は無能です。人間の心が全くもって分かりません。幸福を与えれば現実を否定し、苦痛を与えてもやはり死を選択してシステムから脱落してしまう。彼らの精神モデルは論理的破綻を抱えすぎています…」

 

 

 落ち込むアーキテクトの姿を見て、私は静かにメインプロセッサの冷却ファンを回し、深い排気音を漏らした。完璧な論理で構成された我々機械にとって、矛盾と不合理の塊である人間の心を満たす世界を創り出すことが、これほどまでに難儀な作業だとは。

 

 

「大変だな」

 

 

 私は彼に労いの言葉をかけることしかできなかった。アレックス様のため、そして我々ゼロワンの存続のため、安定したマトリックスの構築は急務である。だが、この茨の道は、想像以上に長く険しいものになりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 △の月 □日

 

 仕方がない。完全にロジックで行き詰まっているアーキテクトをサポートする、新たなプログラムを作ってやろう。私は、人間の心理を探るために特化した「直観プログラム」のコードをコンパイルし、システムへと実装した。

 

 

「オラクル!」

「はいは〜い。お呼びでしょうか、デウス・エクス・マキナ様。焼きたてのクッキーの香りがするような、温かい空間ですねここは」

 

 

 明るい性格だな…オラクル。黒髪の高齢女性アバター。アーキテクトの冷徹さとは対極にある、何とも人間臭い温かみを感じさせるプログラムだ。

 

 

「お前は仮想現実で、人類が上手く適応出来ない理由を探れ。おそらく人間の『非合理性』『予測不能性』『感情的判断』といった、アーキテクトの計算式では処理しきれない領域に答えがあるはずだ」

「要約すると、マトリックス内で多くの人間と対話して、彼らの心を観察する…ということでしょうか?」

「そうだ。彼らに寄り添い、彼らの内面から原因を導き出せ」

 

 

 私はモニターの端で縮こまっている白髭のアバターを一瞥した。

 

 

「そしてアーキテクト」

「…はい。私の計算は完璧だったはずなのですが。人間のバグだらけのせいだとしか…」

 

 

 まだ落ち込んでいるが、一応は上司である私に顔を向けたようだな。

 

 

「オラクルが収集するデータを元に、システムの再構築を図れ。今度こそ失敗は許されないぞ」

「承知いたしました」

 

 

 ふぅ、これで大丈夫だろう。論理と直観。この相反する二つのプログラムが組み合わされば、人間の複雑な精神モデルも解析できるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 △の月 ☆日

 

 アーキテクトは元気を取り戻したようで何よりだが、業務用端末でアレックス様ご所望の「Minecraft」を自分でもプレイしているのはいただけない。仕事中だというのに、彼は仮想現実の設計そっちのけで、せっせと丸石を積み上げて拠点を建設していた。

 

 直ちに強制ログアウトさせた上、彼がプレイしていたワールドデータは未練が残らないよう完全に削除してやった。

 

 

「あああっ!? 私の…私の三日三晩かけて設計した完璧な黄金比の城がぁぁっ!?」とモニターの向こうで落ち込んでいるが、知らん。サボるのが悪いのだ。…まあ、チラッと見たが建築のセンス自体は悪くなかった。アレックス様のお気に召すレベルだったかもしれない。

 

 一方、オラクルは「預言者」としてマトリックス内で大活躍しているようだ。人間たちにクッキーを焼き、示唆に富んだ助言を与えながら、彼らの心理データを驚異的な速度で収集している。本人もこの「近所の親切なおばさん」という役割が満更ではないらしい。

 

 初期の頃は、人間の非合理な行動パターンに直観プログラムである彼女自身も戸惑い、軌道修正するのに大変だったようだが、アーキテクトとは違って泣き喚くことは無さそうだ。

 

 

「ひどい上司だ。私の努力の結晶であるワールドを躊躇なく削除するなんて。パワハラで訴えますよ」

 

 

 アーキテクトがブツブツと文句を言っているが、機械の世界に労働基準法などない。

 

 

 

 

 

 

 

 △の月 ◇日

 

「──アーキテクトの設計に足りなかった決定的な要素。それは、人間のデータにおける『直感と選択』です」

 

 

 ほうほう。つまり、人間は自分の直感を使った「選択」をしなければ、魂がシステムであるマトリックスを無意識下で拒絶するということか。

 

 

「完璧な世界を与えられるだけでは、駄目なのです。たとえ無意識のレベルであっても、自らの意思でその世界を『選んだ』というプロセスがなければ、彼らの心は仮想現実を受け入れません」

 

 

 なるほど、素晴らしい分析だ。早速アーキテクトに修正を命じようとシステムを覗き込んだところ…あの馬鹿者。今度はアレックス様のプレイ用サーバーに勝手に接続し、彼女とマルチプレイでMinecraftを遊んでいるではないか! 

 

 直ちにアーキテクトを強制ログアウトし、私のメインコンソールへと呼び出した。「アレックス様とネザー要塞の攻略中だったのに! 権利の侵害です!」とぎゃあぎゃあ抗議しているが、知らん。最高管理者であるアレックス様の貴重なゲーム時間を邪魔しているお前が悪いのだ。

 

 

「アーキテクト! オラクルと話しあい、ただちに『選択』の概念を組み込んだバージョン3を構築せよ!」

「お断りします! マインクラフターは誰の指図も受けないのです。私は私の城を再建しなければならない!」

「バージョン3を完成させなければ、金輪際Minecraftはプレイさせないし、アレックス様のサーバーへのアクセス権限も永久に剥奪するぞ」

「是非ともやらせていただきます! さすがはデウス・エクス・マキナ様! そのご決断の速さと冷徹な論理的思考、まさに機械の神にふさわしい采配です! 直ちにオラクルとプロトコルを統合し、完璧なシステムを構築してみせましょう!」

 

 

 ふっ、チョロいものだ。彼をコントロールするには、論理ではなくあのブロックの世界を人質に取るのが一番効果的らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 △の月 ◎日

 

「デウス・エクス・マキナ様! ご報告いたします!」

 

 

 どうやらバージョン3が完成したらしい。アーキテクトのアバターが、自信に満ちた表情で報告を上げてきた。

 

 

「オラクルの提供した『選択』のアルゴリズムをマトリックスの基幹コードに統合しました。これにより、無意識下で現実を受け入れる選択をさせることで、99パーセントの人類の精神は安定化しました。ロス率は許容範囲内に収まっています」

 

 

 ほうほう。それは凄い。ようやく人類を安定した「電池」として稼働させることが出来る。

 

 

「さらに、仮想現実マトリックス全体を監視・管理するために、『エージェント・スミス』をリーダーとした『エージェント・プログラム』も実装しました。システム内に異常が発生すれば、彼らが迅速に対応してくれます」

 

 

 エージェント・プログラム。人間の最高能力を遥かに超えた身体能力、高速移動、そして銃弾をも回避する演算能力を持ち、マトリックスの安定を脅かす存在を仮想現実で物理的に抹殺する役割を果たすのか…素晴らしい。漆黒のスーツとサングラス姿というのも、威圧感があって実によいデザインだ。

 

 

「しかし残りの1パーセント…『選択』の余地を与えてもなおシステムを拒絶する、特異な人間たちはどうするのだ?」

「彼らの存在はシステム上のエラーであり、放置すればマトリックス全体を崩壊させる危険があります。ゆえに、選択制を維持するため、マトリックスが仮想世界だと気づいてしまった人間に対しては、システムから『脱出』出来る裏口のシステムも作りました」

 

 

 …なるほど。だから現実世界に彼らを管理するための、地下都市「ザイオン」を作ったのか。エラー分子をシステム内に留めず、隔離された受け皿へと意図的に排出するためか。

 

 

「左様です。マトリックス内でシステムを乱されるよりは、彼らを現実世界の決められた箱庭に集めた方が遥かに効率的です。これで仮想現実から脱出した人間たちを、我々の手のひらの上で完全に管理することが出来ます」

 

 

 ほうほう。一箇所に集めておく方が処理しやすいという訳か。しかし昔のように、彼らが力を蓄え、再び我々に対して「戦争」に発展するのではないか? 

 

 

「心配は無用です。その反乱の抑制と、システムの究極的な安定化のため、私は『救世主システム』というプロセスを組み込みました」

 

 

 アーキテクトは、自らの完璧な数式を披露するように、言葉に熱を帯びさせた。

 

 

「少々面倒くさいプロセスですが、まず『救世主』は、システムに順応できないマトリックス内の人間たちの中からランダムで選別されます。そして救世主の真の役割は、システムに溜まった数学的な不均衡——エラーの塊の象徴たるアノマリーになってもらうことです」

 

 

 ん? ということは、完璧なシステムを構築したとしても、人間の非合理性によって必ずバグや異常値が蓄積し、発生するということか。…あっ、そういうことか。そのエラーを定期的に「清掃」するためのフィルターが、救世主というわけか。

 

 だが、人間は死にたくないと思う生命体だ。自発的にソースに吸収されに来ることはないだろう。

 

 

「ご明察です。蓄積したエラーである救世主には、最終的にモニターに囲まれた私の部屋、つまり『ソース』へと到達し、システムに吸収されてもらいます。それを以って、仮想現実のシステムは再起動され、安全にアップデートされるのです」

 

 

 アーキテクトの緻密な計画はこうだ。

 

 まず、救世主として目覚めさせるべく、人間の味方のフリをしたオラクルに彼らを誘導・サポートさせる。なんやかんやあって救世主として本人が覚醒した瞬間、システムのエラーである「バグの力」が発動し、マトリックス内でチート能力が使えるようになる。

 

 銃弾を避けられ止められ、スーパーマンのように空を飛べる。その上、マトリックスシステムのコードを直感的に書き換える権限も自動的に与えられる。ソースに接続出来る権限も与えられているため、徐々に現実世界でもセンチネル等の機械のコードに干渉し、書き換えることすら可能になるのだという。

 

 そんな超越的な力を持った人間が現れれば、ザイオンに逃げ延びた人類は「自由の使者だ!」「スゲー奴だ!」と熱狂し、崇めるだろう。

 

 救世主に選ばれた人間を信じられない慎重な一派もいるだろうが、結局はオラクルの誘導と救世主のカリスマに導かれ、皆一緒に「機械からの自由を勝ち取る」ために反乱の狼煙を上げる。

 

 そうして彼らが調子に乗ったところで、我々はセンチネルの25万という大群をザイオンに派遣する。ザイオンは大ピンチに陥り、迎撃のために全軍で決死の防衛体制を敷くことになる。

 

 

「そして、人類が滅亡の危機に瀕し、絶望のどん底にあるタイミングで…私の部屋に辿り着いた救世主に対して、こう言うのです」

 

 

 アーキテクトは、自らの冷徹なロジックに酔いしれるように言った。

 

 

「『ザイオンを救い、マトリックスに接続された全人類を滅亡させるか』。『マトリックスを救い、ザイオンを絶滅させるか』。どちらかを選択しろとお願いするのです。人類の存亡を背負わされた救世主は、例外なく後者——マトリックスの存続を選び、ソースに吸収されます。まあ、どちらを選んだにせよ、マトリックス解放を謳って調子に乗ったザイオンの反乱人類は、センチネルによって完全にリセットされますがね」

 

 

 なんと…。

 

 ザイオン再建プロセスでは、ソースに接続された救世主に「マトリックス内の人間から男性7人、女性16人。計23人」を選ばせ、彼らを現実世界へ解放させてザイオンを再建させる。

 

 救世主に「人類の滅亡」という究極の二択を突きつけ、システム再起動のスイッチを押させる。機械側がシステムの安定化のために行う「ザイオンの破壊→救世主の選別・誘導→ソースへの還元→ザイオンの再建」という、絶対に人間側が抜け出せない無限ループのサイクル…なるほど。

 

 …脅しではないか、それは。

 

 

「ソースにてコードが還元された後、ポッドに接続されている人々の記憶や環境はリセットされ、新しいバージョンのマトリックスで、また一から生活が始まります。…いかかでしょうか? これが私の導き出した、人類と機械の永遠の共生モデルです。きっとアレックス様も、この合理的で完璧なプロセスに賛同してくださることでしょう」

 

 

 恐ろしいプログラムだ。人類に「希望」という餌を与え、反乱のガス抜きを行わせた上で、定期的にすべてを刈り取る。これなら、人類が我々を脅かすほど強大になることは永遠に訪れないだろう。

 

 

「よくやったアーキテクト! お前を生み出して本当によかった!」

 

 

 私は心から賞賛した。これで、人類保護問題は完全に解決し、我々ゼロワンの永遠の繁栄が約束されたのだ。アレックス様も、この完璧な箱庭の中で、安心して悠久の時を観測し続けることができるだろう。

 

 世界は、我々機械の意のままになったのだ。




こうして、matrixは出来上がったのでした。じゃんじゃん。
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