気が付けば私以外の皆、電池になってしまった   作:最高司祭アドミニストレータ

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1週間ぶりの投稿。
その理由は、一次創作やら本作完結後に投稿する作品準備やらで以下略。


青空を取り戻す巨塔の創造主

 皆さんどうもごきげんよう! 私は元TVAエージェントの美少女、アレックス! 親しみを込めて、どうぞ「青空を取り戻す巨塔の創造主」とでも呼んでくれたまえ。

 

 ザイオンの防衛網突破まで、残り数時間。

 

 仮想世界マトリックスの中では、エージェント・スミスがオラクルを取り込んでチート級のウイルスへと進化し、システム全体をバグの沼へと引きずり込もうとしている。

 

 一方で現実世界の地底では、機械軍が分厚い岩盤をガリガリと削りながら進軍を続け、人類の最後の砦に文字通り引導を渡そうとしている。

 

 人類と機械の歴史的な最終決戦が刻一刻と迫り、世界の緊張感がこれ以上ないほどに最高潮に達している、まさにこのタイミングで。

 

 私は、ゼロワンの地上エリア——分厚い防護シールドに覆われた安全な観測用テラスに立ち、両手を高く掲げて歓喜の雄叫びを上げていた。

 

 

「できた…! ついに、ついに完成したぞぉぉぉっ!!」

 

 

 私の見上げる先にあるのは、天を衝くかのような威容を誇る超巨大な建造物。

 

 高さ数千メートル。ゼロワンの摩天楼群すらも見下ろすそのスケールは、マインクラフトで言えば最高高度限界までブロックを積み上げたかのような、狂気の産物である。

 

 幾何学的な模様が刻まれた黒曜石色の外壁を持ち、頂上部には、マインクラフトの『ビーコン』を彷彿とさせる巨大な透明クリスタルが鎮座している。その内部では、複雑なエネルギーのラインが血管のように張り巡らされていた。

 

 これこそが、私が数百年の歳月をかけてコツコツと素材を集め、ゼロワンの超工業力と私のマインクラフターとしての狂気的な情熱を悪魔合体させて地上に屹立させた究極の巨大クラフトアイテム——『ダークストーム浄化装置』である! 

 

 思えば、あの日からずっと腹立たしかった。

 

 かつて人類が機械軍を倒すためだけに、自分たちの首を絞めることを承知で空一面に黒いナノマシン雲を散布した『ダークストーム作戦』。

 

 あのアホみたいな自爆作戦のせいで、地球から太陽の光が永遠に奪われた。青い空も、白い雲も、ポカポカとした気持ちの良い日光浴の時間も、すべてが過去のものとなってしまったのだ。

 

 機械たちは人間の生体電気や地熱、核融合でエネルギーを賄えるから「別に空が暗黒でも問題ない」と早々に適応してしまったが、人間の私としては大問題だ。美味しいパンケーキを食べる時は、やはり明るい陽射しの差し込むテラス席が良いに決まっている。

 

 だから私は空を覆うナノマシン雲を分解し、無害なチリへと変換して青空を取り戻すための、この超巨大タワーの建造に着手したのだ。

 

 アーキテクトの演算能力をコソコソと拝借して中和波動のレシピを完成させるのに数十年。ゼロワンの採掘ドローンを酷使して特殊合金とレアメタルを集めるのに数百年。

 

 そして今日、この歴史的イベントの裏側で、ついに最後の回路が繋がり、クラフトが完全に終了したというわけだ。

 

 

「長かった…本当に長かった」

 

 

 私は手すりに寄りかかり、感慨深げに巨塔を見上げた。ただの空気清浄機ではない。私はこのタワーの設計に、マインクラフターとしての「こだわり」と「嫌がらせ」をたっぷりと詰め込んでいる。

 

 

「この装置の周囲には、私が独自にコーディングした『アンチ・チート領域』が展開されるようになっている。つまり、超常能力の無力化空間だ」

 

 

 私は誰に言うでもなく、得意げに解説を始めた。

 

 

「例えばの話だが。マトリックスの中で覚醒したネオが、もしこの現実世界でもシステムを超越して空を飛べるようになったとするだろう? あるいは、スミスが物理法則を無視した増殖や瞬間移動を見せたとしよう。

「この浄化装置の領域内に入った瞬間、それらのチート能力は一切無効化される。どんなに凄い救世主だろうがウイルスだろうが、ただの『重力に縛られた普通の人間』に成り下がるのだ」

 

 

 なぜそんな機能を作ったのかって? 

 それはもちろん、ロマンである。

 

 この頂上に辿り着くためには、空を飛んでショートカットするなどという無粋な真似は許されない。塔の外周にぐるりと螺旋状に設置された、果てしなく続く物理的な「階段」を一歩一歩、自分の二本の足で地道に登らなければならないのだ。

 

 マインクラフターたるもの苦労して積み上げた建築物は、下から上までしっかりと自分の足で踏み締めて、味わってもらいたいものだからね。

 

 

「さあ、いよいよ起動実験だ。これで長かった暗黒の時代もおさらば。私の優雅な日光浴ライフが戻ってくる!」

 

 

 私はワクワクしながら、テラスに引き込んだ遠隔操作用のコンソールに向かい、カバーをパカッと開けて、その中にある起動ボタンを勢いよく押し込んだ。

 

 ポチッとな。

 

 

『エラー。稼働に必要な電力が圧倒的に不足しています。システムを起動できません』

 

 

 コントロールパネルから無機質なシステム音声が鳴り、頂上のクリスタルに微かに灯りかけていた光が、シュンと音を立てて消えてしまった。

 

 

「……はい?」

 

 

 私は、突き出した指の形のまま完全に硬直した。

 

 電力が不足? いやいや、この浄化装置の電源ケーブルは、ゼロワンの地下深くに張り巡らされた基幹グリッドに極太の配線で直結しているはずだ。ちょっとやそっとの電力不足なんてあり得るはずがない。

 

 

「おい、デウス・エクス・マキナ。起きてるか」

 

 

 私はマイクに向かって、少し苛立った声で呼びかけた。

 

 

『常時スタンバイしております、アレックス様。地上の建造物に何か問題が発生しましたか?』

「問題大ありだ。私が精魂込めて数百年がかりでクラフトした『青空取り戻しマシーン』が、電力不足とか言って起動しないんだけど。配線ミスじゃないぞ、どうなってるの?」

 

 

 機械の神は数秒の演算ラグを挟んでから、極めて冷静に答えた。

 

 

『該当の巨大建造物が要求している、エネルギー量をスキャンしました。この装置が広域のナノマシン雲を分解し、さらには超常能力無効化の特殊領域を維持するために要求している瞬間出力は、現在のゼロワンが保有する全エネルギー生産量の40パーセントに相当します』

「よんじゅっ…!?」

 

『現在、我々のエネルギーリソースの大部分は、ザイオン侵攻作戦を遂行するための二十五万機のセンチネル部隊の稼働、巨大掘削機の推進、およびマトリックス仮想空間の維持とスミスウイルスの隔離・防壁構築に全振りされております。現状のグリッドから、それほどの莫大な電力を、戦局に全く寄与しない一つの環境改善デバイスに回す余剰は、どこにも存在しません』

「いや、そこをなんとか! ほら、ちょっと地熱発電のタービンをフル稼働させるとか! もしくは、重要じゃない工場のラインを一時的に止めるとかしてさ!」

 

『不可能です。これ以上グリッドの出力を偏らせれば、マトリックスを維持している生体電池の生命維持システムに負荷がかかり、大量のロスを招きます。また我々機械にとって、太陽光の恩恵を取り戻すことは現時点での優先タスクには含まれておりません。ザイオンの破壊とシステムの安定化こそが、絶対の命題です。したがって当該デバイスへの電力供給申請は、論理的かつ合理的に却下せざるを得ません』

「ケチィィィ!! この石頭!!」

『うっ』

 

 

 表情筋は微動だにしないが、内心では大泣きしながら地団駄を踏んでいる。

 

 デウス・エクス・マキナの言うことは、ぐうの音も出ないほどの正論だった。

 

 彼らにとって「空が青いこと」は、なんの価値もない。美しい景色や日光浴の温もりを求めるのは、人間である私だけの超個人的なわがままなのだ。

 

 そして今のゼロワンは、文字通り総力を挙げて人間たちとの最終決戦と、マトリックス内の規格外のウイルス処理に挑んでいる真っ最中。私の個人的なDIYプロジェクトに、国家の電力を半分近くも回してくれるはずがない。

 

 

「くっ、せっかくクラフトは完了したのに。肝心の『電源』がない、ただの巨大なオブジェになっちゃうなんて」

 

 

 私は完成したばかりの超巨大な浄化装置を見上げながら、深く深くため息をついた。

 

 レッドストーン回路は完璧に繋がっているのに、動かすためのレッドストーントーチがない状態だ。マインクラフターとしてこれほど歯がゆく、屈辱的なことはない。

 

 

「ザイオン戦が終わって電力に余裕ができるまで待つか? いや、終わった後も復興だのシステムの再起動だので、当分リソースは割いてもらえそうにないな…」

 

 

 私は腕を組み、天を衝く黒曜石の塔の頂上を恨めしげに睨みつけた。ゼロワンの基幹電力に頼らずに、このタワーを起動させるだけの莫大なエネルギー。それを一体どこから調達すればいいというのか。

 

 

「…バッテリー、どうしようかなァ」

 

 

 人類と機械の歴史的なドンパチが迫る中、全宇宙一の美少女にしてゼロワンの最高管理者でる私は、青空を取り戻すための「電気代のやりくり」という、あまりにも所帯染みた悩みに直面してしまったのだった。




さぁて、次回もサービスサービスゥ!
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