気が付けば私以外の皆、電池になってしまった 作:最高司祭アドミニストレータ
ザイオン艦隊の中で最大の巨体を誇る大型ホバークラフト、「ハンマー号」。その重厚な金属の船体は今、地底深くの極めて狭く入り組んだ暗闇の中を、息を殺すようにして進んでいた。
彼らが現在進んでいるのは、メインの巨大な地下トンネルではない。かつての旧文明が配管や通信ケーブルを通すために構築し、今では完全に放棄された「点検用トンネル」と呼ばれる裏道であった。
何故ザイオン最大の艦が、その巨体に全く見合わない窮屈な迷路を選ばざるを得なかったのか。
理由は明白である。彼らの頭上、およそ一千メートル上方のメインルートには、ザイオンを完全に破壊すべく進軍を続ける機械軍の本隊——25万機ものセンチネルの群れと、岩盤を粉砕する巨大な掘削機が蠢いているからだ。
金属の触手が岩を削り、無数の機械が押し寄せる不気味な駆動音が、分厚い地層を越えてハンマー号の船内にも微かな震動として絶えず響き渡っている。
もしも上方の敵本隊に発見されれば、如何に重武装のハンマー号といえども、数秒で無数の触手に引き裂かれ、冷たい鉄屑へと変えられてしまうだろう。
彼らは、ザイオンの防衛軍に一刻も早く合流するため、敵の探知網のすぐ足元を掻き潜るという、絶望的で無謀なステルス飛行を余儀なくされていた。
船内のブリッジは、耐え難いほどの緊張感に包まれていた。非常用の薄暗い照明だけが灯る中、乗組員たちの顔には濃い疲労と冷や汗が浮かんでいる。
「あとどれくらいだ?」
ハンマー号の船長であるローランドが、焦燥感を隠しきれない太い声で尋ねた。彼の血走った視線は、コンソールのレーダー画面に釘付けになっている。
「入口まで1.4キロです」
オペレーターのゴーストが、計器から目を離さずに冷静な声で即答した。彼の指先はコンソールの上を滑るように動き、周囲の地形データを絶え間なくスキャンし続けている。
「熱を出しすぎてる。これでは感知されるぞ」
背後から、低く落ち着いた声が響いた。マトリックス内での死闘を経てハンマー号に救出された男、モーフィアスだ。彼はモニターに表示されているハンマー号の排熱レベルを鋭い目で見つめていた。
センチネルの群れは、暗闇の中で獲物を探すために極めて高精度な熱感知センサーを使用している。ハンマー号のように巨大な船を浮かせるためのホバー推進器は、必然的に膨大な熱量を放出してしまう。
このまま進めば、どこに潜んでいるか分からない敵に自ら居場所を知らせているようなものだった。
「補助システムを切りましょ。すべて手動にして、パワーも最小に絞って」
ブリッジの最前列で操縦桿を握っていた女性が、凛とした声で命じた。
ロゴス号の船長であり、ザイオン艦隊で並ぶ者のない天才的な操縦技術を持つナイオビだ。彼女は、自らの船ではないこのハンマー号の操縦を自ら買って出ていた。
この針の穴を通すような極限のステルス飛行を成功させられるのは、自分しかいないという絶対の自信と覚悟があった。
「腹を擦ることになりますよ? 船底が岩盤に少しでも接触すれば、その衝撃音で一貫の終わりです」
ゴーストが即座に警告を発した。
パワーを最小に絞るということは、重力に逆らって巨体を浮かせるホバーパッドの出力を極限まで下げるということだ。ただでさえ狭い補助パイプの中で、機体を床スレスレまで沈めなければならない。
「分かっているわ。でも、やるしかない」
ナイオビの目は前方の暗闇だけを鋭く見据え、両手は操縦桿のわずかな抵抗を感じ取っている。それがどれほど危険な賭けであるかを完全に理解した上で、彼女は決断を下していた。
「はいはい、了解しましたっと」
ゴーストは短く息を吐き、システムを切り替えた。
船内の照明がさらに落ち、生命維持と最低限の推進器以外のあらゆる補助システムがシャットダウンされる。ホバーパッドの出力が低下し、ハンマー号の巨体がズン、と重力を受けて沈み込んだ。
船底がトンネルの床の岩肌を掠めるスレスレの高度。ナイオビはプログラムの自動補正に頼ることなく、人間の有機的な感覚と経験だけを頼りに、絶対に不可能なはずの隙間を縫っていく。
「ゆっくりとね…」
ナイオビが自らに言い聞かせるように呟く。
「700メートルまで来ました」
ゴーストが静かに報告する。船底が床の起伏をギリギリでかわす度に、船体に微かな振動が走る。ナイオビの額から汗が滴り落ちるが、彼女は瞬きすら惜しんで操縦桿を微調整し続ける。
「もう少し近づければ…」
「あと600メートル…」
あとわずか。このまま行けば、センチネルの探知網を完全にすり抜け、ザイオンのゲートへと続く巨大な縦穴へと到達できる。誰もがそう確信しかけた。
その時だった。コンソールのレーダーを凝視していたゴーストの指が、ピタリと止まった。
「キャプテン。前方に熱源反応」
「上方の本隊じゃないのか?」
ローランドが身を乗り出して、モニターを覗き込む。
「違います。このトンネルの奥、進行方向です。おそらく点検用トンネルをパトロールしているセンチネルの別働隊が、前方に充満しています」
その報告に、ブリッジの空気が完全に凍りついた。ステルスで息を殺して進んできたハンマー号だったが、トンネルの構造上、前方から密集してくる敵の群れとの遭遇は避けられない運命にあったのだ。
ハンマー号のメインウインドウの向こう、真っ暗なトンネルの奥底に、奇妙なものが浮かび上がった。それは一つや二つではなかった。暗闇の中に、不気味に明滅する無数の「赤い光点」が現れたのだ。
「!?」
モーフィアスの顔が引き攣った。他の乗組員たちも、息を呑んでその光景を凝視する。
「おい…なんだ、あれは?」
ローランドが、震える指で前方の暗闇の一点を指差した。無数のセンチネルが蠢く群れの中央。そこだけが、異質な静けさを保っていた。その赤い光の波の中から、一体の「巨人」がゆっくりと姿を現した。
「APU、なの?」
ナイオビが、信じられないものを見るように目を細めた。ザイオンの防衛軍が使用している、パイロットがむき出しになった無骨な外骨格スーツとは、設計思想からして次元が違っていた。
完全に密閉された流線型のコックピットを備え、機体の関節や装甲の隙間からは、暗闇の中で妖しく明滅する紫色のラインが血脈のように走っている。無駄な排熱や稼働音を一切発することなく、摩擦抵抗ゼロの滑らかな動きで空中を浮遊するその姿は、人類のいかなる技術をも嘲笑うかのようだ
「モーフィアス、あれは何だ? 機械軍の新型か?」
「おそらくはな。だが、今はあれを分析している時間はない。私たちの存在に気づかれるわけにはいかないんだ。そうだろう? ローランド」
「そうだな」
「冗談じゃないぜ。センチネルの群れだけでも厄介だってのに、あんな化け物までお出ましとはな」
息を呑むような沈黙がブリッジを支配する。聞こえるのは乗組員たちの荒い呼吸音と、船体の奥底から響く微かなローターの回転音だけだ。
前方の暗闇の中では、無数のセンチネルたちが赤いセンサーアイを不気味に点滅させながら蠢いている。そのすぐ近くを、漆黒の機動兵器が音もなく静空していた。
誰もが身体を強張らせ、このまま気付かれずに通り抜けられることを祈っていた。
しかし、その極限の低空飛行という究極の選択が、最悪の形で牙を剥いた。
——ズガァァァァン!!!
凄まじい乾いた破壊音が、トンネルの静寂を暴力的に引き裂いた。
「うおっ!?」
「きゃああっ!」
衝撃波が船体を激しく揺さぶり、ブリッジの乗組員たちはシートベルトに強く締め付けられながら前方に投げ出された。パワーを極限まで落とし、床スレスレを飛行していたハンマー号の船底が、床に突き出ていた巨大な鋼鉄の瓦礫と正面から激突してしまったのだ。
激突の凄まじい衝撃により狭いトンネルの壁面に反響し、地底に大きく響き渡った。
「何が起きた!?」
「船底を擦った! 瓦礫に衝突しました!」
衝突によって生じたその大音響は、単なるノイズではなかった。それは暗闇の中で眠っていた捕食者たちを覚醒させる、決定的な合図となった。
前方の暗闇にひしめき合っていた無数の赤いセンサーアイが一斉に輝きを増し、激突音のした方向——ハンマー号に向けて鋭く明滅した。
それだけではない。これまで静寂を保っていた漆黒の機動兵器の紫色のラインが、一瞬にして爆発的な光を放って真紅に染まり、その単一のメインカメラが、暗闇の中でハンマー号の輪郭を寸分違わず捕捉した。
敵の探知網が、ハンマー号の「位置」を完全に確定させたのだ。無数のセンチネルが金属の触手を波打たせ、巨大な黒い津波のようにこちらへ向けて一斉に突進を開始した。
「見つかった! 来るぞ!」
「フルパワー! システムをすべてフルにして!」
もはや、隠れる必要も息を潜める意味もない。ナイオビは悲鳴のような咆哮と共に、コンソールのメインスロットルを限界まで押し込んだ。ハンマー号の休止していたすべてのホバーパッドが、一斉に目も眩むような青白い推進炎を噴き上げた。
船体が床から力強く浮上する。ステルスを完全に捨て去り、正面から迫り来る死の群れと未知の巨人を力技で突破するための、文字通りのフルスロットルだ。
「銃座に就け! 急げ! ありったけの銃を起動しろ! 行け行け!」
ローランドの怒号が響き渡り、乗組員たちが銃座へと急行する。
ハンマー号は青白い推進炎を轟かせ、立ちはだかるセンチネルの壁。そして赤いラインを発光させて突進してくる漆黒の機動兵器に向けて、全速力で前進を開始した。
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皆さんどうもごきげんよう! 私は元TVAの美少女アレックス! 親しみを込めて、「永遠の美少女」とでも呼んでくれたまえ。
私の前に並ぶ巨大な監視モニター。そこに映し出されているのは、人間の地下都市ザイオンの命綱である、もっとも強固なドックの外壁だ。
凄まじい火花と、鉄板を引き裂くような不快な破砕音がスピーカーから響き渡る。機械軍の放った巨大な掘削機の回転ドリルが、ついにザイオンの頑丈な装甲板を限界まで削り、ついにドックを「貫通」した。
崩れ落ちる瓦礫と、我先にと突撃していくセンチネル。
私はトレーニングルームで流した汗をタオルで拭き、お気に入りのジュースを飲みながら、特等席でその歴史的な破壊のスペクタクルを凝視した。
「すべてはシナリオ通り、か…」
アーキテクトが設計した、ザイオン破壊と再建のサイクル。人間たちがどれほど団結し涙を流して抗おうとも、この結末だけは揺らがない。
「それはそうと──やってしまえー!!」
さて、今回も楽しませてもらおうじゃあないか。
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