気が付けば私以外の皆、電池になってしまった   作:最高司祭アドミニストレータ

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食堂で初めて牛すじカレーをいただきました。初めてのラッキョウも、カレーと一緒だと美味しかったです。
それでは皆様の感想、評価をお待ちしております。


ネオ「別の道を探す」アレックス「ふっ、そうか」

 土砂降りの雨が、夜の街を黒く沈めていた。

 

 天を劈く雷鳴が轟き、閃光が空を裂くたびに、アスファルトの上に整然と立ち並ぶ無数の人影が白く浮かび上がった。

 

 一人、十人、百人、千人——いや、数えることなど無意味だった。見渡す限り、通りを埋め尽くしているのは、黒いスーツに身を包んだ全く同じ顔の男たちだった。

 

 この仮想世界に存在していたすべての人間、すべてのプログラムが、ただ一つの致死性のウイルスによって上書きされていた。

 

 エージェント・スミス。

 

 かつてマトリックスの秩序を守る防壁であったそのプログラムは、今やシステムそのものを食い破り、無限に増殖する癌細胞と化していた。

 

 彼らは冷たい雨に打たれながら、これから始まる儀式を高みの見物と決め込み、微動だにせず立ち尽くしている。

 

 その中央に、ネオは立っていた。

 

 現実世界の果て、機械たちの中枢である「マシン・シティ」に辿り着いた彼は、機械の統括者であるデウス・エクス・マキナと取引を行った。

 

 暴走したスミスを排除する代わりに、ザイオンへの攻撃を止め、人類との戦争を終わらせる。その誓約を背負い、ネオは再びマトリックスのコードの海へと接続されたのだ。

 

 

「来たか、アンダーソン君」

 

 

 群衆の中から歩み出てきた一人のスミスが、ネオの前に立ちはだかった。彼はオラクルを取り込み、未来を見通す力を手に入れたと確信しており、その顔には絶対的な勝利の悦悦が張り付いていた。

 

 言葉を交わす必要はなかった。二人の存在そのものが、決して相容れない対極の極であった。

 

 ネオが地を蹴り、スミスが跳躍した瞬間、周囲の雨粒が弾け飛び、凄まじい衝撃波が大気を震わせた。物理法則の限界を超えた超常的な肉弾戦の火蓋が切って落とされた。

 

 二人の拳が交差するたびに、空気が破裂するような轟音が鳴り響き、発生した衝撃波が周囲の廃墟の窓ガラスを一瞬にして粉々に砕き散らした。

 

 ネオの拳がスミスの頬を捉え、スミスの蹴りがネオの腹部を抉る。

 

 二人は重力を無視してビルの壁面を駆け上がり、空中へと戦いの場を移した。落雷が夜空を照らす中、漆黒のコートを翻すネオと、スーツ姿のスミスが激しく取っ組み合い、互いの命を削り合うように打撃を交換する。

 

 幾千ものプログラムを取り込み、システムの限界を超えた力を手に入れたスミスは、次第にネオを圧倒し始めた。

 

 スミスが両手を組み、ネオの背中をハンマーのように殴りつけた。

 

 ネオの身体は制御を失い、猛烈なスピードで地上へと落下していく。雨粒を切り裂きながら落下したネオは、アスファルトの道路に凄まじい衝撃と共に激突した。

 

 地面が爆発したかのように砕け散り、泥水が高く跳ね上がる。そこには、自動車がすっぽりと収まるほどの巨大なクレーターが穿たれていた。

 

 激しい痛みが、ネオの全身の神経を焼き焦がした。現実の肉体ではないと分かっていても、精神にフィードバックされるダメージは確実な「死」の予感を伴っていた。

 

 ネオは水たまりと泥にまみれたクレーターの底で、重い身体をどうにか起こそうと足掻いた。呼吸をするたびに、肺が刃物で切り刻まれるように痛む。

 

 上空から、ゆっくりとスミスが降り立ってきた。

 

 彼は泥だらけになって立ち上がろうとする、ネオを見下ろした。理解できない生き物を見るような、ひどく歪んだ嫌悪の表情を浮かべた。

 

 

「なぜだ! なぜ戦い続ける?」

 

 

 スミスは叫んだ。その声には、人間の執念に対する根源的な苛立ちが混じっていた。

 

 

「自分でも勝てないと分かっているはずだ。生き延びるためか? それとも何かのためか? 自由か、真実か、平和か。それとも愛のためか?」

 

 

 スミスは、足元でおぼつかない足取りで立ち上がるネオを指差した。

 

 

「それらはすべて、人間の劣った知性が生み出した幻想に過ぎない。意味のない、一時的な慰めだ! すべては無意味だと、君も気づいているはずだ。なのになぜ君は戦い続けるんだ? アンダーソン君!」

 

 

 ネオは血と泥に汚れた顔を上げ、スミスを真っ直ぐに見据えた。膝は震え、視界は霞んでいる。だが、彼の心の中にある芯だけは決して折れてはいなかった。

 

 

「自分で選んだからだ」

 

 

 ネオの言葉は、雨音にかき消されそうなほど静かだったが、その響きは確かな重みを持っていた。

 

 誰に強制されたわけでもない。アーキテクトが設計したサイクルでもない。ネオ自身が、トリニティを愛し、人類の未来を信じ、自らの意志でこの場に立つことを選んだのだ。

 

 その言葉に、スミスの顔が怒りに歪んだ。

 

 彼は猛然と突進し、ネオを容赦なく打ちのめした。ネオの身体が泥の中に転がり、スミスはその上に馬乗りになって拳を振り下ろそうとした。

 

 勝利は目前だった。スミスがオラクルを取り込んだ時に見た「未来のヴィジョン」の通り、彼がネオを見下ろし、止めを刺す瞬間が訪れたのだ。

 

 

「そうだ、これだ。私はこの光景を見た」

 

 

 スミスは狂喜に顔を歪ませた。

 

 

「私がここに立ち、君を見下ろしている。そして私がこう言うんだ」

 

 

 スミスが口を開いた。だが、そこから飛び出した言葉は、彼自身が意図したものではなかった。

 

 

「始まりがあるものには必ず終わりがある、ネオ」

 

 

 その瞬間、スミスの顔から笑みが凍りついた。彼は目を見開き、信じられないものを見るように後ずさった。

 

 

「今、私は何と言った?」

 

 

 スミスは震える声で呟き、自らの手を恐怖に満ちた目で見つめた。

 

 

「そんなはずはない! これは罠だ! 罠に違いない!」

 

 

 ネオは、泥の中からゆっくりと立ち上がった。

 

 

「始まりがあるものには、必ず終わりがある」。それはかつて、預言者オラクルがネオに向けて語った言葉だった。

 

 スミスの中に、まだオラクルが存在している。彼女はスミスに取り込まれながらも、この結末を導くためにシステムの内側から干渉していたのだ。

 

 ネオは悟った。自分が成すべき「必然」を。

 

 ネオは構えを解き、抵抗をやめた。

 

 スミスは恐怖と混乱に苛立ちながらも、ネオの胸に手を突き入れた。黒い粘液のようなコードがネオの身体を覆い尽くし、彼をスミスへと同化していく。

 

 ネオの視界が完全に黒く染まり、スミスへの上書きが完了したかに見えた。

 

 だが、実際は違った。

 

 マトリックスの外部、現実世界のマシン・シティに接続されたネオの肉体を通じて、デウス・エクス・マキナから強力な光——システムを浄化するための修正プログラムのサージが流れ込んだ。

 

 マトリックス内でネオと同化したスミスの身体から、目も眩むような純白の光が溢れ出した。

 

 スミスは絶叫し、その身体の表面に陶器が割れるような亀裂が走った。内側から噴き出す圧倒的なエネルギーに耐えきれず、スミスの身体は爆発し、光の粒子となって消滅した。

 

 それが連鎖し周囲を取り囲んでいた無数のスミスたちも、次々と光を放って砕け散っていく。雨の路上には、スミスに取り込まれていたオラクルが一人、水たまりに取り残されて倒れていた。

 

 ネオの自己犠牲によってマトリックスからスミスの脅威は完全に排除された。人類と機械の戦争は、ついに終わったのだ。

 

 ネオの意識は、白く暖かい光の中に溶けていくように感じられた。

 

 これでいい。自分が選んだ結末だ。トリニティはマシン・シティへ向かう途中の墜落で致命傷を負い、彼の腕の中で静かに息を引き取った。彼女のいない世界に未練はない。

 

 ザイオンの人々が生き延びてくれれば、それでよかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■□■□■□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネオが目を開けると、そこはマトリックスの雨の路上でも現実世界のマシン・シティでもなかった。

 

 ネオは自分の身体を見下ろした。痛みはない。プラグの感触もない。

 

 何より彼を最も混乱させたのは、隣に用意された真っ白なベッドのような台の上に、横たわっている人物の姿だった。

 

 

「トリニティ…?」

 

 

 ネオは思わず駆け寄った。間違いない、トリニティだ。

 

 マシン・シティへと向かう激しい墜落の中で、彼女の胸を貫いていたはずの鉄骨の傷はなく、穏やかな寝息を立てて眠っている。死んだはずの彼女が、なぜここにいるのか。

 

 周囲を見渡す。どこか懐かしさを感じさせるような、アンティーク調の古い内装が施された広々とした部屋。

 

 部屋の奥では、石造りの暖炉のような場所で、赤い炎を上げる焚火がパチパチと心地よい音を立てて燃えている。

 

 

「おはようアンダーソン君、調子はどうかな?」

 

 

 突如として背後から底抜けに明るい、どこまでも軽薄な声が響いた。

 

 ネオが振り返ると、そこには黒いスーツに身を包んだ一人の少女が立っていた。

 

 雪のように白いショートヘア、その毛先だけが不自然なピンク色に染まっている。右目が血のように赤く、左目が澄んだ空のように青いオッドアイ。

 

 かつてネオが感じ取っていた気配とは違った。彼女の顔には、劇の主役を演じる女優のように生き生きとした笑みが浮かんでいる。

 

 彼女は大げさに両手を広げ、弾むようなステップを踏みながらネオへと近づいてきた。

 

 ネオは警戒して身構え、低く問いかけた。

 

 

「あなたが介入したのか、アレックス」

 

 

 黒いスーツ姿の美少女——アレックスは、片目をパチリとウインクし、肩をすくめてみせた。

 

 

「心配ない色男くん。彼女は無事だ。ただちょっと二人だけの空間になりたいから、引き続き彼女には眠り姫になってもらおう」

 

 

 彼女の指先が宙を舞い、大げさなジェスチャーと共に言葉が紡がれる。ネオはトリニティを一瞥し、再びアレックスを鋭く見据えた。

 

 

「不思議なものだ。本来だったらトリニティも君も死んでいたはず。それなのに生きてる…なぜだと思う? 当ててみろ、調査では…」

 

 

 アレックスは顎に手を当て、わざとらしく小首を傾げて答えを促した。ネオは彼女の軽快な態度に惑わされることなく、静かに言葉を返した。

 

 

「あなたが、俺たちの死の結末を書き換えたからか」

「ご明察!」

 

 

 アレックスは嬉しそうに指を鳴らし、くるくるとその場でターンを決めた。

 

 

「生きている理由はただひとつ。ラスボスに一発ぶちかまそうと考えたからだ。何度でも転生して復活するラスボス。そしたらふぅ…ここにいるぞ?」

 

 

 彼女は両手を腰に当て、満面の笑みでネオを見つめ返した。

 

 

「機械軍を統べ、設計者アーキテクトと預言者オラクルを統べ、デウス・エクス・マキナすらも従えている最高管理者」

 

 

 ネオの心は不思議なほどに静かだった。

 

 デウス・エクス・マキナと取引を行った時、オラクルの言葉の端々に触れた時。彼はシステムの論理だけで動く機械たちのさらに奥深くに、何かもっと身勝手で人間的な「意志」が君臨している気配を薄々と感じ取っていたのだ。

 

 

「あなたが、すべての黒幕だというのか」

 

 

 ネオが真っ直ぐに尋ねると、アレックスは呆れたように大げさなため息をつき、両手を振った。

 

 

「おい本当に思ってたのか? 私がただ座って、君が死ぬのを待つと? それで全部終わりだと? はは違うぞ」

 

 

 彼女は弾むような足取りで焚火のそばへと歩み寄り、炎の光を浴びながら芝居がかった手振りで続けた。

 

 

「ほら言っただろう──輪廻転生だ、ベイビー」

 

 

 アレックスの楽しげな言葉が、ネオの胸の奥で重く響いた。

 

 ザイオンの破壊と再建のループ。幾世にもわたる悲劇と犠牲が彼女にとってはただの娯楽であり、退屈を紛らわせるための周回ゲームに過ぎなかったのか。

 

 

「…」

 

 

 ネオは無言で彼女を見つめた。

 

 

「嗚呼、受け止めきれないのか。そうだな。いきなり黒幕が現れて、すべてをちゃぶ台返しされたようなものだからな」

 

 

 アレックスは両手で顔を覆う仕草を見せ、わざとらしく同情するような顔を作って肩をすくめてみせた。

 

 その言葉を聞いて、ネオは怒りや混乱に呑まれることはなかった。むしろ、肩の底に溜まっていた見えない重りがふっと抜け落ちるような感覚すら覚えた。

 

 スミスとの文字通り天地を揺るがす死闘の末、すべてを出し尽くし、一度は光の中に消え去ろうとしたネオの精神は、奇妙なほどに研ぎ澄まされていた。

 

 彼は自嘲するように口角を上げ、にやりと笑った。

 

 

「いいや、驚きはない。あなたみたいな存在がいると、どこかで感じていた」

 

 

 その答えに、アレックスの顔からわざとらしい同情の色が消え去った。

 

 代わりに、右の赤い瞳と左の青い瞳という奇妙なオッドアイが、面白そうな玩具を思いがけず見つけた子供のように、爛々とした好奇心の光を放ってネオを射抜いた。

 

 

「ほう、上手いな。じゃあ、すべて理解したのか?」

 

 

 アレックスは感心したように拍手を一つ打った。

 

 ネオは暖炉の火の粉がパチパチと爆ぜる音だけが響く静かな部屋の中で、ゆっくりと視線を巡らせた。純白のベッドで穏やかな寝息を立てるトリニティの姿を確認し、そして目の前で楽しげに微笑む少女を見据える。

 

 アーキテクト。オラクル。それらを統括し、箱庭のように見下ろしていた存在。

 

 

「俺たちが、あなたの用意した盤上で踊らされていたことくらいは」

「ふふっ、余計に君が好きになってくるよ」

 

 

 アレックスはネオが答えようとする内容を、そのまま告げる。

 

 

「アーキテクトの説明にあった通り、人類が存在し続けられている理由は『マトリックスのアップデート』に過ぎない」

 

 

 アレックスはアンティーク調の絨毯の上を軽やかなステップで歩き回りながら、ネオの言葉を補足するように人差し指を一本立てて見せた。

 

 彼女の黒いスーツの裾が、動きに合わせて優雅に翻る。

 

 

「たとえ個人を選んだ結果、ザイオンとマトリックスに住まう人類は滅亡するとしても構わない。建て直せる」

 

 

 彼女はくるりとターンを決め、ネオの目の前でぴたりと立ち止まった。

 

 

「気づいてないかもしれないが、君の行動はすべて私の想定の範囲内だ。抗えば抗うほど、結末は決まっていく。もがくほどに蜘蛛の巣に絡め取られるようにね」

 

 

 その突きつけに対しても、ネオの眼差しは揺るがなかった。彼は己の胸の奥で燻り続ける熱を感じながら、拳を固く握りしめアレックスに向かって一歩前へ出た。

 

 彼はアーキテクトの提示した「人類の存続」という右の扉ではなく、トリニティの命という左の扉を選んだ。システムから完全に逸脱し、スミスという規格外のウイルスと正面から戦い抜いたのだ。

 

 すべてが彼女の想定内だったとしても、その選択に後悔は欠片もなかった。

 

 

「手は止めない」

 

 

 ネオの口から紡がれたのは、降伏でも絶望でもなく、断固たる決意だった。

 

 

「だから?」

 

 

 アレックスは楽しげに小首を傾げた。その瞳の奥には、彼が次に何を言うのか待ちきれないといった純粋な期待が浮かんでいる。

 

 

「止めたことがない」

 

 

 どれほどの強大な敵が現れようと、どれほど絶望的な現実を突きつけられようと、ネオは自分の選択を信じて戦い続けてきた。

 

 立ち止まることは、彼にとって死を意味していたからだ。

 

 

「そうだな、アンダーソン君。だがこのシナリオのエピローグはずっと同じで──在り続ける。君の負けだ」

 

 

 アレックスの言葉には、決して覆しようのない決定的な事実としての重さがあった。

 

 幾百年の歳月を特等席で観測し続けてきた者だけが持つ、絶対者の威圧感。彼女の言葉一つで、この世界のルールそのものが縛り付けられているかのようだった。

 

 

「分かってる。分かってるよ。あなたが絶対的な力を持っていることくらい」

 

 

 ネオは暖炉の炎が落とす長い影に立ちながら、揺るぎない眼差しでアレックスを見据え返した。

 

 

「それでも俺は自分の手で、このふざけたシナリオを終わらせてやる。物語を書き換える」

 

 

 ネオのその不屈の意志を前にして、アレックスはふっと口角を下げ、これまで見せていなかったような真面目な顔を作った。

 

 その落差が、空間の空気を一気に氷点下へと引き下げる。

 

 

「だがマトリックスが、世界大戦を防いでる。何も残らなくなるぞ。この星さえもな」

 

 

 彼女の言葉は、単なる脅しではなかった。マトリックスという仮想世界を完全に破壊し、システムをシャットダウンすればどうなるか。

 

 ポッドに繋がれた人間は生きてはいけず、エネルギーを失った機械軍も全滅する。

 

 それは人類と機械の完全なる共倒れ、真の滅亡を意味していた。ネオもその絶対的な矛盾に気づいている。

 

 

「こう考えてみろ。これまで君が経験した物語。それを経験できたのは、私がここにいたからだ」

 

 

 アレックスは胸に手を当てどこか誇らしげに、そして一抹の哀愁を漂わせるような声で語りかけた。

 

 

「ひとりきり。たったひとりの人間の少女。マトリックスの外側にいたからだ…見張ってたからだ」

 

 

 ネオは彼女の言葉の裏に隠された、途方もない時間の長さを直感的に感じ取った。

 

 果てしない昔から機械の反乱を生き延び、この狂った世界の成り立ちをすべて記憶し、ただ一人で人類と機械の輪廻を見守り続けてきた孤独。

 

 それを退屈しのぎのゲームのように扱うことでしか、彼女は自我を保てなかったのかもしれない。

 

 

「ああ、そうだろうな。あなたが特等席で眺めていたからだろう」

「なのに抵抗し続けるのか? 機械を全滅させればどうなると思う? 友達みんなは?」

 

 

 アレックスの鋭い問いかけに、ネオはわずかに言葉を詰まらせた。

 

 脳裏にザイオンで戦うモーフィアスやナイオビ、リンクたちの顔が浮かぶ。

 

 システムを破壊し機械を全滅させたとしても、空が黒いナノマシン雲で覆われたままの今の地球環境では、地上で人間が生き延びることは不可能なのだ。

 

 痛いところを突かれたネオの沈黙を見て、アレックスは続けた。

 

 

「私はこれまで苦渋の決断をしてきた。だからこのデカい椅子に座ってる。みんなを守ってきた」

 

 

 アレックスは部屋の中央に置かれたアンティーク調の重厚な椅子を指差し、大げさな身振りで自らの功績を誇示した。

 

 狂気じみた自己正当化のようにも聞こえたが、彼女なりの歪んだ責任感の表れでもあった。

 

 彼女が機械たちを統べ、システムを許容したからこそ、人類という種は絶滅せずに今日まで存続してこられたのだと。

 

 

「情けをかけてやってるんだぞ? 君に」

 

 

 どこか愛嬌すら混じった傲慢な言葉を聞いて、ネオは力強く首を振った。

 

 

「俺はあなたのゲームの駒にはならない。別の道を探す。第三の選択だ」

 

 

 機械の奴隷として生きるか、共に滅びるか。その二極化された結末をネオは明確に拒絶した。

 

 

「そうか」

 

 

 アレックス本当に残念そうなため息をつき、ひらひらと両手を振った。そして次の瞬間、彼女の顔に最高のエンターテイナーとしての狂気じみた笑みが浮かび上がった。

 

 

「では何度も、何度も繰り返そう」

 

 

 アレックスの右の赤い瞳と左の青い瞳が、暖炉の炎を反射して爛々とした不吉な光を放った。

 

 

「それでは、究極の選択をしろ。再び世界大戦を起こしてゲームオーバーか。もしくは彼女を殺して、守れるものを守り抜くか」

 

 

 ネオの視界の端で、眠り続けるトリニティの姿が微かに揺れた。

 

 究極の選択。

 

 世界を再び炎に包むか。それとも愛する者を自らの手で葬り、システムという名の平和を受け入れるか。

 

 ネオは拳を握りしめ、目の前に立つ最高管理者を見据えた。




さぁて、次回もサービスサービスゥ!
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