Mission : Protect Their Youth.   作:晴沙萪

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ワカモの心配とアタシの覚悟

気配を、呼吸音を感じる。

警戒しつつ階段を上がりきり、壁を背にし顔だけを覗かす。

どうやら部室の前に「何か」がいる。

暗くてあまり見えないが、全体のシルエットが大きく頭らへんに尖ったものが二本ある。

角にしては太いと思ったら揺れた。あれは...耳か?

下の方も揺れた。

これ以上様子見してても埒があかないため、銃に手をかけライトで「何か」を照らす。

 

「.........ワカモ?」

 

「あなた様...」

 

「あ、あなた様...?」

 

そんな呼ばれ方生まれて初めてされた。

今までの警戒心が消えるくらい予想外で。

いや、呼ばれ方なんてことはどうでもいい。

もし敵だったら問答無用で射撃してくるはず。

それがない。なら警戒する必要もない。

相手がワカモなら尚のこと。

銃とライトから手を離し、ワカモに近寄る。

 

「どうしたの?こんなところに立って」

 

「...あなた様に話があって来たのです」

 

声色から真面目な話だろうと察する。

 

「......ここじゃなんだし、中で話そう?」

 

部室に入り奥のソファにワカモを座らせる。

座る姿勢や一挙手一投足が優雅で綺麗だった。

良いとこのお姫様じゃないかと疑うレベルに。

あの七囚人の一人が優雅だったと言っても誰も信じないだろう。

このまま話し始めるのも悪くはないが、おそらく話は長くなるだろうと思い、

インスタントのココアとコーヒーを用意する。

手伝おうとしてピクッと動いたが首を振って制し座らせ、

ココアを差し出しワカモの前に座る。

ワカモは俯いて口を開かない。

カップの湯気が踊る。

 

「ワカモが無事で良かったよ。

あのとき急にいなくなっちゃったからさ」

 

重苦しい雰囲気を少しでも和やかにして話しやすくする。

コーヒーを一口啜る。

ワカモはココアを手にして眺めている。

 

「それは...すみませんでした...」

 

「別に怒ってるわけじゃないよ。

単に心配しただけ。

あの後、時間がある時に探したけど見当たらなかったからさ」

 

実際に書類整理の合間や夜に探しに行ったが見つからなかった。痕跡一つ。

 

「はい...知ってます...」

 

「知ってる?

それは...」

 

「あなた様をずっと見ていましたから。

朝昼晩毎日」

 

朝昼晩毎日...?もはやストーカーではないか。

 

「なんだ、そうだったんだ。

だったらもっと早く会いに来てくれても良かったのに」

 

そう茶化しながら一口飲む。

ワカモはまだココアに口をつけない。

それにしても、見られていたことにまったく気が付かなかった。

腕が鈍ったか。そう思いたくなるほど気付かなかった。

キヴォトスの子供達にはそういう能力が割り振られているみたいに。

 

「どうしてもあなた様を知りたかったのです。

どんなお人で、どんな性格で、どんな経験をしてきたのか」

 

...経験、ね

また一口飲む。

シャーレ奪還戦後にも言われたけど、正直堂々と言えるものじゃない。

あの酷い世界での経験なんて。

 

「アタシが優しいお姉さんだって分かっちゃったか〜」

 

茶化して話の流れを変えようとしたが

 

「はい、あなた様は優しいお方です」

 

「おおぅ、即答されると恥ずかしいね」

 

「ただ、あなた様は優しいと同時に、強いお方でもありました。

そして何かを隠しているようでした」

 

変えることは許されなかった。

 

「あなた様が戦っている姿を見て感じたのです。

 

この方は戦場を知っている、と」

 

ドクン、と心臓が跳ねた。

 

いくら子供が銃を持つからといって戦場を、戦術を知っているわけがないと気付かないふりをした。

否、気付きたくなかったのだ。

当然だ。

銃を持つなら戦術を知っているはずだ。

まして大勢の人に指示を出すなら尚のこと。

ワカモは戦術を知っている。

 

「......どうしてそう思ったの?」

 

極めて冷静に問う。

大丈夫だ、表情や声音に驚愕の色は出てないはず。訓練したから大丈夫なはずだ。

 

「まず、足の運び方。

遮蔽から遮蔽に最速最短距離で移動していたこと。

次に、カバーの仕方。

タンク、スナイパー、サポートという分担分けと各々の位置どりの場所。

ここまでは違和感で済んでいました。

最後に、射撃の精度。

ワンショットワンキル。

どんなに腕のいい射撃手でも必ず眉間に打ち込むことなんて出来ません。

それをあなた様はやってのけた。

しかもリボルバーで。

ここで確信に変わりました」

 

「.........なるほど」

 

どうせ戦闘の仕方が特殊だったくらいで終わると思っていたが、ここまで分析されるとは思っていなかった。

一気に話したワカモは、流石に喉が渇いたのか面を外しココアを飲む。

 

「それと、どこかで耳にしたことがございます。

どんな相手でも必ず一発で仕留める狙撃手

-Orion- というコードネームを」

 

「結論をいいます」

 

ワカモの綺麗な瞳がアタシを貫く。

 

「あなた様は...軍人。

いえ、正しくは“元”軍人...ですね?」

 

「おそらくその腕も、骨折ではないのでしょう?」

 

ーーー言い当てられた。

 

「.........まさか、こんなに早くバレるとは思わなかったよ」

 

意図せず声のトーンが低くなる。

 

「...確かにアタシのコードネームはOrionで元軍人だ。

この腕も骨折なんかじゃない」

 

カップを置き、アームホルダーと手袋を外し、袖を捲る。慣れた動作なのに外すのを躊躇ってしまう。

ゆっくりと晒す。

腕を無くしてからずっとつけてきた、

もう一つの機械で出来た、

人の温かみも感覚も、重さも違う冷たい腕。

ただそれを眺める。

 

「............どうして隠しているのですか」

 

何か言おうと口を開く。

 

だが、出てきたのは拒絶の言葉だった。

 

「......ごめん。

それだけは言えない」

 

いや、違う。

言う覚悟がない。出来ていない。

怖いのだ。自分の過去を知られるのが。

誰かを救うために、生きるために簡単に人を殺してきた。

その事実を、生徒たちに知られたくない。

 

時計の針の音だけが室内に響く。

 

「ほんとにごめん。

せっかく話をしに来てくれたのに。

このことは内緒にしてくれる?」

 

「内緒も何も、私には話す相手がいませんので」

 

「それは...なんか...ごめんね?」

 

「いえ構いません。

それとあなた様、話はまだあります

なんならこちらが本命です」

 

「え?」

 

「シャーレには当番制度があると聞きました」

 

「うん、あるね。

なんなら今日が初当番制度開始だったね」

 

 

「私を常時当番にしてくださいまし」

 

 

それは...もはや当番ではないのでは?

 

「.........話だけは聞こう。

どうして?」

 

「常時当番なら、あなた様を守りながら悪い虫を寄り付かせずあなた様の近くにずっといれるからです」

 

なるほど。これはいわゆる嫉妬というやつか。

おそらく今日のユウカを見て思ったんだろう。

他の女なんて見ずに私だけを見て!という...

 

...守る?なぜ守られなければならないんだ?

 

「うーん。

常時当番はダメかなぁ。

だってそれ当番じゃないし。」

 

「そ、そんな...」

 

よよよ...と崩れ落ちそうなワカモ。

 

「それとアタシを守るってどういうこと?」

 

「それは...」

 

目をそらし、耳が倒れるワカモ。

 

「ああ、怒ってるつもりはないよ。

ただ純粋に気になったんだ」

 

「本当ですか...?」

 

「うん、ほんとほんと」

 

「あの...ですね?守るって言ったのは...

これ以上、自分を犠牲にしてほしくないと...感じたのです」

 

幼子が親におねだりするような目で見上げるワカモ。

 

「.........続けて?」

 

「あなた様が生徒に向ける表情や態度を見て感じました」

 

「己より生徒を、子供を守るためなら自分の身すら厭わない危うさを抱えていると」

 

正体を言い当てられた時もそうだったが、

この子は本当に人のことをよく見ている。

確かに子供が、生徒が危ない目に遭うくらいなら

自分が代わりになる覚悟をいつでも持っている。

これは当然のことだろう。子供を守るのが大人の役目だ。

子供を見捨てるなんて選択肢は存在しない。

今までだって、守ってきた。

だがそれが危ういと、ワカモは言った。

 

「きっとあなた様は、今まで自分の身を犠牲にして守ってきたのでしょう?

戦闘の時も危険なのに、わざわざ生徒の死角からの射線を

自分に被せるように動いていました。

だから...」

 

「だから、ワカモはその危うさからアタシを守るって、そう言いたいの?」

 

「...そうです。

私があなた様を守ります」

 

軽くため息を吐き、ワカモのおでこに軽くデコピンをする。

本人はなぜデコピンされたのか理解しないまま、おでこを両手で押さえる。

 

「!?!?!?!?」

 

「まったく。

守るのは大人であり、先生であるアタシの役目だ。

...それしかできないんだよ、アタシは」

 

「...ッ!ですから!その役目が危ういと...ッ」

 

ワカモが苦しそうな、悔しそうな顔になる。

両者とも意地がある。

絶対に譲れない意地が。

 

このまま話しても平行線だろう。

 

こういう事は過去に何度もあった。

それならば、交渉だ。

互いが譲歩できるラインを引けばいい。

 

「分かった!

じゃあこうしよう」

 

ピクッと耳が反応する。

 

「ワカモをバディとしてアタシの近くに置く。

そうすればワカモはアタシを守れるし、アタシもワカモたちを守れる」

 

そしてバディなら当番制度を活かしたまま近くにいれるだろう。

あまり特定の生徒を優遇などはしたくはないけど、ワカモの場合多分そうはいかないと思う。

 

「バディ...」

 

「そ、バディ。

これならいいでしょ?」

 

「.........」

 

顔を伏せたままずっと黙っているワカモ。

そんなにバディが嫌なのか...?そんな悪くない条件だと思ったんだけど...

 

「あ、あの~ワカモさん...?」

 

ダンっ!と机に手をつき

 

「嬉しいです!あなた様!

私、精一杯バディとして悪い虫が寄り付かぬよう頑張りますわ!」

 

急に顔を上げ、机に乗り上げ目をキラキラさせている。

顔が近いッ!美人の顔が近すぎるッ!

顔をそらしてワカモの肩をつかんでソファに押し戻す。

 

「う、うん、まぁ当番制度は続けるけどね」

 

「そんなぁ...‼︎」

 

だんだんと他愛のない会話になって、夜が更けていった。

机の上に空の二つのカップ、傍には寝息が二つ。

微かに室内に響いていた。




透子の過去を開示するverも書きましたが、知り合ってまだ日も浅いのに開示するのは早すぎると思いお蔵入りしました。
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