Mission : Protect Their Youth.   作:晴沙萪

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それぞれの抱える問題

 銃声が鳴り響く。

 

「シロコ、セリカ。

 合図したら突っ込んで」

 

「ん、分かった」

 

 シロコがセリカと顔を合わせ頷き合う。

 もう少しだ。もう少しで銃声が止む。

 ...3、2、1

 

「二人とも今だ!」

 

「ん!」

 

「了解!」

 

 合図を皮切りに戦闘が始まり、二人はヘルメット団へ突撃する。

 アタシが待っていたのはリロードのタイミング。

 好き勝手撃っていたせいで大半がリロードするタイミングが生まれる。

 後方部隊はカバーしようにも前方部隊が邪魔でできない。

 二人に前線を詰めてもらってる間に前へ少しずつ移動しつつ、リロードを早く済ませシロコの死角から撃とうとしている団員を見つけ、即座に撃ち抜く。

 

「ノノミは広範囲攻撃で前線二人のカバー準備。

 ホシノは広範囲攻撃後、奇襲で掻き乱して。

 アヤネ、シロコ達に物資補給開始。

 タイミング合わせて......

 今!」

 

「はいよ〜」

 

「わかりました☆」

 

「はい!」

 

 返事と同時にシロコとセリカがリロードに入る。

 本来乗り物に乗せて使うノノミのミニガンで前方部隊を薙ぎ払う。

 入れ替わりでホシノが死角から飛び出し至近距離で団員の胸部を撃ち、後ろにいた団員もろとも巻き込み吹っ飛ばす。

 アタシも同タイミングで顔を出し、ホシノが撃たれないようにカバーする。

 

 最初の挨拶の時も感じたが、やはりホシノは強い。

 小柄であることを最大限生かし、相手の死角を突いて至近距離でぶっ放す。

 アタシの指揮がなくてもホシノだけで余裕だろう。

 他のメンバーが弱いというわけではないが、ホシノ単独の殲滅力がずば抜けているが故にそう見えてしまう。

 

 二人のカバーのおかげでヘルメット団の前方部隊があっけなく散ったことで後方は戦意が削がれている。

 ここまでやれば、あとは本人たちに任せれば大丈夫だろう。

 

『今です! 畳み掛けましょう!』

 

「ん、今までのお返し」

 

「ホントよ! 毎回性懲りも無く来て! 

 許さないんだから!」

 

「うへ〜おじさんも負けてられないな〜」

 

「吹き飛んでください☆」

 

 全員今までの怨みを晴らすかのように思い思い撃ち込み殲滅した。

 

 ──────

 

 戦闘を終え教室に戻ってきて戦闘にあっさり勝てたことを喜んでいるなかアタシは、ヘルメット団にあった違和感の解消を優先していた。

 戦闘後にヘルメット団が落としていった銃火器を何丁か拾って分解してみた。

 違和感。それは、銃の使用度。

 スミ達の銃は使い込まれ、カスタムや修理をしてあったのに対し、アビドスのヘルメット団の銃は新品同様だった。

 

 ここで疑問が浮かぶ。

 使い慣れていない銃を使って攻めてきたということ。

 子ども達は銃を自分の片割れかのように大事に扱っているのに、そんな銃を軽々しく乗り換え、あまつさえ熟練度を上げることなく攻めてくるだろうか。

 こうやって銃も置いていく始末。

 しかも弾の種類も違う。

 

「......せい」

 

 もしかして誰かがヘルメット団に補給している......? 

 一体、誰が? 

 

「先生!」

 

 終わることのない思考を遮りシロコが呼んだ。

 思ったより時間が経っていたようだ。

 分解の手を止め、皆の方に体を向ける。

 

「ごめん、集中してた。

 なにかあった?」

 

「先生のおかげで勝てたのに、当の本人が喜んでいないのが皆不満なのさ」

 

 はぁやれやれ、とわざとらしくため息をつくホシノ。

 もうあの時の威圧感は感じない。

 あの量のヘルメット団なんて、ホシノ一人でもどうにかなっただろうと思ったが言わないでおく。

 

「ん、先生のおかげで被害なし」

 

「一人増えるだけでこんなにもやりやすいとは思いませんでした!」

 

「アタシは指示しただけだよ」

 

「これが大人の謙遜ってやつ? 

 はぁーすごいねぇ。おじさんには真似できないや」

 

 いや、おじさんって......皆と年齢変わらないじゃん......

 というか言うならおばさんじゃないの......? 

 

「それで先生は分解してなに見てたの?」

 

 セリカが分解したパーツを取って見ながら話す。

 

「ちょっとした疑問の解消をね。

 それよりも君達のことを改めて教えてほしいかな」

 

「確かにそうですね。

 伝える前に戦闘になってしまいましたから」

 

「改めて、私達はアビドス対策委員会です。

 部員は三年生の小鳥遊ホシノ先輩。

 二年生の砂狼シロコ先輩と十六夜ノノミ先輩。

 一年生の黒見セリカちゃんと私、奥空アヤネの計五名です」

 

 皆と握手を交わしながらこちらも自己紹介をする。

 

「アタシも改めて、連邦捜査部シャーレの先生をしてる風見透子です。

 皆よろしく」

 

「それで何故アビドスがヘルメット団に襲われているかなんですが......」

 

 アヤネがすごく気まずそうにしているのを見兼ねてシロコが代わりに言った。

 

「全校生徒は私達だけで、他の生徒は転校や退学して住民はどっか行っちゃった。

 だからナメられてヘルメット団の襲撃に遭ってる」

 

 そんな絶望的状況でも折れずに今まで戦ってきた。なんて逞しく気高いのだろう。

 思わずシロコの頭を撫でる。

 

「よくここまで耐えてきたね」

 

「......ん」

 

「シロコ先輩がデレた......」

 

「先生も隅におけないねぇ」

 

「あっえっ、そう言うつもりじゃ無かったんだけどな......

 それでなにか策はあるの?」

 

「はいっ、実はおじさんが密かに計画を練っていたんだよね〜」

 

「えっ、そうなんですか!?」

 

「ホシノ先輩が!?」

 

 各々が驚愕の反応を示す。それでも笑って流せるほど仲が良いのだろう。

 ホシノはおどけながらも続ける。

 

「ひどいなぁ〜おじさんだってやることはやるのさ。

 それで計画なんだけど」

 

 のんびりとした口調から真剣味を帯びた口調に変わる。

 

「こっちから攻める。

 毎日飽きもせず来るってことは、装備が潤沢ってことでしょ。

 でも今回は先生のおかげでおじさん達が勝った。つまり」

 

「ああ、先手を打つってことだね」

 

「そゆこと〜、消耗してるのはあちらさんだから、今のうちに基地を叩いちゃお〜ってこと」

 

 ホシノは強いだけでなく、状況把握からの作戦組み立てまでできるのか。

 

「い、今からですか?」

 

「前哨基地の場所も分かってるし、先生もいるしなんとかなるでしょ」

 

「ここから30kmくらいだし今から行こっか」

 

 30kmか......軍にいた時はよく訓練で走ったなぁ......

 

「逆に襲撃されるなんてアイツらは思っても見ないだろうし」

 

「私達は構いませんが......先生はいかがでしょう?」

 

 アヤネは冷静な分析官だな。

 ここで皆の意見に流されずに意見を聞けるのは正直すごい。

 それで逆襲しに行くかどうかだが、行かない選択肢がないけど襲撃した後が問題だ。

 仮に基地を襲撃したとしても、補給が早く潤沢なら攻めてくる頻度が上がる可能性があると、いくらシャーレの補給があってもキツイだろうし別働部隊が来てもしんどい。

 向こうで補給している相手が分かればいいんだが......

 

「アタシは構わないよ」

 

「おっしゃ〜、じゃあいっちょやりますか〜」

 

「「「「「「おー!」」」」」」

 

 ──────

 

「いつもより弱かったね」

 

 それもそうだろう。

 今日襲撃した相手から逆襲されるなんて誰も思うまい。

 ヘルメット団を壊滅した後、基地を物色しながらホシノは言った。

 

「これでここは使えなくなるはず」

 

「襲撃の頻度が減ると良いけど......」

 

 なにか補給した相手の手がかりは無いものかと武器庫を漁るとそこには新品同様の銃が置かれていた。

 その中でふと目に入った紙切れが落ちており、確認すると丁寧に宛名が消されてはいるが取引をした証拠が記されていた。

 

 やはり誰かが武器を渡していた。

 

「アヤネ、ヘルメット団って潤沢な財産とか持ってたりする?」

 

『いえ、ヘルメット団は寄せ集めの集団ですので潤沢なはずは無いです』

 

「ふむ......」

 

『先生、なにか分かったんですか?』

 

「うん、でも一旦帰ろうか。

 ここで話す内容じゃない」

 

『分かりました』

 

 使い物にならない基地だとしても、ヘルメット団がいつ帰ってくるか分からないため一度皆を集めて帰ることにした。

 教室に着いた頃には陽が落ちかけていた。

 

「どうしたの先生? なにか分かったの?」

 

 本人達には言いずらいが、シャーレに助けを求めてくれた以上蔑ろにするわけにいかないし、自分自身が納得いかない。

 

「ヘルメット団が補給を受けてる証拠があった。

 新品同様の銃火器と取引をしたことが書いてあるこの紙が証拠。

 ......でも取引相手の名前だけ分からなかった」

 

 武器庫で拾った紙と銃のパーツを机に広げる。

 だから分解してたんだ、とセリカから納得の声が上がり、ホシノは取引の紙を見てほんの少しだけ眉を顰めた。

 

「やっぱ後ろに誰かいたんだ」

 

「分かってたの?」

 

「そうだろうなぁって思ってただけ。

 実際に確認できたのは今回が初めてだよ」

 

 ヘラヘラして簡単に言うホシノだが、うっすらと悔しさが声音に滲み出ていた。

 分かっていたが目を背けていたのだろう。

 そんな時にセリカの発言で空気が変わる。

 

「あーもう! どうすんのよ! これじゃあ借金と同じで永遠に終わらないじゃない!! 

 

 

「......なんだって?」

 

 

「あっ! いやっ、えっと......」

 

「そ、それは......」

 

「隠さないで。借金ってなに?」

 

「まぁいいんじゃない? セリカちゃん。

 隠すもんでもないでしょ。

 やましい事してないし、先生は私達を助けてくれた恩人だよ?」

 

「で、でも......!」

 

「ん、ホシノ先輩の言う通り。先生ならきっと大丈夫」

 

「そうかもしれないけど! 先生は部外者でしょ!?」

 

 事実だが、改めて言葉にされると傷つく......

 

「確かに先生が簡単に解決してくれる問題じゃなくても、この問題に耳を傾けた大人は先生くらいだよ? 

 それに悩みを打ち明けてみたら、なにか解決法が見つかるかもよー? 

 

 それともなにか他に良い方法があるのかなー、セリカちゃん?」

 

 二人の間に険悪なムードが広がる。

 

「でっ、でも、さっき来たばかりの大人でしょ! 

今まで大人達がこの学校がどうなってるか気に留めたことなんてあった!? 

この問題は、ずっと私達でどうにかしてきたじゃん! 

 

なのに......なのに今更大人が突っ込んでこないでよ!!」

 

 ホシノの倫理的観点からの説明に心の納得がいかないのだろう。

 セリカは怒りで体を震わせ、目に涙を浮かべキッとアタシを睨み真正面から拒絶する。

 

「私は認めない!!」

 

「セリカ!」

 

 教室を出て行ってしまったセリカを追いかけようとしたが、

 ノノミが服の裾をつかみ首を振る。

 

「私、様子を見てきます」

 

「......すまない。頼んだ」

 

 情けない。

 子供一人追いかけられないなんて。

 ホシノが気まずい空気を変えるため説明を再開する。

 

「......えーと、簡単に説明すると......この学校、借金があるんだー。

 まぁ、ありふれた話だけどさ。

 でも問題はその金額で......9億ぐらいあるんだよねー」

 

「......正確には9億6235万円です。

 アビドス......いえ、私達”対策委員会”が返済しなくてはならない金額です。

 これが返済できないと、学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らざるを得なくなります。

 ですが、実際に完済できる可能性は0%に近く......」

 

「だからほとんどの生徒は諦めて去って私達だけが残ったってわけ」

 

「つまり、廃校寸前なのも、ほぼゴーストタウンなのもすべて借金が原因と......」

 

 約10億、大人のアタシからしても莫大な金額だ。

 それをヘルメット団に襲われつつ、子供達だけでどうにかしようと奮闘してきた。

 よく気が狂わなかったもんだ。

 

「はい......先生のおっしゃる通りです......」

 

「借金を作ることになった原因は? 

 ただの借金ってわけじゃないでしょ」

 

「......数十年前、この学区の郊外にある砂漠で砂嵐が起きたのです。

 この地域では以前から頻繁に起きていたのですが、その時の砂嵐は想像を絶する規模のものでした」

 

 アヤネは地図とその時の写真を机に広げ、

 砂嵐が起きた地点を指差す。

 

「学区のいたる所が砂に埋もれ、砂嵐が去ってからも砂が溜まり続けてしまい、その自然災害を克服するために、我が校は多額の資金を入れるしかなかったんです。」

 

「でもこんな片田舎の学校に、投資してくれる銀行は無くて。

 結局、悪徳金融業者に頼るしかなかった」

 

「......」

 

 ギリッ。

 奥歯を噛み締める。

 

「最初はすぐ返せる算段だったはずです。

 しかし、砂嵐はどんどん巨大化して、気がついた時には学区の状況は手がつけられなくなっていました」

 

「......そしてついにアビドスの半分以上が砂に埋もれ砂漠化したとき、借金はみるみるうちに膨れ上がっていきました」

 

 砂漠化した範囲をなぞる。その範囲の大きさは想像以上だった。

 

「私達だけでは利息を返すだけで精一杯で......そして現在に至ります」

 

「セリカがあんなに神経質なのは、

 今まで誰も話を聞いてくれなかったから」

 

「......まぁ、そんなつまらない話さ。

 でも先生のおかげで物資はあるし、どうにかなるよ」

 

「ん、先生のおかげでヘルメット団の撃退、基地の襲撃もできた。

 既に十分な成果。だから借金のことは」

 

「すまなかった」

 

「な、先生⁉︎」

 

「......なんで先生が謝るのさ?」

 

 頭を下げて謝罪する。

 左手に力が籠る。

 同じ大人として恥ずかしく悔しい気分だ。

 誰も責任を取らないで逃げる、なんてみっともない姿を晒してしまったんだ。

 

「本来大人が責任を取らなくてはならない問題を、生徒に、ましてや子供に押し付け逃げた。

 これは許されない行為だ。でも過去の責任は取り返すことはできない。

 だからこれからの責任をとる。

 そのためにアタシは

 

アビドス対策委員会の顧問になる

 

「「「え!?」」」

 

 顔を上げ、皆と目を合わせ決意を言葉にした。

 

「当然だ。

 そもそも子供が責任を取る世界が間違ってるんだから。

 誰もやらないのならアタシがやる。

 それにアタシが顧問になれば責任は全てアタシになるしね」

 

「で、でもこれ以上迷惑は......」

 

「子供がなぁに言ってんの! 

 本来子供は迷惑をかけて育っていくんだよ。

 だから気にしないで」

 

 困り顔のアヤネに、ポンッと軽くチョップをする。

 そう子供は大人に甘え、迷惑をかけるもの。

 それが子供の仕事なのだから、大人はそれを請け負ってやるのが仕事。

 それに迷惑なんて思わない。

 

「先生は変わり者だね。

 こんな面倒ごとに首突っ込むなんて」

 

「良かった......シャーレが力になってくれるなんて」

 

「これで希望が見えるかもしれない」

 

 今まで見て見ぬ振りをした大人どもに見せてやる。

 本当の大人ってやつを。

 

 ──────

 

 その日の夜。

 全員が帰った学校の屋上で一人(・・)

 

「どう、アロナ。

 なにか情報は得られた?」

 

『はい。アビドスの過去の取引情報を遡ってみたところ、悪徳金融業者は“カイザー”と名乗る集団のようです』

 

「カイザー......」

 

『カイザーはキヴォトスで様々な事業を展開している大手企業の一つで、その中にはPMCや銀行経営、兵器販売も含まれていて、キヴォトスの行政などに深く食い込んでいるようです』

 

 ......想像以上にデカい相手だ。

 アビドスだけなら潰してやろうとも考えたが、まさかキヴォトス全土に絡んでいるとは。

 もし手を出すことになった場合、戦争に発展する可能性もある。

 かといって穏便に済ませられる相手でもない。

 

 9億の借金

 カイザー

 PMC

 兵器販売

 

 そもそも何故ヘルメット団が襲撃にきている? 

 何故学校を占領しようとしている? 

 

 ............もしかしてカイザーが手引きしている? 

 カイザーがヘルメット団を雇い、武器を渡して襲撃。

 それなら辻褄が合う。

 しかし何故到底払えない9億をふっかけておきながら、しびれを切らし学校を占領しようとしている? 

 

 学校になにかが隠されているのか? 

 いや学校ではなくアビドスになにかがある? 

 

 ────いや、全て憶測だ。

 憶測で結論を急いてしまうのは良くない。

 

「なにか考え事ですか、あなた様」

 

 柵に寄りかかったアタシの隣に、いつの間にかワカモが立っていた。

 

「うん、対策委員会の事でね」

 

「......そうですか」

 

 なぜか悲しいような困惑したような声を出すワカモ。

 

「ワカモ?」

 

「あなた様はどうしてそこまで私達生徒に親身になるのですか。

 ......いえ、生徒ではなく子供、でしたね。

 何故なんです?」

 

「ううん、生徒とか子供とかは関係ないよ。

 誰だって困ってる人には力を貸したくなるもんでしょ?」

 

 事実だが建前。

 悟られないように笑って誤魔化す。

 だが、ワカモにはお見通しだった。

 

「また......言ってくださらないのですね」

 

「......ごめん」

 

「いえ、構いません。

 そういう方だと分かっていますし、私はあなた様のバディですから。

 だから話しても良いと思えるようになったら、話してください。

 それまで待ちます」

 

「ごめ......じゃなくて、ありがとう」

 

「あと、なにかあれば遠慮なくお呼びくださいね、あなた様?」

 

「ふふ、分かったよ、相棒」

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