Mission : Protect Their Youth. 作:晴沙萪
「先生、遅いですね〜」
「先に出てるって言ってたのにいなかったし......」
軽く息を切らしながら教室のドアを開け入る。
「いやー、皆待たせてごめんね。
急な用事が出来たもんだから」
「シャーレのお仕事ですか? 大変そうですね......」
「生徒のためだし全然平気だよ」
「次から先生の仕事手伝う」
急いで帰ってきたせいか、皆がシャーレの忙しさを気にして心配してくれる。
それっぽい演出のために急いできた感を出したのが失敗だったかもしれない。
「ありがとう、気持ちだけ受け取っておくよ。
君達には君達の課題があるんだから、そっちに集中しよう」
それから午前中の会議の続きをして、あの時まで待っていると、屋上にいるワカモから短いメッセージが届く。
『あなた様、敵が近付いてきてますわ』
『ありがとう、助かる』
短く返信する。
ワカモはアタシが便利屋の事務所を出てすぐ学校で待機してもらうようメッセージを送っておいた。
あっちこっち行かせて申し訳なかったが、これも対策委員会のため。
今度ワカモを労うとしよう。
それから数分後、通知音が鳴り端末をアヤネが確認すると表情が険しくなった。
「校舎から15km地点で大規模な兵力を確認!」
「まさかヘルメット団?」
「いえ、これは......傭兵です! おそらく日雇いかと!」
「とりあえず迎撃に行こう!」
「皆ちょっと待って」
「......先生?」
銃を携え今にも迎撃に行こうとする皆を呼び止める。
皆はなんで止められたのか分からないという表情とともにアタシを見る。
アタシは少し息を吐き、便利屋が出した条件を簡潔に話す。
「今から来る子達と戦闘するフリをしてほしい。
当てないように一、二発撃つくらいでいい。
理由はあとで話す。
お願い、皆の協力が必要なんだ」
話を聞いて真剣な表情をしていたホシノはアタシの目を数秒だけ見つめ、何かを察したのか目を逸らしいつもの顔に戻った。
「......分かった。
じゃあ行こっか」
「いいの? ホシノ先輩」
「あとで話してくれるって言ってるし、まあいいでしょ〜。
戦闘もフリだから弾の節約できるし」
ホシノ先輩がそう言うならと納得し校門前に集まり、敵勢力を待っているとアヤネから通信が入る。
そして徐々に目視で確認できるレベルまで近づくと。
『前方に傭兵を率いてる集団を確認!』
「あれ......柴関ラーメンでの......?」
「あの四人組って......」
「誰かと思えばあんた達だったのね!!
ラーメンを無料で特盛にしてあげたのに!
この恩知らず!」
「ぐ、ぐぐ......」
各々が見覚えのある顔を見て、昼間見た貧乏四人であることを思い出す。そのトップのアルは、気まずさから苦虫を潰した表情をしていた。
「あはは、ラーメンの件はありがと。
それはそれ、これはこれ。こっちも仕事でさ」
「残念だけど公私はハッキリ区別しないと。
受けた仕事はきっちりこなす」
ムツキとカヨコのプロさながらの発言に、シロコとセリカは少し肩を落とす。
同じ貧乏同士、話しやすかったのだろうが、相手の仕事内容が自分達を襲撃することとなればガッカリもするだろう。
だが、子供でありながら自分の仕事に覚悟と責任を持っていることに感服する。
「......ん、なるほど。
その仕事が便利屋だったんだ」
「もう! 学生なら、もっと他に健全なバイトがあるでしょ? それなのに便利屋なんて......」
便利屋68という誇りを持った仕事をアルバイトという言葉で片付けられたのをプライドが許さなかったのか、アルはキリッとした表情で反抗する。
「ちょっと! 便利屋はバイトじゃないわ! れっきとしたビジネスよ!
肩書きだってあるんだから!」
「私は社長、ムツキは室長で、カヨコが課長で......」
「社長、ここで言っちゃうと余計薄っぺらさが際立つ......」
ごもっともである。
「うっ......そ、そんなことより! さっさと依頼を済ますわよ!」
誤魔化すようにアルは自身の相棒を引き抜くと同時に、互いが銃口を向け合う。
まるで西部劇の中にいるような、戦場では味合うことのなかった別の緊張感。
引き金に指がかかり絞られる。
小さく舞い上がる砂埃。
アビドスに響き渡る銃声。
発射されたその弾丸は明日の空に消えていく。
「────はい終わり終わり! 依頼もこなしたし解散よ! 解散!」
「アルちゃん、雑すぎ〜」
「ムツキ、名前じゃなくて肩書きで呼んでって......」
「依頼終わったじゃん」
「う......まぁ、そうなんだけど......」
「はぁ......」
便利屋がいつものように駄弁っているのを見ていると、左裾を引っ張られた。見るとホシノが少し真面目な表情でアタシを見上げていた。
「ねぇ先生、そろそろ説明してもらっていい?」
「そうだね、戦闘も終わったし一度教室に戻ろうか」
「じゃあ私達は依頼主に報告しなきゃだから帰るね」
「うん、じゃあまた連絡......」
「一つ聞きたいんだけどさ、便利屋に私達を襲うように依頼した人って誰?」
アタシの言葉に被せるようにホシノは語気を強めてアルに問うた。
ホシノの疑問は当然のものだろう。
依頼主を叩いてしまえば借金問題に注力できる。
アタシだってそうしたいが、アルは教えない。いや、教えられないのだろう。
アルは便利屋をバイトではなくビジネスと言ったということは、安易に情報を漏らすということは自分達の信用を下げることになる。
どんなに失敗や裏切りをしても仕事が入ってきているということは、そこに関して信頼されてるからだろう。
だから便利屋は情報を吐かない。
読み通りアルは表情を正し、濁すことなくキッパリと真っ向から断った。
「それは言えないわ」
「別に意地悪をしてるわけじゃないの。
あなた達には悪いことをしてしまったけれど、そういう契約だから依頼主の名は明かせないの」
「......そっか、そうだよね
ごめん皆、それじゃ、帰ろっか」
ホシノは項垂れ、小さな声でアルに理解の意を示した。
その小さな声には悔しさが滲んでいた。
便利屋は傭兵を引き連れ帰り、アタシ達対策委員会は教室に戻り、今回の件の経緯を話した。
──────
静かにドアが開き囲むように散会し銃を突きつけ、カヨコが静かにかつ攻撃的なトーンで問いかけてくる。
「......誰? ここでなにしてるの?」
クルリと椅子を回し便利屋の方を向くと、左からハルカ、カヨコ、ムツキ、アルの順に散会していた。
なるほど、逃げ場が無いな。
かなり息が合った部隊、相手にすると面倒だ。
だが今回は戦いに来たわけじゃなくて、取引をしにきたため、撃たれる前に降参の意を示すため左手を挙げるついでにシャーレのIDカードを提示する。
アタシの顔を見た瞬間、カヨコが目を開く。
「この人、柴関に居た......」
「驚かせてすまないね。
アタシは連邦捜査部シャーレの先生をしてる風見透子だ」
シャーレという単語に驚き全員の銃口がブレる。
「シャーレの先生!? なんでここに......というかどうやって入ったの?」
「鍵なんて簡単に開けられるよ」
開けた証拠を出そうと思い上着のポケットに手を入れると、全員の銃が容赦なく向けられる。
落ち着くよう促し、ポケットからピッキングに使ったヘアピンと針金を出す。
「......事務所に入るってことは便利屋に用があるんでしょ?
要件はなに?」
「君達便利屋と取引がしたい」
「取引?
勝手に事務所に入っておいて?」
「それは悪かった。こちらも急ぎの要件でね。
でもその前に一度銃を下げてほしい。
こちらに戦う意志はないから」
腰から相棒を抜き、机の上で弾を全部取りスイングアウトした状態でゴトリと音を鳴らし置く。
「......どうする、社長? 確かに敵意は無いようだけど」
「皆、銃を下ろしてちょうだい」
アルの一言で全員武器を下す。
「それで取引の内容は? 私達これから依頼をこなしに行かないといけないから、手短に話して」
「じゃあ単刀直入に言うね。
今から遂行する依頼、アビドス襲撃をやめてもらおう」
「「「「!?」」」」
「なんでそれを......」
カマをかけたがまさか本当にアビドス襲撃だとは......
「柴関での会話が聞こえてしまってね。
君達が襲撃任務をするために人を雇ったと」
「盗み聞きじゃない......」
眉間に皺を寄せ嫌悪した表情をするアルに、アタシは開き直り事実を認める。
「まぁ、そうとも言う。
だけど、誰に聞かれているか分からないのに堂々と話す君達も悪い」
「ぐっ......なにも言えないわね......」
「でもアビドス襲うってなんで知ってるの?」
「うちには優秀な情報屋が居てね。
その子に持ってる情報を渡したら、アビドスを襲うって言うからさ」
「シャーレとアビドスは関係無いでしょう?
何故あの子達を守ろうとするの?」
「アタシがアビドス対策委員会の顧問だから」
「......調べたなら知ってるでしょうけど、私達は風紀委員会に追われてる。
依頼の報酬金が生活の要なの。
そんなアウトローである私達がアビドス襲撃をやめたら、先生は私達になにをしてくれるっていうの?」
「アルちゃん、良いの? また依頼者を裏切ることになっちゃうよ?」
ムツキに痛いところを突かれ、キリッとしたキメ顔から一変し、なんとも締まりのない顔になったアル。
「うっ...でもしょうがないじゃない。
あの子達は良い子だったし......それに」
締まりのない顔から一変し、表情が少し険しくなるアルと、それを見たカヨコ。
「敵意無いって言ってたけど、この人いつでも私達をやれるって目で分かる......」
「そうね、シャーレを敵に回せないのは無論そうだけれど、先生個人を敵にしたら正直無理ね。
......勝てるビジョンが見えないわ」
ちょっと待って? そんなダダ漏れなの?
全然そんな気無かったのに。
平和ボケしすぎたか?
恥ずかしくて思わず顔に手をやる。
「えっウソ、そんな雰囲気出してた?
すっごい恥ずかしいんだけど......」
緩んだ空気を取り戻すために、咳払いして取引の話に戻す。
「アタシが便利屋に何をしてあげれるか、だったね」
皆の目や表情、服装などを観察し熟考する。
便利屋は金欠で住む場所も無くなったりするレベルで、食事もままならないことが多い。
いくら前金や報酬が支払われたとしても、このままを続けることは不可能。自分達の愛銃の手入れだって出来なくなる。
なんだかヘルメット団時代のスミ達に近いな......
近い......? と言うことは便利屋もスミ達と同じようにすれば......
「じゃあ、シャーレに事務所置くってどう?」
「!!??」
「あはは! 面白いこと言うね!
ねぇ先生? 何考えてるの〜?」
「えっと......えっと......?」
「......先生、本気で言ってる?」
ムツキは茶化してはいるが、目が笑ってない。
ハルカは急な展開に追いつけてない。
カヨコは言葉の裏を疑っている。
アルに至っては白目を剥いてしまった。
この空気は良くない。疑われた状態で話しても受け入れてもらえないため、これは自己満足なんだけどと前置きをして理由を話す。
「だって便利屋ってキャンプ生活するくらいお金やばいんでしょ?
柴関でも一杯を四人で分けるくらいだし。
......まぁ正直な話、子供にそんな生活してほしくないし、シャーレの部屋余ってしょうがないんだよね。
あ、でもスミ達も居るから先に話しておかないと......」
先住のスミ達に事情を説明しないと引き取った時みたいに「アンタはバカか......」と怒られてしまう。
あれ地味に辛いんだよなぁ......と勝手に先走りすぎたアタシにカヨコは待ったをかける。
「ちょっと先生、勝手に話進めないで。
そんな美味しい話があるわけ無いでしょ。
それにまだ私達住むって言ってないし、お金の問題だってある」
「ハッ! そ、そうよ! 私達はハードボイルドなアウトローなんだから、そんな施しみたいなのには乗らないわ!」
自分でハードボイルドって言うのか......
どこぞの探偵みたいだな......
「お金? ああ、それならシャーレからの依頼をこなしてくれれば給料として支給するよ。
それにシャーレに事務所構えてくれるなら、便利屋の全責任を顧問としてアタシが背負う。
どう? 悪くない取引だと思うんだけど......」
カヨコが一番前に来て、ナイフより鋭い瞳でアタシを見る。
「ねぇ、どうしてそこまでしてするの?
先生にメリットなんか無いし、自分で言うのもなんだけど便利屋をシャーレに入れるってことはシャーレの評価を下げることに繋がる。
そんなデメリットを抱えようとしてる理由はなに? 先生はなにを考えてるの?」
理由はなに?
なにを考えている?
──カヨコの言葉でふと、あの任務の光景が映画のカットシーンのように脳裏に映る。
感情を置いてきた子供達。
火に飲まれていく施設。
身体から流れる血。
香奈の最期の言葉。
思い出したことにより込み上げてくる感情を押し殺すため握り込む左手。
俯いてしまった顔をカヨコに向け、鋭いその瞳を真っ向から見る。
「.....シャーレの評価なんか知ったこっちゃ無い。アタシは生徒全員に笑って過ごしてほしい。
ただそれだけ」
「......そう、分かった。
少しだけ時間もらう」
アタシは頷き、また俯く。
声は震えていなかっただろうか?
表情は歪んでいなかっただろうか?
ちゃんと自分を押し殺せただろうか?
そんなアタシを他所に、取引内容が良すぎる......でも依頼受けちゃったし......と頭を抱えるアル。
それを笑って傍観するムツキ。
ため息が漏れるカヨコ。
今頃アルの頭の中にはセリカの言った言葉がぐるぐる渦巻いているんだろう。
存分に悩んでいる三人とは別に悩んでいたハルカが、アタシの側に来て質問を投げてくる。
「あ、あの......それってアル様のためになりますよね...?」
「うん、アルだけじゃなくて便利屋の皆のためにもなると思う」
アタシの答えを聞いてパァァという効果音が聞こえそうなとても明るい表情を浮かべたまま
三人のところに戻り話し合いというかアルを説得しているように見える。
数分後、アルが決意したのか机の前までやってきた。
「〜ッ、分かったわよ! 先生との取引を受けるわ!」
「ホント!? 良かった〜」
「ただし、今回は条件をつけてちょうだい!」
ビシィィッとアタシの顔の前に人差し指を立てる。その手を少し逸らして問う。
「条件?」
「そう!
今回の依頼は前金を貰ってしまってるから仕事はきっちりこなさなきゃいけないわ。
でも先生との取引でアビドスに襲撃はしない。
つまり......」
依頼はアビドスを襲撃、つまり戦闘。
取引は襲撃はしない代わりにシャーレに事務所を構える。
戦闘したが負けたということにすれば依頼も達成し、取引も成立する。
「つまり、襲撃のフリをするって事かぁ。
良いんじゃない? 良い落とし所だと思う」
「先読みされてしまったわ......
今回はアウトローらしくないけど......背に腹はかえられないわ。
じゃあそういうことだから、先生。よろしくお願いするわね?」
「うん、後日シャーレに案内するから荷物纏めといてね」
席を立ちアル達と強い握手をする。
「取引成立だ。便利屋68、これからよろしくね」
「ええ! 任せてちょうだい!」
「くふふ〜、よろしくね、先生?」
「はぁ......まったく、これからよろしく」
「よ、よ、よろしくお願いします......」
「じゃあまた後で」
──────
「......なるほどね」
便利屋との取引内容を多少端折ったが話し終えた時には、既に陽は傾いていた。
「なぜ便利屋と取引をしたんですか?
戦闘となれば確かに苦戦したかもしれません、ですが今は先生が持ってきてくれた物資もありますし......」
「物資があるとか、そういう問題じゃないんだ」
アタシの煮え切らない発言に、ホシノの口調が威圧的になる。
「じゃあ他に理由があるの?
先生はさ、私達を子供扱いして守ろうとするけど忘れてない?
私達は銃弾なんかで滅多に死なないし、戦えるって言っても守られる側なのは先生だよ」
「......確かに君達に比べれば耐久性は紙っぺらだろうさ。
でもね、だからと言って生徒を守らない理由にはならないんだよ」
「なんで?
そこまでする理由が分からない」
「アタシは大人で君達は子供。
アタシは、
ただそれだけ」
「.........」
「付け加えるなら、アタシは生徒同士で撃ち合ってほしくないってだけ。
だから便利屋と取引したんだ」
「最初からそうするつもりで動いてたんだ」
「うん」
便利屋との擬似戦闘前の時と同じように、ホシノのオッドアイの瞳がアタシを貫く。
目を閉じ一息吐き、もう一度アタシを見る。
その目は、憂いを帯びていた。
「.........先生が私達を大事に考えてるのは分かったよ。
でも、これからは一言欲しいな。
いくら私達のためとはいえ、黙って事を進められるのは気持ち良くないからさ」
ホシノの言葉にハッとさせられる。
責任を負うことだけを考えすぎていた。
これは対策委員会の問題であってアタシ一人だけの問題ではない。
アタシ一人が対策委員会じゃない。
皆で考えあぐね悩んだ末に対策を出し、もしそれが失敗した時に
アタシが責任をとって、そしてまた皆で考えればいい。
そんなことも気付けず子供に教えられるとはなんとも情けない。
「......そうだよね、ごめん。
皆のためとか言っておきながら、皆に一言も相談出来ないなんて......
こりゃ先生どころか大人失格だな」
自分の不甲斐なさに呆れていると、隣に来てシロコが慰めてくれた。
「ん、そんなことない。
先生はちゃんと先生してる」
「そう? それならいいけど......」
シロコの頭を撫でていると、今度はノノミが励ましてくる。
励ましというよりしれっと隠してた事実をバラされた。
「はい☆私達に黙ってラーメンのお金払ってるところとか、ちゃんと大人してますよ!」
「バレてたか」
「なんでバレないと思ったのよ......
借金あるからって別に払えないわけじゃないんだから!」
詐欺でお金消えかけたセリカがなんかドヤってるが、なにも言うまい。
セリカの発言でハッとなにかを思い出したアヤネ。
「あ! そう言えば明日、集金の日でした......」
「今回の分のお金は足りる?」
「問題ないです!」
「そっか。じゃあ今日はもう帰ろうか。
借金について明日また皆で一緒に考えよう」
そうして誰も居なくなった教室で一人残ったアタシは椅子に背をもたれさせ天井を仰ぎ見る。
「香奈、アンタがここに居てくれたら......」