Mission : Protect Their Youth. 作:晴沙萪
「変動金利諸々適用し利息は788万3250円ですね。
すべて現金でお支払いいただきました。
以上となります」
「じゃあよろしく頼むよ」
「はい、お任せください」
ロボットはアタシが渡したアタッシュケースを現金輸送車に積みそのまま走り去った。
隣にいて一部始終見ていたアヤネが不安そうにこぼす。
「上手くいくと良いのですが......」
「なんとかなるよ」
──────
「今月もこの日がきたかぁ......」
「そういえば完済までどれくらいなの?」
「309年返済なので今のを入れると......」
「うへ、朝から気が滅入るねぇ」
朝集まって早々皆が憂鬱と言わんばかりの顔をしているなか、気になったことをアヤネに聞くことにした。
「返済方法は?」
「このアタッシュケースに現金を入れての手渡しですね」
「今までも?」
「はい」
「......なんで今時、手渡しなんだ?」
「確かにそうですね......
オンラインでできる時代なのに」
ネットが発達した時代でわざわざ人を寄越してまで集金するだろうか?
確実性? ありえない。
銃社会のキヴォトスで現金を運ぶなんて、いつどこで戦場になるかわからないほど治安が終わってるのに確実性もクソもない。
ハッキング等の心配が出てくるが、むしろネットでやり取りした方が追跡しやすくなる。
だが、逆に考えれば襲われても逆襲できる力があるかもしれない。
それにアビドスの返済相手はカイザー。
なにか裏があるのではないか?
あえて足がつかないようにしてるのか?
そもそも借金自体が表に出せないほどのものなのか?
「......一つ、やってみたいことがある」
「やってみたいこと?」
「今回来る現金輸送車にGPSをつけてみたい」
「どうして?」
「ちょっと調べたんだ。
アビドスの返済相手はカイザー。
そのカイザーは傭兵、武器販売、銀行経営、その他諸々の営業してる企業。
そして、新品同様の銃の出処、ヘルメット団と便利屋の雇い主、カイザーへの返済。
どれも決定的な証拠はないし、雇われてたかどうかすら分からないから断言はできないんだけど......
輸送車を追えばなにか情報が掴めそうな気がするんだ。
はっきり言ってこれはハイリスクハイリターンだから、皆がやりたくないならアタシはやらない」
勘で物事を決めるのは良くないし、バレた時のリスクが高すぎる。
もしバレたら、とんでもない量の傭兵を雇って襲撃してくるかもしれない。
契約違反で一括返済を求められるかもしれない。
逆に探知され、一昨日のセリカみたいに一人ずつ確実に狙われたらアタシ一人じゃ間に合わない。
だが、これ以上情報が無いと先に進めそうにない。
アタシ含め皆が悩んでいるなか、ホシノは一人顔を上げ親指を立てる。
「おじさんは良いと思うよ〜」
「ええ!? ホシノ先輩!?」
「ん、私も賛成」
「シロコ先輩まで......
バレたらどうなるか分かんないんだよ?」
「なにもしないよりは多少リスクはあっても、情報得られるならそれが一番だとおじさんは思うワケ」
「右に同じ」
「そうね......リスクあってのリターンだもん!」
「皆が賛成なら私も賛成です♪」
ホシノの一言で納得したセリカとノノミの瞳の奥に覚悟が見えた気がした。
すると授業の挙手のように綺麗な手の挙げ方をしたアヤネが口を開く。
「賛成ついでに! 銃火器について一つ情報があります!」
「お、気になるね」
アヤネがタブレットに自身が得た情報を映す。
「先生が分解したものを分析した結果、今は取引されてない型番ということが分かったんです!」
「もう生産してないってこと?」
「どうやって手に入れたのかしら......」
「生産されていない物を手に入れる方法は......
キヴォトスではブラックマーケットしか現実的にありえません」
「ブラックマーケットってとっても危ない場所じゃないですか」
「はい。
しかも便利屋もブラックマーケットに出入りしてるとの目撃情報も得ました」
便利屋の目撃情報
銃の供給源
絶対に答えが見つかるとは限らないしリスクもある。
今までの学校での防衛戦じゃなく、今回は攻撃に回る番になるかもしれない。
だがそれがなんだ。
アタシは対策委員会の顧問だ。
誰かを失う辛さはアタシだけ知っていれば良い。
だから全員、アタシが守る。
どんな問題も責任も全部背負ってやる。
「なるほど......
今日のやることは決まったね。
GPSつけた後はブラックマーケットに行こう」
「現金輸送車はほっといていいの?」
「うん、GPSで経路さえ分かれば調査はいつでもできるからね。
それじゃあ張り切って行こう」
「「「「「おー!」」」」」
──────
それから返済のためのアタッシュケースにGPSを忍ばせ見送った後、装備を固めてブラックマーケットに向かった。
喧騒が聞こえる。
想像よりブラックマーケットは賑やかなようだが、やはり
その緊張感に触発されるように腰から
「皆、警戒は怠らないように」
皆頷いて平然を装っているが、明らかに表情から緊張による恐怖が感じ取れた。
危険な場所なため、なるべく早く済ませたいところだ。
「それにしてもなんだか賑やかですね?」
「ん、しかも規模もデカい」
「まさか街一つ分の規模だとは思わなかったね」
「うへ〜、私達は普段アビドスしかいないからね〜。
学区外は変な場所が多いんだよ〜」
何かを知っているような口ぶりのホシノにシロコは疑問を投げかけた。
「もしかしてホシノ先輩、来たことあるの?」
「いんや、初めてだね〜。
でも他の学区外には結構へんちくりんな物が多いんだって」
「ちょーでっかい水族館もあるの!
アクアリウムっていうの!
うへ......お魚.....お刺身......」
興味無さげな態度から一変し、今度は目を輝かせ小さな身体で、どれだけ大きいかをまるでレッサーパンダの威嚇のように両手を広げ表現している。
アビドスに来て初めて、ホシノの年相応の表情や感情を見れたことが嬉しく頭を撫でる。
ふと喧騒の中に微かだが銃声が聞こえた気がした時、アヤネの通信が皆の耳に入る。
『先生も言っていましたが、油断しないでくださいね。
違法な銃火器や物が取引されてる場所なんですから。
なにかあれば私が......きゃあ!?』
アヤネの悲鳴と共に乾いた銃声と弾が地面に当たる音が響く。
まだ戦闘地域が見えたわけではないが、音は近づいてくる。
「全員戦闘体制!」
号令を皮切りに全員セーフティを外し、射撃体制に入る。
近づいてくる音が軽い。口径の小さいSMGだろうか。
予想をしていると、警戒していた通路の曲がり角からベージュ色の髪で、白を基調とした制服を着た少女が走ってきた。
その後ろから三人のチンピラらしき人物が銃を撃ちながら追いかけている。
「待てっ!」
「う、うわぁぁ! まずっ、まずいですー!
ついてこないでくださいー!!!」
「そうはいくか!!」
「シロコ、セリカ、白い服の子に当てないようにカバーしてあげよう」
「了解!」
「ん」
「ま、前にも!? 撃たないでくださいぃぃぃ!
.........あ、あれ?」
反射的だったとは思うが、こちらからすれば都合よく少女が頭を抱えてしゃがんでくれたおかげで、一人一発でチンピラを沈めることができた。
周りを警戒しつつノノミは少女に駆け寄る。
「大丈夫ですか?
なんだか追われてるようでしたが......」
「あ......皆さんが助けてくれた、ってことですよね......?
ありがとうございます! 助かりました!」
「ん〜? この制服、何処かで......
あ! トリニティの制服だ!」
「トリニティってマンモス校の一つの?
なんで良いとこの生徒がこんな場所にいるの?」
「まぁまぁ、とりあえず名前を聞こう。
君、名前は?」
「わ、私、阿慈谷ヒフミと申します!
先程は助けてくださりありがとうございました!
その、皆さんがいなかったら学園に迷惑をかけてしまうところでした......
それにこっそり抜け出してきたので、なにか問題でも起こしたら......あうう......」
トリニティ総合学園。
キヴォトス三大学園の一つに数えられる一大勢力で、いわゆるお嬢様の行く学園らしい。
そんな裕福な子が何故こんな危ない場所に、しかも学校を抜け出してまで来たのだろうか。
「あ、あはは......実は探し物がありまして、もう販売されていない代物なんですが......
ブラックマーケットで密かに取引されてるみたいで......」
販売されていない。
密かに取引されている。
もしやこの子も銃火器を入手しに来たのか?
「旧式の銃火器?」
「もしかして......戦車?」
「もしかして違法な物?」
「化学兵器とかですか?」
「えっ!? いいえ、えっとですね......
探し物は......ペロロ様限定グッズなんです」
「ん?」
「......は?」
「限定グッズ......?」
「なんだって?」
「ペロロ......?」
『......』
わざわざ危険を冒してまで来た理由が限定グッズ?
ヒフミの考えに理解が追いつかず眉間を揉むアタシらだが、そんなことはお構いなしにカバンからぬいぐるみを出して少し興奮気味に話を進めるヒフミ。
「はい! これです!
ペロロ様とアイス屋さんがコラボした限定のぬいぐるみ!
限定で百点しか作られていないグッズなんですよ!
ね? 可愛いでしょう?」
焦点の合っていない目、嘴を開きだらしなく垂れる舌、ずんぐりむっくりとした見た目。
......まぁ見る人が見れば可愛い部類に入るのだろう。
「わあ☆モモフレンズですよね! 私も大好きです!
ペロロちゃん可愛いですよね! 私はミスターニコライが好きなんです!」
ノノミもヒフミと同様で、ペロロ様とやらを可愛いと思っているようで和気藹々と話し合っている。
それを眺めるように横並びする二人。
「いやぁ〜......おじさんにはなんの話かさっぱりだなー」
「今回はアタシも同感だね」
「二人ともこういうファンシー系に全く興味ないでしょ」
「ふむ、若い子にはついていけん」
「ホシノに限ってはまだ若いでしょうよ。
まぁ右に同じだけど」
「......そういえば先生って何歳なの?」
「20代とだけ」
「全然若いじゃん」
「はぁ......20代はね、もう若くないんだよ......
君達の歳から見るとおじさんおばさんなんだよ......」
「なに言ってんだか......」
こっちはこっちで他愛のない話をしてると、ノノミと語り合っていたヒフミが疑問を投げてくる。
「ところで皆さんこそ、どうしてここに?」
「私達も同じだよ。
もう生産されてないものを探しにね」
「そうなんですか、私と似たような感じですね」
その時、周囲から足音が聞こえた。
会話していてもすぐに気付くレベルの大きさなため、アヤネも気付き通信が入る。
『皆さん、大変です!!
四方から武装した集団が向かってきています!!』
ヒフミを助けるために撃った三人がどうやら仲間を呼び寄せたらしい。
奥から大勢のチンピラが走ってくる。
「あいつらだ!! いたぞ!!」
「さっきはよくもやってくれたな!? 痛い目に合わせてやる!!」
「覚悟しやがれ!!」
多勢に無勢。
だからと言って黙って突っ立ってるほど馬鹿じゃない。
いつも通り皆に号令をかける。
「全員戦闘態勢!」
「「「「「了解!」」」」」「えっあっはい!」
アビドスに来てから、何故毎回こうも大勢に襲われてしまうのか......。
多勢が続くと流石にキツいが、今回は新たな戦力がある。
タブレットを指で叩き
「さて、見せてもらおうか。
アロナの力とやらを」
『はい! このアロナにお任せください!!』
そう言うとタブレットを中心に波紋のようなものが広がっていった。
その波紋はアビドスメンバーとヒフミにぶつかると淡い青色に強調表示された、かと思えばチンピラにぶつかると赤色に表示された。
どうやら視覚で敵味方判別できるソナーのようだ。
どういう原理なのかは全く分からないが便利なので使わせてもらおう。
『これで壁越しでも敵が、味方がどこにいるか分かるようになります!
バッテリーが続く限り一定間隔でソナーし続けられます!』
「すごいな、コレ......」
『皆さんにも共有できますが、どうしますか?』
「よろしく」
アロナは頷くとまた波紋が広がった。
すると、皆が同時に瞬きをして自分の視界に広がる光景を何度も確認している。
「なにコレ!?」
「赤い人影が見える......」
「ん、変な感じ」
「わあ☆」
「ひえぇぇ! なんですかコレ!?」
『すごい......! 位置が特定しやすいです!』
「皆、現状把握できた?
先に右壁向こうに五人、左通路に三人。
挟まれる前に先手打つよ!
それじゃ戦闘開始!」