Mission : Protect Their Youth.   作:晴沙萪

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三竦み

「ちっ! くそッ、撤退だ! 撤退!!」

 

 戦闘は普段の戦闘より早く終わった。

 まぁ撤退するのも無理はない。

 位置を知られた時点で戦局は傾く。

 ましてや壁向こうに潜んでいるのに、その裏を掻かれたら誰でも逃げたくなる。

 各々セーフティをかけ周囲を警戒するなか、シロコが不満を漏らす。

 

「まだ戦えたのに......」

 

「戦闘は短ければ短い方がいい。

 それにアタシ達は戦いに来たわけじゃないでしょ?」

 

「ん、確かに」

 

 アタシの言葉に納得してセーフティをかけるシロコとアタシに、緊迫した表情をしたヒフミが隣に来て急かす。

 

「あの、ひとまずここから離れた方がいいです。

 治安機関に見つかると探し物してる場合じゃなくなります!」

 

「ふむ、分かった。

 ここのことはヒフミちゃんの方が詳しいだろうし、従った方がいいかもね」

 

 ホシノの言葉に全員首を縦に振りヒフミの後をついて行く。

 移動の際、ヒフミに逃げる方向を指示してもらい先陣を切る。

 曲がり角を何回か曲がった時、数人の重装備の人影が見えた。

 おそらくあれが治安機関だろう。

 確かに逃げて正解だったが、何故ヒフミはチンピラに見つかって治安機関に見つからないのか不思議だが、そんな事は皆の安全より重要ではない。

 それなりの距離を移動しヒフミが立ち止まる。

 

「ここまで来れば大丈夫でしょう」

 

「ヒフミはここをかなり危険な場所だって認識してるんだね」

 

 シロコの言葉に驚きはしつつも、さも当然のようにヒフミは答える。

 

「えっ、それはとっ、当然ですよ。

 連邦生徒会の手が及ばない場所の一つですから」

 

 生徒会長が居なくなったことも、ここが栄えた一つの要因なんだろう。

 

「ブラックマーケットだけでも学園数個分の規模に匹敵しますし、決して油断してはいけない場所かと......

 それに“様々”な企業が、この場所で違法な事柄を巡って利権争いをしていると聞きました。

 それだけじゃありません。

 ここ専用の金融機関や治安機関があるほどですから......」

 

 やはりブラックマーケットは想像以上の規模だ。

 生徒会の手が及ばないのではなく、手が出せないの方が恐らく正しい表現だ。

 そして、様々な企業......

 カイザーも利権争いに絡んでいたりするのだろうか。

 

「随分と詳しいね。

 もしかして何度か来てるからマーケットガードの来る方向が分かるの?」

 

「ええ、まぁ......

 ペロロ様を手に入れるために下調べもして何度か来てますから......」

 

「よし、決めた〜!」

 

 やけに考え込んでいると思っていたら唐突に声を上げ、ふっふっふ、とでも言いたげな悪い笑みを浮かべるホシノ。

 ……いや、実際ちょっと口に出ている。

 この顔、知っているぞ。

 碌でもないことを思いついた時の顔だ。

 

「助けたお礼ってことで、ヒフミちゃんには私達の探し物が手に入るまで案内役してもらおー!」

 

「えっ、えぇっ!!」

 

「わお☆良い考えですね!」

「ん、つまり誘拐」

 

「はいっ!?」

 

 予想通りのホシノの提案に悪ノリするシロコとノノミに軽くチョップを入れ、三人の代わりにヒフミに謝る。

 

「ごめんね。

 誘拐も見返りも求めてないから安心して。

 でも案内役はお願いしたい。

 ヒフミが良ければね」

 

「あ、あうぅ......こんな私でお役に立てるかわかりませんが、アビドスの皆さんにはお世話になりましたし喜んで引き受けます」

 

「ありがとう、ヒフミ。

 それと自分を卑下しないで。

 ヒフミのおかげでこっちも助かったんだから」

 

 ヒフミの肩を軽く叩き鼓舞する。

 

「よーし、それじゃちょっとだけ同行お願いね〜」

 

 ──────

 

 電話の音が部屋中に鳴り響く。

 受話器の前に一人、暗い表情をしたアルがいた。

 

「どうしましょう......」

 

 外出していた三人が部屋に入ってすぐ、手を組んで項垂れるアルが目に入る。

 

「ただいま......ってなんでアルちゃん暗い顔してんの? 

 電話も鳴ってるし。

 出ないの?」

 

「ぐぅ......」

 

 ムツキの当然の問いに声にならない声を出すアル。

 それを見て察するカヨコはため息をこぼす。

 

「......おおかたクライアントからでしょ」

 

「うわ、そりゃ暗い顔にもなるかー。

 失敗したって報告しないとだしね」

 

「アル様......」

 

 報告内容を思い出すだけでも気が滅入るのだろう。

 そこにハルカの憐れむ表情がプラスされ、アルは苦虫を潰したような表情になった。

 これ以上社員にカッコ悪いところは見せられないと思ったのか。

 

「......くっ」

 

 覚悟を決め、受話器を手に取る。

 

「はい、便利屋68......」

 

 陰鬱とした声で名乗ると、電話の向こうからは男の声がした。

 その声は人間らしからぬ、まるでロボットのような声だった。

 

『ふむ、興味深い報告だ。

 ここまでの練習は拝見したよ。

 それで? 実践はいつだ?』

 

 電話先の人物の揶揄うような発言に、苛立ちを含んだ声音で反抗するアル。

 

「練習ですって? 

 提示した情報の中にシャーレの先生がいるなんて一切無かったわよね?」

 

 渡された情報にはアビドス高等学校のメンバーの名前と写真のみ。

 そこにシャーレの情報は無かった。

 

『シャーレ? ただの人間風情になにが出来ると言うんだ? 

 やつ諸共やればいいだろう』

 

 男の発言を聞いて瞬間、すとん、とアルの表情が無くなった。

 そして呆れ、哀れみを混ぜたような表情に変わる。

 

「......ああ、そういうこと。

 貴方、あの人に会ったことがないからそんな舐めた事言えるのね」

 

『......小娘が。

 偉そうな口を叩くくらいなら、まともに依頼をこなしてもらいたいものだがな』

 

 表情だけでなく声音にまで表れていたようで、男は苛立ちを露わにした。

 だがアルは気にも留めない。

 

「依頼はこなすわ。

 でも貴方の依頼じゃないけどね」

 

『......なに?』

 

「あら、聞こえなかったかしら? 

 もうあんた達の依頼は受けないって言ってるのよ」

 

 今度はアルが揶揄う。

 

『どうなっても知らんぞ』

 

「ふん! 私達はアウトローよ! 

 どこからでもかかってきなさい!」

 

 啖呵を切り、受話器を叩きつけ電話を切る。

 しかし、その威勢はどこへやら。

 プルプルと震え、みっともなく叫ぶ。

 

「どどどどど、どうしましょう!?」

 

「アルちゃん、カッコい〜

 私達はアウトローよ、ふぅぅ!」

 

「ムツキ、社長が可哀想でしょ......

 で、どうする? 先生に相談する?」

 

「い、いざとなったら、私が命をかけてアル様をお守りしますから......」

 

 部屋が騒がしいなか、アルは白目を剥いて放心状態だった。

 

 

 ──────

 

「小娘風情が......

 たかだか人間一人潰せないとは、なにがアウトローだ」

 

 機械頭が苛立ちを隠さずに話す。

 その部屋には機械頭を除いて誰もいない。はずだ。

 

「困り事ですか?」

 

 何処からともなく表れたそれは、人の姿形をしているが、明らかに人ではない見た目をしていた。

 スーツを身に纏い、頭部は黒くひびが白く走っており、そのひび割れ方はまるで笑顔のように見える。

 人間の真似をした、人間もどき。

 

「いや、大した事じゃない。

 ちょっとしたイレギュラーがあっただけだ。

 アビドスの連中が想像より強いことと、シャーレの先生が介入してきたこと。

 ただそれだけだ」

 

「ほお、やはり先生が関わってきましたか。

 実に興味深いですね」

 

 クックックッと不敵に笑うスーツ姿に理解できず、どんどん苛立ちを募らせる機械頭。

 

「なにが可笑しい」

 

「考えてみてください。

 あの便利屋ともあろう者が、先生を脅威だと見做したのですよ?」

 

「それがなんだと言うんだ。

 所詮ただの人間だろう」

 

 事の重大さに気が付かない機械頭に呆れたのか、早々に会話を切り立ち去ろうとする。

 

「......まぁいいでしょう。

 予定を少し変更しておきます」

 

 立ち去る寸前、小さく囁く。

 

「大人と子供、先生と生徒。

 お互いどう関わって、どう変化するのか。

 

 

 ............とても気になりますね」

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