Mission : Protect Their Youth. 作:晴沙萪
ぞわり、と悪寒が背筋を走る。
戦場で感じたことのない気持ちの悪い悪寒。
思わず振り向くが、当然なにもない。
「先生? どうかした?」
「いや、なんでもないよ。
というか皆、大丈夫? だいぶ歩き回ったけど......」
振り向いたついでに皆のことを見ると疲労感が表情に表れていた。
戦闘、逃走、探索と休む暇も無かったため当然と言えば当然か。
「ちょっと疲れた......」
「ん、平気」
「流石に疲れましたね......」
「疲れますね......」
「うへぇ、これ以上はおじさんの膝と腰が逝っちゃうよ〜」
ホシノが分かりやすく膝をガクガクと震わせる。
いやそれ、アタシのセリフじゃない......?
「えっ......ホシノさんっておいくつなのですか?」
「ほぼ同年代!」
「先生こそ平気なの?
アビドス来た時は死にかけてたのに」
「あー......あれはテント泊に身体が慣れない状態だったからで、普段はこのくらい余裕だよ」
そういえばそんなこともあったなぁと思い出す。
あの時ワカモが一緒に居たから情けない姿を見せまいと気合いで頑張っていたが、流石に身体は限界だった。
現役だったらなんてことはなかったのに......
なんやかんやで休憩できる場所を探しつつ歩いていると、たい焼き屋があることに気付きホシノが分かりやすくはしゃぐ。
「そろそろ休憩......あ! あんなとこにたい焼き屋さんが!」
「ホントだー! 行こ行こ!」
「先に座ってて。
アタシ買ってくる」
裾を引っ張られる。
振り返るとそこには何故か申し訳なさそうな表情をしたノノミがいた。
「先生、最近私達に奢ってばっかりですよね。
今回は私が払いますので......」
「ありがとう、ノノミ。
気にしなくていいよ、アタシがしたくてやってるだけだからさ」
気持ちだけ受け取り、ノノミの頭を撫でて皆の所へ行くよう促す。
ノノミは気遣いのできる優しい子だ。
きっとアタシの懐事情を気遣ってくれたのだろうが、生憎自分のために金を使う趣味も無いため、子供のために使えるなら本望というもの。
そんなことを思いながら6個のたい焼きを買い、しばしのブレイクタイム。
「ん〜美味しい!」
「ちょうど甘い物がほしかったんだよねぇ」
「アヤネちゃんには帰ったらちゃんとご馳走しますね」
『ふふ、大丈夫ですよ、ノノミ先輩。私はここでお菓子をつまんでますし』
「しばし休憩だね〜」
たい焼きを一口齧る。
小豆と生地の甘さが心地良い。
ワカモとアロナのためにもう二個買っておこう。
皆がたい焼きでほっこりしているなか一人、眉を顰めているヒフミ。
「うーん......ここまで情報がないなんてあり得ません......妙ですね。
お探しの兵器の情報、絶対どこかにあるはずなのに、探しても探しても出てきません......」
どんな場所であれ現地には必ず手掛かりとなる情報が落ちている。
だが見つからないとなると、誰かが意図的に隠しているとしか思えない。
何故? 誰が? なんのために?
アタシとヒフミの考えは奇しくも同じ考えだった。
「販売ルート、保管記録、その全てを何者かが意図的に隠しているような、そんな気がします。
いくらここを牛耳っている企業でも、ここまで徹底的にブラックマーケットを統制するのは不可能なはず......」
「そんなに異常なことなの?」
「いえ......異常というより、ここまでやりますか? という感じですね。
ここに集まっている企業はある意味開き直って悪事を働きますから、逆に変に隠したりしないんです」
そう言ってヒフミは正面の通路の先にある大きなビルを指差す。
ビルの入り口には
「例えば、あそこのビル。あれがブラックマーケットに名を馳せる闇銀行です」
「闇銀行?」
「ブラックマーケットで最も大きな銀行の1つです。
聞いた話だと、キヴォトスで行われる犯罪の15%の盗品があそこに流されているようです。横領や強盗、誘拐など、様々な犯罪によって獲得した財貨が違法な武器や兵器に変えられて、また他の犯罪に使われる……」
「悪循環、負のスパイラルだね」
「ひどい! 連邦生徒会はなにやってんのよ!」
この問題はシャーレがどうにかすべき問題でもあるが......なによりも大人が責任を取れなかったのが悔しくてたまらない。
「色々あるんだろうさ。
きっとそれなりの事情がね」
他人事のように話すアタシ達の耳に焦った様子のアヤネから通信が入る。
そしてこれから目にするものは、決して他人事ではなくなる。
『お取り込み中、失礼します!
武装集団がそちらに近づいています!』
「位置は?」
『正面、闇銀行前の通路です!』
「了解、全員警戒態勢」
三人ずつ別れ壁を背にし闇銀行を覗き込むような体勢をとり待っている間、アヤネが対象までの位置を知らせてくれている。
徐々に距離が近くなり闇銀行前に差し迫るかと思ったその時、三台の車が止まった。
「......え、あれって」
どこかで見たことのある車から降りてくるロボット。
「まさか......」
急いで端末を開き、今朝仕掛けたGPSを確認すると闇銀行前から受信していた。
色々なことがあって忘れていたが、アビドスはカイザーから金を借りていた。
悪徳金融業者であるカイザーにとって、ブラックマーケットは銀行を構えるのにうってつけの場所。
完全に盲点だった。
「カイザー......」
「カイザーって、あのカイザーローンの事ですか?」
アタシの恨めしそうな呟きに後ろにいたヒフミが少し驚いた声音で問う。
「ヒフミちゃん、なにか知ってるの?」
「多くは知らないのですが......
カイザーグループは合法と違法のグレーゾーンで上手く振る舞ってる多角化企業で......
トリニティにもかなり進出していて、ティーパーティが生徒達の影響を考慮して目を光らせているんです」
「ティーパーティ......あのトリニティが、ね......」
「あの、もしかしてアビドスはカイザーローンから融資を......?」
「やむを得ない事情でカイザーに借金してる。
ただ今はそんなことを気にしてる場合じゃない。
多分あの中にある集金確認の書類を見れば、明らかになるはず」
今までこの子達が血と汗を流してようやく稼いだお金の行き着く先が。
ただ既に銀行の中に入ってしまっているため確認する手段がない。
なにか案は無いかと考えあぐねていると、向かい側にいるシロコがバッグを漁り始め......
「ん、これしかない」
青い目出し帽を掲げた。
「さっすがシロコちゃん!」
「ウソでしょ!?」
「あの......話が一向に見えてこないのですが......」
「ん、銀行を襲う」
「ダメって言ったでしょ。
アタシは生徒を犯罪者にさせるために顧問になったわけじゃない」
軽々しく言うシロコに語気を強め叱る。
「でも先生、あの計画書の直す場所教えてくれたじゃん......」
「確かに教えた。
使うことはないと思ってたからね。
いい? あそこにいる武装集団はそこら辺のチンピラとはわけが違う。
こんな軽いノリで相手にしちゃいけない」
「......だからって黙って見てろって言うの?
悪いヤツから取り返したっていいじゃない!
私達が頑張って貯めたお金なんだよ!?」
「だから犯罪に手を染めてもいいと?」
後ろでカバーしていたセリカが怒りの声を上げるが、その声とは真逆に静かに、かつ低くアタシはセリカに向き直り告げる。
「セリカの気持ちは痛いほどよく分かる。
アタシだって悪人なんざどうなっても構わないけど、犯罪自体を軽く見るな。
君達を犯罪者にするくらいならアタシ一人でやる」
「どうしてそこまで......」
「アタシは既に真っ黒だからだよ」
敵を殺した。
要人を殺した。
そして仲間を殺した。
銀行襲撃なんかしたことはないけど、
慣れちゃいけないと頭で、心で理解しても気付けば人を殺し慣れている。
任務だから? そんなの関係ない。
着いて回るのは結果だ。
この世には結果だけが残る。
アタシの手はとうに真っ黒(真っ赤)だ。
「じゃあこれ以上先生を黒くしないために皆で襲う」
折れてくれると思ったのに逆のことをさらっと言うシロコに、拍子抜けしてしまった。
「先生が私達の責任を取るために顧問になってくれた。
そのお返しがしたい......ダメ?」
シロコは耳を垂れさせ上目遣いで見てくる。
こんな顔をさせてしまったこと自分に腹が立ち、そんな顔に弱い自分にほとほと呆れる。
だがそれくらい覚悟はあるということなのだろう。
ため息を吐く。
覚悟が無いのはアタシの方だった。
ちゃんと彼女達の意思を聴かないと。
「覚悟は......?」
「ん、ある」
「もちろん」
「はい♪」
「とーぜん!!」
『はい!』
「オーケー。シロコ、計画書は持ってる?」
「ん!」
目出し帽の時のように高らかに掲げる。
「よし、それじゃあ準備して。
ヒフミはどこかに隠れて......」
「わ、私も参加します!」
巻き込まないようにと気を遣ったつもりだったが、食い気味に言葉を返すヒフミのその目には確かに覚悟が表れていた。
「お! そしたらヒフミちゃんは......コレだ〜!」
ヒフミの発言に嬉しくなったのか、ホシノが両目用に穴を空け紙袋に5という数字を書き意気揚々とヒフミに被せる。
そう、たい焼きが入っていた紙袋である。
「悪の親玉だねぇ、ヒフミちゃーん」
「カッコいいですよ、ヒフミちゃん☆」
「ヒフミ、本当にいいの?
案内役ってだけで、別に罪を背負う必要は......」
「皆さんの覚悟を前に隠れているなんて、そんなカッコ悪いことはできませんよ!」
知識人だと思っていたが、それだけでなく仲間思いでもあるヒフミを心の底からカッコいいと思った。
頭を撫で感謝を伝える。
「ありがとう、ヒフミ。
なにかあればアタシが責任を取るから」
「ねぇ、先生は覆面どうすんの?」
確かに。
ヒフミを除いて皆は既にシロコの色違いの目出し帽を装着しているが、肝心のアタシは顔を隠すものが無い。
何かいいものは、と探していると端末が鳴る。
『上から落としますので、お使いくださいまし。
私の代わりにこの面があなた様を守ります』
「アタシは──」
上を見ると、落ちてくる。
タイミングよくキャッチし顔のそばに寄せる。
「これがあるから」
狐の面。
誰が見れば分かりそうな特徴的な面。
着けてみると存外視界が保たれて、着け心地も良い。
またワカモに借りができてしまった。
「「「「「先生カッコいい〜!!」」」」」
「ハイハイ、茶番はこれくらいにして行くよ」