Mission : Protect Their Youth. 作:晴沙萪
「お待たせしました」
「なにがお待たせしました、よ! 本当に待ったわよ! 6時間も! ここで!
融資の審査になんで半日もかかるの!? 別にうちより先に人もいなさそうだったのに!
私の連れは待ちくたびれて、そこのソファーで寝ちゃってるし!」
指差す先には気持ちよさそうに眠る三人。
「私どもの内々の事情でして、ご了承ください。ところで、アル様。
貴女はそのような態度を取れる状況では無いと思うのですが?」
「あ、あぅ......」
アルは機械頭の言葉に苛立って、その感情を思考にぶつけていた。
ムカつく......もういっそのこと大暴れして銀行のお金を持ち出しちゃおうかしら?
......いや、それはダメね。ここから持ち出せたとしてもマーケットから抜けるのが至難の技。
あちこちにマーケットガードもいることだし......もしかしたら、実は大したことないかもしれない。
私達四人なら全員叩きのめして逃げ切れそうな気も......
はぁ......やっぱり無理。
ブラックマーケットを敵に回すなんて、そんな勇気無いわ......
それに先生の迷惑になってしまうわ......
これじゃあハードボイルドなアウトローには程遠いわね......
自身の勇気と自信の無さに呆れているアルに追い討ちをかけるように、機械頭から宣告される。
「アル様、融資の承認は下りませんでした。お力になれず申し訳ありません」
「えっ、ちょっと待ってよ!」
抗議しようとしたその時、銀行内の明かりが落ちた。
どういう状況かは分からないが一先ず仲間のところに戻ると、アルを担当した機械頭が慌てふためいた。
「な、何事ですか! 停電!? 一体誰が!? パソコンの電源も落ちてるじゃないか!」
ズドン
銃声が鳴り悲鳴が上がる。
悲鳴と同時にスポットライトが銀行の入り口を照らす。
埃が舞うのが見える。
そこには、スーツに狐の面という奇妙な格好の人物が一人リボルバーを構え立っていた。
銃声で起きたらしくヒソヒソと話し合っているカヨコ、ムツキ、ハルカの三人。
「なにしてんの......?」
「ねぇあれって......」
「ど、どういう状況ですかっ......?」
「全員武器を下せ、両手を上げろ。動けば撃つ」
狐面が顔だけ後ろを見た途端、スポットライト外から五人の覆面集団が現れる。
「緊急事態!! 緊きゅっ......!!」
ズドン
壁についている警備システムを入れようとしたロボットの顔面スレスレに銃痕ができる。
「動けば撃つ、と言ったはずだ。二度目は無い。
ちなみに警備システムは無力化済みだ」
それ以降流れるように銀行強盗を済ますのを見たアルは、誰だか分からないけどすごくクールでハードボイルドな強盗の仕方だわ!
と感動した。
──────
『ホットゾーン脱出。追手なしです!』
闇銀行から逃げ出し、マーケットガードすらも撒いて比較的安全地帯まで逃げ切った。
シロコの計画書に少し手を加え、アロナのハッキング、アヤネが上空からバックアップにより作戦の出来は完璧。
「よし、作戦終了」
「はひー、暑苦しい! もう脱いでいいよね?」
セリカが覆面を脱ぐのにつれて皆も脱いでいくと頬は火照り、髪が汗で額や頬にくっついていた。
「皆、今回の作戦はよくやった。でも一つ約束して。金輪際犯罪を行わないこと。
強盗をしたという過去は、罪は洗い流せない。だからと言ってこれに慣れて罪を重ねようとしないで。優しくて賢い皆なら言われなくても大丈夫だと思うけどね」
アタシの言葉に真剣な表情で頷く。
優しいこの子達に闇は似合わない。
堕ちていい存在じゃない。
さっきまでの真剣な表情から変わり、困惑した表情のシロコ。
そういえばシロコは書類回収役だったが、表情を見るに失敗してしまったのだろうか。
「我儘に付き合ってくれて本当にありがとう。
でもあの......先生、これ......」
そう言ってバッグを差し出してきたため、受け取ると明らかに書類だけの重さではなかった。
訝しんでチャックを開けると、そこには書類と共に詰め込めるだけ詰め込んだ
「うぇ!? これ全部お札!?」
「ぅえええええっ!! シロコ先輩、現金持盗んじゃったの!?」
「ち、違う......目当ての書類はちゃんとある。お金は銀行の人が勝手に入れただけで......」
「どれどれ......うへ、軽く一億はあるね。本当に5分で一億稼いじゃったよ〜」
やってしまったという顔から、うるうると瞳を涙が埋めていく。
どうやら本人からしても想定外すぎたらしい。
「ほら、泣かないで。大丈夫だよ、シロコ。
あの状況なら誰だってお金詰めるだろうさ。だから自分を責めないで」
「う"ん......」
今にも決壊しそうなシロコの涙を、しゃがんでスーツの袖で拭いシロコが落ち着くまで抱きしめ頭を撫で続けた。
持ってきてしまったのはしょうがないとはいえ、どう処分しようかと思案しているとセリカがそのバッグを覗き込む。
「本当は使ってやりたいけど、そんなことしたら犯罪だもんね......」
『セリカちゃん......』
「これを使うくらいなら今頃ノノミ先輩のカードに頼ってただろうし。
それに先生とも約束したしね!」
「必要なのは書類だけだから、とりあえずこのお金はここに置いていこう」
用事も済んで帰ろうかという時、アヤネから通信が入る。
『誰かがそちらに接近中です!』
「追手のマーケットガード!?」
『いえ......敵意は無いようです。調べてみます』
なんとなく嫌な予感がしたため、全員覆面を被らせる。
これで誤魔化せるとは思えないが一時凌ぎには十分だろう。
「そういえばその狐のお面、空から落ちてきたけど......」
「ああ、これは
『接近中の正体が分かりました! 便利屋のアルさんです!』
確かに銀行内に便利屋がいたのは確認したが、追ってくる理由が分からない......まぁあとで聞けばいいか。
「はぁ、ふぅ......ま、待って!」
全力疾走してきたのか、アルは息を乱しながらも言葉を続ける。
「あ、あの......大したことじゃ無いんだけど......銀行の襲撃、見せてもらったわ......
ブラックマーケットの銀行をものの五分で攻略して見事に撤退......貴方達、稀に見るアウトローっぷりだったわ。
正直、すごく衝撃的だったというか、このご時世に、あんな大胆なことをすることができるなんて......感動的というか......」
何故か褒められていることに理解できず、全員何度か瞬きをしているとアルは目をキラキラさせつつ宣言した。
「わ、私も頑張るわ! 法律や規律に縛られない、本当の意味での自由な魂! そんなアウトローになりたいから!」
先生としてはある程度は縛られていてほしいものだが......まぁ生徒の意思を尊重するとしよう。
銃乱射が日常のこの世界に法律等は大した問題にならない、と思いたい。
「それで......その......名前! 教えて!」
「な、名前?」
「その、組織とかグループとかあるでしょう? 正式な名前じゃなくてもいいから......
私が今日の雄志を深く刻んでおけるように!」
強盗手順は考えていたがチーム名なぞ頭の片隅にも無かったであろうシロコに詰め寄るアルだが、
「うへ、なんか盛大に勘違いしてるみたいだね〜」
「どうすんのよコレ......」
「ごめんけど、なにも思い浮かばないわ......」
「......はいっ! 仰ることはよぉーく分かりましたっ!」
「ちょっ、ノノミ先輩!?」
シロコに代わり突如ノノミがやる気を出し始めた。
果たして考えはあるのだろうか。
「私達は人呼んで......覆面水着団!!」
どうやら考えは無かったらしい。
「覆面水着団!? ヤ、ヤバい! 超クール!! カッコ良すぎるわ!!」
ペロロ様といい覆面水着団といい若い子の感性は難しいものだな、と思わずお面の上から眉間を押さえてしまった。
「うへ〜、本来はスクール水着に覆面が正装なんだけど、ちょっと緊急だったもんで今日は覆面だけなんだー」
「そうなんです! 普段はアイドルとして活動してて、夜になると悪人を倒す正義の怪盗に変身するんです!」
ホシノとノノミの悪ノリに拍車がかかり、どんどん設定が加えられていく。
というかアイドル諦めてなかったのか......
「そして私はクリスティーナだお♧」
「だ、だお♧!?
キャラもたってる!?」
「うへ、目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を往く。
これが私らのモットーだよ!」
「な、なんですってー!?」
「......帰ろうか」
アルを追っかけて来たのか後ろから便利屋のメンバーが走ってくるのを見て、話が拗れる前に立ち去ることにした。
多分だけどカヨコ達には正体がバレてるだろうし。
「行こう! 夕日に向かって!」
「夕日、まだなんですけど......」
──────
「やっぱ流れてたか......」
「なんとなくそうなんだろうなって思ってたけど、改めて証拠を見ると、こう、くるものがあるね......」
アル達と別れたあと学校に戻り集金記録を全員で確認すると、そこにはカイザーがヘルメット団に資金援助した証拠が記されていた。
現実を突きつけられたアビドス一同は落ち込んでいた。
横流しされた事は悔しいが、マイナスの事ばかりじゃない。
新品同様の銃火器もカイザーであり、カイザーは金目当てにアビドスを襲っていないということ。
全てが線として繋がったわけではないが、不明なことが分かったというのはとても大きい。
ならばカイザーは何故アビドスを襲っている?
全ての土地を手中に収めるため?
校舎内になにか貴重なものが?
こればっかりはどうにも先が読めない。
「ひとまず今日はここら辺にしておこう。
ヒフミ、今日は本当にありがとう。君のおかげで情報がたくさん手に入った」
気付けば綺麗なオレンジ色が街を染めていた。
「い、いえ! 私は出来ることをしただけですよ! むしろ、こちらが助けてもらってばかりでした......
本当に皆さん、ありがとうございました! 戻ったらティーパーティに今回判明した事実を報告しようと思います! そうすればアビドスのことも......」
「多分、ティーパーティは知ってると思うよ〜」
「えっ!? そしたら何故......」
「......政治っていうのはそういうもんだよ」
ホシノは淡々と零したその表情は
──既に諦めたものだった。
それを見てしまったヒフミは項垂れ、悔しさを口にする。
「そ、そんな......知ってるのに、皆さんのこと...... 」
「ヒフミちゃんは優しいね〜。私達のことは別に気にしなくていいから」
「それでも.........
それでも! 言わないという選択肢はありません! 無駄では無いはずです!」
ホシノの瞳を真っ直ぐ見つめるヒフミ。
逸らされることのないその瞳は、いつかの自分が貫かれたもので、強い覚悟と正義感がメラメラと燃えているようだった。
「確かにホシノの言った通りティーパーティは知った上で、敢えて関与しないようにして
「それは......どういう......?」
「簡単に言えば、今のアビドスにはティーパーティを制御する力が無いってこと」
「っ......サポートという名目で悪さをされたら、それを阻止できない......ってことですよね。
確かにその線はありえるかもしれません......
政治とは、難しいものですね......」
隠された意図まで読み取り、苦虫を噛み潰したような様子のヒフミ。
「アビドスを心配してくれる気持ちは嬉しいけど、それでヒフミが被害を受けるのをアタシ達は望んじゃいない。
だから、もしなにかあればシャーレの名前を出して責任を押し付けて」
「だ、だめです! それじゃあ先生が悪者扱いされてしまいます!」
食って掛かる勢いのヒフミの様子に、笑って返す。
「こんなこと言うと皆のイメージする先生とは、大人とは違うかもしれないけど、アタシは寧ろガンガン頼ってほしいんだよ。
だって君達は子供でありながら、本来は大人が背負うべきものを背負ってる。
なのに大人が何もしないで後ろで胡座掻くなんて、アタシは真っ平ごめんだね。
だから
──アタシにはこれくらいしか出来ないから。
再び項垂れる頭を撫でると、ヒフミは小さく頷いた。
こんなに優しい子達が、暗い顔をしなくていいようにするのがアタシに課せられた最後の任務。
少し気まずい雰囲気を半ば無理やり断ち切る。
「さ、今日はもう遅いからお開きにしよう。
皆、本当にお疲れ様。気をつけて帰るようにね」
──────
思考をまとめる時にいつも人がいない場所にするのは、思考と同時に感情の整理もできるから。
これは軍にいた時からの癖。
整理のため一人で屋上へ向かうと、そこにはワカモが綺麗な黒髪を靡かせていた。
振り向いた時、いつもの狐のお面をしておらず端正な顔が晒されていた。
どうやら付けていたものを貸してくれたらしい。
「あなた様」
「......ここに来るってよく分かったね」
「ええ、あなた様のことはなんでも」
そっか、と零し、ワカモの側へと向かう。
アームホルダーから狐の面とたい焼きを差し出す。
「お面、ありがとうね。助かったよ」
「お役に立てたのなら嬉しいです......あら、これは?」
「お面のお礼にと思って」
お礼はし足りないけど、ひとまずお面の分だけでも返そうと思い買っておいた。
あと純粋に食べてほしかった。
二回くらい交互にアタシとたい焼きを見たと思ったら、今度は尻尾をブンブンと振り始めた。
「あなた様から......! 大事にしますね!!」
「いや、食べてね?」
苦笑を溢しつつ柵に背を凭れさせ端末を開くのを見て、ワカモはアタシの思考を言い当てた。
「......カイザーのことで悩んでいるのですか?」
「うん」
無茶苦茶と言ってもいいレベルの借金と金利。
アビドスだけでなく、キヴォトス全土に及ぶ企業の大きさ。
雑な警備だったとはいえ、銃火器をふんだんに使用できる財力。
目的のためなら手段を問わない非情さ。
黒幕は判明しても、
こんな状況であの子達を守っていけるのか?
こんな覚悟で戦っていいのか?
そんな思考の泉に一石を投じるかのような一言。
「あなた様は一人ではないです」
「──」
「あの者達が言っていたではありませんか。
相談してほしいと。
ブラックマーケットの件も相談して実行したのですから、同じようにしたら良いのです」
ホシノに、対策委員会に気付かされた
頭では理解しているつもりだが、奥底ではそうはいかなかった。
自分に言い聞かせるように言葉を吐く。
「あれは──確かにリスクもあったけど情報収集だけなら、と思ったからで......これからは命に関わる問題なんだ。君達は弾の一発程度じゃ死なないだろうけど、撃たれるところをアタシは見たくない。そんな場所に行かせたくない」
「それは私達も同じ思いです」
間髪入れずにワカモは口を開く。
「あなた様は元軍人だから慣れているのでしょうが、私達からしたら初めて目の前で
「
だってそれが──」
「それがあなた様の
任務、使命あるいは
呪い
側から見れば一種の強迫観念とも取れる行動。
自殺志願者とも取れるかもしれない。
そう思いたくはないが、どうしても香奈の最期が脳裏にチラつく。
隣に居たワカモが正面に立ち、アタシの手を握る。
その手はやはり柔らかく温かかった。
「あなた様は頼ってほしいと言いましたが、逆もそうなのです。
私達を頼ってくださらないと、あなた様に頼れなくなってしまいます。
あなた様が私達を守りたいように、私達もあなた様を守りたいのです。
そうでなきゃバディを組んだ意味が無くなってしまいます」
まぁ、私はあなた様の隣に居られるだけでも良いのですが、と喜色を浮かべるワカモ。
バディとは、「相棒」「親友」「仲間」を意味する単語。
過去に何度も仲間を、香奈を頼ってきたではないか。
人間一人では出来ることが限られるが、仲間が増えれば増えるほど出来ることは多くなる。
「そうだね......これからは出来るだけ頼るようにするよ」
「ええ、約束ですよ? さ、甘いものでも食べてリラックスしましょう?」
分けてくれたたい焼きを一口食べる。
小豆の甘さが心地良かった。