Mission : Protect Their Youth.   作:晴沙萪

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怒りによる進軍

「────!」

 

 

 聞こえる。

 

 

「──せい!」

 

 

 叫んでいる。

 

 

「せんせい!」

 

 

 すぐ近くで。

 

 

「先生!! 目を開けて!!」

 

 

 揺さぶられ、ゆっくりと目を開ける。

 ぼやけていた視界が少しづつクリアになり、叫んでいた正体がはっきりした。

 カヨコが手を握ってアタシに呼び掛けていた。

 

「ぁぁ......カヨコ......ぶじだったんだね......」

 

「私達のことより先生が!」

 

 額が熱い。

 この感覚は......出血してるな。

 この程度で済んで良かった。

 額に指を滑らせると、ぬるりとした感触が返ってくる。

 未だ朦朧とする意識を強制的に起こすため傷口を軽く触る。

 

 あの風切り音の正体はおそらく迫撃砲。

 あの時咄嗟にアロナのバリアを張ってもらったが、どうやらその中にアタシは入っていなかったらしく、おおかた爆破の衝撃で吹っ飛んで脳震盪でも起こしたのだろう。

 少なくとも子供達が無事ならなんでもいい。

 

「皆、無事? 大将は?」

 

「全員軽傷で済んでるけど、先生が一番怪我してる!」

 

「頭の出血は派手に見えても大した傷じゃないから大丈夫。カヨコ、立たせてくれる?」

 

 少し躊躇いつつも差し出される手を掴み、起き上がると周りは──────

 

「めちゃくちゃだな......」

 

 柴関の内装が、というより建物がぺしゃんこだったが、他の建物の損壊などは見られなかった。

 狙いはアタシか。

 随分と綺麗に真っ直ぐ狙ってきやがって。

 

「先生! 無事って、ち、血がっ!」

「先生!! 大丈夫!?」

「あ、ああ、あああああ」

 

 駆け寄ってきたアル達が出血を見て慌てふためいている。

 

「その怪我......先生、大丈夫か?」

 

「大丈夫、派手なだけ。むしろ大将が無事で良かった」

 

「無事なのは僥倖だが......店がめちゃくちゃだ......」

 

 元気にしてくれた大将を元気にしてやれない自分に腹が立つが、ひとまず現状把握をするためアロナを呼ぼうとしたがタブレットが手元にない。

 

「せ、先生......お探しのものは、こ、これですか?」

 

 ハルカが大事そうにタブレットを抱え寄ってきた。

 

「ハルカが持ってくれてたんだね、本当にありがとう」

 

「えへ、えへへ」

 

 ハルカの乱れた髪を整え撫でると、照れた声が漏れ出る。

 ああ、本当にこの子達が無事で良かった。

 タブレットを受け取りアロナを呼び起こすと、飛んできたのは大きな泣き声だった。

 

『ぜん"ぜい"〜!! ぶじでよがっ......で血がぁぁぁぁ!!』

 

「アロナ、落ち着いて。アタシは無事なんだから......」

 

『で、でも! 先生を守れなくて......!』

 

「生徒達を守ってくれて助かったよ」

 

『うぅぅぅ、ずびっ』

 

「落ち着き切ってない状態で悪いけど、アロナ、撃ってきた地点と敵は?」

 

『周辺の防犯カメラのハッキングで......確認できました! 3.3km南西方向で、敵は......敵はゲヘナ学園の風紀委員です!』

 

「ゲヘナ......?」

 

 カイザーではなく、ゲヘナ? 

 もしやゲヘナもカイザーに懐柔されたのか? 

 出血量は大したことないが、本来は安静にしてなければならない傷だが、次弾が発射される前に移動しなければ。

 横でなにやら便利屋が騒がしいが、聞いてる暇はない。

 

「便利屋、よく聞いて。

 アタシはこれより南西3.3km先にいる敵軍に、次弾発射される前に向かう。君達は大将を連れて安全な場所に向かって」

 

「な、なに言ってんの!? 先生怪我してるのよ!? しかも相手はゲヘナでしょ!? ダメよ! 撤退よ!」

「そうだよ! そんな状態で行かせられないよ!」

「派手だからって怪我してることに変わりはないんだから」

「せ、先生さえ許可してくれれば、敵を殺してきます!」

 

「皆落ち着いて。アタシは一人じゃない。バディがいる────ワカモ!!」

 

 隣の少し背の高い建物から影が落ち、その影は便利屋を挟んでアタシの前に降り立った。

 

「もっと早く呼んでくだされば......あなた様、応急処置します」

 

「ごめん、よろしく」

 

「さ、ささ災厄の狐!?」

 

「静かにしてくださいまし。先生の傷に響きます。」

 

 白目を剥いたアルに、キッと一瞥するワカモだがそれにより余計縮み上がるアル。

 どこからか出してきた救急キットで治療してもらっているとタブレットから申し訳なさそうな声が聞こえる。

 

『先生、こんなタイミングですみません......バリア発動によるバッテリー消費で充電が......』

 

「気にしないで。むしろよくやってくれた。あとは任せて」

 

 そういう言うと静かにタブレットの画面が暗くなる。

 スリープ状態にでも入ったのだろう。

 

「ひとまず応急処置は終わりましたが、無理はなさらないように」

 

「了解。じゃあ行こう」

 

 ワカモの手際の良い処置も終わり、いざ向かおうとした時、不意に左手を掴まれる。

 

「待って!! 私達も行くわ!!」

 

「先生を守れなかった貴女達に......」

 

 ワカモの苛立ちを掻き消すように続けるアル。

 

「だからよ! 守ってもらった上に、このまま安全圏で待ってろですって!? 

 ふざけないでちょうだい!! 私達は便利屋68! 真のアウトロー! 

 指名手配だからとか、ゲヘナだからとか関係ないわ!! 今度は私達が守る番よ!!」

 

「こうなったらテコでも動かないんだから......まぁ、気持ちは一緒だけど」

「うんうん! やっちゃおうかッ!」

「殺します殺します殺します殺します殺します」

 

「さあ、あなた様? あの言葉を言う時ですよ」

 

 ワカモが隣に立ち、屋上での会話を思い出させる。

 

 頼られたいなら頼り、守りたいなら守られ、支えたいなら支えられておけ。

 

 その第一歩だ。

 

「便利屋68、君達の力を貸してくれ」

 

「当然よッ!」

「任せて」

「あはッ!」

「は、はい!」

 

 便利屋の覚悟の前でも、いくらキヴォトス人とはいえ大将も怪我人で放置はできない。

 しかし、この世界の医療班の存在も知らない。

 

「大将、ごめん。安全な場所に......」

 

「先生、これくらいの怪我は日常茶飯事だからよ。唾つけときゃ治る。だからこの子ら連れて行ってきな」

 

 長年築き上げた店が瓦礫の山になり怪我をしたにも関わらず、笑いながら柔らかい肉球でポンポンと肩を叩いてくれる大将。

 

「──すぐ戻ってくるから。便利屋68、ワカモ。行くぞ」

 

 ──────

 

 -対策委員会のグループチャット-

 

『学校の半径10km内にて爆発を検知!』

 

『10kmってことは......市街地!? まさか襲撃!?』

 

『爆破地点は......市街地です! 場所は......柴関ラーメン!? 柴関ラーメンが跡形もなく......!』

 

『はぁぁぁ!? なんで柴関が......!?』

 

『ねぇ先生とホシノ先輩は? なんで既読つかないの!?』

 

『とりあえず早く向かおう』

 

 ──────

 

「全員、戦闘準備」

 

 簡潔な掛け声一つで全員が薬室確認(チャンバーチェック)や残弾の確認をし始める。

 

「問題ありません」

「便利屋、全員オーケーよ」

 

 全員の銃に不備が無いことを確認し、自身の銃を点検する。

 吹き飛ばされたことによる銃身の変形や可動部の損傷、残弾の確認全て問題無いことを確認しホルスターに仕舞う。

 

「準備はいいけど、本当に戦闘する気なの?」

 

「話し合いで解決出来ればそれで良し。

 出来なければ武力行使も厭わない」

 

「分かってると思うけど、相手は風紀委員だよ。手を出せば......」

 

「相手が誰だろうが構わない」

 

 大人が簡単に感情を露わにするのは如何なものかと思うが、今回に限ってそんなことはどうでもいい。

 

 許可、宣戦布告のない他自治区への攻撃。

 民間人への被害。

 

 それだけじゃない。

 あの空間を、店を、笑顔をぶち壊した。

 ただそれだけで怒りを発露するには十分だ。

 アタシ一人を狙えばいいものを、大将と生徒達を巻き込むとは随分と死に急ぎたいらしい。

 

「全員、今から作戦を──」

 

「先生ー!!」

 

 後ろにいる便利屋とワカモに身体を向けると同時に、呼び掛けが聞こえた。

 声が聞こえた方向は今し方歩いて来た道からで、奥からロードバイクが真っ直ぐこちらに向かってくる。

 

「シロコ? どうしてここに......」

 

「モモトークの既読がつかないから心配で......! 柴関行ったら先生が怪我したまま敵に向かっていったって大将が言ってたから......!」

 

 愛車を乗り捨てアタシの胸に飛び込んだシロコは息が上がっていた。

 抱きしめたあと連絡用の端末を確認すると、画面はヒビ割れ電源がつかなかった。

 無事であることをシロコから対策委員会伝えてもらうことにしたついでに、こちらの情報も共有した。

 

 シロコ曰く、対策委員会もこちらに向かっており、大将はシェルターに連れていったとのことだった。

 怪我の心配もされたが、傷は浅いことを伝えるとシロコはようやく落ち着きを取り戻した。

 

 数分後ホシノを除いた対策委員会が集まった。

 ホシノはいまだに連絡がつかないらしい。

 

「それにしてもどうしてゲヘナが?」

 

「それを今から確かめに行く。だから、対策委員会の皆は......」

 

 ついて来てほしいと言おうとした瞬間、シロコ達は既に決めていたことを口に出した。

 

「ん、当然私達も行く! 先生を怪我させたのは許せない」

「そうよ! ここは私達の自治区! 殴り込まれたらやり返す権利があるんだから!」

「許しませんよ〜☆」

『そうですね! 理由がどうであれ攻撃してきたことに変わりはありませんから!』

 

 笑いが溢れる。

 

「先生......?」

 

「いや、なんでもない。それじゃあ対策委員会の皆も力を貸してくれ」

 

「「「「了解!!」」」」

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