Mission : Protect Their Youth.   作:晴沙萪

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「攻撃は命中しましたが、イオリ。
もし便利屋が反抗した場合どうするのですか?」

「なに言ってるんだ、チナツ。どうするもなにも、捕まえるために来てるんだ。公務の執行を妨害する輩は全て敵だ」

「ならば大人しくしていてもらいたいものですね......しかしアビドスにはこちらの事情を説明した方が......はい?......はい、分かりました」

「説明なんかいらないだろ」

どうやらチナツに通信が入ったらしく、それに応答している。

「イオリ」

「なんだ」

「正面から複数の人影を確認したと通信が入りました」

「どうやら便利屋はバカの集まりだったようだな」

鼻で笑いながら後ろを見る。
背後には歩兵中隊が待機していた。
この数を相手にしようと思ってるならよほどの死にたがりだな。

「人影視認できました。数は......十人?これは便利屋だけでは......あれは......ッ」

「どうしたんだよ?」

「イオリ、我々は敵に回してはいけない方を敵にしてしまったようです」


パレード

「こちらアビドス対策委員会顧問兼、連邦生徒会所属連邦捜査部(シャーレ)の風見透子だ。

 そちらはゲヘナ学園風紀委員会の者らと見受ける。先程のアビドスへの攻撃の意図を確認しに参ったため、こちらに戦闘の意思は無い。銃を下ろしていただきたい。そちらの現場指揮官はいるか」

 

 眼前に広がる風紀委員の歩兵中隊だが、チナツの命令により全員の銃が下ろされる。

 

「皆さん銃を下ろしてください。先生お久しぶりです......その包帯は......」

 

「ああ、チナツか。久しぶり。

 包帯(コレ)についてだったか。これは迫撃砲によるものだ」

 

「ッ......申し訳......ありません......」

 

 事実を口にするとチナツは苦虫を大量に噛み潰したような顔になり視線を逸らした。

 それを見てか、銀髪ツインテールの生徒が自身の発言の重要さを理解していないのか、怒気を露わにして口走る。

 

「おい、あんた。急にでしゃばって来てなんのつもりだ。公務執行を妨害するなら容赦しないぞ」

 

「イオリ! シャーレの先生と戦ってはダメです!」

 

「シャーレ? なんだそれ?」

 

 どうやらシャーレの名声はあまりにも低かったようで、イオリは首を傾げた。

 だが、そんなことはどうでもいい。

 今重要なのは、あの攻撃が宣戦布告かどうかだ。

 

「現場の指揮官は君か? 所属と名前は?」

 

「風紀委員会所属2年銀鏡イオリ。この作戦ではまぁ一応......」

 

「なら単刀直入に聞く。アビドスへの攻撃行為について、なにか申し開きはあるか」

 

「そ、それについては私が......!」

 

「チナツ、君は指揮官ではないのだろう? アタシは君の隣にいる者に聞いている。それで、なにか申し開きはあるか」

 

 頼む、宣戦布告ではないと言ってくれ。

 銃を抜かせないでくれ。

 子供を撃たせないでくれ。

 

「そこにいる便利屋がアビドスにいなければ、こんなことにはならなかったけどな」

 

「イオリ!!」

「アナタねぇ......!」

 

 チナツとアルが怒気を帯びた声を上げる。

 

「アナタが許可しなければ!! 先生が怪我をすることもなかったのよ!!」

 

「怪我だなんだって言うけど、ヘイローがあれば......あれ? あんた、ヘイローがない......?」

 

 イオリがアタシの頭上を確認するや否や顔面蒼白になっていく。

 

 

 

「生憎だがアタシは人間だ」

 

 

 

「えっ......? それじゃあその傷は......」

 

「君が射撃許可をした迫撃砲による怪我だ。もろに喰らったのにこの程度で済んで僥倖だ」

 

「う、うそ......」

 

「自分がとった行動の恐ろしさが分かったようですねぇ。もしかしたら貴女、先生を()()()()()かもしれませんから。まぁもしそうなったら────私が貴女を殺しますけれど」

 

 ワカモのナイフよりも鋭い言葉で、自身の行いにより殺人という罪を犯す可能性があったことを想像してか、顔から生気が感じられずイオリはその場に座り込んでしまった。

 イオリが取った行動は一触即発の、言わば戦争の一歩手前だ。

 子供であろうが無かろうが自分の行動に責任を持たねばならない。

 

「もう一度聞く。これは宣戦布告か」

 

「そ、それは......」

『それについては私が答えましょう』

 

 どこからか声が聞こえたと思えば、座り込んだイオリの前にホログラムの人物が現れた。

 その人物は銃社会(キヴォトス)において銃を持たず、代わりにバインダーを手にしていた。

 

「アコちゃん......」

「アコ行政官.......?」

「天雨アコ......」

 

 前にいる風紀委員の二人から、そしてカヨコがその人物の名を呼ぶ。

 一方は驚愕、一方は遺恨の声音だった。

 

「回答の前に所属と名前を」

 

『ゲヘナ学園風紀委員会所属行政官の天雨アコです』

 

「所属と名前の提示に感謝する。では天雨アコ行政官に問う。アビドスへの攻撃行為、これは宣戦布告と取って相違無いか」

 

『──先ほどまでの愚行、私の方から謝罪させていただきます』

 

「なっ、私は命令通りにやったんだけど!」

 

『命令に()()()()()()()()()()()なんて言葉が含まれていましたか?』

 

「い、いや......状況を鑑みて必要な範囲で火力支援、その後歩兵の投入......戦術の基本通りにって.......」

 

『ましてや他の学園自治区の付近なのですから、その辺りは......』

 

 こいつ、自分が出した指示の責任を部下になすりつけやがった。

 

「おい、さっさと答えろ。今求めてるのはお前らの喧嘩じゃない。YESかNOのどちらかだ」

 

『......失礼しました、シャーレの先生。私たちゲヘナの風紀委員会は、あくまで私たちの学園の校則違反をした方々を逮捕するために来ました。あまり望ましくない出来事もありましたが、まだ違法行為とは言い切れないでしょうし…...やむを得なかったということでご理解いただけますと......』

 

「時間は十分に与えたよな? 戦争するか戦争しないか。弁解はその後に聴いてやる。とっとと答えろ」

 

『それは......』

 

「ああ、なるほど......あんたの考えが分かったよ、アコ」

 

 不意に後ろでカヨコが口を開く。

 

「先生、少しだけ場を借りるね」

 

 便利屋の参謀とも言えるカヨコが()()()()と言うのだ。それに、目を見たとき冷静になれと言われているような気がした。

 アタシは首を縦に振り肯定の意を示し少し後ろに下がる。

 

「最初からあんたの狙いはこれ、そうでしょ?」

 

『面白い事を言いますね、カヨコさん?』

 

「とぼけないで。最初はどうして風紀委員がここに現れたのか理解できなかった。風紀委員会が私達便利屋を追って他の自治区まで? あまりに非効率すぎるし危険すぎる運用を、あの風紀委員長がするはずない。それに捕まえるくらいならもっと早く出来たはず。なのに先生がアビドスに来てから動いた。だからアコ、これはあんたの独断的な行動に違いない」

 

『......』

 

「兵力の投入も過剰。明らかに便利屋だけに向けた戦力じゃない。つまり......

 

 

 アコ、あんたの目的はシャーレ」

 

 

「え!?」

 

 全員驚愕だった。

 

『ふふ、流石はカヨコさんですね。確かに私の狙いは先生、貴女です。ですが、怪我をさせるつもりは一切ありませんでした。ただ接触し、()()しようとしただけです』

 

 連行の間違いだろう、と毒づく。

 

「アタシが狙いで連行するために迫撃砲を撃ったのなら、まだ理解してやろう。周りに迷惑がいかないからな。だがお前らは関係のない生徒と民間人を巻き込み、挙げ句の果てにはその人の宝物(柴関)を壊した。その落とし前はどうつけるつもりだったんだ?」

 

 アコの表情が一変し焦りが見え始めた。

 

『......は? 民間人!? ありえません! あそこはカイザーからの情報により立ち退きが出ていたはずです!!』

 

 カイザー? こいつは今カイザーと言ったのか? まさか......報復か? もしそうならかなり先を読まれていることになる。

 

 ギリィッ

 

 歯軋りにより奥歯が軋む。

 カイザーと組んで情報を鵜呑みにして大将に怪我を負わせておいて、謝罪もなくありえないと否定する。

 生徒だからと言って、こんな事が許されていいはずがないだろう。

 

『まぁいいです。少々やりすぎかと思いましたが、シャーレを相手にするのですから、このくらいあっても困らないでしょうし......』

 

「あなた様、包囲されつつあります......!」

 

『まぁ、大は小を兼ねると言いますからね☆』

 

「先生! どうしよう!」

 

 

 

 

 もういいんじゃないか。

 

 

 

 

 

「先生!!」

 

 

 

 

 

 なにが? 

 

 

 

 

 

『分隊進め』

 

 

 

 

 

 押さえつけるな。

 

 

 

 

 

「くっ......!」

 

 

 

 

 

 なにを? 

 

 

 

 

 

「このままじゃ......!」

 

 

 

 

 

 本能を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『えっ!?』

「あなた様!?」

「先生!?」

 

 引き抜いた銃で頭を殴り、ほんの少しずつ塞がってきていた傷が開き、顔の凹凸を伝いアスファルトに血が滴り落ちる。

 

 

「っあー......うるさいなぁ......」

 

 

 溜まっていた血が抜け、思考がクリアになる。

 頭の中に響いていた声が消える。

 治療しようとするワカモを手で制す。

 

 落ち着け。本能に身を任せるな。(バケモノ)になるな。

 

 もう軍人じゃない。アタシは先生だ。理性を持て。思考を止めるな。

 

 なぜゲヘナに狙われたのか、思い当たる点は二つ。

 一つ、シャーレの権力の大きさ。

 二つ、ティーパーティ、もといトリニティとの関わり。

 

 どちらもキヴォトスの上層部からすれば脅威だろう。

 そしてアコは保護すると言った。

 恐らくキヴォトスに来てからのアタシの実力も知っているはず。

 つまり、()()()仕方がないのだ。

 

「ははっ、なるほどね......」

 

「先生......?」

 

『何故笑ってるんです......? 気でも狂ったんですか?』

 

「いやなに......お前の行動理由を考えたら面白くて......」

 

『行動理由? 何を知った風な......』

 

 鼻で笑うアコに、その鼻っ面を叩き折るように言い放つ。

 

「アコ、お前にアタシは捕まえられない」

 

『なっ......! もういいです! 全員射撃用意......』

 

 アコの怒りに任せた指示が完全に出される瞬間、たった一言、それだけだがそれ以上の力がその場を静めた。

 

 

 

『アコ』

 

 

 

『......え、ヒ、ヒナ委員長!?』

 

 委員長、ゲヘナのNo.1がアコに通信してきた。

 その声は通信越しでも戦場の一歩手前の空気を凍らせた。

 

『アコ、今どこ?』

 

『わ、私ですか? 私は、その......えっと......ゲヘナ近郊の市内の辺りです! 風紀委員のメンバーとパトロールを......』

 

 しどろもどろになりながらどうにか誤魔化そうと話すアコ。

 こいつ、カヨコの言う通り独断で仕掛けに来てやがった。

 

「カヨコの言った通りね」

「あなた様、奴を殺してきてもいいですか?」

「ん、私もやる」

「気持ちは理解するけど、ダメ」

 

『そ、それより委員長はどうしてこんな時間に......出張中だったのでは?』

 

『早めに終わったからさっき帰ってきた』

 

『そ、そうですか......その、私今、迅速に対応しなければいけない用事がありまして......の、後ほどまたご連絡いたします! い、今はちょっと立て込んでまして......』

 

『立て込んでる......? パトロール中なのに珍しい。なにかあったの?』

 

『え? そ、それは......その......』

 

 自分で墓穴掘って取り乱すアコ。

 気のせいだろうか、通信からの音声ではなくその場にいるような音質に聞こえたと感じたその時。

 

「『他の学園の自治区で、委員会のメンバーを独断で運用しないといけない事が?』」

 

 背後から吹雪いたと錯覚するほどの冷ややかな声が通り抜ける。

 反射的に振り向くとそこには、小柄でありながら自身の身長を裕に超えるマシンガンを担ぎ、長い白髪を靡かせながらこちらへ闊歩しアタシ達の前へ躍り出た。

 

「あれがゲヘナ学園の現風紀委員長か......」

「強い......ですね......」

「あ、あばばばばば......」

「ちょっと社長、しっかりしてよ......」

「アレが風紀委員長......!」

「どうしよう......」

 

『い、い、い、委員長!? 一体いつから!?』

 

「......アコ、この状況、きちんと説明してもらう」

 

 アコに向けたヒナの瞳は、人を殺せるほどの鋭さだった。

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