Mission : Protect Their Youth. 作:晴沙萪
「あなた様、おはようございます。」
「おはよう、ワカモ」
ワカモは微笑み尻尾を振り、ソファに座るよう促す。それに従いタブレットを持っていき座る。
彼女から差し出されるマグカップを受け取り、一口飲む。中身はブラックのコーヒー。思わず口元が綻ぶ。
「あなた様、これを」
傍に立つワカモが手に持っていたのは、義手。
義手の上には手袋と綺麗に畳まれたアームホルダー。それを受け取ろうと手を伸ばす。
「──私がお着けしてもよろしいですか?」
「────」
この子はいつもアタシの過去に触れると真剣な顔になる。断れるはずないだろう。敢えて笑って承諾する。
「いいよ」
だらりと垂れ下がっている右の袖を二の腕まで捲り上げ、二の腕に埋め込まれた義手と肉体を繋げる接続部を着けやすいように彼女に向ける。
「肘の内側を上にしてそのまま差し込むだけ。あとは勝手にロックしてくれるから」
「はい......」
緊張しているのか、手が微々たる震えが伺える。義手の接続部が少しづつ近づいてくる。
カチッ、カシュッという音が鳴り接続とロックが完了した。自分の腕としての擬似的な感覚が義手全体に広がる。
「問題ないね。ありがとう」
手を握ったり開いたりして違和感がないことを確認していると、ワカモの表情が険しいものからホッとしたようなものに変わる。
そんなに怖がるものでもあるまいに。それとも繋がった時の素っ頓狂な声でもあげれば良かっただろうか。
「なにもなくて良かったです」
「せっかくならふざければ良かったかも」
「よしてくださいね?」
「ハイ」
凄まれてしまった。
袖を直し、手袋とアームホルダーを着けながら今日一日をどう過ごそうか考える。
アビドスの抱える借金問題。
カイザーの報復。
便利屋68の事務所と居住。
考えることは沢山あるが、ひとまずは対策委員会の皆に顔を出しに行こう。
コーヒーを飲み切り席を立つ。
「さて、シャーレにいる皆に顔出しに行くかね」
「お供しましょう」
ワカモの頭を撫で、休憩室を出た。
──────
「先生、怪我の具合はどうですか?」
「......ちょっとだけ痛むけど悪くないよ。ところで──どうやって入ってきたの?」
「ふふっ」
笑って誤魔化された。
対策委員会を探しに一階へ向かう階段の途中でセリナに遭遇し、傷口の保護をしていないという理由で部室で治療してもらったという訳である。
セリナの返答がアレだったため、ワカモが警戒心剥き出しだ。
「良いですか、先生? 血が止まったからと言って完治したわけではないのですから、保護しないとまた傷口が開きますよ?」
「えぇ? 血が止まれば治ったも同然でしょ。ねぇ?」
ワカモを見ると、既に狐面をつけているため表情は分からないが、少しぎこちなく頷く。
「ダメだよ〜、怪我人は安静にしなきゃ〜」
カラカラカラと小気味良い音を鳴らしドアが開き対策委員会が入ってくる。
「ホシノに皆、おはよう。丁度顔を見に行こうと思ってたんだ」
「ん、先生おはよう」
「怪我、大丈夫なのよね?」
「もう血は止まってるし大丈夫だよ、おでこをちょーっと切っただけだから」
セリカが不安そうな顔で聞いてくるもんだから、気丈に振る舞い頭を撫でてあげる。
本当はジクジクと鈍く痛むけど、この痛みはどんな怪我でもあるものだから言うまでもない。
セリカはふいっと目を伏せて少しだけ震えた声で。
「ごめんなさい......私達先生を守れなかった......」
「──どうして謝るんだい? 君達は......」
あれは風紀委員会が、アイツが独断でやったことだし、対策委員会はお休みだったじゃないか。
確かに怪我してしまったがアタシは生徒を守れた。それでいいじゃないか。どうしてそんなに悔しそうにするんだ。
「──そう、謝るのは私達よ」
「便利屋......君達まで......」
開いた扉の向こうには、いつからいたのか便利屋の四人が立っていた。
「あの時は風紀委員会にムカついてたから考えられなかったけど、夜になってふと怖くなったのよ......あの程度、私達は怪我すらしない。それなのに動くこともできなかったうえに、先生に守ってもらった......」
「大人が子供を守るのは当たり前なんだから......」
アルが目尻に涙を溜めて必死の形相で叫ぶ。
「死ぬかもしれないじゃない!!」
「────」
「今回はそれで済んだから良かったけれど、次はそうならないなんて保証はどこにも無いのよ!? それなのに......こんな私達に寄り添って場所まで与えてくれた人が、私達を守って目の前で倒れていくなんて許せる訳ないじゃない!!」
アルは涙をこぼしながら険しい表情で視線を逸らさず、
「アル......」
「こんな私が、い、言える立場では無いのは、わ、分かっていますが、お、おお、お願いですから、自分の身を大事にしてください......!」
ハルカは裾を力一杯握り震えながら、
「アルちゃんやハルカちゃんの言う通りだよ......カヨコちゃんから先生の意識が無いって言われた時、怖かったんだから......」
ムツキは視線を落とし眉を下げ、
「......先生。先生が怪我するくらいなら、私達は庇われたくない」
カヨコは怒りと恐怖の混ざった表情で目を見て言った。
死ぬかもしれない。
自分の身を大事にしろ。
意識が無いと聞かされた時の恐怖。
怪我するなら庇うな。
「............ごめん」
項垂れ、ただ本心からの謝罪が口から溢れた。
それでも、庇って怪我したことに後悔はしていなかった。
護らなければ。
救わなければ。
香奈に託され、己に刻みつけた
それを守れるのなら自分の身などどうなろうと構わない。護れず、救えず死ぬくらいなら自分の存在価値など無い。
──故に、誰の顔も見ることはできなかった。
「そういうことなので──」
セリナが口を開く。
「ちゃんと治療を受けてくださいね。あと、これから怪我をしたら私達救護騎士団を呼んでください。すぐ駆けつけますから」
セリナが暗い雰囲気を、軽く優しい話し方で消し去った。
その間も治療の手は止めず、手際よくガーゼと包帯を巻いてくれた。
その横でホシノが感謝を伝える。
「セリナさん、だっけ。先生の治療ありがとう」
「気にしないでください。救護騎士団の務めですから」
ホシノに続き、感謝を伝える。
「......ありがとね」
「感謝も嬉しいですが、安静にしてくれた方がもっと嬉しいです」
「......努力する」
セリナはニコリと笑い治療が終わるやいなや、すぐ帰ってしまった。
安静にしろと言われてもやる事は沢山ある。
立ちあがろうとすると、それを制しワカモがしゃがみ込み狐面をずらし上目遣いで話す。
「あなた様、今日くらいはゆっくりしてください」
「ワカモ......でも、やらなきゃいけない事が......」
「ならここに居る方達を当番として先生のお手伝いをさせましょう。
皆さん構いませんね?」
ワカモが対策委員会と便利屋に視線を送る。
対策委員会は胸を張って任せろと言わんばかりの表情で。
便利屋はしょうがない人ねとやれやれ感を出して。
皆がとても頼もしく見えて、思わず笑みが溢れる。
「ごめん、皆。手伝ってくれる?」
「せんせ〜、そこはさ〜」
「ん、ごめんじゃない」
「そうよ! 私達と先生はパートナーなんだから!」
「はぁ......そこはよろしく、でしょ?」
「待ってください。パートナーの立場は私のものです!」
「ワカモはバディね」
「どっちも私の立場です!」