Mission : Protect Their Youth. 作:晴沙萪
早朝、乾いた銃声がほぼ一定のリズムを刻むシャーレの地下射撃場。
ターゲットは25m先。
少し大きいビーズクッションを土台代わりにして揺れを抑えながら三発ずつ射撃する。
『中心から右へ4.2cm、上へ2.2cmに着弾です!』
「斜め右にいってるな」
ドットサイトの調整ネジを左と下へ少し回し三発射撃する。
息を吐き切ったところでまた三発分の引き金を引く。
『最後の弾は中心から右へ1.3cm、上へ0.4cmに着弾!』
今度は左へちょっとだけ調整ネジを数クリック回す。
繰り返し三発撃つ。
『中心から右へ0.3cm、上へ0.4cm! すごいです! 両方とも誤差範囲内です!』
「よしよし。ゼロイン調整は悪くない」
銃口をターゲットに向けたままセーフティをかけ、マガジンを抜き薬室内の弾丸を排出する。チャージングハンドルを軽く引き薬室内に弾が入っていないことを認める。
ガンラックに立てかけるついでに排出した弾丸を拾う。
『メイン、サブウェポン共にゼロイン完了ですね。グルーピングも安定してますし義手との相性も問題なさそうです!』
「ありがとう、アロナ。助かったよ」
ゼロイン調整は随分久しぶりのことだ。
一人だったらもう少し時間が掛かっていたが、アロナがいてくれたおかげで早く終えることができた。
あとは明日の実戦で今日の調整と腕前を信じて戦うのみだ。
『なんだか早く終わってしまいましたが......とは言っても明日は任務ですし......』
「ん〜......足を用意する予定はあるけどねぇ......」
明日の任務の場所は砂漠で、かつ距離があるため車を買いに行く予定はあるが、それ以外に予定はない。
『足って車のことですよね? それならシャーレにありましたよ?』
「......え?」
そういってアロナは案内し始めた。
シャーレの裏側にガレージがあり、しかもそこに繋がる通路もあるではないか。
今まで書類仕事やアビドスに入り浸ったせいで、シャーレ全体を見て回る余裕などなかった。
ガレージのシャッターを開けると長らく使われていなかったのか、舞い上がった埃が太陽の光を浴び白く輝く。
そしてシャッターがゆっくりと上がるにつれ、奥に眠っていた二台のハンヴィーが姿を現した。
「なんでシャーレにハンヴィーが......?」
『シャーレの備品なのでしょうか?』
「理由はなんであれ、使えるものは使おう」
整備の準備のためジャケットを脱ぎ、ハンヴィーのボンネットに手を置く。
「綺麗にしてやるからな」
──────
油や土埃に塗れながら三時間ほどかけハンヴィーを洗浄し整備し終えた。
幸いなことに工具などの必要な物はガレージに全て揃っていた。
埃でくすんでいたフロントガラスやライトは新車のように透き通り、空気の抜けたタイヤはまるで筋肉モリモリのマッチョメンのように逞しく膨らみ、車体は本来のタンカラーを取り戻し見違えるくらい綺麗になった。
そんなハンヴィーに栄養(ガソリン)を入れ、エンジンのキーを回すと低く唸るような音と振動と共に眠っていた命が脈を打つ。
『わぁ! 動きましたね!』
「うん、動いてよかったよ。埃被ったままなんてもったいないからね」
運転席に座り年季の入ったシートとハンドルを撫でる。
こいつはまだ走りたがってる。エンジンの鼓動がそう伝えているような気がした。
ふとサイドミラーを見ると、手だけでなく服や顔がばっちり汚れていることを改めて認め、思わず吹き出す。
『真っ黒な先生、初めて見ました!』
苦笑し頬についた油を指で拭いながら答える。
「シャワー浴びないとね」
ハンヴィーをガレージに戻しシャワーを浴びるため休憩室へと向かう。
道すがらシャーレ防衛隊の一部や便利屋に
「うおっ! 先生真っ黒!」
「あはははは! せ、先生、ひでぇ格好! あっははははは!」
「なにしたらそんなになるのよ......」
「先生〜真っ黒だね〜くふふ」
「......大丈夫?」
「だ、だだ、大丈夫ですか?」
軽く心配され笑われはしたが、怪我していないことに皆どことなく安心はしているようだった。
ようやく休憩室に着きシャワーで汚れを落として戻ると、ワカモがソファでコーヒーを淹れて待っていた。
「なにやら嬉しそうな顔をしていましたね」
マグカップを差し出され、それを受け取る。
「そうかな? ......そうかも。後で教えるよ」
「楽しみにしておきましょう」
──────
遅めの昼食を済ませ、明日の任務で使うものをガレージに運びハンヴィーに載せていく。
ガソリン、換えのタイヤ、糧食などが入ったバックパック、弾薬、装備一式、銃。
「先生、待たせたわね......って、この車は?」
便利屋とワカモが荷物を抱えてガレージに集まってもらった。
「シャーレの備品だろうね。勿体無いから使うことにしたんだ」
「これ新品?」
「お、そう見える?」
「......なるほど。あなた様が真っ黒になった理由が分かりました」
アタシの嬉々とした声音に気付いたワカモの一言に、便利屋は一斉に納得という表情になった。
「もしかして任務に使うの?」
「うん。の時あんな簡単に説明したけど、流石に徒歩じゃ無理があるからね」
徒歩じゃ干からびる。
「二台あるってことは一台は先生が運転するんだろうけど、もう一台はどうするの?」
一時の静寂が訪れる。
「免許持ってる人〜......」
顔を見合わせるが、当然誰も手を挙げない。
「......先生ってさ、肝心な時に限って抜けてるよね」
「完全に抜けてた......」
グサリと心に突き刺さる。
これは非常にまずい。
片方のチームだけなら荷物を積んだ状態でも問題ないが、両チームとなると座席も足りないし、チームを分けた意味がなくなってしまう。
アタシだけが徒歩なら構わないが、生徒達を巻き込むのはダメだ。
「私、運転できますよ? 免許はありませんが」
「免許はないけど私達運転くらいならできるわよ?」
まさかの発言が飛び出てきて、思わず目を丸くする。
「えっ、なんで運転できんの?」
「私はまぁ、暴れていた頃に散々使いましたので。襲撃や逃走等に」
「私達は依頼で運転することもあったから」
言われてみれば、と思い出す。
「ん〜......でも免許無いんでしょ?」
全員一斉に頷く。
先生という立場上、免許を持たない子に運転させるわけにはいかない。
しかし足が無いと今回の任務自体が立ち行かなくなるかもしれない。
「まぁそもそも免許なんてあってないようなものだから気にしなくてもいいと思うけど」
「確かに、学校で普通に使うもんね〜」
「そうね、この街で免許なんて気にしてる人見たことないわね」
「だからって校外で運転してたら警察が飛んでくるでしょ?」
「来ないよ?」
絶句である。
「......法治国家ってなんだろ」
「あなた様、これがキヴォトスの日常なのです」