Mission : Protect Their Youth. 作:晴沙萪
結局、全員任務の後に免許を取ることを約束させ、アタシとアルが運転手として二台でアビドス高校へ向かった。
「お疲れ〜、皆準備は進んで......」
「どういうことか説明して」
「うへ.....」
対策委員会の部室に入って早々、怒りの声音が聞こえ、窓の方に目をやるとシロコがホシノに詰め寄っていた。
「ちょっと、二人ともどうしたの。少し落ち着いて」
間に入り話を聞こうとするが
「いやぁ、おじさんが昼寝し過ぎてシロコちゃんから説教くらってただけだよ〜」
「ホシノ先輩、まだ話は終わって......」
「おじさん、少し風に当たってくるよ〜」
そうはぐらかし教室を出ていく後ろ姿を目で追うしかできず、シロコは項垂れる。
「なんかホシノ先輩出てったけど......ってなにこの空気......」
一同は顔を見合わせる。
「随分とくらい雰囲気ですが......」
「なにがあったんでしょう?」
ホシノと入れ替わりでアヤネ、セリカ、ノノミが状況を飲み込めないまま入ってくる。
「アタシ達もさっぱり......」
シロコは項垂れ、眉間に皺を寄せぎゅっと握り拳を作っていた。
重苦しい静寂を漂わせる部室に鳴り響く通知音。
皆に断りを入れタブレットを確認すると、通知音の正体はヒナからのメッセージだった。
〈先生、お疲れ様。柴関ラーメンの大将が今日退院するのだけれど、私達風紀委員会の謝罪と損害賠償の場に立ち会ってほしい。忙しいと思うけれどお願い〉
ヒナからのメッセージが来たこと、その文面が堅苦しすぎること、そして大将が退院するという情報が思わず顔が綻ぶ。
「大将、退院するんだ」
シロコを除き皆も喜びの色になる。
「じゃあ会いに行こうよ!」
「そうだね。早速行こうか」
不意に袖を引っ張られる。
「......シロコ?」
項垂れたままのシロコ。
皆に聞かれたくないのだろうと思い皆を先に行かせる。
「......呼び止めたのはホシノのこと?」
こくりと頷く。
「......先輩がこれをバッグに仕舞ってた」
力一杯握られていたせいかしわくちゃになった紙を渡してきた。
しわを軽く伸ばし見てみると。
「退部、退会届......?」
紙からシロコにゆっくりと視線を移すと、ポロポロと大粒の涙を零しながら、それでもシロコは目を逸らさずアタシを見つめていた。
「ホシノ先輩、なにか私達に隠してる......でもそれが分からない......教えてもくれない......」
皆の前で堪えていたものが崩れ、嗚咽で途切れそうな声をなんとか繋ぎながら話した。
「どうして......? 私達は全員で対策委員会って言ったのに............ねぇ先生......どうしよう......どうしたらいい............?」
返す言葉が見つからなかったアタシは、困惑しながら助けを求めるシロコを優しく抱きしめる。
ホシノ。君はなにを隠してる。
仲間がこんなにも思い悩んでいるのに。
君の言う全員で対策委員会という言葉は嘘だったとは思いたくない。
涙で濡れた部室。そこに答えは転がってこなかった。
──────
あれから大将に会いに行くためにハンヴィーに乗って全員で病院に向かった。助手席に目尻が赤くなったシロコを乗せて。
ホシノにもメッセージを投げたが返信がなかった。
病院に着き受付を済ませ、大将のいる病室のドアを開ける。
そこにはヒナ、アコ、イオリ、チナツが大将のいるベッドの周りを囲うように待っていた。
アコを見ると便利屋と対策委員会とワカモが僅かに不機嫌そうな表情に変わるなか、周囲に流されることもなくヒナは話し始める。
「忙しいなか私達風紀委員会の謝罪の場に立ち会ってくれてありがとう」
「気にしないで。アタシ達も大将に会いに来たかったからさ」
ヒナは大将に体を向けた。
「柴大将。今回の件、本当に申し訳なかったわ。私の監督不行届のせいで貴方や、貴方が大事にしているお店を壊してしまった挙句、怪我までさせた。本当にごめんなさい。」
最も深い謝罪の姿勢、いわゆる最敬礼で四人は大将に謝罪した。
「そして先生」
そして頭をあげたかと思えば、次はアタシに四人は最敬礼した。
「貴女にも怪我を負わせてしまったこと、本当にごめんなさい。アビドスや便利屋68、そしてシャーレと衝突が起きなかったのは先生のおかげ。本当にありがとう」
ただ大将に会いに来たのと、謝罪の立ち合いに来ただけなのに謝罪されると思っておらず、居た堪れなくなる。
「ちょ、ちょっと、頭を上げてよ。別にあのくらいの傷、大したことなかったんだからさ。それに皆の関係が拗れるのはアタシが望んでなかっただけだから」
そう言われて頭を上げた四人。
「ありがとう、先生」
ヒナは少し微笑み感謝を述べ、そしてまた大将へ体を向ける。
「柴大将、この件に関して私達風紀委員会は全ての損害賠償を負担するわ。それで許されるとは思ってはいないけれど、せめてもの気持ちとして受け取ってくれると嬉しい」
大将は気まずそうにポリポリと頬を掻き答える。
「いや、何遍も言うが、別に謝ってもらわなくていいんだけどな。あそこはずっと立ち退き申告がされてたんだから、立ち退かなかった俺が悪いんだよ。それに──」
言い淀み窓の外を眺める大将。
「そろそろ店を畳もうと思ってたとこだったんだ」
「ど、どうして!? あのお店続けるって......!」
セリカの驚きの声が病室中に響く。
「なんとなく覚悟してたんだよ。アビドスが砂漠化して、客の入りも減った。店を続けること自体が難しくなったのさ」
「そんな......でも、だって......」
ベッドの手すりに項垂れるセリカの方に手を置き大将は優しく話す。
「それでもセリカちゃんやアビドスの皆、先生やそこのお嬢ちゃん達が来てくれるから、嬉しそうに食べてくれるから、もう少し頑張ろうと思ってな」
「客も減り経営も難しくなってそれでも続けたが......潮時なんだろうな」
名残惜しそうに寂しそうな声音で零す大将に、否定を口にする者がいた。
「それは認めないわ」
「アル......?」
「嬢ちゃん......?」
「私達便利屋68は、たった一杯のラーメンに救われたの。わざと大盛りにされた最高の一杯にね。そんな私達が恩を返せないままで大将の引退を認めると思う?」
「答えは「いいえ」よ」
そう言いアルはずっしりとした鞄をベッドに置いた。
そう来たか。
その鞄はアタシ達が
対策委員会の皆も勘づいたようだ。
「......これは?」
アルはニヤリと笑い鞄のファスナーを開けると、その中には大量の札束が入っていた。
「おいおい......! なんだいこの大金は!? こんな量の金を受け取れるわけがねぇ!」
「......まぁ、普通はそうなるよね」
「くふふ〜」
「あ、あぅ......」
大将の当然とも取れる反応に納得の色を示す三人だが、アルだけは態度を変えずに毅然と振る舞う。
「いいえ、受け取ってもらうわ。これは恩返しの一つでもあるの。......まぁ、この程度じゃ返せた気にもならないのだけど」
アルが渡したあの大金は、違法な手口で違法な取引された物だ。
それでも──
使う時くらいは誰かを思う優しさがあっても、救うために使ってもいいんじゃないかとアタシは思う。
アル。
君が優しい心を持ったアウトローで良かった。
これでも少し渋る大将に後押しする。
「柴大将」
「なんだい先生。改まってよ......」
「この子達もアタシも、大将のラーメンに救われたんだ。大将のおかげでこの子達と仲良くなれた。
だから──どうか続けてはもらえないだろうか」
頭を下げる。
沈黙が流れる。
「しょうがねぇな......よし! もうちっと足掻いてみるか!」
大将は自分の足をぺちっと叩き気合を入れた。
その一言に病室にいた全員の歓声が上がる。
「そう......良かったわ。じゃあ私達は大将の退院手続きしてくるから、ここでお別れね。先生、便利屋68、対策委員会の皆、来てくれてありがとう」
そう言って会釈をして立ち去る風紀委員会の四人。
「そうだ、アコ」
最後尾にいたアコを呼び止める。
というかコイツ、こんな格好で病院来たのかよ......
「はい、なんでしょう?」
「アタシが欲しけりゃシャーレに一人で来な。そうすれば話だけは聞いてやる」
その場にいた全員がとんでもない形相でアタシを見る。
アタシはなにかおかしな事を言っただろうか......
「は、ハァッ!?!? な、ななな、何言ってるんですか!?!?」
「うるさっ」
わなわなと震えていたと思いきや、とてつもなく大きい声に全員が耳を塞ぐ。
「だってアタシを
「っ......はい......」
ハッとして返事も態度も小さくなるアコの肩に手を置き諭すように言う。
「用があるならシャーレに来なさい。一対一なら話聞くから」
「分かり......ました......」
「呼び止めて悪かったね。手続き任せたよ」
依然声も態度も小さいまま、アコは会釈して病室を出ていき、見えなくなった瞬間ため息が全員の口から吐かれる。
「さて、アタシ達も帰ろう......え、なんでそんなでかいため息つくの」
「先生......今の発言はどうかと思うよ......」
「あなた様何考えてるんですかあんな娘をシャーレに呼ぶなんて」
「流石の私も今回のは危ないと思うわ」
「先生、そういうとこだよ」
「先生......その、なんだ......あんたも苦労してんだな......」
「アタシが悪いの!?」
全員同時に強く頷いた。
──────
空は赤紫に染まっており、病院からアビドスに帰ってくるとホシノは部室に戻っていた。
「......」
「うへ......」
正直ホシノに今聞きたいことがあるが、ひとまず明日の
「注目。明日AM6:30校門前集合。作戦開始地点はポイントガンマで、そこからは二チームに分かれて動く」
マーカーでホワイトボード上の地図をコンッと音を鳴らし示す。
「アルファはアタシと対策委員会が担当する」
アルファチームとして青いマグネットをホワイトボードにつけ対策委員会に目を向けるとシロコはホシノを見つつ返事を返してくれるが、ホシノは机をただジッと見つめていた。
「ブラボーは便利屋68とワカモ」
ブラボーチームは赤いマグネットをつける。
ブラボーは全員闘志を秘めた目をしながら頷いた。
「アヤネは二チームのバックアップ」
「はい! お任せください!」
全員に無線機を配りながら続ける。
「各自無線機と銃火器の調整及び身体のコンディションを整える事」
行き渡った事を認め、締める。
「今回の作戦は報復でも憂さ晴らしでもない。
偵察任務だ。全員で無事に戻り、確実に
「なにか質問は?」
皆が首を横に振る。
「よし、今日は全員早く休むこと。眠れなくても体を休めておいて。では解散」
全員が作戦前最後の準備をするため席を立ち部室を出ていく。シロコもホシノを心配そうな目で見て出ていく。ホシノは机を見たまま動かない。
「ホシノ」
反応がない。
「小鳥遊ホシノ」
「んぇっ! な、なに?」
座っている椅子が音を鳴らすほど飛び上がるホシノ。
そんなホシノの前の席に座り、真っ直ぐホシノの瞳を見つめる。
「ねぇ、ホシノ。正直に答えてほしい。
──君は今、何を隠してる?」
「隠す? やだなぁ、おじさんは何も隠して......」
笑って誤魔化すホシノの目の前にしわくちゃの退部・退会届を机の上に出すと、目を逸らした。
「うへ......知ってたんだ......」
「シロコが教えてくれた」
「......シロコちゃんてば、おじさんのバッグ漁って悪い子だと思わない?」
話の筋をずらそうとするホシノに敢えて乗っかる。
「確かに、許可なしに人のバッグ漁るのは良くないね。そのことは本人に伝えておくよ。
でもね、誰にも言わずにこれを書いたのホシノも良くない」
「............」
ホシノは視線を書類に移し、角をいじる。
「どうして書いたの? ホシノが何もなしに書くとは思えない」
何も答えず書類の角をいじるホシノ。
小さく息を吐く。
ホシノは会った時から隠すのが特段上手い子だと感じていたが、皆のためになると隠さずに話してくれていた。
そのホシノが意地でも話さないということは......
「誰に脅された」
ホシノがビクリと体を震わせ、角を弄る手が止まる。
そうか、と息を少し長く吐く。
大方、脅迫の内容は対策委員会絡みだろう。
仲間想いのホシノのことだ。皆を守るために自分を犠牲にしようとでも考えたのだろうか。
「ホシノ」
努めて優しいトーンで呼び掛ける。
ホシノとは目が合わない。それでも変わらず話す。
「......アタシも、仲間のために自分を犠牲にしようとしたことがあったんだ」
あの日を思い返す。
「でもね、それは間違いだったんだ。誰か一人でも欠けたら、それはチームじゃない。全員で一つのチームなんだよ」
アタシのせいで、チームは崩壊した。
「......まぁ、それに気付いた時は、もう手遅れだったけどね」
アタシは顔を伏せ自嘲気味に笑う。
その顔をホシノは見て、なにかを言おうとした口を閉じる。
少しの沈黙の後、笑みを引っ込める。
「アタシは、ホシノに同じ思いをしてほしくない」
「わ、私は......っ」
席を立ちホシノの隣に行き、肩に手を置く
「今は無理に話さなくていい。でも、
書類を手に取り、ぴらぴらと揺らして見せる。
ホシノはきっと、今は話したくても話せない、どう話せばいいか分からないのだと思う。
もう一度考えを整理する時間が必要だ。
「明日、遅刻するなよ〜」
そのままアタシは部室を立ち去る。
後ろからただ一言。
「うん......」