Mission : Protect Their Youth. 作:晴沙萪
「ねぇ、先輩。今回の任務が成功すれば、戦局はかなり変わるんだよね?」
ヘリのローター音が響く機内。
アタシの横に座る女性──安達香奈は俯きながら疑問を零した。
任務の内容、それは《敵組織の違法施設への潜入及び証拠回収》。
重要拠点の一つをようやく突き止めることができたが、肝心要の証拠が物か情報か不明、かつ施設内部の構造すらも不明瞭というかなり危険なものだった。
しかし、この任務が成功すればたった一つの敵組織と四年という異例中の異例の長期間の戦争にチェックメイトを叩きつけることができる。
「そうだな、成功すればこちらが優勢になる計算だ」
「そっか......」
少し安心したような表情になった香奈の頬を摘む。
「あと先輩じゃなくてコードネームかTACネームで呼べって何度言えばいいんだ〜?」
「いひゃいいひゃい.......」
「呼んだら許してやる」
手を離す。
「ご、ごめんなさい、Orion、先輩......?」
「こら」
そんなやりとりを交わしながらまた頬を摘んでいると、アタシの正面に座っているいかにも優男な隊員〈
「......それくらいにしてあげたらどうです? Asterも悪気があるわけじゃないでしょうから」
<
星を意味する。それが香奈に与えられたコードネーム。
実際、部隊内外でもアタシと違い目立っていた。純粋で明るく、人懐っこい性格で人を惹きつける。
名は体を表すとはこのことだろう。
「そうそう、もっと言ってやってくださいよぉ」
「なんだって〜?」
「ははっ、まるで姉妹だな」
香奈の前に座っている、アタシよりも歳上でガタイの良い隊員〈
その言葉を間に受けて、香奈は目をキラキラさせて喜ぶ。
「先輩と姉妹......! 良いですね!」
「冗談はよしてくださいよ......」
「ええ〜、先輩は私が妹じゃ嫌?」
「嫌ってわけじゃないけど......」
「じゃあ先輩はお姉ちゃんってことで!」
『姉妹の楽しい会話の途中で悪いが、そろそろ着くぞ』
パイロットから通信が入ったことで、機内の空気が変わる。
ボルトを数ミリ引き、チャンバー内の弾丸が装填済みかを目視で確認し手を離す。すぐにチャンバーを閉じるためにフォアードアシストを押す。
全員同じ
「先輩」
アタシは目だけを向ける。
「絶対成功させようね」
「......ああ」
短く答えた。
これが最後の楽しい会話だったとは知る由もなかった。
──────
たった四人の部隊。
されど四人。
四人で一つの
アタシ達は任務対象の建物から少し離れたところに降り立ち、鬱蒼としていて薄暗い雑木林を足元に気を配りながら進む。
朝露に濡れた茂みに隠れながら偵察、索敵役の香奈に小声で声をかける。
「Aster、周囲に敵影は?」
香奈は
「関所入り口に二人、監視カメラが一台あるよ」
「了解。アタシは右、Perseusは左、Ophiuchusはカメラを」
「「了解」」
サプレッサーを通した三つの乾いた銃声が重なる。
アタシはスコープ越しに二人の敵兵が崩れ落ちるのを認め、香奈にアイコンタクトを送る。
「関所クリア」
「「「了解」」」
香奈の声に頷き、倒した敵兵を茂みに隠してから敷地内へと足を踏み入れる。
誰かが足を止めれば、皆が止める。
逆も然りで、それがこの部隊では当たり前だった。
歩みを進めるとすぐに、見つけてくれと言わんばかりに異様に真っ白い外壁が見えた。
しかし、巡回している敵兵は外壁とは真反対の黒一色。
腕に自信がある者の集まりか、ただの馬鹿の集まりか。
「警備する気あんのか......?」
「本当にね......十時方向に三人、二時方向の監視塔に一人」
苦笑していた香奈は敵兵を確認すると表情をすぐに引き締める。
「十時の奴等は僕がやってきます」
言うや否やPerseusが低い姿勢から駆け出す。
まるで獲物を見つけた獣のようなギラギラした目で。
「カバーするぜ」
パシュッ
Ophiuchusが敵兵三人のうち一人を撃ち抜き気を引く。
その間に、Perseusが蛇が獲物を締め付けるような動きで一人、また一人とあっという間に無力化する。
アタシはそんな息のあった二人を横目に監視塔に銃口を向ける。
敵兵が仲間の異変に気付き焦ったところを撃ち抜く。
「ひとまず視界内には敵性反応無し。クリアだよ」
Perseusが何事もなかったかのように戻ってくる。
「やりすぎじゃないか?」
「これでもだいぶ抑えたほうなんですけどね」
苦笑しながら言うPerseusに、アタシは溜め息を吐く。
「はぁ......まぁいい。建物に侵入するぞ」
隊列を直し再び前進する。
突入しようとした瞬間。
「待って」
香奈からのストップがかかり、全員の動きが止まる。
止められることは過去に何度かあったが、今回はかなり強めの口調で止めてきた。
「どうした?」
「ソナーが建物内を検知できてない」
銃を握る手に力がこもる。
「範囲を広げても?」
「ちょっと待ってね......」
香奈がソナーの範囲を広げていくが、表情は曇っていく一方だ。
「ううん、ダメ。建物内までソナーが届かない......がっちり防御されてる」
香奈は首を振って苦しそうに答えた。
ジャミングされているのか、香奈のソナーの画面を見ると綺麗に建物内だけ表示がない。
舌打ちをする。
ここからはソナーが使えない。
侵入した瞬間、敵と鉢合わせになる可能性がある。
そうなると隠密するのは難しくなり、情報収集すら出来なくなる。
「全員、気を引き締めていくぞ」
「「「了解」」」
入り口の左右に二人ずつ分かれ、突入するタイミングを図る。
三人から間も無く準備完了の合図があり、アタシは突入の号令を飛ばす。
「Go」