キヴォトスのゴッドファーザー   作:凡骨もつもつ

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 キヴォトスにゴッドファーザーみたいなキャラ居たら面白くね?という発想から産まれました。
 ブルーアーカイブはかなり知識に偏りがあるので、描写が原作の設定と違ったらすみません。
 二次創作なので広い心で読んでもらえると嬉しいです。


理徒コレオ

 

 

 「はぁ……だるっ」

 

 時計の針が正午を指し示す頃、シスターフッドが運営する教会の中庭で気怠そうにベンチに座る者が居た。

 教会の中庭には樹木が一本植えられていて、その下には古風な装飾が施されたベンチがある。それは中庭に来た人が憩うためのもので、清貧を謳うシスターフッドが所有していることもあり独占するなど以ての他である。

 しかしベンチに座る人物は我が物顔でドカリと座り、背もたれの上に肘を乗せて仰け反りながら、柄悪くくつろいでいた。

 その人物はカソックを着て、襟元にはローマンカラーが白く存在を主張し、首からは十字架のネックレスを下げていることから『神父』の地位に就く者であることが分かる。

 しかし頭につばの広いハット帽を被り、耳全体にはピアスが付けられていて、左手の薬指以外にはゴテゴテとした指輪をはめている。

 そして金髪蒼眼の容姿と口に咥えたココアシガレットも相まって、どうみても神父の格好をした不良にしか見えない。

 

 「ああ~、このまま眠っちまっても良いかなあ……」

 

 怠惰を謳歌する彼の名前は『理徒(りと)コレオ』と言いキヴォトスでは珍しい男子生徒である、と同時にシスターフッド史上初の神父の役職に就く歴としたトリニティ総合学園の生徒だ。

 普段の彼は懺悔室に籠って相談に乗る仕事をしているが、こうして度々勤めから抜け出してサボる。

 無論、それを咎める者も居る。

 

 「良いわけないでしょう!コレオ神父!」

 

 「む?この声はサクラコさんか?」

 

 「せめて顔を此方に向けて確認するくらいしてください。その姿勢、首を痛めますよ」

 

 仰け反っていたコレオが正面に向き直れば、そこには学校制服のように改良されたシスター服に身を包み、頭の上には十字と円、そして鳩のような紋様を描くヘイローを浮かべ、グレーブロンドに近い色の長髪を風に揺らめかせる桜色の瞳を持つ少女の姿があった。

 歌住サクラコ、シスターフッドの実質的指導者の地位に就く淑女である。

 彼女は腰に手を当ててコレオを覗き込むように立っていた。対してコレオはドカリと座ったまま足まで組んでいる。

 

 「本当に行儀が悪くだらしないですね。その姿を見られたらシスターフッドの威信に関わります」

 

 「だからこうして人目の少ない場所でくつろいでいるんじゃないですか。サクラコさんもどうです?木漏れ日が暖かくて気持ちいいですよ」

 

 「あら、そうですか?では…失礼して…ってそうじゃなく!」

 

 「なんだかんだ言いながら座ってるじゃないですか」

 

 隣に腰掛けてノリツッコミするサクラコの様子を見てコレオは愉快そうに笑い、ポリポリとココアシガレットを噛み砕く。

 そして隣に座ったサクラコに真面目な顔で尋ねた。

 

 「で、何かご用で?説教しに来たわけじゃないでしょう?」

 

 「お説教はまた今度します!……それはそれとして、あなたに相談したいことがあったんです」

 

 「なんですかね~?派閥争い?外部からの圧力?」

 

 「私に良からぬ噂が立っているようなんですが…」

 

 「あー、それですか……」

 

 サクラコは基本温厚で心優しい人物だ。慈悲深く、それでいて教義には厳格な態度は人の上に立つ者として文句の付けようがない。

 しかし、彼女は意図せずして他人を威圧したり余計な警戒心を煽ったりしてしまう。話し合いの席へ拉致同然に相手を着かせる、誤解されかねない含みのある言葉選びをする、妙に意味ありげな視線で相手を見る等々……。

 それらが重なり、シスターフッドの内外問わず『歌住サクラコは腹の内が読めない策略家』のイメージが定着して、噂となってしまっていた。

 

 

 「あれは……まあ、うん。時間が解決……するかもしれませんか…ね?」

 

 「それでは困りますっ!シスターフッドを導く立場として、変な噂が付いたままでは伝統と歴史を守ってきた先達に申し訳が立ちません!!」

 

 (変に真面目なんだよな……この人。あの態度で話し掛けられたら誰だってビビるだろうに)

 

 「それに何か人為的な意図も感じます」

 

 「…………へえ」

 

 "人為的"という言葉を聞いたコレオの心中に冷たい感情が広がる。

 それはとある理由から来るものだったが、コレオはそれを悟らせることのないように表情には出さなかった。代わりに低い声で曖昧な相槌をした。

 

 「……何か知っていますか、コレオ神父?噂の出所とか」

 

 「さあ、どうでしょうね。噂で他者の信用を落とすのはトリニティの政治的な活動の常套手段ですけどね。というより何故、人為的であると感じたのですか?」

 

 「噂が伝播するのが早すぎます。それに最近、こんな噂も出回っています。『ゴッドファーザーが敵対者を次々と潰している』と」

 

 「『ゴッドファーザー』……ね」

 

 ゴッドファーザー。

 それはトリニティ総合学園でいつからか噂されるようになった謎の存在である。

 ファミリーという独自の組織を持ち、トリニティ内のいくつかの部活や同好会を下部組織として取り込んでいるとされる。学籍を持たない不良生徒はもちろん、トリニティの生徒も構成員として従えているとされ、他学園にも太いパイプを持っていると言われている。

 正体は不明であり容姿や性別を含むあらゆる情報が無い。情報を一切掴ませず徹底的に正体を隠していることから、その存在を疑問視する声もある。が、何処の勢力によるものかも分からない襲撃事件や予測不能な犯罪被害が報告されているため、次第にトリニティ生徒の間ではゴッドファーザーの存在は確定的になっていった。

 そのゴッドファーザーの活動が最近になってより活発になっており、学園内の幾つかの派閥が衰退、部活動や同好会の活動自粛・停止の頻発、果てにはティーパーティーの座を狙う一部生徒の失脚等、トリニティ総合学園の運営に強く影響を与えていた。

 そしてそれらの活動は丁度サクラコの噂が出回り始めた時期と重なっていた。

 

 「このまま噂を放っておけば、私がゴッドファーザーではないかと疑われかねません」

 

 「なるほど、サクラコさんの噂が出回り始めた時期にゴッドファーザーが活動を活発化……確かに何かしらの関係を疑われてもおかしくないですね。そこに人為的な意図を感じると……」

 

 「私たちシスターフッドはゴッドファーザーとは無縁であると示さなければなりません。そのためにも噂が少しでも下火になるようにしなければ……」

 

 「その点については大丈夫ですよ」

 

 「どうしてそう言えるんですか?」

 

 「俺がどうにかします。ゴッドファーザーの方はどうにも出来ませんが、サクラコさんの噂を抑制することは出来るかもしれません」

 

 「どうやって?」

 

 「それは…まあ、独自の方法で」

 

 肝心の手段についてはぼかしたコレオをサクラコは視線に疑いを込めて彼を見つめた。

 コレオとは中等部からの友人だが、時々彼が考えていることが解らない。昔からプライベートのことを話さず、ふらふらと振る舞うかと思えば的確な助言をこぼしてシスターフッドに貢献してきた。神父という立場に就いたのも男子だからというより助言役として最適だと判断されたからだ。

 しかし、コレオはたまに何かの線引きをしているかのように相手を煙に撒いたり、話をはぐらかしたり、言葉をぼかしたりする。

 何かを隠しているのは明確だが、サクラコはそれに踏み込むことはなかった。踏み込もうとした時に見せるコレオの冷酷な態度や視線が追及を拒んできたからだ。

 

 「……そう、ですか。ではよろしくお願いします」

 

 「ええ、上手くやりますよ。で、相談事は以上ですか?」

 

 「はい……その、コレオし「失礼します。神父様、サクラコ様」

 

 サクラコはコレオに何か言いかけたが、それは新たに現れた人物に遮られた。

 二人が声の方へ目を向けるとそこに一人のシスターが立っていた。

 

 「どうしました?」

 

 「お話し中失礼します。ティーパーティーがサクラコ様を呼び出しています。すぐに来るようにと」

 

 「ティーパーティーが?……わかりました。今、行きます」

 

 シスターから伝達された案件に対処すべくサクラコは中庭のベンチから離れる。

 しかし離れる前にコレオに振り向き……

 

 「あまり大事にはしないでくださいね?」

 

 ……と告げて去っていった。

 中庭に残ったのはコレオと案件を伝えに来たシスターだけだった。

 コレオは再びココアシガレットを咥えて、まだ去らないシスターを睨んだ。

 

 「……少しやりすぎだ。サクラコさんが訝しんでたな?」

 

 「申し訳ありません、ゴッドファーザー。アンダーボスの一人が加減を間違えたようです」

 

 「トリニティに巣食う厄介な連中を潰すべく行動を起こしたが…目立ちすぎたな。まさかサクラコさんの下らない噂に結びつきかねないとは」

 

 「なにか制裁をしますか?」

 

 「いや、いい。それよりもサクラコさんの噂をどうにかしよう。…………それとシスターフッドの中では、俺は神父の理徒コレオだ。軽々しくゴッドファーザーの名を口に出すな」

 

 鋭くコレオの視線がシスターを貫く。

 声も数段と低く冷酷さを纏い、サクラコと話をしている時のような飄々とした雰囲気は無かった。

 今、シスターの前に居るのはトリニティに裏から干渉するファミリーの首領(ボス)、ゴッドファーザーである。

 

 「…ッ!申し訳ありませんでした。理徒コレオ神父様」

 

 「気にするな、今度から気をつけてくれれば良い。それにお前が来たということはゴッドファーザーの方の用事だろう?」

 

 「はい。その…ゴッドファーザーの力を借りたいと申す者がおりまして」

 

 「『神父』としての顔を頼って欲しいんだがな……まあいい、そいつに会おう。話し合いの場を整えておいてくれ」

 

 「畏まりました。では、後ほどアジトで」

 

 シスター──ファミリーの一員が去っていったのを見届けてからゴッドファーザーとしての顔をコレオは仕舞う。

 

 (俺たちの行動に合わせてサクラコさんの噂を流した誰かがいるな。ファミリーの動きを把握しているか、あるいはファミリーが起こした事件の後で迅速に噂が流れるよう情報をコントロールしている。それが出来るのは極一部、それこそティーパーティーか?)

 

 ココアシガレットを噛み砕き、コレオは思考する。

 段々と苛立っているのを実感していた。

 

 (何にしろシスターフッドの信用を……サクラコさんの信用を落とそうなんてふざけた事を考えてくれる。俺の恩人を追い詰めようなんてな)

 

 理徒コレオ。()()はマフィアに身を置いていた男。

 何の因果か幸運か、キヴォトスの生徒となった男はまったく違う世界と価値観の中で腐っていくだけだった自分を立ち上がらせてくれた一人の少女の為に生きると誓った。

 しかし、知っているのは穢れた裏社会のみ。自らのファミリーを作り、シスターフッドひいては歌住サクラコの政敵や障害を排除するという汚いやり方しか出来ない。

 故に踏み込ませない。立ち入らせない。

 ゴッドファーザーは秘匿されなければならない。

 

 




・理徒コレオ
 オリ主。転生した元マフィアの構成員。高等部三年。
 キヴォトス世界に転生して右も左も分からないところを歌住サクラコに救われて以降、彼女の障害となる者を排除するため中等部時代にファミリーを構築してゴッドファーザーとなる。
 行動原理はサクラコもしくはシスターフッドの守護だが、元は裏社会の人間なので汚いやり方しか知らない自分を内心嫌悪していたりする。
 シスターフッドの神父を表の顔、ゴッドファーザーを裏の顔として使い分け、トリニティで暗躍する。
 名前の由来はマフィア映画の金字塔『ゴッドファーザー』に登場するマフィアのボス『ヴィトー・コルレオーネ』
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