巡礼者達の日常 【連載版】   作:無名のカヤ推し

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巡礼者達の日常⑩ 『侍女(ケイ)巡礼者(マルクト)の休日』 【後編】

「ショッピングモールとは恐ろしい所なのだと、よくわかりました……」

 

「ふふ、ですが随分楽しそうでしたよ」

 

「そ、それはっ……うう……楽しくはありましたよ?ですが、その。予想以上に使いすぎたというか、なんというか……」

 

 時刻は夕刻。午前中のそこそこに早い時間からショッピングモールに来ていたことを考えると、結構な時間が経過していた。なお、昼食は買い物でテンションが最高潮になっているところにマルクトが『なにか食べたいもののリクエストはありますか?』と言った所、ケイが少し恥ずかしそうにしながらお手頃価格がウリのファミレスをリクエストした。曰く、以前から興味はあったものの、普段アリスやゲーム開発部のメンバーとともに居ることが多く、あまり行くこともなかったのだという。

 

 なので折角だから、ということだったようだ。昼食時、とても幸せそうにオムライスやハンバーグなど、数々のメニューを幸せそうに食べているケイの姿があったのだが、それは二人だけの秘密である。

 

 そうして。一通り楽しみ尽くした二人は、帰る前に少しゆっくりしようという話になり、落ち着いた雰囲気のカフェ。その店のテラス席に座っていた。

 

 今日は朝からずっと天気がいい。今も夕刻ということもあり、空は茜色に染まってきているが、雲一つない空であり穏やかな風が吹いている。ふと、ケイが正面に座る相手。マルクトを見て思うのは、彼女の整った容姿もそうだが、それにあわせたような大人っぽい服装も相まって本当に絵になるなという感想と同時。あの時。敵同士だった頃より本当に活き活きしていて良かったと思い、安心もした。

 

 ……因みに。この日ケイが使った金額は結構な金額になっている。桁としては六桁以上であり、その内訳の殆どは洋服とアクセサリーである。幸いにして、ケイやアリスはミレニアムで彼女達にしか出来ないような仕事や依頼をリオやヒマリから任されており、それにより不自由しないほどの報酬も受け取っているため性格に支障が出るほどのものではないのだが、まずモモイやミドリ達が見れば驚くほどの金額だろう。

 

「ケイ、我はもう鋼鉄大陸を用いて己の使命に従うだけの存在ではありません。この世界の生徒であり、まだ見ぬ未知や未来を。そして日常を歩むこの世界の一員のつもりです」

 

「……ええ、でしょうね。貴女や、貴女の姉。アインに、ソフにオウル。預言者の子達だって、今の生活を見ていればよくわかります。そして、きっと今あるものこそがあなた達が本当に望んでいたものなのだと」

 

 全てはすれ違いだった。アイン達には目的があり、マルクトにも目的があり、そしてデカグラマトンにもあった。預言者達もそうだ。それらがもつれ、絡まって。下手をすれば最悪の結末になりかねなかったのが鋼鉄大陸事変だ。

 

 

 超常の存在も、この世界(キヴォトス)の神も、絶対的な力も本当は彼女達が望んでいたものではなかったのだ。

 

 

 そうしてそれは、アリスとケイにも言えることだ。

 

 彼女達二人は、王女であることを選択しなかった。

 選んだのは、この世界を生きる『生徒』としての、"()()()()()()"だったのだから。

 

 そんななりたい自分や未来を選択したのは、マルクト達も同じだった。

 

 『誰か(家族)を愛すること』を望んだ、3人の少女。

 

 『未来と、そこで出会う誰か(隣人)とまだ見ぬ旅路を征くこと』を選択した果てなき旅路を征く少女。

 

 『唯一の神としての絶対的な力ではなく、誰か(愛する者達)と歩むこと』を選んだ神になろうとした少女。

 

 そうして。それぞれが自己の意思として。この世界の一員として歩みたいと望んだ、預言者達。

 それぞれが己の持つ本当の望みを自覚した瞬間に、未来への道は交差したのだ。

 

 

 その交差した未来を。選択を。

 最良の未来を、アリスとケイは最初で最後の『権能』の行使で、現実のものにした。

 

 

「あなたもまた、もう侍女ではありません。あなたは、アリスの大切な家族です。であれば、同じことが言えるのではないでしょうか」

 

「同じ事……?」

 

「あの時、あなたが姉上に言った言葉をそのまま言いましょう。もっと自分に我儘になっても、自由になってもいいんだと思います。あなたは優秀ですが、真面目過ぎるところがありますから。好きなことをやりたいようにやる、それでいいんだと思います。……もっとも、これは我も受け売りですが」

 

 ああ、そうか。とケイは思った。自分にかつて、"マルクトと同じ素体の別の身体"で起動し決戦を仕掛けてきた彼女に自分が言った言葉がその通りだったのだと腑に落ちて、口元に笑みを浮かべる。

 

 今の日常に馴染めなかったのではない。難しく考えすぎていたのだ。もっと簡単なことで、ただ笑って、幸せに。そして自分の好きなこと。例えば今日のような買い物や、趣味のお洒落、今では友人となった預言者の彼女達と何気ない日々を過ごす。それこそが、『日常』なのだ。

 

「ありがとうございます、マルクト。……色々と吹っ切れた気がします」

 

「力になれたのなら良かったです。我も、今日はとても楽しかったですよ。 ……最近はセミナー関係の仕事が忙しく、息抜きをする暇があまりありませんでしたから」

 

「あー……でしょうね。今のあなた、すごい人気ですから」

 

 苦笑を返す。今のマルクトは最早、セミナーの顔のような存在だった。ミレニアムの内政的なことであればリオが得意としているが、自治区の外。他の自治区との外交的なことにおいてマルクトは居なくてはならない存在になっている。そのお陰、とでも言うべきか。ユウカやリオも彼女のお陰で円滑にセミナーとしての仕事をやれている。また、コユキもマルクトに懐いているため最近はユウカ達が少し心配するレベルで仕事をしてくれている。

 

 彼女自身の役職としての仕事も大変評価が高く、知名度も日に日に増している。ゲヘナやトリニティの上層部から外交を持ちかけられるほどで、つい最近もトリニティのあるイベントへの招待が来ていたほどだ。

 

「それでも、我は今がとても充実しています。時々、今の日常が幸せすぎて現実なのか疑ってしまうほどに」

 

「……現実ですよ。貴女が、貴女達が掴み取った現実であり未来です」

 

 

 もし、鋼鉄大陸事変の時にC&Cが万全の状態で共に居てくれなかったら。

 

 もし、ミレニアム。否、不屈の意思と炎を持つキヴォトスでも最高戦力級と称されるあの美甘ネルが居なかったら。

 

 もし、あの時に些細な行き違いでアイン達の命が失われていたら。

 

 そんな『たられば』を考えればキリはない。しかしそうはならず、選択した未来へと刻は進んだのだ。今こそが、彼女達が選択肢掴み取った世界線なのだ。

 

「ふふ、そうですね。 これが――我の、我達の望んだ未来です」

 

 花咲くような笑顔でマルクトは言った。ああ、やはり彼女は姉共々絵になるなと思うと同時。自分とアリスは、この笑顔を守れたのだと思う。

 

 

「さて、ケイの悩みも晴れたことですしケーキでも食べましょう。ここのケーキはとてもおいしくて人気があるとティファレトから聞きました」

 

「あの子本当スイーツ関係詳しいですね……。う、おいしそうなのが多くて目移りしますね……」

 

「持ち帰りもできるみたいですから、アリス達に買っていったらどうですか?我も妹達に買っていくつもりです」

 

「……あの、マルクト?確認ですが、それって『全員』ということですか?相当な数になると思うのですが」

 

「ええ、そのつもりです。特にティファレトはここのケーキが食べたいとよく言っていましたからね。大丈夫です、あの司祭達の技術を転用して更に発展させたオーバーテクノロジーの異次元ストレージがありますから。アリス風に言うならアイテムボックスですね」

 

「なんとも的確な例えというか……というか元々は大型武装を量子収納するための技術だった筈なんですがそれ。多分なんとも言えない顔してますよあの司祭達」

 

「技術の有効活用と発展です。ただの兵器収納だけに使うのはなんとも勿体ないでしょう?現状、我と姉上しか持っていない上に今のキヴォトスでは作れないのが問題ですが」

 

 なお、マルクトや彼女の姉だけではなくアイン達に生徒化したことでその身体で自由に動けるようになった元預言者達は、無名の司祭達の技術を応用し発展するだけにとどまらず、それを様々な分野にまで落とし込んだものを作っている。まさか無名の司祭達も、自分達の技術や力がそんなことになるとは夢にも思わず『理解できぬ』となっているだろう。

 

「そうだ。折角ですケイ、こっそりと贅沢をしてみては? ……そう。例えば、ケーキを複数種類頼んで、それを自分一人で食べてみたり」

 

「なッ……鬼ですかマルクト!?それは鬼、悪魔の所業ですよ!?あ、アリス達に内緒で私一人がそんな贅沢なんて……」

 

「いいのですか?今日はたまたま平日でそこまで混んでおらず入れましたが、普段はこのお店はとても混みますよ?」

 

「う、ううっ……で、ですがっ……」

 

「それに。お土産のケーキを選ぶ時に味がわかったほうが選びやすいでしょう?」

 

「確かに、それは……そ、そうです。これはアリス達のため、アリス達のためなら……ちょっとくらいなら……へ、へへっ……」

 

 生徒。特に甘いものを好む者にとっては悪魔の囁きを耳元で、ささやくように言うマルクト。この次女、ノリノリである。そうしてケイもまた誘惑に負けた。結局、コーヒーと一緒に複数種類のケーキを頼み、それをとても幸せそうに彼女は食べていた。

 

 

 彼女達の日常は続いていく。それは、選び。掴み取った未来だからだ。

 その日常を守るためならば。今度は、ミレニアムとして彼女達も共に戦うだろう。

 

 

 アリスとケイ達、そしてマルクト達が掴み取ったその選択とこの結末と未来に。『柔らかい声』の主も、此処ではない何処かで安心したように。嬉しそうに口元に笑みを浮かべた。

 

 

 この結末は。自分ですら思い描けなかった未来なのだから。

 それを掴み取った彼女達に、どうか――目一杯の祝福を。

 

 

 

    ◆     ◆     ◆

 

 

 

 キヴォトスには無数の自治区と学園が存在している。そうして、多くの住民や生徒が知らないような知名度の高くない自治区も当然存在する。そんな中の、とある広大な荒野にある道をひたすら進んだ辺境と言える場所にある自治区。その道中にある寂れた無人の自動販売機レストラン。

 

 時間は既に夜遅いというのもあるが、この自治区はそこまで人口が多くなく。そして夜に出歩く生徒や住民も殆ど居ない。よって、この表に佇むネオンライトの看板が特徴の建物に足を運ぶのは、ほぼ自地区外の人間ということになる。

 

 店舗は寂れているものの、手入れはされている駐車スペースに止められるのは、黒のベースカラーと銀のラインカラーで構成される、ミレニアムでの最新式大型バイク。ヒマリが鋼鉄大陸事変の時に使用していたホバーバイク。本人は室外用の車椅子と言っているが、それをもとにして開発された、大型二輪にもホバーにも変形ができる最新型モデルであり、最新鋭の技術がこれでもかと詰め込まれている。そのバイクは旅用にカスタムされ、大型のサイドバックなども取り付けられている。

 

 そんな最新鋭のバイクから降り、期待の眼差しを寂れた店舗に送るのは、一人の少女。生徒にしては身長が高く、特徴的なのは模様が入った金色の瞳とセミロングの銀色の髪に白磁の肌。身に纏うのは、妹とは対象色である黒のミレニアムの制服に黒のジャケット。

 

 

 彼女は現在、『セフィ』と名乗っている。新たな名を考える時に、ありきたりだがと言い、妹。マルクトが考えてくれた名だ。

 

 そうして、かつてはこう呼ばれていた存在でもあった。

 デカグラマトン、と。

 

 

「この看板に、この佇まい。間違いありません、ここが噂の店ですか……!」

 

 

 目をキラキラさせ、とてもご機嫌に店舗へと歩みを進める。そして、当然硬貨のクレジットが入った財布も忘れない。最近は最新化が進み、ミレニアムでは殆ど電子決済であり他の自治区での買い物でもそれは該当する。しかし、今の目的とする行き先には間違いなくと言っていいほど、その電子決済は使えない。

 

 彼女の趣味であり大好物は、レトロ自販機とそこで売っている食べ物だ。近年、殆ど姿を見ることはなくなってしまったレトロ自販機。ファストフード店やコンビニなど、手軽に素早くフードを買える手段が増えたこともあるが、他にも様々な要因で姿を見かけなくなっているレトロ自販機。何より大きな理由の一つが、自販機を保守・修理するための部品を生産しているところが殆どなくなってきていることや、古すぎる機械のせいで整備できる者も少ないということもある。

 

 そんなレトロ自販機では、コンビニなどでは味わえない一風変わったものを売っていることもある。その自治区、そのレトロ自販機の管理者が自前で作るラーメンやうどん、そば。自販機独特の手作りハンバーガーや御当地特有のジャンクフード、今ではかなり珍しくなった栓抜きで開けるタイプの飲料。そんな一風変わったレトロ自販機やフードは、一部のそういったものが好きな生徒や住民を魅了していた。

 

 

 ゲームセンターによく行くネルもまた『そういや、あんまり見なくなったな……ゲーセンで遊んだ後の、あのなんというかさ。チープだけど食べたくなるあれ好きだったんだけどなあ』とぼやいており、ミレニアムではあまり見ることができなくなったレトロ自販機を思い出してしんみりとしていた。

 

「ふふっ、これはネルにいい自慢話が出来ました。きっと羨ましがるでしょう」

 

 今の自分の目的は、見聞を広げるためにキヴォトスを旅すること。旅をして、多くを見て、そして考えること。

 

 かつて望んだ、絶対的な力と神に等しい存在になっては決してできないことだ。旅とは、一人ではできないのだ。行き先には人の営みがあり、風土があり、歴史がある。それに接し、学ぶということはただ一人ぼっちの神様では絶対にできないことなのだ。

 

 だからと言うべきか。今の生徒という立場になって、世界を旅する『旅人』になったことで一人では絶対に見えなかったものが見えるようになった。そうして、今のこの歩みと。大切な家族が居ることが彼女にとっては最大の幸福なのだ。

 

 

「さあ行きましょう。私の大好物が犇めく、楽園に……!」

 

 

 ここの噂をレトロ自販機を愛する同好の士である生徒から聞いて、絶対にこの自治区を訪れる時は行くと決めていたのだ。一体どんな自販機が自分を出迎えてくれるのだろうか。そうワクワクしつつ、長姉でもある彼女は、普段の自信に溢れた立ち振舞も姉としての威厳も投げ捨てたような、まるで子供のようにワクワクしているのを一切隠さずに無人自動販売機レストランへと足を踏み入れた。

 

 





■ケイ
 誘惑蔓延る魔境に負けた。結構な金額を使ったが、普段無駄遣いをしないので実はそこまでダメージはない。モモイ達へのお土産でのケーキはとても喜ばれ、アリスとペアのアクセサリーは彼女が大好きなゲームのコラボ商品ということもあったが、ケイとペアということでとても喜ばれた。贈ったものは私服を着る時、必ずと言っていいほど身につけるようになった。

 後日、今度はゲブラやアスナとも出かけた。とても楽しかったらしい。

■司祭達の技術
 結構な量の技術が流出して転用、応用、発展させられている。元の技術より更に進歩している。現状取り扱えるのはマルクト達だけだが、日常生活の便利用品としても転用されているためもし司祭達が見ればある意味驚くと同時『理解できぬ』と言っただろう。

■柔らかい声の主
 この世界線は自分では思い描けなかった。数々の奇跡や、想定外(イレギュラー)の存在によってこの未来が現実になるとは考えられなかった。だからこそ、どうか目一杯の祝福をと願うのだ。まさにこの未来は、あまねく奇跡の先にある。神ですら思い描けなかった、諦めていた未来なのだから。

■デカグラマトン(セフィ)
 ミレニアム所属。所属部活動はないが世界放浪のついでに色々な自治区で気になる所があれば調査して報告して欲しいとリオ達から頼まれている。週一でオーバーテクノロジーの塊で帰ってきているが、その度にとんでもない量の報告書を渡されるためリオやヒマリとしてはなんとも言えない悲鳴をあげている。

 以前ほどの神に近しい能力はもうないが、それでもマルクトと同じように複合大型ランスや自立シールドなどの武装は呼び出せる。戦力的にはネルには及ばないものの、ミレニアムに留まらずキヴォトス内では最高レベル。……なお、ネルはアツィルト発動して完全状態の彼女をフィジカルの攻撃だけで圧倒していた。

 以前との心境の変化は、『考察も、新たな考えもできない一人で証明を実践することは不可能である』『自らもまた、未来という旅路を開拓する旅人である』ということを考えるようになったこと。孤独なたった一人の神ではなく、あらゆることを受け入れ、飲み込んで。そうやって旅路を征く一人のこの世界の住民であり、『生徒』であることを選んだ。

 よく外の自治区に顔を出すため、トリニティやゲヘナなどにもよく現れる。そのため様々な噂がたっている他、シャーレとの遭遇頻度も高いためよくトラブルに巻き込まれたり、その解決のために協力をしたりしている。本人もそういったことをとても楽しそうにしている。
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