巡礼者達の日常 【連載版】   作:無名のカヤ推し

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巡礼者達の日常⑪ 『 デカグラマトン(セフィ)、レトロ自販機を堪能する ①』

「おお……!」

 

 自動ドアではない、今時最早珍しくなってきている手動式の横開きの扉をまるで財宝の詰まった宝箱を開けるような気持ちで開いて店内に入りデカグラマトン、現在はセフィと名乗っている彼女は感嘆の言葉の後暫くその場で立ち尽くし言葉も出てこなかった。

 

 視界に飛び込んでくるのは、数々のレトロな自動販売機達の数々。店内は想像していたより広く、一角に食事用のテーブルと椅子。そして古いが手入れのされている、給湯ポットや使い捨ての割り箸やスプーン、袋入りのおしぼりやお手拭きが入った箱が置かれている。両替機だけは真新しく、綺麗な。新しい貨幣にも対応した新しいものが入っていた。もしかすると、両替機だけは壊れてしまったのかもしれない。

 

 足を進め、店内の案内図を見ればどうやら二階にも自販機が置かれ、飲食スペースがあるようだ。この自治区は自治区特有の生活や風土とでも言うのか、夜の時間帯になると殆ど人が街中には居ないらしく、店内に人気は感じられない。つまるところ、彼女にとってこの楽園とも言える場所は現在貸切状態である。

 

 ちらりと案内図の横においてある大きめのガラスケース。しっかりとした、盗難対策と防弾仕様のこちらも新しいものを見ればどうやら展示スペースのようで、中にはかなり昔の有名な食品メーカーの食品ラベルや小冊子、様々な絵が描かれた王冠と呼ばれる昔のガラス瓶に入った飲料の密閉の役割をしていたそれが、綺麗な箱にスペースごとに区切られて飾られている。他にも、キヴォトスの著名人や有名人などのサインや、この施設の主人だろうか。年老いた獣人の老夫婦と、様々な著名人が一緒に撮った記念写真が飾られていた。

 

 思わずセフィはその展示スペースに魅入ってしまった。これだけでも、価値がつけられないほどの宝物である。特に、彼女としては古ぼけ色褪せた小冊子や今では手に入れることは不可能だろう王冠のコレクションケースは見るだけで感無量だった。

 

 展示ケースの横のテーブルには、訪れた人々が記念にメッセージを起こしていくためのメッセージブックが置かれていた。それにも興味を持った彼女はその中を流し見してみれば、訪れた人々の暖かいメッセージやイラストが書かれておりなんとも言えない、自分も温かな気持ちなった。数々の自治区から生徒も訪れているようで、中には規模の大きい三大高や知名度の高い自治区の有名人物の写真やメッセージも見られた。

 

「折角ですし、私も何か書いていきましょう」

 

 彼女は頭がいいのもそうだが、絵も上手い。妹達の中でも最も絵がうまいネツァクにイラストの書き方を教えてもらうと、すぐにコツを掴んでしまった。時折、彼女はデフォルメされたような自分や妹達のイラストをSNSにアップしているのだがとても反響が大きく。最近はマルクトが有名になったこともあってとても『いいね!』や『拡散』が増えている。

 

 置いてあるボールペンを取ると、少し考えた後。何の変哲もない、特徴も特にない自販機のイラストと、その横に自分自身のデフォルメされたようなキャラクターが包み紙に包まれたハンバーガーを持っているような絵をサラサラと、慣れたように書いていく。その横に今日の日付と、来訪したことのメッセージ。そして『此処に来れて本当に嬉しく思います』と言葉を添える。

 

 もう少しメッセージブックや展示物を堪能したい気持ちはあったが、まずは本来の目的に向かうことにする。小銭の入った財布を持つと、置かれている数々のレトロ自販機に視線を投げる。同好の士である生徒から聞いてはいたが、とても莫大な数の自販機だ。これが二階にもむあるのだから、気合を入れて挑まなければいけないと彼女は思う。

 

 このためにお腹もすかせてきたのだ。さて、どうするか。そう真剣な、まさに鋼鉄大陸の最終決戦。ケイと戦った時のような真剣さで自販機を見回しながら、レトロ自販機の森の中を歩いていく。

 

 

 

  すると。

 

 

 

「む?これは……なっ……!ハ、ハンバーガー130クレジット、チーズバーガーが150クレジット!?それだけではありません……!てりやきバーガー170クレジット、ダブルハンバーガー190クレジット!?」

 

 まるで稲妻が落ちたような衝撃を受け、驚愕に目を見開いて立ち止まったのはハンバーガーをはじめとした、パン系のホットスナックのコーナーだ。ハンバーガーはミレニアムなどにあるチェーン店ならもっと高い。更に、張ってあるラミネートされた掲示物を見れば、パンのスナックコーナーで売っているものは基本的に穀物が盛んなこの自治区のとてもいいものを原材料として使っており、しかも販売できる補充数は少ないが全てが手作りなのだという。

 

 現在訪れている自治区は、自然豊かで農産業が盛んだとは聞いていた。確か、豊穣を司る女神を信仰しているとも。

 

 そんな自治区の手作りのハンバーガー。これはもう、間違いないだろう。そう思い、自販機にクレジットを入れボタンを押す。まずは様子見としてハンバーガー。温める時間を要するために購入してその直後、機械が内部で稼働して商品を温める駆動音が聞こえてくる。レトロ自販機を愛するものとして最早これだけでも心地良いものだ。

 

 数十秒の後、出来たことを知らせる固有の音が鳴り取り出し口が開けるようになる。熱々のそれを手に取り、包み紙を外せばそこに現れたのは、水気で少ししなしなになっている、しかし温かなバンズ。そして厚めの牛肉のパティに、シンプルなケチャップのソース。それを見て彼女は喉をゴクリと鳴らし、満足げに笑みを浮かべながら頷いた。

 

 

「そう……こういうのでいいんです、こういうので……!」

 

 

 もう我慢できない、というように熱々のハンバーガーに齧り付く。バンズが水気を含んでしまっているが、それでいいのだ。レトロ自販機のハンバーガーとは、そういうものであり。それもまたらしさとして楽しむものなのだ。

 

 齧り付いた直後、口の中に広がるのは自然由来の甘みのあるバンズ。そして。それと一緒に押し寄せてくる厚め、それも恐らくチェーン店の二倍はあるのではなかろうかという厚さのパティからの牛肉の旨味とトマトケチャップの風味。どうやら、このケチャップもこの自然が豊かな自治区で作られているもののようで、まさにこの自治区でしか食べられない極上の味わいと言ってよかった。

 

 しかし、極上の時間は長くは続かない。自らが空腹だったということもあるだろう。明らかにチェーン店のものより大きめのそれだとしても平らげるのには時間はかからず、食べきった直後にはなんとも言えない寂しさが自らを襲う。

 

 まだ食べたい。もっと食べたい。

 このような極上の楽園が貸切状態、こんな機会は二度とないかもしれない。

 ならばもう、とことんまで楽しむしかないだろう。

 

 最初の糸口として、ウォーミングアップとしてのハンバーガーは彼女に一気に火をつけた。一気に空腹感が決壊したダムのようになり、最早止め処がなくなる。

 

「では、次はこのてりやきバーガーを……!」

 

 硬貨のクレジットを再び入れ、今度はてりやきバーガーを選択。そうして先ほどと同じように機械が駆動し、温められ。数十秒後に取り出し口から商品を取り出す。

 

 もう待ちきれない、というように慌てて包み紙を開こうとする彼女だが、当然温められた直後でとても熱い。思わず『あつつ』という言葉が漏れてしまうも、すぐになんだか嬉しくなってそのまま包みを開く。

 

 すると、今度は同じような水気を含んでしなしなになったバンズ、そして先程のものよりも厚めのパティにテリヤキソースがたっぷりと全体に塗られており、ソース独特の香りが鼻腔をくすぐる。どうやら他にも、あたためられてこちらもしなびてしまっているがレタスと、マヨネーズをベースとしたソースが挟まれているようだ。もう見るからに食欲が掻き立てられるそれが170クレジットとは信じられず、たまらず齧り付く。

 

「最高です――それ以外の言葉が出てきません」

 

 一口齧り付き、十二分に味わった後に飲み込んで出てきたのはそんな言葉だった。口の中に広がる、豚肉をベースに作られた厚めのパティ。テリヤキソースとマヨネーズをベースとしたソースが混ざり合い、とても濃厚な味となっているそれはとても満足度が高いものだった。これで僅か170クレジットだというのだから信じられない。

 

 再び食べ終えて満足感と幸福感に包まれる彼女だったが、油断してはいけないとすぐにハッとなる。ここは楽園であると同時、底無しの魔境である。少しでも気を緩めれば、最初に案内図を見た時に考えた、どうやって回っていくかという作戦が水泡に帰す。もしここで自らを律しなければ、満腹になるまでこの一帯のパン系のホットスナックコーナーに居続けてしまっただろう。

 

 しかし、もっと堪能したいのは事実。だが色々と周りたい気持ちもある。どうするか、そう考えて。

 

「……こうなったら、あの手しかありません」

 

 

 そう呟いた後、まだ買っていないチーズバーガーとダブルバーガーを購入。そして包みを開けないまま片手に抱える。

 

 そして、それを虚空の中へと仕舞い込んだ。

 

 空間に波紋が奔るようにして、虚空へと彼女の手。そして持っていたバーガーが突っ込まれる。その後にその空間から抜かれた手にはハンバーガーは持っていなかった。

 

 鋼鉄大陸事変。その時にマルクトをはじめとした彼女達は、無名の司祭と呼ばれる存在達の技術や研究を盗み出し騒動に及んだ。その中には、司祭達にとっては奪われては極めて不味いものも幾つか存在していた。彼らの計画や想定が一気に狂うほどの、重大なものが。

 

 それらは未だに彼女達の手元に存在しており、現在では元々のものより更に発展したものが殆どであり。更には、応用して日常生活へと落とし込まれたものも存在している。

 

 その内でも、マルクトと彼女。セフィしか保有していないものが存在している。それが、『宝物殿ストレジア』という、超越技術(トランセンドギア)と呼ばれる謂わば、特級の名も無き司祭達の技術の一つである。

 

 その能力は、物質の生成と無尽蔵の格納空間と内部のものを即座に呼び出しが可能なことであり、格納空間内部への移動やその逆も可能になっている。彼女の武器である複合ランスや自立大型シールドなどもこの内部に保管されており、内部に保存された物はその時点での状態を記録して保存されるため食料品を内部に保存しても、劣化しないし腐らない。また、取り出した際には温かかったり冷たいままである。よって、保存したバーガーは次に取り出しても温かく、おいしいままである。更には先生、シャーレの保有するクラフトチェンバーに近しい能力も持っている。

 

 しかしこれをこうして使うのも彼女としてはある意味最終手段だった。これはあくまで、今のキヴォトスでは実現不可能なオーバーテクノロジー。先生の持つシッテムの箱や、クラフトチェンバーと似たようなものである。今の自分は生徒、なので戦闘時や有事はともかくとして出来るだけ日常ではこれに依存しないようにあくまで最終手段としてきたのだが、今回はその最終手段の時のようだった。……とはいうものの、週一回ミレニアムに帰る際に使用しているものもオーバーテクノロジーの塊なのだが、それは()()()()()()()()()()と割り切っている。今の彼女にとって、妹であるマルクトを始めとした存在は最も大切なのだ。

 

「……さあ、油断せずに行きましょう。この場所を隅々まで堪能しますよ!」

 

 再び目を輝かせ、もし想定外が発生したらそれはストレジアへと保存すると決め。一切の油断なく彼女は次なるレトロ自販機に向かう。まだ見ぬ未知を開拓すること、それもまた今の生徒としての自らの目的なのだ。

 

 

「――やはりこのトーストサンドは捨てがたいです、買いましょう」

 

 

 そして生徒となった今、時には自分の欲望には忠実なのであった。

 

 

 

 

 

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