巡礼者達の日常 【連載版】   作:無名のカヤ推し

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巡礼者達の日常⑬ 『マルクト、C&Cからの頼み事を受けるとのこと』

 ミレニアムでの平和な日々が流れる。現在のミレニアムは、キヴォトスでもかなり治安の良い自治区として認知されていた。生徒会長であるリオの復帰、それにより機能が回復したセミナー。そして、新たなセミナーのメンバーであるマルクトの活躍や、預言者達の中でも戦闘系の技能に秀でた者達も治安維持などに協力してくれている。

 

 元々、ミレニアムは他の自治区に比べて犯罪発生率が低かった。それは科学や技術を重んじ、知識の輩とも言える自治区の特色というのもあった。現在では時折実験の失敗やトラブルなどにより機械が暴走したり爆発するということはあるが、生徒が主体となっての自治を荒らす問題はかなり少ない。

 

 そんなミレニアムを自治するミレニアムサイエンススクールの生徒会、セミナーが仕事をするためのセミナールームは現在静かであり、一人の姿しかない。マルクトである。

 

 それには理由がある。現在、ミレニアムは多忙な時期であり、セミナーに所属するそれぞれは処理しなければならない業務をひたすらにこなしていた。それは普段問題児として暴れまわるコユキも同じであり、事務処理要員、もとい庶務としてユウカとノアに『手伝いなさい』『コユキちゃん、お願いします』と迫られて渋々了承した。

 

 なお、コユキに対してそこそこ甘いマルクトが『大変だと思いますが、ご褒美用意しますから我からもお願いしますコユキ。何か食べたいもののリクエストが有れば作りますよ』と言ったら掌を全力で返してやる気のオーラを纏い、目を輝かせながら『はっちゃちゃちゃちゃちゃちゃ!!!』と叫びながら仕事を処理し始めがら飛び跳ねるなんてことをしていた。現金である。

 

 そんな忙しいセミナーであり、今日はセミナールームでセミナーとしての仕事をしているのはマルクトだけである。彼女もまた、現在様々な自治地区からの打診などの処理をしなければならず忙しい身である。

 

 

 そんな彼女が、仕事に一区切りをつけてコーヒーでも淹れようかと考えていた時である。

 

 

「邪魔するぞ、って……マルクトだけか?他の奴らはどうした?」

 

「ネル?珍しいですね、あなたがここに。しかも制服姿の時に来るなんて」

 

 突然セミナールームの扉が開かれて現れた来訪者るそれは、ミレニアムにおいての最高戦力であり。そしてこのキヴォトスにおいても現状、最高峰の実力者と言われる生徒。美甘ネルだった。

 

 ミレニアムのセミナー直下には2つの部隊がある。セミナーの指示で専属的に動くC&C、そしてミレニアムの治安維持と法と秩序の番人である『EL部隊』と呼ばれる組織である。ネルはC&Cの部隊長であり、主にリオの指示で動いている。特に有事や指示がない時は、EL部隊と合同でミレニアムの治安維持活動に従事している。

 

 リーダーシップがあり、周囲からの信頼も厚く、時には誰かを頼ることを知っている。単騎での戦闘能力で見られがちの彼女だが、彼女が重んじているのは集団としてのチームプレーである。公私もしっかりとわけており、オフの時は思いっきり遊ぶしはしゃぐが仕事の時は徹底して真面目にやる。それがネルという生徒だ。

 

 鋼鉄大陸事変でも彼女を筆頭として、C&Cはシャーレとリオ達に万全の体制で協力。一度敵対しているからこそマルクトとてよくわかるのだ、ネルのその不屈の心と炎の強さが。

 

 かつて、デカグラマトン。長姉の行使したアツィルトの帯の前に大半の生徒が膝をついた。しかし、たったひとりだけ膝をつかず、気力と気合だけで反撃してきた存在が居た。絶対的な力を前にしても、気力と気合で何度でも立ち上がり、抗いねじ伏せる。それがネルだった。

 

 そんな彼女がセミナールームに来るのは珍しい。しかも制服姿ということは今は恐らくオフだろう。彼女はセミナー直下の部隊を率いているが、基本的にこの場所に来ることはあまりない。つまり、今回やってきたのは何か事情があるということなのだろう。

 

「あー……ちょっとな。まあ、マルクトが居てくれてよかった、実は頼みがあってな」

 

「ふむ、我にですか?何やら込み入った話なのでしょう、丁度休憩にしようと思っていた所です。よければコーヒーとお菓子などどうですか?」

 

「お、それは嬉しいな。コーヒーは……カフェオレとかにしてくれると助かる。ブラックは飲めなくとはないんだけど、苦手でさ」

 

「ふふ、ご安心を。ちゃんとC&C全員の好みの味は覚えていますよ。ネルはミルク多めで砂糖は1つでしたよね」

 

「お、おお……まさに私の好みドンピシャだ」

 

「それと、これはアイン達にシュークリームが食べたいと言われてつい作りすぎてしまったものですが」

 

「ならちょっと失礼して。はむっ……うっま!え、なんだこれ有名菓子店のシュークリームって言われても信じるぞ?しかも色々なのがあるな!?」

 

「生クリームにカスタード、チョコレートクリーム、後はマロンクリームとビナーからのおすそ分けで貰った果物のミックスクリームみたいなものですね」

 

「おお……まるでシュークリームのテーマパークに来たみたいだ……食べるまでどれかわからないってのも面白いな。しかしビナーのヤツ、アビドスで色々とやってくれてるみたいじゃねえかよ。いい意味でだぞ?」

 

「ええ、私も話だけは聞いています。アビドスの土地を大量に購入して、そこでハウス栽培やら色々と農産業をしているそうですね。しかもかなり軌道に乗って繁盛しているとこの前言っていましたね」

 

「うちのさ、学校の学食の責任者の生徒達からはよ。ビナーのところからも野菜を仕入れようって話が出ているくらいなんだ。食に煩い美食家も黙らせるくらいの作物が取れるってことで、色々と話題になってる。……ん、これ色んなフルーツの味がするな。そうかこれがミックスクリームか、確かにこれは美味いな」

 

 満足気にしながらカフェオレとシュークリームを楽しむネルはとてもご機嫌でニッコニコなのだが、ハッとなる。確かに大満足なのだが自分は現在ここに仕事のこと出来ているのだ。危うくシュークリームとカフェオレの無限ループに陥りそうになるのを自制すると、コホンと咳払いする。

 

「口元にクリームが付いていますよ、ネル」

 

「それくらい夢中になるほどに美味かったんだよ」

 

 慌てて口元のクリームを拭くと、残ったカフェオレを飲み切る。そして、『すげえうまかった、ご馳走さん』と言った後真面目な表情になる。マルクトとて、それが仕事モードのネルの顔であることは理解している。だから彼女と向き合い、言葉を待つ。

 

「ちょっと緊急のことでな、マルクト。数日間、C&Cの臨時メンバーとして協力してほしいんだよ」

 

 突然のことに流石のマルクトも驚いた。しかも、C&Cの臨時メンバーとは穏やかではない。つまり、現在のメンバーに何かあったということなのかと心配になる。

 

「特にC&Cについての報告はセミナーに来ていないはずですが……直近で何かあったということですか?」

 

「あーいや、違うんだ。そんな大袈裟なことではないんだけどさ……いやまあ大事というばそうか。実は、アスナとアカネが体調崩しちまってさ。多分ほら、最近流行ってる季節風邪っぽいんだよな。前回の任務の時二人は一緒に動いてて、だから多分町中歩いてる時とかに何処かで貰ったんだと思う」

 

「……心配しましたよ。てっきり何かあったのかと。でも、確かに流行り風邪だとしてもそれは大事ですね。二人の様子は?」

 

「すぐウチの支援部の担当医に見てもらったけど、やっぱり流行り風邪だった。アスナは元気に見せてたみたいだが、覇気もなけりゃ空元気なのがバレバレ。アカネも無理してるのが一発でわかった。今は二人揃って診断出た直後に薬持たせて当面療養させてる。熱引いて調子戻るまで数日ってところだろうから、その間は絶対に任務には連れて行かないし絶対安静だって釘刺しといた」

 

 キヴォトスの住民や生徒は比較的頑丈な身体と生命力を持っている。しかし、だからと言って病気や怪我をしないわけではないし、体調を崩すことだってよくあることだ。今回、アスナとアカネがかかった流行り風邪とて生徒でも発症するのはよくあることだ。つまり、二人がそれになったのは運がなかったということだ。いくら幸運に恵まれているアスナとて、なる時にはなるのだ。それが今回だったということだ。

 

 そうしてネルとて、そんな状態で無理にでも任務に出ろとは決して言わない。むしろ、コンディションがおかしくなっている状態でいつも通りの、それもミレニアム上層部からの仕事をまともにこなせるとは思わない。なので何と言おうと容赦なく休ませ、リーダーとしてその対応を考えるのが彼女だ。チームメンバーや仲間を第一に考え、スタンドプレーは極力しない。それが彼女のポリシーでもある。

 

「ただちょっと面倒な案件を前にしててよ、手が足りないっつーか……なんつーか……」

 

「面倒な案件ですか?」

 

「ほら、一週間ほど前にリオから調査依頼が入ってガサ入れたら、ある裏組織と繋がってる企業がミレニアムを襲撃する計画を立ててるって奴」

 

「報告書にありましたね。……まさか、その襲撃予想日が」

 

「ああ、恐らく数日の内だ。だからC&Cとしても、対処の準備をしてたんだが……まあこういった予測できないトラブルは仕方ないといえば仕方ない。流行り風邪なんていくら気をつけててもなるもんはなるからな。ただ……襲撃予測地点は二箇所。結構規模がデカイ組織でよ、流石に私とカリンそれぞれが一箇所づつ持つのはちょっとばかり厳しい。私はともかく、狙撃手のカリン一人に相手の主力級を相手しろとはちょっと厳しい。実力があっても数でラインを超えられる」

 

「なるほど。それで手を貸して欲しい、ということですか」

 

「ああ。この件はセミナー直下の案件だから外部に頼むのもな。かといって、セミナーの中で荒事含めての戦闘慣れしてるのは現状マルクト、お前だけだ。だから手を借りられないかと思ってな」

 

「ふむ、なるほど……」

 

「今忙しいのはわかってるんだけどよ、なんとか頼めないか?」

 

 マルクトとしては、ネルには返しても返しきれない大恩がある。敵として立ちはだかり、神にも近い力を手にした長姉。絶対的な力の前に立ちはだかり、それを想いの力だけで圧倒し。その中で、対話することで姉に本当の思いを理解させたのはネルだ。思いの強さでどんな苦難も乗り越えられる、それを不屈の意思と炎で身を持って体現した彼女が居なければ、間違いなく今はなかったのだ。

 

「頭など下げないで下さい、ネル。我は。我達はあなたに返せないほどの恩があります。あなたの力になれるというなら、喜んで力になりましょう」

 

「本当か!?助かる!」

 

 助かった、というように&の笑みを浮かべるネル。だが、マルクトは思案する。目を通していたこの襲撃の可能性のある相手の資料では、規模はかなりのものと予想される。となると、まだ戦力は居たほうがいいだろう。

「ネル、信頼できる助っ人をひとり呼べそうなのですが」

 

「ん……?だがこの案件、セミナー案件だからよっぽど機密を守れて、しかも実力者じゃないと厳しいぞ?一体誰を――」

 

 居る。自らの妹達の中で、戦闘という面においては間違いなくトップクラスの実力を持ち、そうして真面目な任務の時は冷徹なほどで、秩序と法を守る存在が。

 

 

 

「ゲブラを呼びましょう、大丈夫ですよ。あの子、仕事中は本当に真面目ですから」

 

 

 ネルがなんともいえないよう顔をしたが、ため息を付いた後頷いた。確かに、信頼できる戦力に変わりはないからだ。

 

 

 




次回、ビナーのアビドス開拓記録。その後にマルクトとゲブラC&Cに期間限定特別参戦の予定。
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