巡礼者達の日常 【連載版】   作:無名のカヤ推し

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巡礼者達の日常⑭ 『ぽこ あ アビドス ①』

 アビドス自治区。他の自治区と比べると広大な自治面積を誇り、かつてはキヴォトスでもトップのマンモス高と言われるアビドス高校が存在した自治区である。だが、それも昔の話。現在のアビドスは、自治区の大半が砂。砂漠化しており、それは長い年月の間進み続け、今では都市部さえも飲み込む事態となっていた。

 

 その結果として、住民の殆どは避難を余儀なくされた。自治区に見切りをつけて去っていく者も少なくはなかった。現在残っている住民も、ほぼ全てがまだ砂塵災害が及んでいない都市部エリアで生活しており、その住民達だって何かしら理由があってアビドスに居続ける者達ばかりだ。

 

 そうして。そのアビドスを自治しているアビドス高校も現在、山積みの問題を抱えているだけではなく。現在の生徒数はたったの5名という現状。"少し前"までは重なり続けた大量の借金について頭を悩ませながらも日々奮闘していたが、現在は新たな目標。それも前向きな目標に向かって日々忙しくしている。

 

 

 

 そう。借金があったのは少し前までなのだ。

 

 

 

 ある日。まさに突然としか言いようがないように事態は動いた。ミレニアムがある日を境に急速に勢いを増して、極めて優秀な生徒達が増えているというクロノスのニュースが流れた直後くらいだろうか。そんなニュースは自分達には関係はなく、色々紆余曲折あって減額されたもののそれでも山程の借金をどうするべきかと考えながら過ごしていた時だ。

 

 

 

『ねえ、そこの人。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?』

 

 

 アビドス高校に行く途中、市街地でシロコが声をかけられたのは。灰色の背中ほどまでの髪に金色の瞳。整った容姿だが、どこか物静かな印象を受ける黒のジャケットと白のミレニアムの制服を着た少女だった。右手には全体的に黒いデザインのスマホを持っており、道でも調べていたのかもしれない。

 

『いきなりごめんね、私はビナー。アビドス高校に用があって来たんだけど、データが古くてよくわからなくて。もし知っていたら、教えてもらえないかな?』

 

 

 突然アビドスを訪れたビナーと名乗るミレニアムの少女。それが発端となり、アビドス高校はまた怒涛のから騒ぎに巻き込まれることになった。

 

 

『土地のことでちょっと話があるんだけど……え?利権の殆どをカイザーが借金のカタとして持ってる? ――わかった、ならそれ買うよ』

 

『ルールは破るためにある。 ……半分冗談だけど。私がアビドスに肩入れするのになにか問題がある?』

 

『あんた達、行くところがないの?ヘルメット団って大変なんだね……。なら丁度いい。私に雇われない?』

 

 土地の利権を求めてカイザーローンに話をしても濁されるだけだったのでカイザー本社に殴り込み。始まる大乱闘、まるで無双系ゲームのごとく千切っては投げされるカイザーの兵隊たち。主力兵器を持ち出してきたカイザー相手にどこからともなく呼び出されるオートマタ、とでも言えばいいのか、全長十数メートルはあろうかという大型の蛇のような複数のロボット。最終的にカイザーが白旗を上げることになり事態は収まった。

 

 シロコ達は今でも覚えている、突然の襲撃者。もといビナーが殴り込みをかけてきて、一方的にボコボコにされた後前線に出てきたカイザージェネラルが『これほどの個人の戦闘力に未知の兵器。な、何者だ貴様……』『ベクターX、とでも名乗っておこうかな?』という会話を。

 

 結局、抗争になったのは行き違いでビナーは土地についての話をしたかっただけなのにカイザー側が戦闘を仕掛けてきたということを知りジェネラルは頭を抱え。結局、改めてテーブルの席のつくも『総額10億に対して途方もない金額を提示してくる』『多い分はこちらの簡単な『お願い』を聞いてくれればいい』『契約書は()()()()()()()()()()()に頼んでちゃんと用意したので、それにサインして欲しい。破ったらどうなっても知らない』などということがあり、結果としてアビドスの土地の権利はビナーへと渡った。

 

 そうなってしまうと、アビドス高校にとっての債権を持つ相手はカイザーではなくビナーということになってくる。突拍子もなくとんでもないことをやらかす彼女だが、まだカイザーと比べると話し合いの余地はある。そう思っていたアビドスの面々にも突然のトンデモが飛んでくることになる。

 

 

『はいこれ、これカイザーの持ってた土地の利権書。早速土地を借りたいっていう話をしたいんだけど』

 

 

 カイザーをボコボコにし、ジェネラルの心をへし折り。更に裏ではプレジデントにとっての手を出してはいけないブラックリストに最重要にして最警戒人物として登録された翌日。アビドス高校にふらりと現れて彼女が渡してきたのは、アタッシュケースとその中身。カイザーの持ってい土地の利権所だった。

 

 それはもうホシノ達は唖然とした。事態の理解が追いつかず、どういうことかと尋ねれば。

 

 

 

 ――『アビドスをこうしてしまった責任は私にもあるから、かな。未熟で、防ぎきれなかった責任もあると思ってるから』

 

 

 

 言っていることの理解が出来なかった。説明をして欲しい、と言おうとしたが彼女は有無を言わさずケースを押し付けてきて。『返品は認めないから。それにこれで、やっと土地の話ができる』と言った。

 

 

 その後も騒ぎは続いた。むしろ、今も続いているのだが。とにかくビナーがアビドスに現れ、活動拠点をいつのまにか作ってからはとんでもないことが続く。ある時は襲撃してくる不良やヘルメット団を持ち前の戦力と腕っぷしで制圧し、そのまま全員捕獲。何をするかと思えば突然食事をご馳走し始め、色々と話を聞いた彼女はそのまま全員『労働力が全然足りないんだ。あんた達、雇われない?』と言って全員雇ったり。突然ゲヘナの知り合いと言って温泉開発の専門家達と一緒にヘルメットを被り、温泉を掘ったり。かつてのアビドスのオアシスのまだ生きている水源を見つけ出して復活させたり。

 

 とてつもない速度で完成させた温泉施設にミレニアムの大親友と友達と言って、あるハッカー集団を完成祝いの時に招待したり。なお、その集団をまとめている眼鏡をかけた少女は最近とても多忙で、ゆっくりとできて本当に嬉しそうだったし、ちゃんとエナドリ専門の自販機も置かれているのを目にした少女は目を輝かせて温泉の後にそれを一気飲みしていた。

 

 

 借金がなくなっても、もっと慌ただしい日々が続くアビドス。現在では、ホシノ達も『一体ビナーちゃんって何者……?』と思ったそうだが、ビナー経由でミレニアムの上層部。それも生徒会長であるリオへと相談が行ったらしく、更にそこからその話が先生にも飛んで連邦生徒会で自治区としての権利が復旧されもした。これで、発言権なども戻ってきた形になる。加えて、ビナーの主導になっているプロジェクトがミレニアムでは事業開拓という他にも研究や生産面でもメリットが大きいということでセミナーでの予算なども降りたのだという。

 

 

 そんな慌ただしい日々の中心。台風の目と言ってもいい彼女が言った言葉がこれである。

 

 

 ――『さあ、復興と開拓の旅を始めよう!名付けて……『ぽこあアビドス』!』

 

 

 

 

 

    ◆     ◆     ◆

 

 

 

 

「姐さん、今月の生産報告書が上がってきたので見てもらいたく」

 

「姉御、ゲヘナやトリニティからも取引をしたいという打診が」

 

「ボス!アビドス市街地復興と砂漠地帯再開発について、連邦生徒会から外部の企業から打診が来ていると連絡が」

 

「リーダー!リオ会長閣下から定例会議についての相談が。『忙しいなら日を再調整する』と伝言付きで」

 

「他所のシマのヘルメット団や不良が最近このあたりに増えてます、ウチのシマに手を出す輩も増えてきていまして……どうしますか!?ケジメつけますか!?」

 

「美食研の奴らがまた作物を荒らして……!なんとか手を打たないと不味いです!」

 

 

「や、やることが……やることが多い……!」

 

 

 アビドス自治区。アビドス高校が存在する地区の空き地や空き家が固まっている区域を彼女が買い取ってアビドスでの活動拠点とした場所。比較的広いそこは現在、ミレニアムで開発されたユニットハウスやプレハブ後夜などが設置され、更には軍事仕様のキャンプ設備やそれぞれの建物に空調も完備、シャワーや浴槽もしっかりとありここで快適に暮らすことも出来るようなものとなっていた。

 

 敷地内にはしっかりとしたセキュリティ設備に、ミレニアム謹製のドローンやオートマタが配備されており厳重な体制である。この施設では、ビナーの雇っている元ヘルメット団や不良などが当番制で仕事をしており、担当は寝泊まりもしている。

 

 現在、ビナーの雇っている生徒は既に100名近くなっている。というのも、彼女が最初に少し暴れすぎて、それで噂になったことにより各自地区の名のある不良やヘルメット団の一部がアビドスにやってきて彼女に挑戦したり、噂を聞いて自分達も働かせて欲しいと言ってきたためだ。

 

 しかもその中には、ヘルメット団の中でも幹部として名高い河駒風ラブの姿もあった。何かと金欠が続き、自分についてきてくれる部下達をどうやって食べさせていくかと悩んでいた所にビナーの噂を聞きつけ、『強者であるそいつを倒せば自分達の名は売れてしかも物資も手に入る』と考えて挑んだのだが、結果は惨敗。しかし、ビナーとしては彼女やその部下に何かを感じたのか『ねえ、あんたウチで働かない?』とスカウトしたのだ。

 

 現在の彼女の業務は多岐にわたる。アビドスの砂漠化した土地の再開発と復興、それを利用した新規事業計画。アビドス高校からの依頼で、協同での自治区の見回りや防犯対策など治安維持活動。軌道に乗っているハウス栽培などの農産業の育成計画と管理に、他自治区からの打診などへの対応などなど……とにかくやることは尽きず、雇っている従業員達からの報告も途切れることがない。

 

 預言者としての身体なら疲れ知らずだが現在は彼女も生徒である。キヴォトス全体で見て高いスペックを持っているとはいえ、それでも疲労感などは当然ある。現に、それを誤魔化すかのように彼女のデスクの近くには親友であるマキが贈ってくれつつも『飲みすぎないようにね』と釘を差されている、ヴェリタス謹製のエナジードリンクが箱で積まれている。

 

 

「施設への襲撃や美食研の件は会議で対策を決めよう、その時に生産報告のデータの報告をもとにしての被害想定の資料は作っておくから、担当班長にはそう連絡して。ゲヘナやトリニティとの取引は現状無理だから私が断っておく、手が回らないよ。リオ会長の件は最優先で予定を組もうか、前回も気を遣ってもらったしね。 ――それで次は」

 

 飲みかけだったエナドリを一気に飲むと報告されている案件について迅速に処理していく。特に最近は農産業施設への襲撃被害が深刻になりつつあった。施設から盗み出した作物を他の自治区の駅前や人通りの少ないところで格安販売したりする盗人がついに自分達のところでも出たのだ。既にこれについては対策準備中で、姉妹の一人であるホドに頼んで彼女が自作した高性能オートマタを配置予定だ。

 

 とにかく焦らないことが大切だと彼女は考えている。アビドスは広大だ、このアビドスを開拓していくには時間がかかる。まず自分がミレニアムに在学している期間では到底終わらないだろう。だからこそこの先も安定して開拓を続けるために、『Poco a poco(少しづつ 徐々に)』をモットーとしているのだ。

 

 

 

 千里の道も一歩からと言う。

 

 かつて自分が守ってあげられなかったアビドスを新たな形として復興する旅は始まったばかりなのだ。

 

 

 

 




■中型ビナー(オートマタ)
 ビナーがどこからともなく呼び出して展開してくる預言者だった頃のビナーそっくりの、全長十数メートルの蛇の見た目をした機械蛇。ヘイローはないが、オレンジ色に淡く発光している。個体数は3。収束熱光線やミサイルなどを容赦なく撃ってくる。普段は開拓作業などを手伝っている。

■美食研
 ビナーとその仲間達の現在の対処すべき存在。農作物と施設を荒らし去っていくことから、つけられた渾名は『美食の獣』。ついにキレたビナーは中型ビナー達とホド謹製のオートマタの導入を決定した。美食研によく巻き込まれているフウカには作物を降ろしてもいいと思っている。
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