「我がセミナーの広報担当を……? ――コユキ、おかわりが欲しいのですか?ふふ、安心してください。まだありますよ」
『わーい!マルクト先輩大好きです!』とぴょんぴょん、と跳ねながら差し出されたクッキーの山を受け取るコユキ。そうして颯爽と去っていく。それを引きつった顔で見ているのはユウカだ。
「ええ、先日セミナー用の生徒手帳とIDカードを渡したのは実はそれが関係していて……。あの、マルクト先輩?コユキを甘やかし過ぎでは?」
「む、そうですか?最近コユキはとても真面目に仕事をしてくれています。なら、それに報いるのは当然のことでしょう」
「た、確かに最近コユキが異常なほど仕事をしてくれてますけど……。というか、先輩に懐き過ぎじゃ……?」
「我の妹達は知っているでしょう?後、妹ではないですが似たような者達も。コユキは少し元気な、それと似たようなものです」
ユウカは鋼鉄大陸での一件を全てリオ、そして先生から聞いている。彼女もまたシャーレの部員であり、主に書類仕事や事務が多いもののシャーレの財政管理を行っているのは彼女である。
シャーレの一員として、ということでシャーレに所属するすべての生徒には今回の件は説明されている。それは、先生が所属している生徒達を信頼するが故にだろう。
マルクト達がミレニアムに馴染むのは早かった。元々、ミレニアムとは科学や研究、学術を重んじている自治区でもある。だからこそ、高い技術者としての才能を持つアイン・ソフ・オウルの3名はすぐに注目の的となり、様々な部活動からスカウトを受けていた。
マルクト自身も人柄は素朴で温厚。そして本人の持つ包容力のある振る舞いに、人を惹きつけるようなカリスマ性。知識や技能は姉というだけあり、3人の妹以上であり、実力も高い。それらがあって、すぐさま人の輪が出来ていた。本人は最初、慣れていないことで困惑していたが。
とにかく人に懐かれたり、惹きつけたりしやすいのだ。彼女は。
「……これは我の勝手な予想ですが、コユキの言う楽しいこと、という中には『期待される』ということも含まれているのだと思いますよ」
「期待、ですか?」
「はい。あの子は優秀です、しかし自分のできることはできて当たり前と思っている節があります。ですから、期待されるといったことが未知なのではないでしょうか?。期待されるから、それに応えたい。期待されるということは、自分を見てくれているということ。だからそれに応えるのが楽しい。という感じなのではないでしょうか」
「期待されるのが楽しい、ですか。……難しい話ですね」
「期待などというものがなかったとしても、我にとってはコユキは手のかかるかわいい妹のようなものです。……話が逸れましたね。それで、何故我をセミナーの広報担当に?」
「話せば少し長くなるのですが……」
「ふふ、構いませんよ。つい作りすぎてしまったクッキーでも食べながら話しましょうか」
「いや本当マルクト先輩料理上手ですよね……。お店のクッキーと言われても納得するレベルですよこれ……」
ユウカは思う。事情は知っているが、この先輩はそれにしても何でも出来すぎではないのかと。才色兼備で実力もあり、料理もできる、加えて人を惹きつけるカリスマ性とでも言うべきものに、つい甘えたくなってしまうような包容力。いつも自分は『完璧~』などと言っているが、真の完璧とはこの人のことを指すのではなかろうか、と思った。
このままだと無限にクッキーと紅茶をループすることになり抜け出せなくなってしまいそうなので、コホンと咳払いをしたユウカは事の次第を説明することにした。
「実は、ミレニアムの生徒会……主に役職持ちのセミナーは、殆どが私とノアでやっていたんです。最近リオ会長が戻ってきてくれて生徒会長としての職務を進めてくれるようになったので今のところ3人、ではなくコユキも最近ものすごい勢いで仕事をしてくれているので四人にはなりましたが」
「生徒会長のリオ、会計がユウカ、書記はノア、コユキは庶務……のようなものでしたか?それから、直下にエージェントの部隊としてC&Cが居ましたね」
「はい。掻い摘んで言うと、ミレニアムについてのことを外部に発信する役職持ちが居ないんです。というよりは、そういった適性の持ち主が居ないと言いますか……」
そうして、ユウカは事情と事の発端を話し始めた。
居ないのだ、『広報』というミレニアムのことについて外部に発信したりする適性の持ち主が。まず二足の草鞋を前提とした場合、リオは合理主義者の上に言ってしまえばコミュ障な面がある。しかも、今まで殆ど表に出てこなかったせいで、一部からは生徒会長の名前だけ知っている、という生徒もいるくらいだ。加えて本人にやれるかと聞けば、全力で否定するだろう。
続けてユウカとノアだが、実はこの二人も適正がそこまで高くない。二人揃ってそんなことに慣れていないというのもあるが、もしやるとすれば少々硬すぎるというか、真面目すぎる傾向がある。コユキについては明るく人受けもいいが、問題児である。広報など担当すればどんな事故が起こるかわからない。
そもそもこの『広報』という役職についての話題が持ち上がったのは、リオが戻ってきてから開かれたセミナーの会議の場が始まりである。リオも戻ってきたのだから、生徒会としての仕事や機能を改善したり拡張していこう、そんな話題になった時に出たのだ。
これから高等学校に進む中等部の生徒や、まだ先だが初等部の生徒にもミレニアムについて興味を持ってもらいたい。それだけではなく、企業や住民に対してミレニアムのことについて発信していくことは、理解や認知だけではなく他にも多大なメリットにも繋がる。それだけ『広報』という役職は重要なものなのだが、適任者が中々居なかった。
そこで白羽の矢が立ったのがマルクトだった。
鋼鉄大陸の騒動の解決、マルクトや三人の妹、預言者達がミレニアムの生徒となって暫く。期間にしてまだそこまで長いものではないが、マルクトという生徒は既にミレニアムで多大な信頼と人気があった。一部ではファンクラブが出来ていたりするくらいだ。
突然ミレニアムに爽快と現れた、博識で聡明。母性溢れる生徒を駄目にする存在。それが巷で言われているマルクトの人物像である。
更には、こんなことまで言われていた。
『リオ会長を裏の支配者とするならマルクト先輩は表の支配者』
『ミレニアムの聖女にして聖母』
当然リオは頭を抱えた。しかし、自分が今までやってきたことも当然わかっているので何も言えない。そしてマルクトがそんなことを巷で言われていると知ったヒマリは『こ、このままでは超天才清楚系病弱美少女ハッカーとしての立場が危ういかもしれません……』とぼやいていた。
総じて、マルクトはその性格や立ち振舞もあって人から好かれやすかった。本人の真面目さや気品とでも言うのか。それだけではなくミレニアムの生徒となってからはよく笑うようになったり、物腰が柔らかくなったこともあり、『広報』としてこれ以上ない適性の持ち主だったのだ。
「なるほど……話はわかりましたがユウカ、広報とは何をすればいいのでしょうか?我もまだキヴォトスのことを色々と勉強している身ですし」
「具体的には、ミレニアムのことやミレニアムでのイベントのことを何かの形で発信していく、というのが仕事になりますね。後は、ウチで開発した新製品とかのレビューとか、自地区関係なく何気ないことを発信したりでしょうか。活動する、ということに意味があると私は思っていて、色々な人にミレニアムを知ってもらう、というのが目的ですね」
「ふむ……何気ないこととは、例えば我の妹達がゲームをしている様子だったり、我達が何処かに旅行をしている時の動画や写真の投稿でもいいのでしょうか?」
「あー……絶対に人気出そうですそれ……。いいと思いますよ、活動についてはセミナーの役職として裁量をお渡ししますし、自由にやっていただいても」
「そうですね……ビナーは最近、アビドスで土地を購入してハウス栽培をしたりしていますが、そんな様子とかでも?トマトに特に力を入れているそうです」
「この前差し入れで採れたトマト持ってきてくれましたよ、あの子。すごく甘みがあっておいしかったです。それにマキちゃんと凄く仲が良いんですよねー……。確かに、預言者……ではもうないですね。あの子達はそれぞれが個性的ですし、ミレニアムの生徒の一面というか日常もまた、広報としていいかもしれません」
マルクトは思う。自分はまだ、このキヴォトスのことを多く知らない。知識はあっても、実際に自らで体験したり見るのとでは別物だろう。なら、自分もまたこの『広報』という役職を通して、このキヴォトスという世界や多くの生徒や人について知っていくこともできるかもしれない。そうして、その自分が知ったことを、体験したり見たことを発信していくというのも面白いだろうと。それはきっと、自分がまだ知らない未知なのだと思った。
「わかりました。その役職、引き受けましょうユウカ。これからは同じセミナー同士ということになりますね、よろしくお願いします」
「いや本当先輩がセミナーに入ってくれると助かることばかりで……。よろしくお願いします、マルクト先輩」
こうして。マルクトはセミナーの一員として、『広報』としての仕事をすることが決まった。
■マルクト
なんやかんやあって生徒になった。敵対していた頃程の力や神に近しい権能は失われているがそれでもかなり強い、使っていたランス型武装やビット兵器などは呼び出せる。ネルクラスのミレニアムの最高戦力の一人になった。
登録上のデータは3年生。妹達は3人とも高等部1年生。母性とカリスマ性に溢れる姉であり、大抵のことは何でも出来てしまう才色兼備。特に本人は最近料理にはまっているらしい。その立ち振る舞いや性格から、数多くのミレニアムの生徒を駄目にした。よくミレニアムの白制服と白いジャケットを着ている。本人曰く、着心地がいいとのこと。
■コユキ
マルクトに駄目にされた一人。妹達と同じように可愛がられておりとてもマルクトに懐いている。そのせいもあってか、最近は庶務として仕事をこなすようになった。
■ユウカ
『忙しい時は我でよければ手伝いましょう』と言われて感動した。マルクトがセミナー入りしてくれて本当に頭が上がらないと思っている。最近マルクトを見て完璧の定義とはこの先輩のことでは?とたまに考えるようになった。
■ビナー
生徒化したビナー。マキととても仲良し。かわいいものが好き、よく好みの動物の画像を保存している。少し前にアビドスに土地を買った。所属部活動はないがよく様々な分野問わずの部活動から助っ人として呼ばれることがある。強いてよく共に行動をしている生徒達をあげるとすれば、ヴェリタス。いつの間にかヴェリタスの用心棒や守護神と呼ばれるようになった。
崩壊スターレイルの星のような見た目をしている。