「……さて、どうしたものでしょうか」
ミレニアムの白の制服に、その上に羽織るのは白のジャケット。首から下げているのはセミナーの一員であることを示すIDカード。そして絹のような、白い長髪を揺らしながらマルクトは歩き、悩んでいた。
考え事をしているとは言え、彼女は道中ミレニアムの生徒に声をかけられたりすれば礼儀正しく返事や言葉を返していた。彼女は現在ミレニアムにおいては有名人であり人気者でもある。中には言葉を返されて黄色い声を上げたり興奮気味の生徒も居たが。
セミナーの一員となり数日。セミナーに入ったことを妹達に報告すれば、三人揃って『流石はお姉様!』と祝ってくれた。更にどこから情報が行ったのか、就任初日に元預言者達からも次々にモモトークで祝いのメッセージが届いていた。
そうして。現在の彼女の悩みは、セミナーの広報としての最初の活動をどうするのか、ということだった。
自分も生徒としてキヴォトスで暮らし始めてまだそこまで長いわけではない。人との付き合い方やキヴォトスでの暮らし方というものについては慣れてきたものの、こういった役職持ちとして活動的だったり、創造的なことをするのはよくわかっていない。
最初の活動についてユウカやノアに相談した所、直近でミレニアムのイベントはないとのこと。なので、広報としての活動を始めるという顔見せ、という意味合いでまずは自由に発信してみてはどうか、と言われた。
セミナーの広報として、ミレニアムサイエンススクールの公式SNSでの発信も一任されており、最近では写真などだけではなく配信という形でも情報を発信している所も多いと聞き、まずは顔見せとしてどうするのかということを悩んでいたのだ。
ひとまず、挨拶という意味合いでミレニアムの公式SNSで自分が広報として就任したことを書いて、折角なのでその時その場に居たユウカとノアと共に三人揃っての写真を添付して投稿した所、とんでもない勢いで『いいね!』がされ、大量の拡散もされていた。ただ挨拶をしただけなのにどうして、とマルクトは困惑した。
彼女の存ぜぬことではあるが、とにかく彼女は人気がある。加えて、容姿端麗である。一見してクールな顔立ちをしている彼女が、その投稿で同じように美少女のユウカとノアと一緒に肩を寄せ合うようにして笑顔で写真に写っていたのだ。一部のファン、そして妹達と彼女のことを様々な姉呼びをしている元預言者達はそれでノックダウンされた。
更にはこれも彼女が意図していないことだが彼女についてまだ知らない他自治地区の生徒もこの投稿を見ており、
『え、ミレニアムにこんな人居た?』
『顔が良すぎる』
『ばぶぅ……』
『この人がミレニアムの生徒会長ですか?』
『なにこの絵面、トウトイテイオー』
『好みの姉さまと二人だったので保存した……さらばだ……』
など。かなり多くの反応がされていた。当然シャーレの先生も確認しており『マルクト、ちゃんと楽しくやってるみたいで安心した』と思ったという。
「なんでもいい、というのが一番難しいと我は此方に来てから実感しました……。妹達に食事のリクエストを聞いても、我の作るものならなんでもおいしい、と言ってくれるのは嬉しいのですが具体案が出てこなくて困ってしまうのです。それと同じ状況に今我は陥っている……」
困った。そう思い特に今日は予定もなく、何かいい案でも浮かばないかと校内を歩いていると。
「ぱんぱかぱーん!アリスはマルクトとエンカウントしました!」
「……珍しいですね。あなたが部室棟を歩いているとは」
ふと、声をかけられて振り向くと。そこには見知った、かつて決戦を敵として戦った相手が居た。黒の長髪に空色の瞳の生徒、そしてその対のように白い長髪に赤の瞳を持つ生徒。二人揃って小柄ではあり、一見してしまえば姉妹にも見える。もっとも、姉妹でもあり、家族でもあることをマルクトも知っているのだが。
「おや、アリスにケイですか。 ――そうですか、ここが部室棟。普段はあまりこない場所にどうやら来ていたようです」
「あっ!そういえばマルクトはリオ先輩と同じ3年生だから先輩です!ええっと……マルクト先輩、と呼んだほうがいいですか?」
「ふふ、今まで通りで構いませんよアリス」
かつては敵対していた同士ではあるが、今では同じ生徒である。そうして、同じミレニアムの生徒でもある。アリスとしては、もうマルクト達は謂わば仲間であった。しかし、どうにも彼女とよく似た少女は、まだ僅かに警戒心を見せていた。
「我がやってきたことを考えれば、警戒されるのは当然だと思います。ですが、今の私は貴女達と同じ生徒のつもりです。そして貴女達や先生がくれた今の日常が全てだと思っていますよ」
「それは、わかってるんです。貴女達がこちらに来てからの様子を見ていれば、もう私達と敵対することもないだろうということくらいは……。ただ、色々ありすぎて私はまだ整理がついていないと言うか。別にマルクト、あなたのことが嫌いなわけではなくて……」
「ケイもマルクト達が大好きなことアリスは知ってます!恥ずかしがってるだけです!」
「なっ、なななっ……あ、アリス……!」
「この前ケイはユズと格闘ゲームをしに部室まで来たダアトと色々なゲームで対戦してボコボコにされて、それでムキになっていましたがとても楽しそうでした!」
「やたらとゲーム上手いんですよ、あの子……運動部なのに……!しかも運要素の絡むすごろくゲームでもやたらと運がいいんですよ……。そもそもユズとまともに対戦が成立しているのが本当異常です……!ダアトは一度しか勝ててないですけど」
「でもユズもダアトと対戦してる時本気みたいな顔して、いつも笑ってます!楽しそうです!」
微笑ましいな、と思いながら我が家の妹達と同じみたいだと思い口元に笑みを浮かべて二人を見ている。しかし、ダアトがゲーム開発部に出入りしているのは知らなかったと思い驚いた。運動部での活躍はよく耳にしていたが、あの子なりに他にも色々と楽しいものを見つけているようだ。
そうしてふと。ケイが何かを思い出したようにした。
「そういえば。セミナーへの就任、おめでとうございます」
「ありがとうございます。……ですが、今悩んでいるのがそのことなんですよ。考え事をしながら歩いていたら、ここまで来てしまったという感じですね」
「悩み、ですか?少し驚きました。あなたはなんでもそつなくこなす人物だと思っていたので」
「ええ、実は――」
そうしてマルクトはぽつり、ぽつりと話した。セミナーの広報担当に就任したはいいものの、最初の活動として何をすればいいのか。折角なので、ミレニアムについて興味や関心を持ってもらえるようなものにしたいと考えている。ということを話した。
「でしたらアリスにいい考えがあります!きっと部室棟まで来てアリス達に遭遇したのは、幸運というやつです!」
ケイも事情を聞いて『うーん』と頭を悩ませていた時、突然元気よく手を上げてそんなことを言ったのはアリスだ。マルクトとケイはアリスを見ると、そさの表情にはまさにいいアイディアが浮かびました、とでも書かれているように見えた。
「ゲームをしている所を配信すればいいんです!」
「ゲーム配信、ですか?」
マルクトは首を傾げた。ゲームというものはマルクトも知っている。自分の妹達がこちらで生徒になってから熱中している娯楽であり、つい先日も夜更かしを注意したばかりだ。そういえば、妹達はエンジニア部での活動の傍ら、ゲーム開発部にも顔を出していたなと思う。
しかし。自分はゲームというものに対して殆ど経験がない。むしろ、皆無と言っていい。
「アリス、確かによく『KivoTube』や『Kivotch』でゲームを配信している方は居ますが……そういえばたまにダアトも配信してますね」
「ダアトはすごいです!流石いつもユズと激戦を繰り広げるだけあります!」
「運動部メインのあの子を見てるとなんとも意外と言えば意外なんですけどね……。しかしアリス、マルクトはゲームを殆どやらないような人物ですよ?」
「だからです!ゲームを殆どやったことがない人がゲームを実況して、それが盛り上がっているのをこの前モモイ達と見ました」
「……なるほど、そういうことですか。確かに、活動の取っつきとしては硬すぎず、それでいて盛り上がりも見込めますし、ゲームという娯楽なら目を向ける人は多そうです」
まだ状況が良くわかっていないマルクトだったが、アリスとケイは揃って『うんうん』と頷いており。そして、考えがまとまったのかアリスはマルクトへと言った。
「マルクト、一緒に来て下さい!」
「それは構いませんが……一体何処に?」
「はい!アリス達の、ゲーム開発部の部室です!」
◆ ◆ ◆
次回予告。
『アバンギャルド君……あれは素晴らしいです』
『先日、リオにアバンギャルド君四脚ぬいぐるみ特大サイズを頼んだ所です』
『も、もしかして……マルクト先輩の感性ってリオ会長に近いんじゃ』
『あれ……?モモイ、TSC2のカセット、ここにありますけど……?』
『そんなことないはずだよケイー? ……あれ、本当だ。ということは、もしかして』
『モモイ、この前渡したラベルなしカセットはまさか――!』
『……TSCの初期ロットの完成品。部室用にって置いてたラベルなしカセット、間違って渡しちゃった』
『ま、まずいです!初めてゲームをやるマルクトにアリス達はク……とんでもないものを渡してしまいました!』
『むむ……映っているでしょうか?』
『今日は初めての広報としての活動ということで、我の自己紹介。そして、ゲームをやっていきたいと思います。普段ゲームなどやらないので、少し緊張しますね』
『今回やるゲームはゲーム開発部からおすすめのものを借りてきました。ラベルもなにもないので、どんなゲームかわかりませんが逆に楽しみですね』
次回、マルクト。ゲームを体験する。
伝説となる配信が、始まる。
■ダアト(生徒の姿)
ボーイッシュな性格。特定の所属部活動はないが、ミレニアムの数多くの運動部でよく助っ人として活動している。預言者だった頃、ユズの操るネオアバンギャルド君と激戦の末に敗北したことが悔しく、生徒になってからは運動部の助っ人の合間にこっそりとゲームも嗜んでいる。
主にプレイするのは格闘ゲームとFPS。どちらのジャンルにおいても極めて高い実力を持つが、頻繁にゲーム開発部に現れてユズに挑戦し未だに一度しか勝てていない。それでも本気のユズ相手に一度勝っているのが異常。ユズも彼女との対戦は本気を出さなければならないほど白熱したものになるため、自分に挑戦するためによく部室に来てくれるのが密かな楽しみになっている。
某ゲームのボルチモアのような見た目をしている。
■『KivoTube』 『Kivotch』
動画を投稿したり、配信をするキヴォトスの大手サイト。
■あとがき
某所にミレニアムの制服を着たマルクトの絵があがっていて昇天した作者です。まさに私の脳内で描いていた通りの絵だった。あまりの美しさにずっと『ばぶぅ……』って言ってた。
ゲームのチュートリアルを抜けたマルクトを待っていたのは、また地獄だった。
精神の破壊のあとに住み着いた絶望と理不尽。
ゲーム開発部が生み出した、パンドラの箱。
その中にあるのは、クリアという希望か。心が折れる絶望か。
次回、マルクト。はじめての
『ふーざーけーなーいーでーくーだーさーいー!』