マルクトのセミナー『広報』としての配信から暫く。あれから、ミレニアムにはちょっとした追い風が吹いていた。
あの後のことを記しておけば、先日の一件。マルクトの放送直後にユウカはそれはもう鬼のような形相でゲーム開発部へと乗り込んだ。確かに半ば事故のようなものであり、誰一人として悪いわけではない。しかし、結果だけ見ればモモイがとんでもないゲームをマルクトに渡したとも言える。よってユウカは本気で怒った訳では無いが、厳重注意を行った。
しかしある意味、現在起こってる追い風とも言えるそれはモモイのお陰とも言えるかもしれない。先日の配信は大好評であり、SNSでは一時的にではあったが『#ミレニアムサイエンススクール公式放送』のタグはトレンド一位を獲得。視聴者数も、数字にうるさいユウカが桁を見間違えたと勘違いするほどであり、タイムシフトも怒涛の勢いで再生されている。特にマルクトが本気で怒って冷静さを失い、肩を震わせながら涙目になって叫んでいるシーンはとてつもない人気だった。
そのお陰とでも言うべきか、裏ではTSCに挑戦するチャレンジャーが増えたり、独特な解説用のフレームと個性的な饅頭のようなキャラクターを使用して動画を投稿する者も出てきた。
言ってしまえば、放送事故による話題性の活性化だろう。だが、ミレニアムという自治区であり学区にもその影響は起きていた。
というのも、最近になって初等部や中等部の学校からのミレニアムサイエンススクールへの見学希望が続々と申請されているのだ。それも、セミナーのユウカとノア、そこに駆り出されたコユキが加わっても捌ききれないほどにだ。
キヴォトスには、数千を超える学校が存在している。自治区での換算にしても、かなりの数になるだろう。そこから現時点で既に100近い学校から申請があったという状況で、それは今もなお増え続けている。
更には、クロノススクール主導で行われた、初等部と中等部の学生を対象にした『進学したい・興味のある学校ランキング』で二位に大差をつけて堂々の一位という結果まで残してしまった。特に評価されていたのはミレニアムの治安、そして生徒の質の高さで、数ある自治区の中でもトップレベルに治安が良く、学生もミレニアムという学術や技術、科学を重んじる学校というだけあってできた生徒が多い。かといって最近のミレニアムは硬すぎるわけでもなく、過ごしやすい雰囲気がある。とコメントされていたようだ。
なお、二位は三大高ではなく、ワイルドハント芸術学院だった。歴史があり美しい学校や、芸術を重んじる気質、そして最近になって学校の治安安定化のために見直された寮やそのルールについても進学を考える学生からは評価が高かったようだ。
そんなセミナーやその関係者は現在大忙しな状況下。変わらずの日々を過ごしている者達も居る。
生徒としての存在を得た、元預言者達。
世界を見たいと言い旅をしている、レトロ自販機が大好きな一番上の姉。
そして此方に来てからは騒がしく、だがそれでいて楽しく所属する部活動で姉妹喧嘩をする。3人の姉妹。
アイン、ソフ、オウルである。
◆ ◆ ◆
「世界を驚かすものを作るには、まず私達が驚いてワクワクしなければならないと思うんだよね!」
「よく言いましたソフ!その通りです!ですがプロジェクトの工数管理はきっちりと守ってくださいね!」
「わかってないなあオウルは、浪漫を実現するためには時間が必要なんだよ?決められた時間で浪漫は完成しないんだ」
「それで結局何の成果もなく御蔵入りになったプロジェクト幾つあるかわかってます?この浪漫馬鹿!」
「な、なにおぅ!?大体オウルの計画はコストも工数も厳しすぎると思うんだよね!」
「資源も時間も有限なんですよ!?それすらもわからないんですか!?」
「ハードは見た目にも性能にも大きく関わるから……予算と工数多めにもらってもいい、ですよね?えへへ……」
「アインはコスト使いすぎ!なんでハードに全体予算の4割も割く計画になってるのさ!」
「そうです!それで大体予算不足でプロジェクト組み直しになってるんですよ!?コスト削減して下さい!」
「ひ、ひぃん……」
ミレニアムサイエンススクールの部室棟にある、エンジニア部が保有する部室。というよりは、大きな工房とも言えるそこでは、最早風物詩と言ってもいいことが起こっていた。それを見ているウタハ達は『ああ、いつものか』というように落ち着いており、その状況を傍から楽しそうに眺めている。
揉めているのは、最近ミレニアムの生徒となった3人姉妹。アイン、ソフ、オウルの3名だ。三人揃って白のミレニアムの制服に白のジャケットに身を包み、工房の一角にある会議スペースのひとつで口論を交わしている。
そうして。彼女達も生徒になったことで変化がある。ヘイローもそうだが、鋼鉄大陸騒動の時はそれぞれが目、耳、口を隠すようにつけていたものを今はつけていないのだ。
「ふふ、まったく……賑やかになったね、うちの部も」
「そんなこと言って、口元笑ってるよ先輩」
「なに、嬉しいのさ。騒がしくも楽しい最近の日々がね。……正直、あの3人が入部してくれるとは思ってなかったからね」
「勧誘もしてなかったからね。来て欲しい、とは思ってたけど」
ヒートアップしていた喧嘩は、こちらも既にお決まりのパターンになってきたもので。コトリが仲裁に入り三人の意見をそれぞれ聞いて、わかりやすく『こうしよう』『ああしよう』と提案したりして意見をまとめていた。それを続けて眺めているのは、『エンジニア部』の部長であるウタハと、一年生のヒビキだ。
エンジニア部の面々は鋼鉄大陸騒動のことを知らない。なので、アイン達やマルクトに彼女の姉、そして元預言者達のことはミレニアムに転入してきた転入生、くらいのことしか知らない。ミレニアムの生徒はあまり些細なことを気にせず、要するにミレニアムの生徒として適性があるかないかを主に見ていてる。なので、突然合計で15人もの転入生が現れても、全員がミレニアムに対しての適性が極めて高く。中にはとんでもない才能の持ち主まで居たことから、誰も突然の転入を気にする者は居なかった。
アイン達もミレニアムへの適性の持ち主としてそれに漏れることはない。それどころか、アイン達三人は姉と旅をしている方の姉を除けば、最も技術力に長けていた。それは瞬く間にミレニアムに広がり、三人揃って高い評価を受けると同時に大人気になった。沢山の生徒に囲まれて、技術者としての話をするのは初めての経験で困惑していた3人だったが、それでもとても楽しそうに話をしていた。
当然、『是非我が部に!』と勧誘する者はたくさん居た。エンジニア部も来てほしいと考えていた部の一つだったが、無理な勧誘はしないのがエンジニア部のモットーである。確かに部員は三人しか居なく、結果を出しているから廃部も免れている。来てくれることに越したことはないが、無理矢理というのはよくないだろう。そんな考えでいたのが、つい先日までだ。
そうしてある日。現在の部室の入口に来客が現れた。何処かの部からの修理依頼だろうか、そう思い扉を開けたウタハが見たのは、小柄で色白な、ミレニアムの制服に身を包む3人の少女だった。
『エンジニア部というのは、ここでしょうか?私はオウルといいます。こちらは姉妹のアインとソフです。 ――新入部員の受付はしているとセミナーのユウカ先輩から聞きました。私達を入部させてもらえないでしょうか』
突然の申し出。それは大歓迎であったが、それと同じくらい疑問も湧いてきた。なぜうちの部に、というものだ。
エンジニア部は結果を出している。だが、同時につい時々ノリや勢い、技術者としての魂が疼いて暴走することがある。それれより起こした問題も多く、ゲーム開発部からは『バカだ!頭良いのにバカの集団がいる!』とも称された。結果は出すが問題も多いし部員も少ないのがエンジニア部なのだ。
だからウタハは問うた。何故、うちの部活にと。
そうして出てきたのは、エンジニア部にとってもよく知る少女の名前。アリスだった。実はアリスの愛用する武器である光の剣はエンジニア部が作り上げたという話をゲーム開発部でゲームをしながら三人は聞いて、それはもう興味を持ったのだという。更に、その場の話で盛り上がりエンジニア部の話にもなった。そこで、面白い話を沢山聞いて三人は目を輝かせたのだ。
あんな頭のおかしいものを作る部活がミレニアムにあるのか、むしろ浪漫がつまっているからいい、自分達もあんなものを作ってみたい。大体これが3人の考えではあるが、彼女達は姉妹達の中では特に技術者寄りである。そうして、所属するならここがいいとエンジニア部を希望したのだ。
「ふむ……ハード、ソフト、管理の3人。プレゼンのコトリ、総合適性が高いヒビキはプロジェクトリーダーとして……これは、面白いかもしれないね」
「今何か不穏なこと言わなかった?」
なにか嫌な予感がする。思わずウタハの顔を見たヒビキだったが、少しの間考え込んだようにしたウタハはなにか考えが纏ったようにして。
「全員を集めてくれ。私から話がある」
◆ ◆ ◆
「ミレニアム・ファンディング・コンペティション……通称、MFCですか?」
「ウタハ先輩、私達最近こっちにきたばかりなのでよくしらないので説明をしてもらえると……」
「で、でもなんか面白いそうな響きですね……。あれ?ヒビキちゃんにコトリちゃんはどうして緊張したような顔になってるんですか?」
アイン、ソフ、オウルの三人は頭の上に疑問符を浮かべていた。しかし、それとは対象的にコトリとヒビキの表情は緊張したものになっていた。
「簡単に言うと、MFCは企業コンペのようなものだね。不定期に開催されていて、そこでミレニアムの企業や学生が形になったプロジェクトをプレゼンして、それに対して投資してもいいという企業が投資して、成立すれば最終的には商品や技術展開していくというものだ」
「ミレニアム限定、ということはもっと多くの自治区も含めたものもあるんですか?」
「うん、あるよアイン。ただ、そっちのほうはかなり大規模なイベントになるから数年に一度という頻度だけど、MFCは不定期ではあるけれど年に数回は行われる。ミレニアム限定だけど、うちの自治区は技術関係に熱意のある企業が多いから、学生と企業でちょっとしたお祭りみたいなものになる。実際、そこそこ大きな会場を確保してイベントとか、屋台なんかも出るからお祭りと言えばお祭りだね」
「うわ面白そう!つまりお祭りしながら色々な発表を見れるってことだよね!?」
「想定通りの反応ありがとう、ソフ。まあその通りなんだけど……別に私はただこれを見に行こう、と言っているわけではないんだ」
どういうことか、と首を傾げる三人。対してコトリとヒビキはといえば、『ああ、やっぱり……』という顔をした。
「君たち三人と、コトリとヒビキ。五人でプロジェクトチームを組んで、MFCで発表してもらいたい。今動いてる計画で、形にできそうなものはどれを使ってもらっても構わないよ。勿論新しいプロジェクトを作って、セミナーに申請して許可が出ればそれを使ってもいい」
当然驚いた。面白そうなお祭りの話をされたと思ったら、そこに参加しないかと言われたのだ。確かにいきなりのことで動揺はしたが、3人は技術者であある。そして、何よりも。自分達の成果を、誰かに見てもらうのが大好きなのだ。かつては姉のために、今は自分達やその技術を使ってくれる人のために。
「あれ……でも、5人ですか?ウタハ先輩はどうするんですか?」
ふと、疑問を投げたのはオウルだ。そう、ウタハは今5人チームと言った。そこに、彼女は含まれていない。
「私は今回、見る側に回らせてもらうよ。そして、君たちのプロジェクトにも口出ししない。 ――私は、一年生の5人がどんな新しいものを創り出し、どう世の中に発信していくか。それを見たいんだ」
今回のこの提案のウタハの真意。それは。
この部の次代を担う後輩達が、自分抜きでどんなことをするのかを見たいというものだった。
■三人娘
ミレニアムの1年生として元気にしている。頭の上には、歯車をモチーフにしたようなヘイローがそれぞれ浮かんでおり、微妙にそれぞれでデザインが異なっている。所属部活動は『エンジニア部』。元々三人揃って技術者としての才能が抜きん出ていたこと、ものづくりが大好きなこと、そして何より実用性や新技術の追求だけではなく浪漫も追い求めたいという気持ちがあったため入部した。
三人が喧嘩を始めたらそれを宥めて意見を整理し、形にしていくのがコトリであり、全般のことでサポートしているのがヒビキ。ウタハもよく一緒になって時には新しい技術革新を、時には浪漫を追い求めてセミナーから怒られているが、前より騒がしく楽しくなったエンジニア部がとても嬉しい様子。
■マルクトお姉様の放送事故
とんでもない勢いで拡散されてアーカイブがとんでもない勢いで再生された。ユウカが冗談抜きに桁を疑い翌日再度見てまた桁を疑った。マルクトの知名度が一気に上がり、『ミレニアムには美人の黒と白の生徒会長が居る』という噂まで出た。リオとマルクトのツーショットもとんでもない勢いで拡散された。様々な要因があって、ミレニアムの知名度も上がり志望希望者も増えた。
■進学したい学校ランキング
クロノス調べでは
1位:ミレニアム
2位:ワイルドハント
3位:ヴァルキューレ
4位:百鬼夜行
5位:オデュッセイア
となっていた。
ワイルドハントは近年規律の見直しによりある程度の自由があるようになり、学校自体の歴史があり美しい学校や、芸術を重んじる気質。生徒の自主性も尊重されるようになったため進学希望者がかなり増えた。ヴァルキューレは厳しいながらも各方面の治安維持のための育成機関であることとからキヴォトスの治安維持に貢献できるようになりたいと考える生徒に人気。百鬼夜行とオデュッセイアは、それぞれが海・山というように自然豊かで落ち着ける環境であると同時、生徒達の楽しげかつ賑やかな雰囲気が人気。
トリニティとゲヘナについては、5位以下となっていた。ゲヘナはその校風上、自由があるものの治安が悪く希望者が例年より減っており、トリニティについても様々な不祥事や問題、派閥同士の争いやドロドロとした人間関係が原因となり一般層だけではなく俗に言うお嬢様層からの希望者も減っている。
■その頃の長女
「ほう……シンプルなハンバーガーの自販機……。こういうのでいいんですよ、こういうので」