機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re   作:ボルメテウスさん

101 / 101
第101話

 白い回廊の奥で、メッサーラの影が翼を畳んだ。

 

 次の瞬間、黒い機体はMA形態のまま壁面すれすれを滑り、回廊そのものを弾丸に変えるような速度で突っ込んできた。白い壁に赤い観測光が並び、そのすべてが俺の手元、ガンダムXのシールド、背後の補助席まで測っている。

 

「来る。正面じゃない、右の壁に一度当ててくる」

 

 ドゥーの声が背後から飛んだ。

 

 俺はシールドを正面ではなく斜めへ立てた。

 直後、メッサーラの高出力ビームが右壁を焼き、跳ねた光が雨のように散ってガンダムXへ降りかかる。白い壁面を伝う溶融金属が、細い水筋みたいに流れ落ちた。

 

「反射砲撃か。回廊を盾じゃなく、銃身にしている」

 

『理解が早い。だが、理解した時にはもう次が来る』

 

 シロッコの声が、通信に薄く混ざった。

 

 メッサーラは壁面を蹴るように機体を反転させ、MA形態からMS形態へ起き上がった。巨体が白い天井をかすめ、こちらの頭上から砲口を向ける。逃げれば救出路が空く。受ければ左腕がもたない。迷う間もなく、二射目が降ってきた。

 

「左腕、まだ使うぞ」

 

 俺はシールドを上げ、背部装備の重さを逆に使って機体を沈ませた。衝撃がフレームを通って腰へ響く。シールド表面が焼け、警告が赤く散る。HADES監視端末の端が、呼吸するように一度だけ点滅した。

 

『その機体には、もっと速い答えを出せるものが眠っているはずだ。なぜ使わない』

 

「使えば、お前が喜ぶからだろ」

 

『君が怒りに身を任せるなら、観察は容易になる。過去の君は、それほど難しい人間ではなかった』

 

 メッサーラの腕部が開き、細いビームが回廊の観測端末をかすめて俺の左右を塞ぐ。白い壁の中に、昔の戦場の色が重なった。焼けた空、爆ぜた装甲、倒れた仲間の輪郭。あの時の俺なら、敵も壁も檻もまとめて焼いていた。

 

「ランガ、前に行きすぎてる。今の照準、奥まで貫く」

 

 ドゥーの声が、操縦席の背中を叩いた。

 

 俺は引き金を絞る寸前で照準を下げた。ビームはメッサーラではなく、側壁の観測端末だけを撃ち抜く。赤い目が一つ消え、白い回廊の奥でノイズが乱れた。

 

『破壊できるものを残したか。以前なら、そうはしなかっただろう』

 

「昔の俺なら、ここで全部を焼いていたかもしれない」

 

 喉の奥に、鉄の味が残った。

 操縦桿を握る指先が軋む。HADESの赤い表示が、さっきより長く光る。

 

「けど今は、帰る場所を背負っている」

 

 マチュへ送れなかった文章が、サブ画面の端に保存されている。

 補助席にはドゥーの呼吸がある。医療区画にはリオの名前がある。さらに奥には、まだ名前を呼べない誰かの途切れた声がある。

 

 そのどれも、俺が死に急いでいい理由にはならない。

 

『帰る場所か。美しい言葉だが、それは刃を鈍らせる』

 

「違う。刃の向け先を間違えなくなる」

 

 メッサーラが再びMA形態へ畳まれ、斜め上から突っ込んできた。速い。回廊の白が黒い影に裂かれ、観測光が残像になって流れる。俺はシールドを引き戻すが、間に合わない。

 

 肩部装甲に直撃が入った。

 ガンダムXが横へ弾かれ、背部装備が遅れて暴れる。姿勢制御が乱れ、補助席のハーネスが鳴る。

 

「ドゥー、大丈夫か」

 

「切ってない。まだ戻れてる」

 

 彼女はそう言って、短く息を吸った。

 

「ランガ、今のHADESの音、前と違う。壊すためだけの音じゃない」

 

「ドゥー?」

 

「赤い音の下に、細い帰還灯みたいな響きがある。ランガが呑まれなければ、たぶん道になる」

 

 HADES監視端末が、今度ははっきりと赤く灯った。

 その光は血の色に見えた。けれど、コックピットの奥に反射した赤は、発進デッキの誘導灯にも似ていた。進めという色ではない。戻る場所を示す色。

 

『迷う時間が長い。戦場では、その一瞬が命取りになる』

 

 メッサーラがMS形態へ起き上がり、高出力砲を構える。

 回廊の白い壁が、砲口の光で青白く染まった。ここで受ければシールドが死ぬ。避ければ救出路の記録端末が焼かれる。機体が、俺にもっと速い答えを寄越そうとする。

 

 俺は、赤い表示へ目を向けた。

 

「HADES、封印解除を限定許可。戦術補助は俺の入力を越えるな」

 

『ランガ、何をする』

 

 ガトーの声が割り込む。

 

「暴走させません。俺が使います」

 

『ランガ、君の手を離すな』

 

 ラルさんの声が短く入った。

 

「離しません。今度は、死ぬために起こすんじゃない」

 

 俺は補助席の方へ振り向かずに言った。

 

「ドゥー、HADESが俺を持っていきそうになったら、名前を呼べ」

 

「呼ぶ。ランガって、何度でも呼ぶ」

 

 その返事を聞いて、俺は解除キーを叩いた。

 赤い光が計器を走り、ガンダムXのフレームが低く震える。未完成の背部装備が、眠っていた獣の背骨みたいに軋んだ。システム警告が重なり、けれど操縦桿は俺の手の中に残っている。

 

『ほう。死に急ぐ刃ではなく、誰かを帰すための刃か』

 

 シロッコの声が、初めてわずかに色を変えた。

 

 メッサーラの砲撃が放たれる。

 俺の視界の時間が細く伸びた。光の線、壁の反射角、メッサーラの次の変形軌道、シールドの残存耐熱、すべてが赤い線で結ばれる。

 

 けれど、引く線を選ぶのは俺だ。

 

「HADES、俺を喰うな、俺の手で、お前を使う」

 

 俺はシールドを半歩下げ、ビームライフルを構え直した。

 ガンダムXの赤い光が白い回廊を裂き、メッサーラの黒い影と真正面から向かい合う。

 

 次の一撃の前に、白い世界が細く止まった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界(作者:ボルメテウスさん)(原作:ガンダム)

【機動戦士Gundam GQuuuuuuXのネタバレを含みます。見てない方は今すぐに見てきてください】▼あの日、全てが一変した時から、俺は戦い続けた。▼復讐の為に動いていたはずが、いつの間にか似たような事をした事に気づいた。▼間違いに気づいた後、償いの為に戦って、死んだ。▼けれど、そんな俺が待ち受けていたのは、信じられない光景だった。


総合評価:3893/評価:7.76/完結:175話/更新日時:2026年01月01日(木) 07:00 小説情報

戦犯にはなりたくない!(作者:蒼天)(原作:ガンダム)

一年戦争の初日にコロニーに毒ガスを注入してしまったオリ主(ニュータイプ)が、戦犯にならないためにいろんなガンダム作品のキャラクターたちと交流しながら奔走するお話。▼※一部原作キャラクターの設定を変更しておりますので、ご注意ください。


総合評価:1302/評価:7.77/連載:73話/更新日時:2026年07月07日(火) 18:00 小説情報

≠ハサウェイ(作者:なべを)(原作:ガンダム)

「ハサウェイ・ノア」として生を受けてどう生きるかをつらつらと書き記したもの▼


総合評価:2560/評価:7.07/完結:39話/更新日時:2026年03月08日(日) 20:00 小説情報

転生タイガのオーブ改革録 〜崩れゆく世界で未来を選び直す〜(作者:台風200号)(原作:ガンダム)

気がつけば、そこは『機動戦士ガンダムSEED』の世界だった。▼だが――転生したのはコーディネーターでも、英雄でも、パイロットでもない。▼よりによって「オーブのアスハ家三男」という、政治と陰謀の渦中に放り込まれる地雷原のド真ん中の最悪のポジションだった。▼未来を知る者として、タイガ・ウラ・アスハは決意する。▼――オーブを守る。▼――プラントの滅びを見届ける。▼…


総合評価:2205/評価:6.85/連載:210話/更新日時:2026年07月10日(金) 07:17 小説情報

コズミックイラのマチュ ~ロリニュータイプの日本再興記~(作者:アキ山)(原作:ガンダム)

拙作、『ダイクン家の二女はアホの子』に載せていたコズミック・イラの話を独立させました。▼ マチュことマリ・ヤマトはハルマ・ヤマトとカリダ・ヤマトの間に生まれた一粒種。▼ 兄のキラと仲良く暮らす元気いっぱいのゲーマー小学生だ。▼ しかし、彼女には兄には話せないもう一つの顔があった。▼ その身に流れる高貴な血の運命と祖国再興という命題。▼ コズミック・イラという…


総合評価:1367/評価:7.9/連載:7話/更新日時:2026年04月13日(月) 13:52 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>