機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re   作:ボルメテウスさん

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第102話

「うおおおおおおッ!」

 

 喉の奥から吐き出した声が、白い回廊の壁を叩いた。

 ガンダムXの脚部が床面を蹴り、背部装備の重さが遅れて機体を押す。普通なら暴れるだけの慣性が、今は一本の赤い道へ変わっていた。

 

「HADES、俺の命じゃない! 俺の道を燃やせえええッ!」

 

 視界の中で、メッサーラの黒い影が分解される。

 推進炎の揺れ、砲口の角度、変形に移る寸前の肩部フレームの沈み。全部が赤い線で見えた。けれど、線の先にあるのは撃墜じゃない。白い部屋へ続く道を塞ぐものだけを断つ、そのための線だ。

 

『何だ、その気迫は』

 

 シロッコの声が、初めて薄く乱れた。

 

『怒りでも復讐でもないというのか。HADESを使いながら、なぜ君は壊れない』

 

「壊れるために起こしたんじゃない」

 

 メッサーラが砲撃を放つ。

 俺はシールドを真正面から当てず、角度をずらして熱を逃がした。白い壁へ流れた光が弾け、溶けた金属が雨筋みたいに垂れる。その雨の向こうで、黒い機体がMS形態へ変わる。

 

「ランガ、赤い音が走ってる。でも、まだ帰る場所を見てる」

 

 ドゥーの声が、背中から届く。

 俺は一瞬だけ奥歯を噛み、シールドの固定を切った。

 

「なら、見失わない」

 

 左腕のシールドを投げ捨てるように離し、腰のビームサーベルを右手で抜く。続けて左手にも光刃を展開する。二本の刃が赤い計器光を受け、白い回廊に淡い軌跡を引いた。

 

 メッサーラが距離を取ろうとする。

 MA形態へ畳まれる寸前、俺は背部装備の慣性を逆に叩きつけ、ガンダムXを横へ振った。機体が軋む。骨をねじるみたいな警告がコックピットに鳴る。だが、操縦桿はまだ俺の手の中にある。

 

「マチュへ帰る。ドゥーを帰す。リオを帰した」

 

 右のサーベルを振る。

 メッサーラの左腕砲が根元から断たれ、黒い装甲片が白い壁へ散った。

 

「だから、ここで止まるわけにはいかない!」

 

 左のサーベルを返す。

 今度は右腕の砲撃基部を斬り落とした。爆発は小さい。狙った場所だけが火花を散らし、コックピットへ伸びる線は残す。

 

『馬鹿な。HADESの出力で、まだ切る場所を選ぶのか』

 

「選ぶ。選ばなきゃ、お前と同じになる」

 

 メッサーラが脚部スラスターを吹かし、天井近くへ逃げる。

 HADESは最短で胴を貫く線を出してくる。そこを撃てば終わる。赤い答えは速く、甘く、喉元へ刃を差し出してくる。

 

「ランガ」

 

 ドゥーが、名前だけを置いた。

 

 俺はその一音で照準を外し、ガンダムXの右脚を踏み込ませた。

 サーベルが斜め上へ走る。メッサーラの左脚部スラスターが切断され、黒い機体が姿勢を崩す。続けて左手の刃を逆袈裟に振り、右脚の推進器を断つ。

 

 黒い巨体が白い回廊の中で落ちる。

 壁に叩きつけられた衝撃で、赤い観測光が一列に割れた。外縁からラルさんの声が飛び込んでくる。

 

『よし、敵の機動が鈍った。ランガ、深く斬りすぎるな』

 

『コックピット周辺に逃げ道を残せ。目的は撃墜ではない』

 

 ガトーの声も続く。

 二人の声は命令というより、背中に置かれた手のようだった。

 

「分かっています。ここで終わらせる。でも、殺すためじゃない」

 

 メッサーラが最後の砲口を開く。

 シロッコの声はまだ通信に残っていた。けれど、さっきまでの滑らかさは削れている。

 

『ランガ・ロード。君は、何を得てそこまで変わった』

 

「得たんじゃない。呼ばれたんだ」

 

 マチュの声。

 ドゥーの声。

 リオのかすれた名前。

 まだ白い部屋の奥で、自分の名前を知らない誰かの途切れた音。

 

 それらが、操縦桿を握る俺の指を一本ずつ戻してくれる。

 

「シロッコ、お前の目で見ろ」

 

 俺は二本のサーベルを交差させ、ガンダムXを一歩だけ沈ませた。

 HADESの赤い線が、メッサーラの機動中枢へ一本だけ伸びる。コックピットを避け、動力伝達を断ち、白い部屋へ向かう道を開ける線。

 

「これが、帰るために振るう刃だ!」

 

 踏み込む。

 右の刃が残った砲撃基部を落とし、左の刃が機動中枢の外装を割る。最後に二本の光を重ね、一閃で黒い翼の根を断った。

 

 音が遅れて来た。

 

 メッサーラは白い回廊の床へ沈み、四肢を失った巨体が火花だけを散らして動きを止めた。赤い観測光が一つ、また一つと消えていく。白い壁を流れていた金属の雨も、ゆっくり細くなっていった。

 

『……見事だ、と言うべきか』

 

 シロッコの声は、遠かった。

 通信の奥で別のハッチが開くような音がした。脱出か、退避か、それとも観察の続きか。俺は追わなかった。

 

「逃げるなら逃げろ。俺はお前を殺すために強くなったんじゃない」

 

『その選択が、次に何を招くか見ものだな。白い部屋の奥では、観察よりも粗暴な拳が待っている』

 

 バスク。

 言葉にしなくても、その影だけが回廊の奥で膨らんだ。

 

 通信が切れる。

 メッサーラの戦闘反応は沈黙し、ガンダムXのHADES表示もゆっくり落ち着いていく。俺はサーベルを収めず、しばらく黒い機体を見下ろしていた。

 

「ランガ、戻ってる?」

 

 ドゥーの声が小さく届く。

 

「戻ってる。まだ、ちゃんと俺の手だ」

 

「うん。赤い音、消えてないけど、暴れてない」

 

 俺は操縦桿から指を一度離し、すぐに握り直した。

 手のひらには汗が溜まっていて、金属のレバーが少しだけ滑った。それでも、ガンダムXは俺の動きだけを待っている。

 

『ランガ、メッサーラの無力化を確認した。君の勝利だ』

 

 ガトーの声が入る。

 

『だが、奥が開くぞ。若い者よ、剣を収めるにはまだ早い』

 

 ラルさんの言葉に、俺はモニターを見た。

 白い回廊の奥で、冷たい扉がゆっくり開いている。その向こうに、白い部屋中枢へ続く光があった。

 

 俺は二本のサーベルを構えたまま、息を整える。

 

「次は、白い部屋だ。名前を返してもらう」

 

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