機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re   作:ボルメテウスさん

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第104話

 赤い火力管制光が、白い部屋中枢の天井から降ってきた。

 

 光そのものに重さはないはずなのに、ガンダムXの装甲が押し潰されるように軋む。壁一面の砲門がこちらを向き、眠っていたサイコ・ガンダム系列機の巨体が、鎖を引きずるみたいな音を立てて動き始めた。

 

『撃て。名を叫ぶ暇があるなら、燃え残った肉で証明してみろ』

 

 バスクの声が、火力管制室の奥から響いた。

 

 その声には迷いがなかった。

 人を番号に変えることにも、番号を兵器に変えることにも、兵器が壊れれば次を繋げばいいという考えにも、ひび一つ入っていない。

 

「ランガ、左上の砲門、まだ人の音が絡んでる。撃ったら駄目」

 

「分かった。砲門じゃなく、管制線を切る」

 

 俺はビームサーベルを握り直した。

 HADESは限定待機のまま、赤い線だけを視界に浮かべている。最短距離はバスクの火力管制室へ伸びていた。そこを貫けば、たぶん早い。けれど、その線は白い部屋の奥に眠る生命反応をいくつも踏み潰していた。

 

 俺はその線を選ばない。

 

「HADES、限定起動。救出対象を除外。火力管制中枢だけを優先表示しろ」

 

 赤い表示が一度乱れ、すぐに細く整った。

 白い部屋の奥で、砲門と接続線と制御核が、血管みたいに浮かび上がる。けれど、その中に混じる小さな生命反応だけは、赤ではなく薄い青で残った。

 

『また選ぶのか。旧式の亡霊が、戦場で医者の真似事とはな』

 

「医者じゃない。返しに来たんだ」

 

『返すものなどないと言ったはずだ。あるのは管理だ。恐怖による秩序だ。人は怯えた時だけ命令を聞く』

 

 バスクの背後で、巨大な白い機体の頭部が持ち上がった。

 怪獣が巣穴から顔を出す時みたいに、赤い眼がゆっくりと開く。砲口がこちらを向き、白い部屋全体が一つの銃になる。

 

「その秩序で、ドゥーを番号にしたのか」

 

『役に立つ形へ整えただけだ』

 

「リオもか」

 

『使える反応を拾っただけだ』

 

「まだ奥にいる誰かもか」

 

『兵器になれるなら意味がある。なれぬなら、残骸だ』

 

 操縦桿の上で、俺の指が一度だけ跳ねた。

 その瞬間、補助席から小さな音がした。ドゥーが手動切断スイッチのカバーに指を掛けた音だった。

 

「ランガ」

 

 名前を呼ばれただけで、赤い視界の端が少し冷えた。

 

「大丈夫とは言わない。けど、俺の手はまだここにある」

 

「うん。じゃあ、切って。あの人の声じゃなくて、繋いでる線を」

 

 俺はガンダムXを前へ出した。

 

 砲撃が来る。

 白い部屋の左右から高出力ビームが交差し、床の接続ケーブルが焼けて跳ねた。俺は背部装備の慣性で機体を沈ませ、二本のサーベルを交差させる。熱が刃の周囲で弾け、赤い火花が雨みたいにコックピットの外を流れていく。

 

「ラルさん、外縁の砲撃線を一拍だけ逸らせますか」

 

『心得た。若い者の道を汚す砲火は、こちらで引き受ける』

 

「ガトーさん、右奥の制御ノード、三秒後に露出します」

 

『確認した。三秒後に撃つ。君は中を断て』

 

 青い砲火が外縁で瞬いた。

 ラルさんのグフが左から敵の接続線群を引き裂き、ガトーのリック・ドムが右奥のノードを撃ち抜く。白い部屋の火力管制が一拍だけ揺れた。

 

 その隙間へ、俺は踏み込んだ。

 

『撃て、撃て! 回収対象ごと焼き払え!』

 

「それが、お前の野望の形か」

 

 右のサーベルで砲撃基部を断つ。

 左のサーベルで接続線の束を切り落とす。

 巨大な白い機体が腕を上げる前に、肘から伸びる制御ケーブルだけを斬った。

 

 動きが止まる。

 中にいる誰かの生命反応は残っている。

 

「人を恐怖で並べて、番号で縛って、壊れたら次を繋ぐ」

 

 俺は次の制御核へ機体を滑らせた。

 HADESの赤い線が、速く、鋭く、しかし俺の手から外れずに伸びる。

 

「そんなものは秩序じゃない。ただの檻だ」

 

『檻がなければ、人は散る。弱い者は守られず、強い者に踏み潰される』

 

「違う。お前は守ってない。逃げ道を奪って、銃口の前に立たせてるだけだ」

 

 バスクの顔がモニターの向こうで歪んだ。

 机上の表示に赤い警告が増えていく。番号の列が乱れ、兵器価値を示すグラフが次々と黒く落ちていく。

 

『ならばどうする。名を返したところで、傷は消えんぞ』

 

「消えなくていい」

 

 俺は一瞬だけ、マチュの未送信文を思い出した。

 帰る、と書けなかった画面。大丈夫と嘘をつかなかった文章。あれを消さずに残した手で、今も操縦桿を握っている。

 

「傷が残っても、名前で呼べる場所へ連れて帰る」

 

 ドゥーが背後で息を吸った。

 

「ランガ、中央の下。そこが火力管制の根っこ。けど、近くに生命反応が三つある」

 

「三つとも避ける」

 

『不可能だ。その出力で精密制御など――』

 

「見てろ、バスク」

 

 俺はHADESの補助をさらに絞った。

 速度を上げるためではなく、余計な線を消すために。赤い視界から撃墜線が消え、残ったのは、三つの生命反応を避けて制御核へ届く細い一本だけだった。

 

 ガンダムXが沈む。

 白い床を蹴る。

 二本のサーベルが、十字ではなく、一本の針のように重なった。

 

「人を番号に戻す秩序なら、俺がここで否定する」

 

 火力管制の根元を斬った。

 

 白い部屋中枢が、音を失った。

 さっきまで怪獣の眼のように灯っていた赤い管制光が、一つ、また一つと消えていく。砲門は首を垂れ、眠っていた巨体の腕が床へ落ちた。けれど、生命反応の青い点は消えない。

 

 モニターに残ったのは、番号の列ではなかった。

 救出対象の生命維持反応だけが、薄く、途切れながらも光っていた。

 

『馬鹿な……火力管制が、全系統で沈黙だと』

 

 バスクの声が遠くなる。

 彼はまだそこにいる。だが、彼の命令を待つ砲門はもう動かない。番号を兵器に変える管制線も、白い部屋を銃身にする制御核も、俺の足元で赤い火花を散らして沈んでいる。

 

「お前の野望は終わりだ」

 

 俺はサーベルを構えたまま、通信へ向き直った。

 

「ここから先は、番号じゃない。名前で呼ぶ」

 

『名など……名など、戦場で何になる』

 

「帰る理由になる」

 

 言い終えた時、補助席からドゥーの小さな声が聞こえた。

 

「ランガ、奥の音が変わった。檻の響きじゃない。まだ弱いけど、返事みたいに聞こえる」

 

 俺はモニターの薄い青い点を見た。

 三つ。いや、その奥にさらにいくつか。どれもまだ名前を知らない。けれど、番号だけで閉じられた画面はもうない。

 

 バスクのモニターが黒く落ちた。

 鉄の声は、白い部屋に残った火花の中へ沈んでいった。

 

『ランガ、敵火力管制沈黙を確認した。君の勝利だ』

 

 ガトーの声が入る。続いて、ラルさんの低い声が回線に乗った。

 

『よくぞ、刃を選んだ。壊すためではなく、帰すための刃をな』

 

 俺は二本のサーベルをゆっくり下げた。

 HADESの赤はまだ残っている。けれど、もう牙を剥いてはいない。白い部屋の奥で、薄い青い生命反応が点滅している。

 

「ドゥー、次の名前を探そう」

 

「うん。番号じゃなくて、名前を拾う」

 

 俺はガンダムXを白い部屋の奥へ向けた。

 勝利の熱は、まだ手のひらに残っている。けれど、その熱はもう何かを焼くためではなく、冷たい檻を開くために使うものだった。

 

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