機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re   作:ボルメテウスさん

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第111話

 白と赤の光がぶつかった瞬間、宇宙から色が消えた。

 

 サテライトキャノンの砲身を通して伝わった衝撃が、ガンダムXの肩から背骨へ突き抜ける。固定した脚部スラスターが悲鳴を上げ、展開したリフレクターの一枚が限界角度を越えて細かく震えた。

 

 正面モニターは光量を絞っている。それでも、白い砲撃と赤いビームの境界だけは、焼き付いた傷のように視界の中央へ残っていた。

 

 二つの光は、すぐには混ざらなかった。

 

 白は地球を背にして前へ進み、赤はイオマグヌッソから地球へ向かって押し寄せる。その間に生まれた境界が、宇宙空間を無理やり二つへ引き裂いている。

 

『照射軸を維持しろ。反動補正が遅れているぞ』

 

 テムさんの声が飛び込んできた。

 

「分かってます。右脚の出力を三パーセント落とす」

 

『二パーセントにしろ。三では月面受信軸から外れる』

 

「この振動で二パーセントを要求しますか」

 

『だから君が乗っている。機体に任せるな』

 

 俺は歯を食いしばり、右脚の噴射を僅かに絞った。

 

 ガンダムXの巨体が、発射反動へ逆らうようにゆっくり姿勢を戻す。照準環の中央へ、イオマグヌッソのエネルギー伝達中枢が再び重なった。

 

 けれど、光の境界は少しずつこちらへ近づいていた。

 

「押されてる」

 

 補助席からドゥーの声が届いた。

 

 数値を見るまでもない。

 サテライトキャノンの白い光は、イオマグヌッソの赤へ少しずつ削られている。砲身の照射出力は最大値を保っているのに、境界線だけがじりじりと月側へ戻されていた。

 

『敵側の出力、予測値を上回っています』

 

『ランガ、施設全体へ照準を広げれば押し返せる可能性がある』

 

 HADESの表示と同時に、艦橋からも別の射撃解が送られてきた。

 

 照準を広げろ。

 外殻を巻き込め。

 生命反応を損害として許容しろ。

 

 赤い線が、イオマグヌッソの輪郭すべてを呑み込む。

 

「却下する」

 

 俺は表示を消した。

 

『現在の照準では、出力差を埋められない可能性があります』

 

「施設を焼けば、守ったことにならない」

 

『敵主砲は地球圏を射程に収めている。損害の比較を――』

 

「人の名前を計算式へ入れるな」

 

 HADESの表示が瞬いた。

 

 その一瞬の揺らぎさえ、イオマグヌッソは見逃さなかった。

 赤いビームが太く膨らみ、白い光の先端を噛み砕くように押し込んでくる。

 

 砲身の基部が軋んだ。

 冷却系統の警告が赤く染まり、背部リフレクターの一枚から白い火花が散る。サテライトキャノンの光はまだ途切れていない。けれど、一本の柱だったものが、端から少しずつほどけ始めていた。

 

「ランガ、白い光が散り始めてる」

 

「受信経路は?」

 

「月も太陽も残ってる。でも、撃った光の方が形を保てなくなってる」

 

 ドゥーが息を止めた。

 

「違う。何かが、横から触ってる」

 

「横から?」

 

「剣の音」

 

 装備ラックの映像を開く。

 

 νガンダムのビームサーベルが、誰にも握られないまま強い光を放っていた。

 

 さっきまでは静かな青白さだった。

 今は違う。刃は細かく脈打ち、そのたびにガンダムXの武装系統へ未知の反応が走っている。

 

 サーベルの光が揺れる。

 それに合わせて、砲身の振動が一瞬だけ収まった。

 

「テムさん、ビームサーベルから主砲系統へ電力が流れています」

 

『電力ではない。少なくとも通常のエネルギー経路では説明できん』

 

「止めますか」

 

『止めれば、サテライトキャノンの収束が崩れる』

 

 テムさんが短く息を呑む音がした。

 

『出力を増やしているのではない。散り始めた光を、一本へ縫い直している』

 

 サブモニターに新しい波形が浮かぶ。

 

 月面マイクロウェーブ。

 ソーラ・システムから送られた変換エネルギー。

 そして、νガンダムのビームサーベルから発生している、分類できない青白い反応。

 

 三つの波形が重なり、崩れかけていた砲撃の収束率を押し上げていく。

 

「ランガ、剣の光が白い方へ混ざってる。ほどける場所を、一つずつ繋いでる」

 

「誰かが握ってるみたいに?」

 

「ううん。握らせようとはしてない」

 

 ドゥーは少し間を置いてから続けた。

 

「ランガの手が離れないように、下から支えてる感じがする」

 

 俺は発射レバーを握った指を見た。

 

 白い光の中に、昔の戦場が一瞬だけ重なった。

 巨大な兵器。燃える空。正しさを掲げたまま、人を数へ変えていった命令。守ると言いながら、帰る場所ごと焼いた者たち。

 

 νガンダムのサーベルから届く光は、勝てと言わなかった。

 

 敵を消せとも、前へ出ろとも言わない。

 ただ、同じ場所へ戻るなと、言葉にならない形で背中を支えている。

 

「聞こえてる」

 

「誰がいるの?」

 

「分からない。でも、命令じゃない」

 

 俺は主砲制御画面を開き、ビームサーベルの未知反応を収束補助系統へ接続した。

 

 安全装置が一斉に警告を返す。

 異なる兵装間の接続。規格外の波形。予測不能の過負荷。

 

 全部正しい警告だ。

 

 だからこそ、判断を機械へ渡さない。

 

「ビームサーベルの反応を、主砲出力へは入れるな。照射光の外周制御だけに回す」

 

『そんな調整を戦闘中に行うつもりか』

 

「出力で勝てないなら、散らさなければいい」

 

『言うだけなら簡単だ』

 

「やるのは俺です」

 

 俺は照準補正をさらに手動へ寄せた。

 

 サテライトキャノンの白い光へ、青白い縁が生まれる。

 散ろうとしていたエネルギーが中心へ戻り、細く、鋭く、一本の柱へ締め直されていく。

 

 境界線の後退が止まった。

 

『ランガ、押し戻された位置で均衡している』

 

 ガトーの声が入る。

 

『照準を動かすな。その一点を保てば、向こうの攻撃は地球へ届かん』

 

「押し返さなくていいんですね」

 

『力比べに勝つ必要はない』

 

 ラルさんの声が、砲撃の振動を越えて届いた。

 

『向こうの光を、誰にも届かせなければよい。それが君の選んだ勝利だろう』

 

 俺はレバーを握る手へ力を込めた。

 

「そうでした。俺たちは、あれを奪うために撃ったんじゃない」

 

 赤と白の境界が激しく震える。

 

 イオマグヌッソのビームは、まだ巨大だった。

 サテライトキャノンだけでは相殺できない出力だったはずだ。それでも、νガンダムのサーベルが整えた青白い縁が、白い光を最後まで一本のまま保っている。

 

 赤が白を削る。

 白も赤を削り返す。

 

 境界から剥がれた光の粒が、燃える雪のように宇宙へ散った。音のない世界で、それらはゆっくり回転し、地球の青を一瞬だけ隠しては消えていく。

 

「消せなくても、止められる」

 

 砲身の温度が限界を越える。

 サテライトキャノンの外装が赤熱し、リフレクターの一部が光の中で歪み始めた。

 

「俺たちが帰る空へ、一歩も通すな!」

 

 照射軸を固定する。

 

 脚部スラスターが限界まで噴き、ガンダムXの全身が震える。肩部フレームから装甲片が剥がれ、白い光の中へ吸い込まれた。

 

 補助席のハーネスが軋む。

 

「ドゥー、切ってもいい!」

 

「切らない。今は私も、ここにいるって決めてる!」

 

「なら、最後まで付き合ってくれ!」

 

「最初から、そのつもり!」

 

 彼女の声と同時に、νガンダムのビームサーベルが一際強く輝いた。

 

 青白い光が主砲の収束系へ流れ込む。

 白い砲撃の輪郭が細く締まり、赤いビームとの境界が一点へ圧縮される。

 

 押し返したわけではない。

 

 互いの光が、互いを食べ尽くしている。

 

『敵ビーム出力、低下を確認』

 

『サテライトキャノン側も出力低下。照射維持可能時間、残り三秒』

 

 三秒。

 

 昔の俺なら、その三秒で敵を貫こうとした。

 今は、光が消えるまで手を離さないために使う。

 

「二秒」

 

 ドゥーが数える。

 

 赤い光の太さが半分へ減る。

 白い光も細くなり、青白い縁だけが最後まで輪郭を保っている。

 

「一秒」

 

 遠くに地球の大気が戻ってくる。

 

 白と赤に染められていた不自然な夜明けが薄れ、海の青が光の向こうからゆっくり姿を現した。

 

「消える」

 

 ドゥーの声と同時に、二つのビームが互いを食い尽くした。

 

 光は爆発しなかった。

 

 巨大な音も、勝利を告げる閃光もない。

 白と赤の境界が細い糸になり、その糸が中央から静かに切れた。

 

 宇宙へ、暗闇が戻ってきた。

 

 星々が一つずつ姿を現す。

 蒼い地球は傷つかず、雲をまとったまま静かに回っていた。

 

 俺は発射レバーから手を離した。

 

 右腕の感覚がすぐには戻らない。

 サテライトキャノンの砲身から白い冷却剤が噴き出し、過熱したガンダムXの周囲へ雨上がりの霧みたいに広がった。

 

『イオマグヌッソ主砲、出力消失』

 

『地球圏への被害反応、確認されません』

 

 艦橋の報告が続く。

 

 歓声が通信の奥から聞こえた。

 けれど、俺は正面から目を離さなかった。

 

 イオマグヌッソの外殻には、二つの光がぶつかった余波で大きな亀裂が走っていた。環状施設の一部が暗く沈み、裂け目の奥から赤い非常灯が点滅している。

 

 そのさらに奥で、何かがこちらを呼んだ。

 

 音ではない。

 

 胸の奥を軽く叩かれるような感覚。

 何度も跳ね返りながら、それでも真っすぐこちらへ届こうとする強い気配。

 

「ドゥー、今のは」

 

「聞こえた。ランガが探してる人に似てる」

 

 マチュ。

 

 名前を口にするより先に、操縦桿を握り直していた。

 

『ランガ、サテライトキャノンは使用不能だ。砲身の冷却を待て』

 

「待ちません」

 

『機体の損傷率を見ろ。背部装備を抱えたままの突入は危険だ』

 

 テムさんの声に、俺は損傷表示を確認した。

 

 右肩部過熱。

 リフレクター二枚破損。

 サテライトキャノン再使用不能。

 左脚部スラスター出力低下。

 

 それでも、ビームサーベルは使える。

 

「撃ち合いは終わりです。次は中へ行く」

 

『敵の迎撃部隊が亀裂へ集結している』

 

 ガトーが状況を告げる。

 

「なら、通れる道を一つだけ残してください」

 

『相変わらず簡単に言う』

 

『だが、若い者を送り込むのが我々の役目だ』

 

 ラルさんのグフが、イオマグヌッソの亀裂へ向かって機体を反転させた。

 

『ランガ、帰還路はこちらで維持する。君は目的を忘れるな』

 

「マチュを見つけます。イオマグヌッソの発射機構も止める」

 

『順番はどうする』

 

 ガトーの問いに、俺は一瞬だけ息を置いた。

 

「人を先に助けます。兵器は、その後で止める」

 

『それでよい。ならば進め』

 

 サテライトキャノンの砲身を収納する。

 

 動作の途中で固定機構が引っかかり、背部装備から金属の悲鳴が上がった。俺は完全収納を諦め、砲身を移動に支障が出ない角度で固定する。

 

 代わりに右手へビームサーベルを展開した。

 

 装備ラックに残るνガンダムのサーベルは、役目を終えたように淡い光へ戻っている。その光が消える前に、俺は一度だけ視線を向けた。

 

「ありがとうとは言わない。まだ終わってないからな」

 

 青白い刃が、僅かに揺れた気がした。

 

 ガンダムXの推進器を開く。

 

 前方ではラルさんのグフがヒート・ロッドで迎撃機を外壁へ叩きつけ、ガトーのリック・ドムが亀裂周辺の観測ノードを一撃ずつ沈黙させていた。

 

 二つの青が、再び道の左右へ立つ。

 

 その中央を、俺は真っすぐ進んだ。

 

「ドゥー、戻る道は聞こえるか」

 

「聞こえる。後ろにラル大尉とガトーさんがいる。前には、マチュに似た音がある」

 

「なら、迷わない」

 

 過熱した機体から白い冷却剤が流れ、ガンダムXの後ろへ細い霧の尾を引いた。

 光の激突が消えた宇宙で、その軌跡だけがイオマグヌッソへ伸びている。

 

「撃ち合いは終わりだ」

 

 赤い非常灯が漏れる亀裂を照準中央へ入れる。

 

「次は俺が、イオマグヌッソの中へ行く!」

 

 ガンダムXは星の戻った暗闇を蹴り、巨大施設の裂け目へ向かって一気に加速した。

 

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