機動戦士Gundam GQuuuuuux 逆転した世界:Re   作:ボルメテウスさん

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第112話

 光が消えた宇宙を、ガンダムXは真っすぐ進んだ。

 

 過熱したサテライトキャノンから白い冷却剤が噴き出し、背後へ細長い霧の尾を引いている。さっきまで白と赤に塗り潰されていた星々は戻ってきたが、イオマグヌッソの外殻を走る亀裂だけは、宇宙に残った傷口みたいに赤く明滅していた。

 

 その奥から、何度も跳ね返りながら届く気配がある。

 

 胸の奥を直接叩くような、真っすぐなのに不器用な響き。

 俺は、その感覚を知っている。

 

「マチュ……」

 

 名前を口にした瞬間、前方の暗闇へ複数の推進光が灯った。

 

「ランガ、前にいっぱい来る。綺麗に並んでるけど、道を開ける音じゃない」

 

「見えてる。あれは歓迎の隊列じゃなさそうだ」

 

 イオマグヌッソの亀裂を塞ぐように、モビルスーツの部隊が横一列へ展開した。

 

 細身の胴体、丸みを持つ盾、鋭く突き出した複合兵装。騎士の槍を思わせる巨大装備《ハクジ》から推進光が伸び、複数の機体が一つの門を作るように間隔を詰めていく。

 

 ギャン。

 

 ただし、俺が知っている歴史の機体とは細部が違う。《ハクジ》そのものが加速器として働き、白兵戦用の装備と推進器を兼ねている。機体を武器へ乗せるのではなく、武器が機体を戦場へ引っ張っていく構造だった。

 

『前方の所属不明ガンダムへ告ぐ。直ちに減速し、武装を解除しろ』

 

 若い男の声が通信へ入った。

 

 部隊中央には、白と金のギャンがいる。

 他の機体より僅かに前へ出ながら、包囲全体を見渡せる位置を崩していない。

 

『ここから先はキシリア閣下の管制区画だ。許可なき接近は認められない』

 

「こっちは、さっき地球を焼こうとした兵器を止めたばかりなんですが」

 

『それと侵入許可は別問題だ。所属と目的を明らかにしろ』

 

「ランガ・ロード。目的は、あの中にいる人間を迎えに行くことです」

 

『個人的な理由で軍事施設へ侵入させるわけにはいかない』

 

「分かってます。でも、止まれない」

 

 俺は右手のビームサーベルを展開した。

 

 青白い刃が、白い冷却霧を縦に裂く。

 その光を見たギャン部隊が一斉に《ハクジ》を前へ向けた。

 

「マチュに、帰ってきたと伝えなきゃならない」

 

『交渉決裂と判断する。全機、迎撃態勢へ移行!』

 

 最初の三機が同時に加速した。

 

《ハクジ》の推進光が長く伸び、正面、右上、左下から交差する。動きそのものは単純な突撃だが、三本の軌道が俺の退避先を先に潰していた。

 

「HADES、限定起動。近接軌道の表示だけ寄越せ」

 

 赤い線が視界へ浮かぶ。

 

 撃墜線を示そうとする表示は閉じる。

 必要なのは、コックピットを避けて道だけを開く線だ。

 

 正面のギャンが《ハクジ》を突き出した。

 

 俺はガンダムXの上体を僅かに右へ倒し、刃の側面をすれ違わせる。左手で《ハクジ》の基部を押さえ、右のビームサーベルを振り下ろした。

 

 武器と腕を繋ぐ関節だけが切れる。

 

 切断された《ハクジ》が慣性のまま前方へ飛び、別方向から接近していたギャンの進路へ割り込んだ。二機が互いに急制動を掛けた一瞬、俺は背部装備の残った重さを機体の回転へ乗せる。

 

 ガンダムXが半回転する。

 

 横薙ぎの光刃が、右上から来たギャンの脚部推進器を断った。

 返す刃で左下の機体の肩関節を切り、そのまま敵の胴体を押して進路外へ弾く。

 

「三機、動けなくした。次は?」

 

「もう来てる。後ろへ下がった機体の場所に、新しいのが入ってる」

 

「休ませてはくれないらしいな」

 

 四機目と五機目が、損傷機を回収する動きと同時に前へ出た。

 

 連携が速い。

 俺が一機を止めた瞬間には、別の機体がその隙間を埋める。撃墜されたくないのではない。道が一秒でも開くことを嫌っている。

 

 右から伸びた《ハクジ》をサーベルで弾く。

 左から来た盾の縁がガンダムXの肩へぶつかり、過熱した装甲に亀裂が走る。

 

「左肩、損傷拡大」

 

「分かってる。まだ動く」

 

「一機ずつなら、ランガの方が強い。でも、この人たち、勝つ音で動いてない」

 

「何の音だ」

 

「時間を奪う音。壊れても、次の人が同じ場所へ入ってくる」

 

 ドゥーの言葉と重なるように、白と金のギャンが動いた。

 

 部隊の後ろから一気に加速し、《ハクジ》を正面へ向けたまま、直線ではなく小刻みに軌道を振ってくる。こちらの照準を揺らしながら、他の機体が左右の退路を閉じていた。

 

『撃墜する必要はない! 推進器を焼かせろ!』

 

 先ほどの声が、部隊全体へ命令を飛ばす。

 

『あの機体を一分だけ、ここへ縫い止める!』

 

「一分で何が起きる」

 

『答える義務はない!』

 

 白と金のギャンが急接近した。

 

《ハクジ》の先端を左へ流すと見せて、推進器の噴射を一瞬だけ切る。ガンダムXの回避が始まる寸前で再加速し、軌道を右へ折った。

 

「うまい!」

 

 シールドを持ち上げる余裕はない。

 俺は左腕で《ハクジ》の柄を受け、機体ごと押し戻された。

 

 背部のサテライトキャノン基部が軋み、砲身固定部から火花が散る。左脚部スラスターの出力がさらに落ち、イオマグヌッソの亀裂が僅かに遠ざかった。

 

『その損傷で、まだ進むつもりか』

 

「そっちこそ、止める相手を間違えてないか」

 

『軍人である以上、命令された区画を守る!』

 

「中で何が起きてるかも知らずに?」

 

『知らないからこそ、勝手な侵入を許すわけにはいかない!』

 

 白と金のギャンが《ハクジ》を回し、再び踏み込んでくる。

 硬い口調だが、声の奥には僅かな引っ掛かりがあった。盲目的に命令へ酔っている声ではない。それでも、今は俺の前に立っている。

 

「名前を聞いておきたい」

 

『何だと』

 

「次に斬る場所を間違えないためだ」

 

 一瞬の沈黙が入った。

 

『エグザベ・オリベ少尉だ』

 

「分かった。エグザベ少尉、コックピットは狙わない」

 

『余裕を見せるな!』

 

「余裕じゃない。俺の都合で、あんたの帰る場所まで奪う気がないだけだ!」

 

 エグザベのギャンが突っ込んでくる。

 

 俺は正面から受けず、背部装備の慣性を残したままガンダムXを縦に回した。《ハクジ》の推進光が機体の脇を抜ける。すれ違いざま、ビームサーベルで武装の基部を浅く斬る。

 

 エグザベは即座に武器を引き、完全切断を避けた。

 

 その隙に別のギャンが背後へ回る。

 

「後ろ!」

 

 ドゥーの声で操縦桿を倒す。

 

 ガンダムXの背中を狙った刃が、損傷したリフレクターの端を削った。白い破片が散り、月光を受けて雨粒のように瞬く。

 

 俺は機体を振り返らせ、敵の手首だけを切る。

 さらに横から来た機体の脚部を蹴り、推進方向を外へ逸らした。

 

 一機。

 二機。

 三機。

 

 止めても、壁が閉じる。

 

 イオマグヌッソの赤い亀裂は近い。

 手を伸ばせば届きそうなのに、非常灯の明滅だけが何度も同じ場所で繰り返される。

 

 マチュに似た気配が、亀裂の奥で揺れた。

 

 強くなったかと思えば、急に遠ざかる。

 誰かに呼ばれているのか、何かへ引かれているのか、それすら分からない。

 

「ランガ、焦った音が増えた」

 

「俺のか?」

 

「ランガと、奥にいる人の両方」

 

 操縦桿を握る指へ力が入った。

 

 ここでHADESへ全部を渡せば、ギャン部隊の間を最短距離で抜けられる。コックピットを避ける余裕を捨てれば、十秒も掛からない。

 

 赤い線が、何本も敵機の中心を貫いた。

 

「それは使わない」

 

 俺は撃墜線を消す。

 

「マチュへ会いに行く道を、誰かの帰れない道に変えるな」

 

「うん。その音なら、私も怖くない」

 

 ドゥーの言葉を聞いた直後、ギャン部隊が大きく広がった。

 

 散開ではない。

 包囲を完成させる動きだ。

 

 上下左右から《ハクジ》の推進光が伸び、ガンダムXを囲う白い輪が閉じ始める。エグザベ機は正面へ残り、俺がどこへ動いても部隊全体が同じ速度でずれるよう指示を出していた。

 

『包囲を維持しろ! 撃墜は不要だ、進入さえ阻止すればいい!』

 

「本当に時間だけを奪うつもりか」

 

『それが任務だ!』

 

「その一分で、誰かが兵器をもう一度動かしたらどうする!」

 

『それを判断するのは我々ではない!』

 

「だから、俺は任せない!」

 

 ガンダムXを前へ押し出す。

 

 正面のエグザベ機が《ハクジ》を構え、左右のギャンも同時に踏み込んだ。

 

 その瞬間、緑色の光が宇宙を縫った。

 

 一条ではない。

 上から、下から、左右の死角から、複数の光が別々の軌道でギャン部隊へ飛び込んでくる。

 

「新手か!」

 

 身構えた俺の正面で、光はギャンのコックピットを避けた。

 

《ハクジ》の推進基部。

 脚部スラスター。

 包囲を繋ぐ通信装置。

 

 緑の光は、輪を作っていた部位だけを正確に射抜いていく。

 

『各機、回避しろ! オールレンジ攻撃だ!』

 

 エグザベの命令が飛ぶ。

 

 白い輪が一斉に崩れた。

 押し合うように並んでいたギャンが互いに距離を取り、その中央へ一本の直線が現れる。

 

 イオマグヌッソの亀裂まで、遮るもののない道だった。

 

「ランガ、あの攻撃から敵意がしない」

 

「俺たちを狙ってないのか」

 

「違う。道を作ってる」

 

 巨大な影が、ギャン部隊の後方から滑り込んできた。

 

 モビルアーマー形態の機体が推進光を絞り、緑色のオールレンジ兵器を周囲へ従えながら戦場の中央へ入る。角度を変えた装甲が折り畳まれ、巨体はゆっくりと人型へ変形していった。

 

 キケロガ。

 

 その姿を認識した瞬間、通信回線へ穏やかな男の声が届いた。

 

『そこまでだ、エグザベ少尉。攻撃を停止したまえ』

 

『シャリア・ブル中佐!? しかし、この機体はキシリア閣下の管制区画へ――』

 

『事情は承知している。だからこそ、私が通すと言っている』

 

『ですが、命令系統が――』

 

『命令に従うことと、何も考えないことは同じではないよ、少尉』

 

 エグザベのギャンが《ハクジ》を構えたまま止まった。

 

 周囲の部隊も、すぐには武器を下げない。けれど、再び包囲を閉じる機体はいなかった。

 

 キケロガが、ガンダムXとイオマグヌッソの間へ僅かに身をずらす。

 緑の光が左右へ展開し、開いた道を守るように配置された。

 

『ランガ・ロード君だね』

 

「俺の名前を知っているんですか」

 

『君のことは、彼女から何度も聞いている』

 

 彼女。

 

 その一言だけで、胸の奥にあった気配が強く跳ねた。

 

「マチュは、無事なんですか」

 

 問いが早口になった。

 

 キケロガの向こうで、イオマグヌッソの亀裂が赤く明滅する。

 シャリアは急かすでもなく、こちらの呼吸が戻るのを待つように一拍置いた。

 

『今はまだ生きている。だが、彼女の周囲で複数の思惑が動いている』

 

「なら、すぐに行きます」

 

『そのために来たのだろう』

 

 緑の光が、最後に残っていたギャンの射線を外へ押し退けた。

 

 暗い宇宙の中で、マチュへ続く道だけが真っすぐ開いている。

 

『進みたまえ、ランガ・ロード君』

 

 シャリアの声は、こちらを試す響きではなかった。

 長い間、誰かへ渡すべき言葉を預かっていた人間の声だった。

 

『彼女は、君が来るのを待っている』

 

 俺は操縦桿を前へ倒した。

 

 ガンダムXの損傷した推進器が唸り、白い冷却霧を引き裂いて加速する。

 左右では緑のオールレンジ攻撃がギャン部隊を牽制し、正面ではイオマグヌッソの赤い亀裂が大きく口を開けていた。

 

「ドゥー、マチュの音は?」

 

「さっきより近い。跳ね返ってるけど、消えてない」

 

「なら、今度こそ届く」

 

 ギャンの白い包囲を抜け、キケロガが開いた緑の道へ入る。

 

 もう、亀裂まで何もない。

 

「待ってろ、マチュ」

 

 俺は前方の赤い光へ、ガンダムXを真っすぐ向けた。

 

「今度は、本当に帰ってきたって伝えに行く」

 

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